東方万能録   作:オムライス_

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43話 防衛軍勤務 ③

 

「勝負は先に相手から一本取ったら勝ちよ!審判は私がするわー!」

 

「はい!」

 

「……おう」

 

なんで豊姫がそんなにノリノリなのか知らんが、どうしたもんか

 

「隊長と組手するなんて久しぶりですね!私頑張りますよー!」

 

何だかんだ麻矢は乗り気だし

 

「おい!春雨隊長と柊教官の組手試合だってよ!」

 

「マジで!?どっちが強いんだ!?」

 

「私、柊教官に二千!」

 

「俺は春雨隊長に三千!」

 

外野もなんか勝手に盛り上がってるし……

 

「じゃあお互い見合って見合って〜、はっけよーい……」

 

豊姫、それ相撲や

 

「残ったー!!」

 

どうしてこうなった?

 

「行きます!」

 

「!」

 

試合開始と同時に麻矢の姿が消失した。

否、高速で動いて(正確にはそう見えた)俺の背後に回っていた

 

「やっぱ能力ありかよ…!」

 

反則ではない。これは実戦に基づいた訓練だ

 

※ここで麻矢の能力をお浚いしとく

 

『相手の体感速度を下げる程度の能力』

 

〜相手が普段感じている体感速度を下げることで、相手は普段通りの速度がとんでもなく速く感じてしまい、自分自身で動きにセーブをかけてしまう〜

 

 

ゴムナイフが首筋に触れる直前で往なしが間に合い、バックステップで距離をとる

 

「逃がしません!」

 

続いて麻矢がナイフを投擲。能力のせいか、メチャ速く感じる

 

「っとお!」

 

だが簡単にやられちゃ俺の立場がない。

首を横に振り躱す。

 

「まだまだぁ!!」

 

次の瞬間には新たなナイフを持った麻矢が目の前に迫っていた

 

斬撃からの打撃。実戦ではここに銃撃が入ってくるが、これが麻矢の戦闘スタイルだ。

武器はどれも取り回しやすいものを使用し、能力と合わせて相手を撹乱しつつ戦う。

 

受け、捌き、いなす。俺は衰えているとはいえ能力による身体強化で麻矢の連撃に対応していく。今の俺の速度は周りから見れば人間でも出せる範囲なので、訓練生でも通常の状態ならば出せなくはない。だが麻矢の能力がそれを許さない。俺ですら能力を使って何とか反応出来ている

 

 

 

 

ーーーだが俺相手に打ち合いを選んだのは悪手だ

 

 

 

「捕まえた」

 

「あっ…!」

 

打ち合うと言うことはそれだけ相手に触れる数が多くなると言うこと。麻矢の能力は速度は下げれても力を抑えることはできない。

妖怪とタメ張れる程の力で掴まれたら人間の力で逃げることは不可能。

 

俺は麻矢を投げて組み伏せ、拳を顔の手前で寸止めした

 

「一本………だよな?」

 

審判である豊姫に確認を求める

 

「一本!勝者、柊 隼斗〜!!」

 

豊姫の宣言と同時に周りから歓声が上がった

 

「ほれ」

 

倒れている麻矢に手を差し出す

 

「ありがとございます。やっぱり隊長には敵いませんね」

 

「いやいや。お前もイイ線いってたぞ?前よりも格段に強くなってる」

 

「そう言って頂けて光栄です。また機会があればよろしくお願いします」

 

相変わらず謙虚だなぁ……

輝夜もこれくらい礼儀正しけりゃ風格も現れるだろうに

 

麻矢は一礼すると未だテンションの高い豊姫を連れて訓練場を後にした

 

「よーしお前ら!今日の午後の訓練で気合いを見せた奴は明日休んでよし!集中していけよー!!」

 

「ウオオオオオオオ!!!」

 

その言葉を聞いた訓練生達が一気に湧いた

 

