東方万能録   作:オムライス_

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39話 VS 綿月 依姫

 

「ふぅ……一旦安心だな。紫、地上までのスキマは開けそうか?」

 

「はぁ、はぁ…直ぐには無理だけど、少し休めば大丈夫よ」

 

依姫と麻矢の隙をつき、その場を離れた俺たちは物陰で身を潜めていた

 

本来なら紫のスキマを通って早々に地上に帰った方がいいのだが、二人とも満身創痍。

紫は傷も深かった為直ぐには動けず、藍は今気を失っている

 

「とにかく傷をみせろ、治療してやる」

 

「そんな時間があるとでも?」

 

「!?」

 

声のした方を見ると、依姫が刀を手に立っていた

 

「チッ、まさかこんなに早く探知されるとは思わなかったよ」

 

「私も伊達に防衛軍を率いていませんので」

 

「もう一人がいないようだが?」

 

「麻矢には本部に戻ってもらいました。貴方は妙な術を使うので」

 

そりゃ好都合だ。麻矢の能力は厄介だからな

後は依姫をどうにかしねーと

 

「…紫、力が戻り次第藍を連れて地上に戻れ」

 

「な、何言ってるのよ!?貴方を置いて行けるわけないでしょ!」

 

「…おい、何を勘違いしてやがる?」

 

俺は紫の胸倉を掴み上げた

 

「うっ……は、隼斗………」

 

「俺は今怒ってんだよ、紫。こうなったのは誰の責任だ?言ったはずだ、月を甘く見るなと」

 

「……っ!」

 

「今のお前に誰かを心配する余裕があるのか?誰かを助ける余力があるか?感情論だけで動くような浅はかな真似はするな、今できる最善の行動を取れ!それが上に立つ者の務めだ…!!」

 

「……うっ…ぐ……」

 

悔し涙か、紫の頬を涙が伝い悲痛な表情を浮かべている

 

「泣く程悔しけりゃ生き残ってみせろ。俺だって死ぬつもりはない」

 

「……………ゔんっ…!」

 

「……よし」

 

俺は紫をゆっくり降ろして頭にポンッと手を置いた

 

「……話は終わりましたか?」

 

此処で漸く依姫が口を開いた

 

なんだ、何もしてこないと思ったら待っててくれたのか

 

「ああ、悪いな」

 

「では……参ります」

 

依姫が抜刀の構えに入る

 

「行け!紫…!!」

 

「っ!」

 

俺は依姫に、紫は倒れてる藍に向かって走った

 

「逃がしません!!」

 

「いいや、逃がす!!」

 

依姫の抜刀した刃を霊力の籠手で受け止めた

 

「慌てんなよ、俺が相手になってやる」

 

「…っ!」

 

そのままお互い距離を取り睨み合う

 

紫は藍を連れスキマを展開、必ず迎えに来ると言い残し、消えた

 

 

「わかりませんね。何故人間である貴方が妖怪を助けようとするのか」

 

「そりゃお前、偏見ってヤツだぜ。妖怪にも良い奴はいる」

 

「現にあの妖怪は月を襲撃しましたが?」

 

「ホント、手の掛かる奴で困っちまうよ」

 

「…………我々は過去に妖怪の所為で文明を一つ失っているんです。故に妖怪を嫌悪している」

 

「ん?」

 

確かに元を辿ればそうかも知れないが、都を跡形もなく消し飛ばしたのは人間だ。

依姫達はそう聞いてないのか?

 

「…お喋りは此処までです。出来れば命を奪いたくない。降参して頂けると有り難いのですが」

 

「折角だがお断りだ」

 

「……残念です」

 

依姫はそう言い終えると一足跳びで隼斗の前まで詰め、刀を横薙ぎに振るった

 

「速ェな!」

 

隼斗は横薙ぎに振るわれた刀を大きく体を反る事で躱し、そのままバク転で後方に下がった

 

「愛宕様の火」

 

隼斗の後を追う様に踏み出した依姫の腕が炎に包まれる。

これは依姫の能力『神霊の依代となる程度の能力』だ。

八百万の神を自身に降ろす事で、その力を振るう事が出来る

 

