東方万能録   作:オムライス_

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46話 幻想郷巡り 人里編②

「…妹紅」

 

「……師匠?」

 

目の前に立っていたのは100年程前に紫に預け、一方的に別れたっきりの藤原妹紅だった

 

予想していなかった展開に隼斗は言葉が出ず、ただ一言妹紅の名を呼んだ

 

妹紅も同様に目を丸くしている

 

「なんだ妹紅、隼斗さんと知り合いだったのか?」

 

二人の反応を見た慧音が妹紅に質問する

 

「いや…知り合いって言うか………えっ、ホントに師匠……?」

 

「あ、ああ」

 

ヤバい……何て声掛けたらいいかわかんね

 

いや……色々言う前にまずやる事がある…!

 

「でもどうしt「悪かった!」うわっ」

 

妹紅のセリフに割り込んでの鮮やかなモーションで土下座に移行する隼斗

 

「ちょ、ちょっと隼斗さん!?」

 

突然知人に土下座をかます隼斗に驚きの声を上げる慧音

 

「妹紅、あの時俺は自分の勝手な事情でお前を置いて旅に出た。長年一緒に旅をしてきたお前を裏切る様な真似を俺は……」

 

そこまで言って今度は妹紅が口を開いた

 

「頭上げてよ、師匠」

 

その声色に怒りや憎しみといった感情は込められていなかった

 

「あの後八雲紫から聞いたよ。どうして師匠が私の前から消えたのか、その理由をね」

 

「……紫が?」

 

意外にフォロー入れてくれてたのか。今度差し入れ持ってこ

 

「妹紅は恨んでないのか?俺の事」

 

「まっさか、私を救ってくれた大恩人を恨むはずないじゃない」

 

当然の様に笑い飛ばす妹紅。

何だか逆に此方が肩透かしをくらった気分だ

 

「あの、そろそろ話に入ってもいいか?」

 

さっきから話に着いて来れなくなっていた慧音が咳払いをしながら聞いてきた

 

「ああ、悪い悪い。とりあえず座って話そうぜ。妹紅も入ってこいよ」

 

「じゃあ久々に師匠の隣に座ろっと」

 

「ははっ、三人が円になって座るんだからどの道隣になるだろう?」

 

それからは慧音に俺と妹紅の関係について説明した後、妹紅が幻想郷に来てからの今までの経緯を聞いた。

あの後妹紅は人里近くに送られ、倒れているところを慧音に助けられたそうだ。

つまり二人は100年来の親友という事になる

 

「でも師匠100年間も何処にいたんだ?」

 

「月」

 

「は?」

 

「ちょいと野暮用で月に行ってたんだよ」

 

「月って……餅でもついてたの?」

 

「いや、勤務にはついてたな」

 

「?」

 

うん、別に上手いこと言えてない

 

「さて、そろそろ帰るかな」

 

「えっ、もう帰るんですか?てっきり泊まっていくものだと…」

 

帰ろうと腰を上げた隼斗を慧音が引き止め、妹紅もそれに続く

 

「そうだよ、私も泊まるつもりで来たし折角久々に会ったんだからもっとゆっくりしてけばいいじゃん」

 

いや尚更マズイだろそれ

 

「そうは言ってもな」

 

「それにもう日も暮れてます。隼斗さんなら問題ないかも知れませんが、この時間帯は妖怪が活発になるので危険です」

 

「此処も襲われたりしてんのか?」

 

「はい、滅多にない事ですが。でもその時は私や妹紅が対処しているのでそれ程酷い被害は出ていません」

 

「まっ、私の敵じゃないけどな」

 

自信満々に胸を張る妹紅を尻目に隼斗は人里を襲う妖怪の存在に疑問を抱いていた

 

共存を目的とした幻想郷内で外の世界と同じ事が起きている。つまり、幻想郷の掟を受け入れていない輩も存在するということか…

 

ドンドンドンッ

 

突然玄関の戸が激しく叩かれた。

外からは男の声が聞こえる

 

「慧音さん居ないか!?慧音さん!!」

 

何やら切羽詰まった様子で慧音を呼んでいる。

俺たちは顔を見合わせると玄関へと向かった

 

「どうしたんですか?」

 

慧音が戸を開けると息を切らした里の男数名がいた。

男達は慧音の顔を見ると鬼気迫った表情で口を開いた

 

「よ、妖怪…妖怪が出たんだ!!今里の東側が襲われてる!」

 

「何だって…!?」

 

「しかも一匹や二匹じゃない、確認しただけでも十匹以上いて俺たちの手には負えないんだ!」

 

「慧音…!」

 

「わかってる!妹紅は私と来てくれ。……すいませんが途中まで案内を頼めますか?」

 

