東方万能録   作:オムライス_

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滲み出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器 湧きあがり・否定し 痺れ・瞬き 眠りを妨げる 爬行する鉄の王女 絶えず自壊する泥の人形 結合せよ 反発せよ 地に満ち己の無力を知れ


34話 別れ

 

〜回想

 

(「それで?妹紅はどうやったら戻るんだ?」

 

「あの娘は今、牛鬼に体を乗っ取られている状態。なら私の能力であの娘と牛鬼の境を切り離せば元に戻るはずよ。唯あのままだとそれも難しいわね」

 

「俺は何をしたらいい?」

 

「簡単よ。あの娘の体力を極限まで削った状態で拘束して頂戴。そうすれば後は私がやるわ」)

 

 

 

……極限まで削った状態って結構難しくないか?

 

「ガアアアッ!!」

 

「おっと…!」

 

まあでもやるしかねーな!

 

「大分痛ェかも知れんが我慢しろよ!」

 

妹紅の力任せによる乱打を躱し一瞬で懐に接近、そこから首、胸、鳩尾、肩口、太ももに突きを叩き込んだ

 

「ガッ…!アア……!?」

 

吹き飛ばされ苦しそうに悶えるも、何とか立ち上がる妹紅

 

「どうした?…来いよ」

 

「カッ!」

 

跳び上がり、踵に炎を集中。

そのまま振り下ろしてきた

 

「…少しは使える様になってきたか……だがな」

 

俺はそれを片腕で受け、防いだ

 

「!?」

 

「アイツの……妹紅の技はこんなもんじゃねェ!!」

 

未だ空中にいる妹紅の足を掴み、地面に叩きつける

 

「ガッ……」

 

更にバウンドした身体を前蹴りで吹き飛ばした

 

「とっととその娘の身体から出て行けクソ野郎ッ…!!」

 

「ギャ…ウゥ…!」

 

今度は隼斗が急速に間合いを詰め、両拳を合わせる様に構える

 

「 六 王 銃 」

 

「!!?」

 

身体を貫通する程の衝撃が襲い、ついに妹紅は血反吐を吐きながら倒れこんだ

すかさず縛道を掛けるため詠唱を行う隼斗

 

「鉄砂の壁 僧形の塔 灼鉄熒熒 湛然として終に音無し」

 

 

 

「縛道の七十五『五柱鉄貫』」

 

 

 

倒れ伏した妹紅の上空から五つの五角柱が降り注ぎ、妹紅の四肢と頭部を拘束した

 

「今だ紫!やってくれ」

 

「わかったわ…!」

 

紫は妹紅の頭に手をかざし、境界を弄り始めた

 

「……凄い拘束術ね。アレだけあばれてたのに」

 

「七十番台の完全詠唱だからな。大妖怪クラスでもそう簡単には解けんさ」

 

「ふーん。…あっ、見つけたわよ」

 

「よし、じゃあ切り離してくれ。出てきた後は俺がやる」

 

「じゃあ…いくわよ?」

 

次の瞬間妹紅の身体から先程と同じように黒い靄が噴き出した

 

「グゥ……キ、貴様ラァァァ!!」

 

激昂した声と共に最後の悪足掻きなのか此方に突っ込んできた

 

今までの礼だ。とっておきで滅してやるよ

 

 

 

 

 

「破道の九十 」

 

「オオオオオオッ!!」

 

 

 

 

ーーー『黒棺』

 

 

 

靄となった牛鬼を囲い込むように現れたのは黒い直方体の箱。

その中で牛鬼は叫び声すらあげる間も無く重力の奔流に呑まれ消滅した

 

「……終わったわね」

 

「ああ、って妹紅は…!?」

 

「心配ないわ。でも怪我は酷いから治療してあげたら?」

 

「うっ……そうだな」

 

あちゃー、流石に六王銃はやりすぎたか?

衝撃貝の数倍の威力だっけ?やっべ

まあそれは置いといて

 

「なあ紫。甘えついでにもう一個頼んでもいいか?」

 

「何かしら?」

 

「……妹紅を幻想郷に送ってほしい」

 

すると紫は少し驚いた顔をする

 

「いいの?この娘貴方の弟子なんでしょ?今まで一緒に旅だってしてきたのに」

 

「…まあアレだ。コイツも十分強くなったし、そろそろ師匠離れしてもらおうと思ってた所なんだよ」

 

ハハハっと笑うがやがてはぁーと溜息を吐く隼斗

 

「っとまあ、ホント言うとそれは本音の三割位でさ………わかったんだよな。俺もまだまだ未熟者だって」

 

今回の事だって紫が居なかったら取り返しのつかない事態に陥っていたかも知れない。

俺の判断ミスで妹紅を危険な目に合わせてしまった

 

「…恐れているの?誰かを失う事を」

 

「……かもな」

 

俺は急に自分が情けなくなり、紫に背を向けて答えた。

幽々子の事や月面移住計画の出来事が鮮明に思い出され、悔しさがこみ上げてくる

 

握り込んだ拳からは血が滲んでいる

 

するとゆっくり此方に歩み寄ってきた紫に後ろから抱きしめられた

 

「…気にするなとは言わないわ。それは貴方が一番わかってる筈だから」

 

「…ああ」

 

「でも忘れないで。貴方には沢山の繋がりがあることを……貴方がいなくなったら悲しむ人がいることを」

 

「……ああ」

 

「貴方は一人じゃない。だから一人で思い詰めないで。いつだって私を頼りなさい」

 

「……」

 

不思議と心のモヤがとれた気がした

 

 

何年振りだろうな……

 

こうして慰められたのは……

 

「ありがとな。紫」

 

我ながらいい友人を持ったもんだ

 

いつの間にか拳を握る手は緩んでいた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前書きで書いたのは黒棺の詠唱です。
ではまた明日

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