東方万能録   作:オムライス_

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44話 地上へ

 

「隼斗、忘れ物は無いか?ちゃんとトイレは済ませたか?」

 

「お前は俺の母ちゃんか」

 

母親の様なセリフを吐く月読にツッコミを入れる。

今日が約束の100年目だ

 

「本当に行っちゃうのね、先生」

 

普段は天真爛漫な豊姫もこの日だけは しおらしかった

 

「悪いな。でも今生の別れじゃないんだ。また会いに来る」

 

ポンっと豊姫の頭に手を置き、そう答えた

 

「先生。大変お世話になりました。また何時でもいらして下さい。その時を楽しみにしてますから」

 

依姫が深々とお辞儀をしてから右手を差し出してきた

 

「此方こそな。困ったことがあったら何時でも呼んでくれ。力になるぜ」

 

此方も手を出し握手をした

 

「……」

 

見ると麻矢だけ黙ってしまっている

そんな麻矢を見た依姫が心配して声をかけた

 

「麻矢、どうしたのですか?」

 

すると麻矢は顔を上げた

 

「隊長………どうしても行ってしまわれるんですか?」

 

小さく消え入りそうな声だった

 

「麻矢、俺は……」

 

「いいんです。わかってますから。でも…何だか不安で……」

 

今麻矢の頭の中では人妖大戦の記憶が鮮明に思い出されていた。

飛行中のロケット内で意識が戻り、隼斗が地上に一人残って皆を逃したと聞いた時は頭が真っ白になった

 

ーーー正に絶望の淵に沈んだ感覚だった

 

 

 

再び俯く麻矢を見て何だかこっちまでモヤモヤしてきたので、此処らで喝を入れる事にする

 

「スゥ〜〜ゥ、一々ナヨナヨするんじゃねェェェ!!」

 

「!?」

 

急に声を張り上げた隼斗に、麻矢だけでなく綿月姉妹や月読まで目を丸くした

 

「麻矢ァ!!」

 

「は、はいィィ!?」

 

「お前の今の立場は何だ!!」

 

「!……一番隊…部隊長です…!」

 

「そォだろォ!!お前はもう隊長なんだぞ!もう俺の下じゃねェ!お前が隊を率いていかなきゃ駄目なんだよ!なのにそんなザマで良いと思ってんのか馬鹿野郎ォ!!」

 

「す、すみません隊ちょ…あっ、いえ、その……」

 

至近距離で怒鳴られた麻矢は涙目になりながらアタフタしている。

豊姫は今まで見たことがない隼斗の一面に軽い放心状態で、依姫も止めようにも隼斗の剣幕に押されてこれまたアタフタしている。

……月読はニヤけているが

 

「……いいか麻矢」

 

「は、はい!!」

 

俺は一拍おいて麻矢の頭を掴み引き寄せ、目線を合わせる

 

「…俺はいなくなったりしねーし、これから先死ぬつもりもない。お前が心配してる様なちっぽけな不安なんざ さっさと取っ払っちまえ。いいな?」

 

目を真っ直ぐ見てそう言うと、麻矢もそれに答えた

 

「……はい!」

 

「……ふっ」

 

 

 

隼斗は納得したように笑い、背中を向けた

 

 

「よし帰ろ」

 

 

「「「ええェェ…!?」」」

 

思わず声を揃えて驚く月読以外の3人。

……月読は笑っている

 

「なんだようるせーな」

 

自分の事は棚に上げて悪態をつく隼斗

 

「えっ…先生、そんなあっさり……?」

 

唖然とした豊姫が聞き返す

 

「あっさりも何も、さっきから帰るっつってんだろ」

 

「いやいや、そんな『何言ってんだコイツ?』みたいな顔されましても…!?」

 

「そんな顔してねーよ。これは『察しろよ』って顔だろーが」

 

「何を!?」

 

隼斗が自分のペースに引き込み、周りがツッコミを入れる、まるで漫才の様な掛け合い

 

麻矢が最も尊敬するいつもの隼斗だった

 

「……」

 

先程のモヤモヤが嘘の様に晴れ、不思議と心も落ち着いていた。

麻矢は改めて礼を言う為隼斗の方を見た

 

「隊長……ありがとうございm……」

 

「ーーーでな?宴会中に麻矢の奴酔っ払って他部隊の隊長のカツラを引っぺがしちまってよ、それを自分の頭に乗っけt…」

 

「ちょっとォォォ!?何で急に私の話になってるんですか!?」

 

「クスクス、麻矢ちゃんって意外とお茶目なのね」

 

「麻矢……まだ酒癖悪いの治ってないんですか……?」

 

「うわああああああああ」

 

隼斗のカミングアウトに豊姫は笑い、依姫は引き気味。麻矢は頭を抱えて絶叫し、月読は笑い転げている

 

「……じゃあマジでそろそろ行くわ。月読」

 

「ん、そうだな」

 

月読は何事もなかったかのように立ち上がると豊姫に指示を出す

 

豊姫の能力は『海と山を繋ぐ程度の能力』

 

名前の通り、海と山の様な本来距離が離れている様な場所を瞬時に繋げることで、その場所に瞬間移動や転送する事が出来る

 