「わ、わかりました」

 

「……俺も手伝おうか?」

 

現場へ向かおうとする慧音に声を掛けるも、慧音は首を横に振った

 

「いえ、里の問題に隼斗さんを巻き込む訳にはいきません。ここは私達に任せて待っていてください」

 

そう言って妹紅と共に駆けていった

 

 

「……まっ、ある意味正しい判断かもな」

 

慧音達が向かった方向とは反対の方角に視線を向けながら一言呟く隼斗

 

 

 

 

ーーー

 

 

「ふぅ、此れで全部か」

 

「案外大したこと無かったな」

 

里に襲撃してきた妖怪の群れは慧音と妹紅により打ち倒されていた。

飽くまで撃退なので倒された妖怪はどれも死んでおらず、地面に倒れ伏している

 

「此れに懲りたら二度と里を襲撃しようなんて思わない事だ」

 

慧音が警告の意味を込めて近くの一匹に言うと、その妖怪は口角を吊り上げて笑った

 

妹紅がその反応に眉を顰めた

 

「…何が可笑しいんだ?」

 

「ひひっ、まさか……こんなに上手くいくとはな」

 

不敵に笑う妖怪を前に胸騒ぎを覚える二人

 

「上手く?何を言っているんだ、お前達の襲撃はこうして………!?」

 

そこまで言い掛けてある可能性が脳裏をよぎった

 

「まさか……!」

 

「ひひひ」

 

「慧音、どういう事?」

 

まだ事情が掴めない妹紅が慧音に質問する

 

「…単刀直入に答えろ。お前達の襲撃は……」

 

「ああ、囮さ」

 

「「!?」」

 

この返答で妹紅も気付いた

 

この妖怪達は飽くまで自分達を引きつけるための囮役。本命は別にいる

 

「ひひっ、今頃里の西側からどんどん雪崩れ込んでるだろうなぁ。もう向かっても手遅れだぜ?なんせ俺たちの5倍はいる。お前達が最初に目にするのは変わり果てた人g…ごばぁ!?」

 

妖怪はセリフを最後まで言うことはなく妹紅に蹴り飛ばされた

 

「下衆が……!!」

 

「西側って事は此処と真反対だ…!妹紅!すぐに戻るぞ!!」

 

「ああ!!」

 

行きの時とは違い一気に人里西部まで全力で飛翔する二人。どんな規模の妖怪がいるかわからないが、余力を考えてる場合じゃない。一刻も早く到着しなければ里の皆が殺されてしまう

 

 

 

 

「頼む…!間に合ってくれ……!!」

 

「!……見えてきた!!」

 

里の上空を突っ切り、ものの数分で到着した。

だが辺りは妖怪どころか襲撃を受けた形跡すらない

 

怪訝に思った二人は里の外まで出て、驚愕の光景を目の当たりにした

 

「これは…!?」

 

そこには先程の妖怪が言っていたように、ザッと見ても50体はいるであろう妖怪の群れがいた。そこらの雑魚なら兎も角、ある程度力の強い妖怪にこの数で攻めて来られたら、幾ら慧音や妹紅と言えど簡単には退けられないだろう

 

 

だが妖怪達が里を襲うことはなかった

 

 

何故なら…………

 

 

「……」

 

 

 

ーーー妖怪達は全て倒され、纏めて山積みにされていたからだ

 

 

その山の前で気怠そうに立つ柊隼斗によって

 

「おう、其方も終わったみてーだな」

 

「し、師匠…いつの間に?」

 

妹紅が尋ねると妖怪達を顎で指しながら答えた

 

「二人が出て行った後、妙な気配を感じてな。念の為里の周囲を探知してみたらこいつらが釣れた訳だ」

 

隼斗は自身の霊力を波に変えて周囲へ拡散、そして拡げた波を再び自身へ戻す事で、波が通過した場所に潜んでいた妖怪達を捕捉していた

 

「此れを一人で…?」

 

「こんなもん数の内に入らん。朝飯前だ」

 

慧音はまんまと妖怪の策略にかけられてしまった自分を責めていたが、隼斗が最も簡単に解決してしまった為、それも取り越し苦労に終わった

 

「うしっ、帰ろうぜ」

 

呑気に欠伸をしながらスタスタと歩いて行ってしまう隼斗に、ワンテンポ遅れて続く二人

 

「取り敢えず大事にならなくて良かったな」

 

「そうだな。隼斗さん、ありがとうございました」

 

「ん?…ああ」

 

「どうかしましたか?」

 

「いや………何でもない」

 

この時隼斗は他の事に意識を向けていた

 

 

妖怪による人里の襲撃………

何かきな臭いな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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