東方万能録   作:オムライス_

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56話 決着

 

 

謎の精神世界で隼斗の前に現れた龍神

 

 

『お前の仕業か?』

 

『こら、せめて龍神様と呼ばんか』

 

『いやだ!!』

 

『子供か!』

 

 

『西行妖が?』

 

『はぁ……この事を伝えるのにこれ程疲れるとは』

 

龍神の呼び方についてどちらも譲らず早一時間。

結局龍神が根負けして本題に入った

 

『西行妖は危険だ。元が植物なだけに西行寺から離れなければと思っていたが、それが体を手にして歩き出したとなれば話は別。世界中に死をばら撒く事になるからな』

 

『それを止めに来たってか?だったら本体を叩けよ』

 

『私が動くのは飽くまで世界のバランスが崩れる危険がある時のみだ。動かない分には問題無かろう?』

 

『屁理屈じゃねェか』

 

『だが事実だ』

 

『……ッ!』

 

 

ーーー殺すぞ

 

 

そう口にしかけて隼斗は自身を押し殺した。

当然精神世界の為、肉体がこの場に無い隼斗は殴りかかるどころかその場から動くことすら出来ない。

だが隼斗が躊躇したのはそう言う問題では無かった

 

『お前もわかってる筈だ。この世界で起こる事象全てはお前達の問題。本来私は干渉すべき存在ではないのだから』

 

『……だがこうして出てきた以上、俺ごと殺すんだろ?ならさっさと殺れよ』

 

『……何を言っている?もう済ませたぞ』

 

『!?』

 

言っている意味がわからなかった。

ならば何故自分はこうして龍神と話せているのか。これも龍神の能力が関係しているのか。あれから幻想郷はどうなったのか。

紫達は?

 

『……っ!』

 

考えれば考えるほど疑問が生まれる。

隼斗が苦悶の表情を浮かべていると、龍神が思考に割って入ってきた

 

『まあ当然の反応だろうな。何が聞きたい?』

 

『……あれからどうなった?紫達や幻想郷、それに俺の中の西行妖は消えたのか?』

 

『……お前自身がどうなったかは聞かないんだな』

 

『今回の件は少なからず俺にも責任がある。テメェの事なんざ二の次でいい。大体お前の口から殺したって言ったじゃねェか』

 

『えっ?』

 

『あァ?』

 

……

 

『いや、済ませたとは言ったが殺したとは言ってないんだが』

 

『……じゃあ俺生きてんの?』

 

『生きてるぞ』

 

『なんだよ!!』

 

……

 

『はぁ……無駄に覚悟決めちまったじゃねーか』

 

『「テメェの事なんざ二の次でいい」』キリッ

 

『殺すぞ』

 

今度こそ目を血走らせる隼斗

 

『まあそう怒るな。質問には答えてやる』

 

瞳孔ガン開きの隼斗を宥めながら龍神が続ける

 

『まずお前の仲間は無事だ。そもそもお前が守ったんだからわかるだろう?それに幻想郷とやらもな』

 

『そういや「私の世界を」とか言ってたな。それは建前なんだろ?』

 

『無断でってところは気に食わん部分があるが、まあ良いだろう』

 

とりあえず幻想郷の存亡をかけた戦いはしなくて済みそうだ

 

『そしてお前に寄生していた西行妖だが』

 

『!』

 

ある意味一番重要な事だ。

本体じゃないとは言え危険性は変わらないからな

 

『結論から言えば消滅した。かなり梃子摺らせてくれたがな』

 

『消滅………俺の体を乗っ取った状態でどうやって?』

 

『知らないのか?龍の炎には浄化の力があるんだ。それを使ってお前の身体から西行妖を滅したと言うわけだ』

 

何だよ随分あっさりだな……

そう思った隼斗に龍神から衝撃の一言が

 

 

 

『まあ3/4殺しまで追い込んだけどな』

 

『それ殆ど死んでんだろうがァァ!!大丈夫なのか俺の体!?』

 

慌てふためく隼斗を他所に、飽くまでドライな龍神

 

『まあ大丈夫だろ。私が此処に来る前にお前の仲間が近くまで来てたし』

 

紫達か。

アイツら驚くだろうなー、瀕死の俺見たら

 

『なあ、そろそろ戻りてーんだけど』

 

『んー。確かにこれ以上肉体から精神を切り離しておくのはマズいか。外も大分騒がしいしな』

 

『えっ、どんな状況だよ』

 

『聞いてみるか?』

 

龍神は指をパチンと鳴らすと現実世界の音声が耳に入ってきた

 

〜〜〜〜〜

 

「こんなに血が……!?治癒術が間に合わない……!!?隼斗さん!!」

 

「諦めるな!私も手伝う!!…おい隼斗!しっかりしろォ!!」

 

「隼斗様!隼斗様ァァ!!」

 

「お願い……お願いだから目を開けて…!約束したじゃない!貴方は居なくならないって!!隼斗ォ!!!」

 

 

〜〜〜〜〜

 

『……』

 

『ふふっ、随分愛されてるな色男』

 

『龍神、戻してくれ。今すぐだ』

 

『!』

 

紫達の反応を聞いて隼斗を茶化す龍神だが、当人の反応は冷めたものだった

 

『やれやれ。やっと名前を呼んだと思ったら。仕方がない……ほいっと』

 

龍神が隼斗の額に指を当てると真っ暗だった世界が白く染まっていく

 

『恐らくお前とはもう会うことも無いだろう。だが……そうだな。何かの縁があればまた会おう、柊 隼斗』

 

その言葉を最後に目の前が一気に晴れた

 

 

ーーー

 

ザアァァァァ

 

冷たい雨が降り注ぐ中、隼斗は目覚めた

 

「……ぅ…」

 

意識が戻った途端体の異常に気がついた。まず身体が動かせない。

視界も霞んでいる

 

只、身体が冷たかった

 

「隼斗……?」

 

耳に入ってきたのは聞き覚えのある声

 

「……」

 

漸く焦点が定まると、そこには自分を心配そうに見下ろす紫達の姿があった

 

「ああっ…隼斗!良かった……気がついた…!」

 

紫が涙を流しながら手を強く握ってきた

 

「わ、悪ィ………心配…がけだ…な……ゲホッ」

 

肺が損傷しているのか上手く声が出てこない。それでも何とか絞り出す

 

「いいのよ…!貴方が生きててさえくれれば……それで…!」

 

「は、はは……流石に……体は動かねェけどな……」

 

「馬鹿者…!こんなに成るまで無茶をして……!!」

 

よく見ると藍も……いや、この場にいる俺以外の全員が涙を流している

 

「隼斗さん……大丈夫ですよ?すぐに……傷を…塞ぎますから……!」

 

傷口からドクドクと流れ出る血を必死に止めようと治癒術を施す鏡花

 

「心配すんな……鏡花。お前の師匠は…これ位じゃ…くたばらねェって」

 

「隼斗様………傷は、痛みますか?」

 

オズオズと橙が聞いてくる。

だが既に感覚が麻痺してるのか痛みは感じなかった

 

「大丈夫だ……橙」

 

感覚が無いままの腕を何とか上げて、橙の頭をぎこちなく撫でる

 

良かった……紫達も幻想郷も、俺の守りたいものはちゃんと残ってる

 

「良かった……」

 

 

 

ーーーそろそろ本格的に意識が遠のいてきた

 

「「隼斗!?」」

 

「「隼斗さん(様)!?」」

 

 

ゆっくりと俺は瞼を閉じた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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