迷いの竹林より南に位置する草原。
此処には数多くの花々が咲き誇り、特に夏には一面に立派な向日葵畑が咲く事から『太陽の畑』と呼ばれている
此処を管理しているのは花の妖怪、四季のフラワーマスターの異名を持つ風見幽香だ
幽香とは以前からの知り合いで半年ほど一緒に暮らしてた時期もあった
向日葵畑を抜け、奥の方に進んでいくと幽香が此方に背を向けて花に水やりをしているのが見えた
「……」
実は此処に来るまでに気配を消してきた。
理由は不意に現れて幽香を脅かしてやろうと考えたから
「〜〜♪」
鼻歌混じりに水やりをしている幽香の背後に抜き足差し足で忍び寄り後三歩の位置に差し掛かった時だった
「…ッ!」
「うおっ!?」
突如幽香が物凄い勢いで振り向き、同時に日傘で一閃。上体を逸らして回避はしたが日傘は鼻先数センチ上を風切り音と共に通過した
「チッ…!外したわ」
「待て待て…!俺だ、隼斗だ!」
「!」
早くも次の攻撃に移ろうとした幽香に何とか自分の名前を告げると、再び振るわれた日傘が首筋手前で止まった
「………久しぶりね、隼斗」
「お久しぶりでごぜーます」
幽香は日傘を突き付けたままニコやかに続けた
「ところで、何故気配を絶って近付いてきたのかしら?」
「いや、まあ……ちょいと脅かしてやろうかなーと」
「あらそう♪」
すると漸く日傘を降ろしてくれた
「っつーか振り向きざまに日傘振るうなよ。俺じゃなかったら頭吹っ飛んでたぞ」
先程の攻撃に対して異議を申し立てるが、幽香は特に悪びれる様子はない
「気配を絶って私にあそこ迄近付けるのは今まで会った中じゃ貴方位しかいないわ」
「じゃあわかっててやったのかよ…」
「人聞きが悪いわね。急に背後から気配を消して近付かれたから反射的に身体が動いてしまっただけ」
「成る程、お前は風見13だったのか」
「何訳わからない事言ってるのよ。それよりも私の家に行きましょう。久々に話もしたいし」
「用件を聞こう…ってか?」
ボスッ
「さっ、行くわよ」
「……はい」
ーーー
「相変わらず小綺麗だな、幽香の家は」
「淑女として当然よ」
「お、おう」
「…何よ」
「アレだろ?幽香はサイヤ人の中でも淑じょぼおっ!?」
「いい加減にしないと殴るわよ?」
「……それは殴る前に言うセリフだ」
そのまま席で待ってるように言われ、暫くして紅茶とクッキーが運ばれてきた
「なんか悪いな、いきなり押し掛けたみたいになっちまって」
「へぇー貴方でもそんな事思うのね」
「そこまで不躾じゃねーよ」
幽香も席に着き優雅なティータイムが始まった。幽香は振舞いから雰囲気までこの空間に合っているが、どうにも俺の場違い感がハンパない。いつもの俺のティータイムは寝転がって煎餅を齧り茶を啜るスタイルだから尚更だ
「此処へはいつ来たの?」
「その質問されたのこれで3回目なんだけど」
「だから?」
「……わかったよ。ほんの数日前だ。ついでに何をしているかも先に答えとくぞ?幻想郷の視察がてら住居を何処に設けるか下見してんだ」
「あら、だったらウチに…」
同居を申し出てくれた幽香だが、俺は首を横に振った
「ありがたい申し出だけど遠慮しとくよ。いや実際嬉しいんだけどな?やっぱり男としては誰かに厄介になるのは気がひけるっつーか……まあ俺の意地だな」
「ふーん。面倒なものね」
「そう言うもんさ、男はな」
暫く談笑した後徐に幽香が席を立ち、隼斗の横にきた
「ん、何だ?」
「ね、久しぶりにヤらない?」
「はっ?」
・
・
・
・
・
「はぁ!!」
「っと…!」
ムフフな事だと思ったか?残念!組手でした!!
幽香の振るう拳、蹴り、日傘を的確に躱していく隼斗。
威力は申し分ないが、如何せんスピードが足りず、先程から打ち込みは空を切るばかり
「この!当たりなさい!!」
「ふはははっ!掠りもせんわー!!」
「マスタースパーク!!」
痺れを切らした幽香が至近距離でマスパを撃った。
隼斗はこれを軽く横に跳んで回避。放たれたマスパは遥か遠くに見える『妖怪の山』の一部を撃ち抜き、地平線の彼方へ消えた
「惜しかったな」
「……どこがよ」
幽香は不機嫌そうに剥れる
「そう怒んなって。火力は十分なんだ。後は動きに一工夫入れれば完璧だぞ?」
「……何よ一工夫って」
「ほれ、お前スピード無いじゃん?」
「うっ…」
グサッと幽香の胸に突き刺さる言葉だった
「……そんなにハッキリ言わなくてもいいじゃない」
おっ、幽香にしては珍しい涙目頂きました……は置いといて
「んな顔するなよ。大丈夫、改善策はある」
「?」
「例えばこんなのだ」
刹那、隼斗の姿がブレた
然程スピードの無い動きで幽香に接近するが不思議な事に目の前の隼斗からは気配を感じず、歩みを進める足からは足音が聞こえない
更にはその独特の歩法の為か残像すら見える
「こっちだ」
「!?」
気がつくと隼斗は幽香の背後を取っており、幽香の手元から日傘が消え、隼斗の手に握られていた
「いつの間に…!?」
「別に高速で動いた訳じゃないぞ?これは暗歩の応用だ」
「…暗歩?」
暗歩とは暗殺者が使う無音の歩法技術の事。
一切音を生じさせない+気配を絶つ事で、ターゲットに勘付かれずに接近できる
隼斗がやったのはそれの応用であり、動きに緩急をつけて残像を見せ、敵を翻弄させる
「更に気配を感じ取れないって事は次にどんな攻撃が来るか予測し辛くなる。マスタースパークみたいな大技は撃てないが攻撃はずっと当てやすくなるんだ」
「成る程、歩法に一工夫ね………じゃあやり方を教えて」
「慌てんな。コレをやるにはまず暗歩を完璧にマスターする必要がある。取り敢えずはそっからだな」
「わかったわ。この歩法の名前は何て言うのかしら?」
「名前?まあ使い手によってそれぞれ違うけど、俺は肢曲って呼んでる」
「肢曲?いまいちパッとしないわね。他には?」
別に名前なんてどうでも良いと思うけど……
幽香って形から入るタイプなんかね
「そうだな……じゃあ桜舞は?」
「決まりね。私は桜舞を習得してみせるわ」
・
・
・
「……お前やっぱ凄ェわ」
「あらそう?」
教え始めてからたったの3時間で暗歩を習得し、その一時間後には独自の方法で肢曲まで習得した幽香に素直な感想を述べる隼斗
幽香は能力を使い周囲に花の香りを散布し、此方の勘を鈍らせる事でより効果的に死角を突いてきた
「ふぅ、危うく一発貰うとこだっ……あ痛ェェっ!?」
更には自身の分身を生み出し其れに敢えて気配を残す事で相手の意識を自分から外す手法まで使ってきたのだからビックリ仰天。初見では流石に対応しきれず一発貰ってしまった
「ふふっ、漸く貴方に届いたわ。あースッキリした」
幽香は日傘をフルスイングした姿勢のままほくそ笑んでいる
「にゃろっ…!油断したとは言えあんな大振りで当てやがって!もう一回勝負だ!!」
「望むところよ!!」
幽香との激闘は日が暮れるまで続いた