「誰ダ、オ前ラハ?」
洞窟から姿を現したのは牛の頭部に鬼の身体、蜘蛛の様な八本の手足を持った異形の妖怪、牛鬼だった
「いいな妹紅。危なくなったら素直に下がるんだぞ?」
「大丈夫だってば。あんな奴に負けないよ」
別に妹紅の実力を信用していない訳じゃない。寧ろ妹紅はこの100年で相当な力を着けている。少なくともその辺の妖怪程度軽くあしらえる程に
ーーーだからこそ心配だった。
「再三言うが油断だけはするなよ?相手も相当な手練れだ」
「わかったってば」
妹紅は此方に手をヒラヒラと降ると牛鬼に向かって歩きだした
「お前が牛鬼だな」
「如何ニモ。ソウ言ウオ前ハ村ノ連中ガ差シ出シタ娘カ?」
牛鬼の質問に妹紅は小さく笑うと掌に力を溜め始める
「馬鹿言え、退治屋だよ…!」
言葉と同時に霊力で作りだした炎を牛鬼に向け放った
「ヌッ…!?貴様…!!」
突然放たれた炎に驚いた様子の牛鬼だが発達した強靭な腕を振るう事で其れを掻き消すと、怒りの形相で妹紅を睨んだ
「そう怒んなよ、挨拶代わりだ」
対する妹紅も余裕を崩さない。
余談だが妹紅は普段、特に戦闘になると男勝りな喋り方になる。
昔は見た目相応の少女らしい物腰だったのに………多分俺の影響だろうなー
「ホザケ!小娘風情ガ…!!」
牛鬼は妹紅を捕らえるべく、複数の腕を伸ばすが、妹紅は其れをステップで躱しつつ反撃に出る
「そんなんじゃ一生掛かっても掴まんない……よ!!」
掌から複数の火球を放ち、突っ込んでくる牛鬼に当てる
「ヌルイワ!!」
牛鬼は其れを物ともせず徐々に間合いを詰めてくる
「縛道の三十 『嘴突三閃』!!」
妹紅が放った縛道。
目の前に3つの嘴型の霊力を出現させ、伸びてくる腕に向け飛ばす。
被弾した腕は地面に固定され牛鬼の動きを制限した
「クッ……動カヌ…!」
「縛道の九 『崩輪』!」
更に指先から霊力の縄を作りだし牛鬼本体を縛り上げる。
動きを封じて強力なのをぶち込む気なんだろう。
本当ならもっと強い縛道をかけて完璧に動きを封じてからの方がいいんだが、妹紅は縛道が得意じゃないらしく、あまり高い数字の縛道は使えないらしい
「君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 焦熱と争乱 海隔て逆巻き南へと歩を進めよ」
詠唱が始まり妹紅の掌に炎のエネルギーが溜まっていく
「破道の三十一!『赤火砲』!!」
「!?」
完全詠唱による赤火砲。
恐らく今の妹紅が打てる最大火力だろう
火塊は牛鬼の頭部を吹き飛ばした
「ふぅー、案外呆気なかったな」
頭部を失い力なく崩れ落ちる胴体を見て、勝利を確信する妹紅
「おーい師匠!終わったよー!」
此方に手を振り俺を呼ぶ妹紅だったが、俺はある違和感を感じていた
頭部を失い、絶命した筈の牛鬼から微かにだが妖力を感じる
違和感は胸騒ぎへと代わり、俺は咄嗟に叫んだ
「妹紅!そいつから離れろ!!」
「…えっ?」
ゾワッ
周りが嫌な空気に包まれる。
俺は直様妹紅の元へ駆け出した
ーーー刹那……
牛鬼の亡骸から黒い靄の様なものが噴出し、妹紅を呑み込んだ
「ぐっ!?」
「妹紅!!?」
ーー俺は間に合わなかった
マモレナカッタ…