まっ、偶には飴もやらないとな

 

その日を境に、兵士たちの中で隼斗の株は急上昇したと言う

 

 

 

訓練を始めて半年程経った頃には俺の霊力が戻っていた。

霊力が使えるようになった事で戦術の幅が広がり、訓練にも霊力コントロールを加えた

 

しかし霊力を意識して使ったことのない奴が其れを習得するのは難しく、霊力を教え始めて数十年経った今でもまともに使える兵士は少ない。そう考えると妹紅は才能があったんだろう

 

唯一使いこなせる様になったのは綿月姉妹と麻矢だけで、特に麻矢は霊力の習得が三人の中で一番早かった

 

「……」

 

月に居るのも残り5年を切った。でもまあ、霊力の扱いが可能になれば戦力の強化にも繋がるし徐々にではあるが霊力の理解も広まっている。結果としては上々だろう

 

 

そんな事を思い返しながら、訓練を終えて誰もいなくなった訓練場に人影

 

「何一人で黄昏ているんだ?隼斗」

 

「月読か。珍しいな、アンタが本部から出てくるなんて」

 

「失礼な。私は引きこもりでは無いぞ」

 

何故だろう?今引きこもりと聞いて真っ先に輝夜の顔が浮かんだのは…?

 

「お前がここに居るのもあと少しだな」

 

「ああ。いい加減帰ってやらねーとまた怒られちまう」

 

そういや紫達は何してんだろうな。

幻想郷の様子も気になる

 

「はははっ、それは仲の良い事だ」

 

「…それで?月読はここに何しに来たんだ?」

 

「ふむ、何か用が無ければ来てはいけないのか?」

 

「じゃあ用は無いのか?」

 

「ある」

 

「あんのかよ」

 

お互いが軽口をたたく。俺と月読の普段通りの掛け合いだった

 

「その前にこれからどうだ?一杯」

 

「おっさんか」

 

 

 

ーーー殴られた

 

 

〜居酒屋

 

俺と月読はカウンター席に座り、注文した酒がくると月読が酒瓶を手に取った

 

「まあ飲め」

 

「サンキュ」

 

「何だー?この私がお酌してやってるんだ。嬉しくないのか?」

 

「確かに言われてみりゃ凄ェ事だな」

 

「まあいいや。今日は私の奢りだからどんどん飲め!」

 

「月読って神って言うより気の良い部長みたいだよな」

 

月読にも酒をつぎ、暫く雑談した後本題に入った

 

「今日は隼斗に礼を言おうと思ってな」

 

「礼?別に大したことはしてないけど」

 

「いいや。隼斗のお陰で兵士達の士気は向上し、以前より訓練にも積極的に取り組むようになった。コレだけでも大きな成果だ」

 

「まあ幾分かはマシになったわな」

 

「それに気付いているか知らんが豊姫や依姫、特に春雨はお前に心酔している。隼斗が戻った事であの三人は以前より笑う様になったんだ」

 

「……」

 

「……なあ隼斗。ここに残る気h「駄目だ」……」

 

「前にも言ったろ。俺は既に過去の人間だ。今を生きるアイツらが此処を引っ張っていかなきゃ意味が無い。……だから駄目だ」

 

「しかし……現にこうして皆成長出来たのはお前の…」

 

「俺はきっかけを与えただけだ。頑張ったのはアイツらのほうだよ」

 

だからこそ、新たに俺からしてやる事はもう無い。後はアイツら次第だ

 

「……そうか。無理を言ってすまなかった」

 

「いや、嬉しかったよ」

 

「……えっ?」

 

月読が思わず聞き返すと隼斗は席を立ち

 

「明日も早ェしこの辺にしとくわ。ありがとな。それとご馳走様」

 

月読に礼を言って店を後にした

 

「………ありがとう、か。」

 

一人残った月読は自分で酒を注ぎ飲み干す

 

「すまんな。私では引き止められなかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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