腕に宿った炎は次いで刀を包み込み炎刀を創り上げた

 

「ハアッ!!」

 

「ぐっ…!」

 

炎刀による一撃を籠手を使い受け流す隼斗だが、そのあまりの熱に籠手は一瞬にして溶け、腕の表面を焦がした。

その激痛に一瞬動きを止めてしまった隼斗の隙を逃さず、返す刃でもう一太刀を高速で繰り出す依姫

 

「縛道の三十七 『吊星』!」

 

「!」

 

隼斗は吊星を自身の目の前に展開。

それにより依姫の視界が一瞬奪われギリギリで斬撃を躱す事が出来た

 

「破道の一『衝』」

 

そのまま依姫の額に軽い衝撃波をぶつけ、距離をとった

 

「ふぅー。こりゃヤバいかもな」

 

何とか殺さないように気絶させる予定だったが、手加減してたらこっちがやられちまう…!

ここは一気に強力な縛道で動きを止めるしかないな

 

「縛道の六十三『鎖条鎖縛』!!」

 

蛇のように伸びる太い光の鎖が依姫に向け飛んでいく

 

 

 

「…甘い!」

 

 

「ぐあっ…!?」

 

 

嘘だろ…?六十番台の縛道を斬りやがった…!しかも一撃で効力を失って俺ごと斬りつけるとは

 

「……驚いたな、神降ろしってのはそんな事まで出来ちまうのか?」

 

「?……何を言ってるんですか?今のは能力を使用していません」

 

「!?」

 

「いいですか?光を斬る事は水を斬る事よりもずっと容易いものなのです」

 

「いや、その理屈はおかしい」

 

 

おいおいマジか。しばらく見ない間にどんだけ強くなってんだよ…!

師匠の面目丸つぶれなんだけど!?

 

 

 

「はぁ……参ったなマジで」

 

 

 

ーーーこれじゃ本当に本気出さなきゃいけなくなっちまうじゃねーか

 

隼斗の中でドス黒い感情が渦巻いた。

以前安倍泰親と戦った時にも出た、自身でも違和感を感じた感情だ

 

 

「祇園様の力」

 

依姫が刀を地面に突き刺したと同時に周囲から刃が飛び出し隼斗を取り囲んだ

 

「動けば自動的に刃が貴方を斬り刻みます。そして……」

 

依姫は跳躍し、隼斗の頭上より刀を上段に構えながら宣言する

 

「これで幕引きです……!」

 

 

 

 

 

 

ガシッ

 

 

 

隼斗が振り下ろされた刃を掴み取った

 

 

 

 

「ふぅ…」

 

「なっ!?」

 

依姫は驚きの表情を見せた。

 

「やっぱ調子戻ると違うなァ」

 

隼斗は笑っていた。

今し方振り下ろした刀を握り込みながら、口角を吊り上げ不気味な笑みを浮かべていた

 

「馬鹿なっ!?刃が通らない……!?」

 

見ると依姫の刀だけじゃない。周囲に配置した無数の刃が隼斗の動きに反応し、対象を貫くべく飛び出しているが、鋒は隼斗の皮膚で止まっていた

 

「時間が無ェからよ、さっさと終わらせてもらうぞ」

 

「むぐっ…!?」

 

隼斗は言葉と同時に依姫の顔を掴み前方へ放り投げた。

音速に近い速度で投げられた依姫は何とか態勢を立て直し前を見ると、既にそこには隼斗の顔があった

 

「おら、避けねェと死ぬぜ?」

 

「!?」

 

悪寒を感じ、咄嗟に依姫は身を屈めた

 

ゴオッ

 

凄まじい風切り音が鳴り、繰り出されたのは回し蹴り。

隼斗の脚は身を屈めた依姫の頭上を通過し、その風圧だけで月の表面を抉り取った

 

「もう一丁!」

 

「くっ…!」

 

続いて拳の振り下ろし。地面を転がり回避する依姫

 

「何だァ?急に逃げ腰になっちまってどうした?」

 

当然の様に地面に突き刺さった腕を引き抜き手首を揺らしながら問い掛けてくる隼斗

 

「…っ!火雷神!!」

 

依姫は天高く刀を掲げると、突如スコール並の大雨が降りだした

 

「ほぉ、月にも雨って降るんだな」

 

だが隼斗に大して警戒する様子はない

 

すると隼斗目掛けて雷が落ちてくる。

その雷は途中で七頭の炎の龍へと変わり、隼斗を飲み込もうと口を開け………

 

 

 

 

ゴパァァァンッ!