「先生、転送先は地上でいいかしら?」

 

「ああ、頼む」

 

「お世話になりました。お元気で」

 

「隊長、ありがとうございました。私これからも頑張ります」

 

「隼斗、我々はいつでもお前を歓迎する。此処が恋しくなったらいつでも来い」

 

各々が別れの挨拶を述べる中、隼斗が言ったのはたった一言

 

「またな」

 

言葉を言い終わると同時に隼斗の姿は消えた

 

「……行ったな」

 

「はい、寂しくなりますね」

 

「まあ私と月読様はいつでも会いに行けるけどね」

 

「あっ、ズルいですよ豊姫様!私も連れて行ってくださいよ!」

 

「お姉様、地上には危険が多いと聞きます。私がお供しましょう」

 

「はいはい、その時は連れてってあげるから2人してそんな迫って来ないでくれる?」

 

「…また来いよ、隼斗」

 

横で3人が騒いでる中、月読は小さく呟いた

 

 

 

 

 

 

 

〜地上

 

「おっ、懐かしっ!」

 

一瞬で景色が変わり、100年ぶりの地上だ

 

「……さて、と」

 

隼斗は歩き出した

 

 

 

 

 

ーーー

 

〜八雲家

 

「……」

 

「……」

 

「……ふぅ」

 

「……あの、紫様?」

 

「…何かしら?」

 

「いえ、先程から中身の入っていない湯呑みを口に運んでいるので……入れてきましょうか?」

 

「へっ…?あ、ああっそうね…!お願いするわ!」

 

紫から湯呑みを受け取り台所に向かう藍

 

「……相当緊張しておられるな。あんなにソワソワした紫様は初めて見た」

 

茶葉を入れて茶菓子を器に盛りながら、そんな事を呟いた

 

「……今日が100年目か」

 

再び茶の間に戻り襖を開けるとガタッと姿勢を正す紫

 

「…なんだ藍かぁ」

 

「……紫様。お気持ちはわかりますがもう少し落ち着いて下さい。約束した以上隼斗は帰って来ますから」

 

「そうだけど………ねぇ藍、第一声はどうしたらいいと思う?」

 

「それ、昨日も同じ事聞いてますが」

 

「だって〜〜!!」

 

「……素直に謝りましょう。きっと彼なら許してくれます。私も一緒に謝りますから」

 

「……そ、そうね」

 

相変わらずソワソワしている紫と、それを慰める藍。

この場に隼斗が居たら「普通逆じゃね?」とツッコミを入れていたかもしれない

 

 

 

 

「普通逆じゃね?」

 

 

 

 

ーーー居た

 

 

「!……は、隼斗!?」

 

「いつの間に…!?」

 

「よっ、久しぶり。コレ土産な」

 

驚く二人に対して軽く挨拶をした隼斗は、手土産の団子を卓上に置いた

 

「どうした?二人とも黙っちまって」

 

「……いつ帰ってきたの?」

 

「さっき」

 

「…そう」

 

紫が視線を向けると、藍も頷いた

 

「隼斗……あの時は…!」

 

そう言いかけた紫を隼斗が制した

 

 

「気まずい」

 

 

「えっ…?」

 

「この重苦しい空気とかドヨーンとした空気とか、なんて言うか…居た堪れない。帰っていい?」

 

「いや、良い訳無いでしょう!?」

 

思わず紫がツッコミを入れる

 

「いや、俺としてはな?『祝!隼斗さんおかえり大宴会!!』的なもっとこう明るい展開を期待してた訳ですよ!それがどうだ?これじゃまるでお通夜じゃねーですかい?」

 

「お、落ち着け隼斗…口調が定まってないぞ?」

 

藍も興奮した隼斗を宥めようとしている

 

「だったら!その!辛気臭ぇ顔をなんとかしろー!!」

 

「いひゃいッいひゃいィィ!?」

 

隼斗は紫の頬を掴み上に下にグニグニ抓った

 

「ゆ、紫様!?」

 

「お前もじゃー!」

 

「むぎゅっ!?」

 

止めようと近づいてきた藍の両頬を片手で掴み、紫も同じ様に掴み直す。

 

「「……」」

 

「……」

 

……タコみたいだ

 

「ぶっ、だっはははははー!なんだその顔ww」

 

「「…」」

 

 

その後、二人がブチ切れたのは言うまでもない。哀れ、隼斗は二人のマジの妖力弾を至近距離で喰らい、家から締め出された

 

 

「反省なさい」

 

「そこで頭を冷やせ」

 

ピシャッと戸が閉められ、両者から冷たい一言を貰い、地面の上に転がる隼斗

 

「はぁ、床つめてぇ…」

 

まっ、少なくとも場の空気は軽くなったろうし結果オーライだな

 

「もういいや。このまま寝よ」

 

地面の上に寝そべり寝息を立てる隼斗

 

 

次の日、中々家に入って来ない隼斗を心配した二人が外に出てみると未だ倒れたままの隼斗が!?(当人は寝てるだけ)

仕置きとは言えやり過ぎたか!?と大慌てする二人を他所に呑気に欠伸をしながら起きる隼斗

 

 

 

「あ、おはよ」

 

 

早朝から妖力弾が飛び交った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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