東方万能録   作:オムライス_

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53話 舞い降りた龍神

 

鏡花と出会って数年。先日鏡花は16歳になり、晴れて博麗の巫女となった。

霊力の扱い方を一通り教えたが、飲み込みが大変早く、メキメキと力を付けあっという間に一人前だ

 

そして今日は遂に幻想郷を覆う大規模な結界、『博麗大結界』を張る日

 

 

直接術式を展開するのは紫と鏡花。藍と俺は力を流し込み結界を安定させる役目だ

 

 

「いよいよね。皆準備はいいかしら」

 

「いつでも大丈夫です!」

 

「此方はお任せ下さい」

 

「気張っていこうぜー(棒)」

 

「皆さん頑張って下さい!!」

 

上から紫・鏡花・藍・俺の順でそれぞれの意気込みを口にする

 

 

因みに最後にエールを送ってきたのは、前に俺が助けて以降藍の式神となった化け猫。名前は『橙』という。

式神になってからは人間の子供程度の智慧を有し、よく紫達と行動を共にしている

 

 

「鏡花、私に合わせなさい。いくわよ…!」

 

「はい!」

 

横に並んだ紫と鏡花を中心に術式が組み上がり、幻想郷の上空からドーム状に結界が広がっていく。

そして幻想郷全体に結界が展開されたところで、俺と藍が力を流し込み安定をさせつつ結界の歪みや綻びを修正していく

 

「これは……思ったよりキツいな」

 

「そんだけ大掛かりな作業って事だろ」

 

結界が完成するまでの間絶えず力を流さなければならない為、補助といっても楽な仕事じゃない

 

「もう少しよ!」

 

紫の掛け声と同時に結界が徐々に安定していくのがわかった。

後はこの状態を維持するだけだ

 

 

 

 

 

「ふぅ……皆お疲れ様」

 

「つ、疲れた〜」

 

「そうか?まだ1時間も経ってねーじゃん」

 

「流石にお前と一緒にするのは酷だと思うぞ?」

 

意外にも早く博麗大結界は完成したが、皆疲労の色が見える。だが同時に達成感もあった

 

「これで外界と此処は遮断されたんだよな?」

 

「ええ。簡単に幻想郷への出入りは出来なくなったわ」

 

「はー、いよいよ幻想って感じがしてきたな」

 

「鏡花、此れからは貴方が博麗の巫女として此処を護っていくのよ」

 

「はい、任せて下さい!」

 

 

 

ーーーこうして『幻想郷』は『外の世界』から結界により隔離された土地となった

 

 

 

 

そんな記念すべき瞬間に皆は心なしか口数が多くなる

 

 

「記念にこの後宴会でも開きましょうか」

 

「あっ、それイイですね!」

 

紫の提案に鏡花が食い付く

 

「藍様、私お魚が食べたいです!」

 

「よしよし、今日は私も腕を振おうじゃないか」

 

橙の要求に藍も張り切っている

 

「……」

 

 

 

ーーー隼斗だけ

 

 

隼斗だけが空を見上げたまま……いや、正確には睨みつけたまま動かない

 

「隼斗?どうかしたの……?」

 

怪訝に思いながら紫が尋ねるが隼斗は依然虚空を睨んでいる。

額には一筋の汗が伝う

 

「ちょっと隼斗…!どうしたのよ!」

 

流石に不穏に思ったのか強めの口調で隼斗を呼ぶ紫。鏡花や藍・橙もその声に気付き隼斗を見た

 

「おい、隼斗…?」

 

「隼斗様?」

 

藍と橙は異常とも取れる隼斗の様子に困惑している

 

鏡花と紫は何かに勘づき隼斗と同様に空を見上げた

 

「「……!?」」

 

空には何もない。

何も居ない。

それなのに其処には間違いなく『ナニか』がいた

 

ーーー異変が起こったのはそれとほぼ同時

 

 

雲の切れ間から突如激しい白光。

光の柱が隼斗達に向けて射出された

 

「ッッッ!!全員伏せろォォ!!!」

 

光は隼斗達の立っていた場所をピンポイントで呑み込み、閃光と共に炸裂した

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ……」

 

砂塵が晴れ、謎の光の着弾点から現れたのはボロボロの隼斗と、先の衝撃で意識を失った鏡花と紫・藍・橙だった

 

隼斗達の目の前に展開されている防壁『断空』はその強度を保てず崩れ落ちた

 

「……咄嗟だったとは言え、八十番台の破道で削ったってのにコレか」

 

光が直撃する瞬間、隼斗は高火力を誇る破道『飛竜撃賊震天雷砲』を光に向け放ち、同時に『断空』で防ごうとした。

だがそれでも光の威力を殺しきれず防壁越しだったとは言え、多大なダメージを受けてしまった

 

「ふぅ……取り敢えずコイツらは無事か」

 

最も痛手を被ったのは隼斗だけで後ろで倒れている4名の怪我自体は大した事はない

 

隼斗は紫達の安否を確認すると、再び上空を睨みつけ、思いっきり跳んだ

 

向かうは光が飛んできた雲の切れ間。

一足跳びでは足りず、途中霊力で足場を造っては跳躍を繰り返した

 

空に近づくにつれて段々と強まる気配

 

その力の質は神力

 

「見つけたぞ」

 

霊力で足場を造り着地する。

雲を突っ切った所にそいつは居た

 

一見すると鹿の様な角を生やし、真紅の髪と瞳。首からは宝玉を下げている女

 

「おや、てっきり死んだと思っていたが……生きていたか」

 

「お陰様でな。随分上等な事してくれたじゃねェか」

 

「……ほぅ?」

 

女は紅く輝く瞳を隼斗に向け、薄ら笑いを浮かべる

 

「私相手に大層な口を聞くとは大した度胸だな、人間」

 

「生憎と神には詳しくないんだ。ぶっ飛ばす前に名前くらい聞いてやるから言ってみな」

 

「ふっははははは!熟々面白い人間だ。いいだろう、お前たちの様に個々を区別する名前は無いが、私が何者であるか位は教えてやる」

 

どちらも軽口を叩き、会話だけ見ればお互い冗談を交えた愉快な掛け合いに聞こえるかもしれない

 

 

 

ーーーここまで殺伐とした空気でなければ

 

「私は『龍神』。この世界を統べる者だ」

 

「龍神……」

 

龍神って言えば世界の創造神、創造と破壊を司る神だとか呼ばれてる神だ。

それが何故幻想郷に……

 

「………龍神様よ、俺が聞きたい事は一つだ。何故あんな事をした?」

 

「先程の挨拶の事か?なに、私の世界を奪った者たちがどれ程のものか試してみただけだ」

 

……奪った。

それはつまり元々世界の一部であった幻想郷に結界を張り、隔離した事を言ってるのか……

 

「そうかよ」

 

成る程、相手が龍神なら確かに文句を言われても仕方がないかもしれないな。

昔から言うだろ?勝手に人様の物を取ってはいけませんって

 

「そりゃ悪かったな」

 

 

だがこうも教わらなかっただろうか?

 

 

 

 

ーーー誰かを傷つけてはいけませんって

 

 

 

「……解放」

 

俺の中を今迄に無い怒りが支配していた

 

 





次回は再び力を解放した隼斗vs龍神の戦闘回です

では次の更新日に

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