東方万能録   作:オムライス_

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57話 激闘の末に

 

カコーンッ

 

庭の鹿威しが響き、目を覚ました

 

「……」

 

見慣れない天井。いつもより若干低めの枕。

視線を下げれば体の至る所に管の様なものが付いている

 

「…………生きてたか」

 

再び視線を天井に戻し呟く。

障子からは陽の光が漏れている、外は快晴だ

 

「!」

 

目覚めの余韻に浸っていると、廊下から足音が聞こえ、部屋の襖が開いた

 

「!? 隼斗…!」

 

部屋に入ってきた人物は起きている俺を見て驚いている

 

「永琳?……って事は此処永遠亭か」

 

段々頭がクリアになってきた俺は一人納得した。

まあ冷静に考えりゃあんだけ怪我して自分家で寝てるわけないよな

 

「……良かった。脳への後遺症も無いようね」

 

俺の反応を見て安心したのか、永琳は手に持っていた薬品や書類を一先ず部屋の机に置いて枕元に座った

 

「早速だけど身体に異常はあるかしら?」

 

「…あ〜、動かしにくいって事以外は特に無いな」

 

「多少は仕様がないわ。アレだけの怪我ですもの」

 

「…………因みにどんくらい?」

 

「えーと……はいコレ」

 

そう言って手渡されたのは診断書?カルテ?的な書類

 

「態々書類で見せんでも…………げっ」

 

少し面倒に思いながらもパラパラと流し読みしていくと、何故書類で渡されたかわかった

 

用紙の端からビッシリと診断結果が記述されている

 

「永琳、これ俺にもわかるようにザックリでいいから教えてくんない?」

 

こんな医学的用語やら何やらじゃ、よくわからん

 

「そうねぇ……まず胸部と背中に大きな裂傷・内臓破裂・頭蓋骨にヒビ・身体中、特に左腕全体に重度の火傷、etc……右の肺に至っては一部抉られた様な傷まであったわ。よく生きてたわね」

 

「それを治したお前さんも大概だよ」

 

とても医者と患者の会話とは思えない内容だけど、まあ何にせよ助かったんなら良しとするか

 

「俺はどれ位寝てた?」

 

「半年」

 

「マジ?」

 

精々3日とか一週間とか思ってた

 

「全く、大変だったのよ?あの紫が全身ずぶ濡れになりながら此処に駆け込んで来た時は流石に驚いたわ。貴方は……身体中血だらけで動かないし、貴方が重体だって…知った娘達が一斉に押しかけてくるし。……それに…私、だって……」

 

「…」

 

先程まで呆れながら話していた永琳の表情が変わった。声も段々とくぐもっていく

 

「……馬鹿っ!心配させて…!!」

 

 

 

ーーー永琳は俺の手を握りながら泣いている

 

 

滅多に泣かない彼女の泣き顔を見たのはこれで3度目だった

 

「……ゴメンな」

 

 

それはその場にいる永琳に向けられたものか、はたまた自身を心配して駆けつけてくれた人達に向けられたものなのか

 

それは隼斗本人にしかわからない

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

俺が目を覚ましてから更に3日。

永琳からは暫く安静にする様言われたけど居ても立っても居られず俺は外に出た。

他にも心配を掛けた奴らのトコに報告も兼ねて茶菓子でも持って顔出しに行かなきゃな

 

「えーと…八雲家・鏡花・妹紅・慧音・幽香・彩芽……あと永琳達もか。……こりゃ高くつきそうだ」

 

 

鏡花side

 

「申し訳ありませんでした!!」

 

「うわっ、吃驚した。どうしたんだよ急に」

 

「博麗の巫女でありながら、共に戦う事も出来ずに隼斗さんに怪我を…!」

 

「なんだそんな事か。仕方ねーだろ、相手は龍神だったんだ。それに鏡花だって結界張ったばっかで消耗してたんだからさ」

 

「で、でも…!」

 

「ああ、わかったわかった。とりあえず中で菓子でも食べよう。お前の好きな御萩もあるぞ」

 

「御萩…!!……あっ、いやその///」

 

「ほれ行くぞ」

 

 

妹紅side

 

「師匠!一体誰にやられたんだ!?ソイツの特徴さえ教えてくれればすぐに私が…!!」

 

「待てい」

 

ビシッ

 

「ふぎゃっ!?な、何するんだよ!?」

 

「アホちん!お前こそ何する気だ。仇討ちなんて馬鹿な真似やめろ」

 

「だ、だって師匠がこんな目に遭わされて私、黙ってられないよ!」

 

「そう思ってくれるのは嬉しいけどな、もう済んだ事だ。ヘタに首突っ込んでお前に怪我して欲しくねーんだよ。わかってくれ」

 

「……っ!」

 

「ありがとな。妹紅」

 

「……うん」

 

 

慧音side

 

「隼斗さん…!」

 

「よっ、久しぶり」

 

「怪我の方は大丈夫なんですか?」

 

「ああ。心配かけて悪かったな」

 

「とんでもない!御無事で本当に良かった」

 

「うーむ。最初に慧音のトコ来ればよかったか…?」

 

「はい?」

 

「ああ、いやホラ。反応がね?」

 

