東方万能録   作:オムライス_

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58話 小さな魔法使い

 

幻想郷に博麗大結界が張られて凡そ100年。

外の世界では平成に入っているだろうから、やっと転生前の俺が生まれた時代になった訳だ

 

 

そんなある日のこと

 

「うしっ、こんなもんでいいだろ」

 

薪に使う為に回収した丸太を肩に担ぎ帰路に着こうとした瞬間だった

 

ガサガサッ バッ

 

突然背後の茂みから何かが飛び出してきて隼斗にぶつかった

 

「わぶっ!?」

 

「…あん?」

 

尤も其れは質量的に隼斗より小さく、不動だった隼斗に対して、ぶつかった衝撃で後方に倒れ込んだ

 

「痛てて……」

 

「おい、大丈夫か?」

 

ぶつかったのはまだ見た目幼い少女だった。

尻餅をついたままの少女に手を差し出しながら安否を確認する隼斗

 

「ご、ごめん。急いでたから」

 

少女は謝りながらそう言ったが、こんな年端もいかない女の子が森の中に一人でいる事自体不自然だった

 

「なんかあったのか?」

 

気になった隼斗が事情を聞こうとした時、背後の茂みから気配が複数現れる

 

「……そゆことね」

 

その正体を見た隼斗は一人納得する。

茂みから出て来たのは、如何にもガラの悪そうな二匹の野良妖怪だ

 

「ひひっ、見ーっけ!」

 

「もう逃がさねーぞガキンチョ」

 

「ひっ…!」

 

少女は怯えながら隼斗の後ろに隠れた。

裾を握る手は震えている

 

「はぁ……またこのパターンか」

 

溜息を吐きながら少女に下がるよう促すと、担いでいた丸太を片手に持ち替えた

 

「どんな経緯でこの娘を狙ってんのか知らんけど、まだ子供なんだ。勘弁してやってくれ」

 

「ひひっ、勘弁してくれってさ」

 

「馬鹿言っちゃいけねーぜ人間。そのガキは俺たちの縄張りを荒らした上に盗みを働いたんだからよ」

 

「盗み?」

 

改めて少女を見ると果物だろうか、両手で木の実らしき物を抱えていた

 

「違う!これは木に生ってたのをとっただけで……」

 

怯えつつもそう訴える少女を見て大体察しがついた。

縄張りに入ったってのも、盗みを働いたってのも唯の言い掛かりだ。この娘を襲うためのな

 

「うるせぇ!!兎に角お前は俺らの晩飯になる運命なんだよ!」

 

「ついでにその男も食い出がありそうだぜ!」

 

勢い付いた妖怪二匹が牙を剥き出しに突っ込んでくる。

少女は恐怖から動けずその場で蹲った

 

 

 

ーーーみんな丸太は持ったな!!

 

 

「はい、ドーーン!」

 

「ぶへっ!?」

 

俺は向かってくる一匹の顔面を丸太の先端で突き飛ばした

 

「なっ!?テメェ……!」

 

「はい、こっちもドーーン!」

 

「だっぱんぷゥゥ!?」

 

続いてもう一匹もそのままスイングして殴り飛ばす

 

「ったく、相手の力量みてから来いバカタレ」

 

丸太を担ぎ直して未だ蹲っている少女に歩み寄り声をかける

 

「おい、もう大丈夫だぞ」

 

「へっ……?」

 

隼斗の言葉にゆっくりと顔を上げ辺りを見渡す少女

 

「やっつけたの…?」

 

「ああ。だからお前も早いとこウチに帰れ。この森も身体に良くないしな」

 

「……」

 

しかし少女は首を縦に振らなかった

 

「…どうした?」

 

「私は……家を出たんだ!魔法使いになる為に!!」

 

魔法……使い……?

 

「ナニ?お前名前を呼んではいけないあの人と戦うつもりなの?」

 

「?……誰それ」

 

なんだ違うのか。丁度癖のある髪してるからハー○イオニー的な奴かと思ったのに

 

「お前名前は?」

 

「……魔理沙。霧雨 魔理沙」

 

 

ーーー

 

「ほれお茶」

 

「……あ、ありがと」

 

取り敢えず家に連れて来た。

他人の家で緊張しているのかさっきから魔理沙はソワソワと落ち着かない

 

「で?お前これからどうすんの?」

 

「……この森で暮らして魔法の練習する」

 

暮らすったって……あんな雑魚二匹も追い払えない様なガキが?

いくら何でも無理だろ

 

「家どうすんだ?」

 

「が、頑張って建てるよ…!」

 

「飯は?」

 

「き、茸とか?」

 

「妖怪に襲われたら?」

 

「そ、それは……うぅ…」

 

はぁ……課題が山積みじゃねーか

 

「悪い事は言わねーから素直に家帰れ。そうじゃなくたってこの森は瘴気やら胞子で身体に毒なんだからな」

 

「……本で見たんだ。この森の茸や瘴気には魔法を扱うための力が秘められてるって」

 

「……それだけで魔法使いになれるとは思えないけどな」

 

此処の瘴気にそんな作用があったら100年以上暮らしてる俺がとっくになってる筈だ

 

「それでも諦めきれないよ。私は魔法使いになりたい…!」

 

「………その理由だとか想いなんてモンには毛ほども興味ねーけどよ、お前自分がどれだけ過酷な選択をしようとしてるかわかってンのか?」

 

十分に自衛するだけの力を持たない未熟なガキが、親元離れて危険の多い里の外で暮らすどころか、誰に学ぶ訳でもなく魔法使いになりたいと言う。

最早無謀としか言いようがない

 

 

「大変なのはわかるよ……もう何度も死にかけてるし」

 

「……」

 

「実際は自分で勝手にわかってるだけで本当は全然わかってないのかもしれない。…でも!」

 

魔理沙は思わず立ち上がり隼斗に向け叫んだ

 

「それでも諦めないのは私がガキだから…!ガキならガキらしく夢見たっていいじゃないか!!」

 

 

 

ーーー言ってる事は無茶苦茶。

自身でも言ったように具体的な逆境なんてモノは半分も理解してないはずだ

 

「お前周りからよく馬鹿って言われるだろ」

 

 

 

でも長年生きてきた俺は経験上知っていた

 

 

 

「な、何でそれを……」

 

 

「見りゃわかる」

 

 

 

ーーー馬鹿は馬鹿でもコイツみたいに真っ直ぐな馬鹿は、努力次第でいくらでも成長する事を……

 

「いいぜ、そういう事なら少しくらい手を貸してやる」

 

「えっ……?」

 

 

 

このガキが何処まで出来るか興味が出てきた

 

 

 

「行くぞ」

 

俺は魔理沙の手を引いて家を出た

 

「ちょっ…ちょっと!行くってどこに!?」

 

「香霖堂だ」

 

 

 

 






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