 

 

 

隼斗の拳の拳圧により掻き消された

 

「なん…だと…!?」

 

「で?まだやるか?」

 

首だけ依姫の方へ向けそう語りかける。

 

「……いいでしょう。ならば此方も全力で行かせて頂きます」

 

「はっ、とっくに全力だと思ってたけどな。そういう事なら遠慮なくどうぞ?」

 

「建御雷之男神」

 

依姫の体からバチバチと青白い雷が走り、同時に持っている刀が光り始めた

 

「…参ります」

 

一瞬で姿を消し、音速を越える速度で隼斗の背後に回り込み袈裟斬り。

隼斗もそれに反応し腕で防ぐ

 

「!……常人なら腕ごと焼き斬れているのに……どんな身体の構造してるんですか」

 

「生憎と常人じゃないんでね」

 

「その様ですね…!」

 

今度は二人とも姿を消し、辺りには空気の弾ける音が連続で響く。

どちらも音速を越えた速度での攻防を繰り広げている為、常人ならば視認する事は疎か近づいただけで巻き込まれ大怪我を負ってしまう

 

 

「天津甕星!」

 

依姫の背後に空間を埋め尽くす程の高密度な弾幕が配置された

 

「良いな、そう言う必殺技的なの」

 

「そうですか?」

 

「俺もやっていい?」

 

「どうぞ御勝手に…!!」

 

依姫が刀を振るうと配置されていた弾幕が一斉に隼斗の元へ打ち出された。

弾と弾の間がほぼ無く弾幕の範囲外へ逃げなければ被弾してしまう程の量だ

 

「じゃあ遠慮なく」

 

隼斗は避けるどころか弾幕に向け突っ込み

 

「連続普通のパンチ」

 

その名の通り両手を使った連続パンチで弾幕を掻き消していく

 

「まんまじゃないですかっ!?」

 

「いいだろ別に」

 

そうこう言ってる間に弾幕を全て打ち落とした隼斗が依姫に迫る

 

「っ!?……天宇受z」

 

「遅ェ…!!」

 

依姫の頭部に隼斗の裏拳が振り抜かれた。

ノーバウドで数十メートルぶっ飛んだ依姫は近場に停めてあった宇宙艇数隻を巻き込みながら漸く止まる

 

「ぐっ…あ……」

 

「刀を盾にしたか。随分頑丈な刀…って違うな。この場合は咄嗟に刀を出したお前を褒めねーとか?」

 

「負ける…わけには……」

 

刀を杖代わりにしてなんとか立ち上がるが頭部からは出血し、左腕は裏拳を受けた衝撃で骨折していた

 

「…やめといた方がいいんじゃね?」

 

誰が見ても満身創痍な依姫にそう言ってみるが依姫は首を縦に振らない

 

「そういう訳にはいかない!私は月の使者のリーダーだ!私が皆を守らなければいけないんだ!!」

 

「……」

 

「さあ来い!例え首だけになろうと戦ってやる!!今は亡き柊先生の為にもお前を倒す!!」

 

右手だけで刀を構えフラフラになりながらも此方に突き付けてきた

 

「………息巻いてるとこ悪いんだけどさ」

 

「……?」

 

「時間切れだわ」

 

ドサッとその場に倒れる隼斗

 

「……」

 

「……」

 

「……はっ?」

 

唖然として素っ頓狂な声が出る依姫

 

近づいて鞘の先で突いてみるが目の前の男からは一切反応がない

 

「…………えっ?」

 

戦場に一人取り残された兵士の如く、冷たい風が辺りに吹いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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