「?」

 

 

幽香side

 

「貴方もう出歩いて大丈夫なの?」

 

「ああ。流石に戦闘は厳しいけど」

 

「馬鹿ね、幾ら何でもそんな状態の人に勝負なんか挑まないわよ」

 

「まあ暫くは大人しくしてるさ」

 

「だったら治癒力を高める薬草を分けてあげるわ」

 

「いいのか?偉く優しいじゃん」

 

「……それは私が普段優しくないって事かしら?」

 

「んな事思ってねーって。昔からの付き合いだ。お前が本当は優しいヤツだって事くらい知ってるよ」

 

「な、何よ急に……」

 

「見舞いにも来てくれたんだろ?ありがとな幽香」

 

「……どういたしまして」

 

 

彩芽side

 

「隼斗ではないか…!一体どうした?」

 

「先日意識が戻ってさ、その報告も兼ねてこうして足を運んで来たわけだ」

 

「と言うことはその身体で山を登ってきたのか?そんな無茶をせずとも便りさえ寄越せば迎えくらい出したというのに」

 

「いいよコレぐらい。ここ最近まで寝たきりだったから身体が鈍ってんだ」

 

「……お主いつか死ぬぞ?」

 

「そりゃそうさ。俺は不死じゃねーからな」

 

「隼斗……真面目な話じゃ」

 

「……」

 

「お主は私の大事な友人じゃ。前にも言ったがお主が死んでしまったらとても悲しい。その事を忘れないでくれ」

 

「……わかってる」

 

 

 

「で、ここが最後っと」

 

今日一日幻想郷を歩き回り、今俺は紫の屋敷の前まで来ている。

屋敷内の気配を探ると、紫や藍の他に普段は妖怪の山で暮らしてる橙も一緒にいることがわかった

 

玄関前に付いているノッカーを叩く。

考えてみると紫の家に丁寧に入るのは初めてかもしれない

 

「隼斗!?」

 

「おおっ!?」

 

それから5秒と経たず背後から紫がスキマを開いて出てきた。

油断してただけに思わず声が出た

 

「脅かすなよ。ってかよく俺だってわかったな」

 

「それはスキマで確認したから……って違う!貴方身体は大丈夫なの!?」

 

「おう、こうして出歩けるくらいには回復したぜ」

 

ホント言うと完全に回復したわけじゃない。

能力のお陰で多少は治癒力も高まってるが、ベースが人間なだけにそれもたかが知れてる

 

「そう…良かった……!とにかく中に藍も橙も居るから入りなさいな」

 

「じゃあお言葉に甘えて」

 

紫と共に中に入る

 

「紫様!急に出て行かれて一体どうし……隼斗!?」

 

「はははっ、なんか皆同じ反応するなぁ。狙ってんのか?」

 

「そ、そんなわけあるか!それよりも……!」

 

「怪我ならもう大丈夫だ。だからこうして会いに来たんだからな」

 

「そうか……無事でなによりだ。居間で寛いでいてくれ。すぐに茶を煎れる」

 

「ああ、悪いな」

 

襖を開け、居間に入ると座布団の上で橙がちょこんと座っていた

 

「!……あっ」

 

「よっ!元気だったか橙」

 

「うぅ……隼斗様ぁ!」

 

橙は俺の顔を見た瞬間目に涙を溜めて飛びついてきた。それに応えて俺も抱き寄せる

 

「よーしよし、どうした?」

 

「怖かったです……あのまま隼斗様が目を覚まさなかったらどうしようって……私…!」

 

「馬鹿だな、大丈夫って言ったろ?」

 

俺は泣きじゃくる橙の頭を撫でながら笑い飛ばした

 

「よっしゃ!橙、土産で買ってきた菓子があるぞ。食うか?」

 

すると橙はガバッと顔を上げ、涙ぐみながらも笑顔になって食いついた

 

「お菓子!?食べたいです!」

 

「貴方いつも訪ねてくる時はお菓子を持ってくるわね」

 

「ん?なんか変か?」

 

「ふふっ、良いんじゃないかしら?そういう律儀なところも貴方の魅力の一つなんだから」

 

「な、なんだよ突然」

 

「……好きよ、隼斗」

 

「…へっ?」

 

普段は聴覚のいい俺も流石に聞き返してしまった。

これってそゆこと?いや別に初めてじゃないけど…………マジっすか?

 

っと此処で襖が勢いよく開け放たれ、藍が血相を変えて飛び込んできた

 

「ゆ、紫様!抜け駆けはズルいです!!」

 

「あら藍。恋愛は早い者勝ちなのよ?襖の向こうで覗き見している暇があったら貴女も頑張らないと」

 

「くぅ…!負けませんよ!!」

 

……なんか彼方のお二方は勝手に熱くなってるし

 

「…隼斗様」

 

「ん?」

 

クイクイっと橙に袖を引っ張られ、目線を合わせる為しゃがみ込むと、橙が耳打ちで

 

「私も隼斗様が大好きです!」

 

と言って駆けて行った

 

「………家族的な意味で………だよな?」

 

 

 

今日も幻想郷は平和です

 

 

 





……久々に3000文字超えたかも

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