東方万能録   作:オムライス_

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65話 数奇な運命

 

『この家の当主であり実の姉でもある、私を閉じ込めている張本人。レミリア・スカーレット』

 

 

 

「……って事は空を覆ってる紅い霧を発生させてるのもフランの姉ちゃんって事か?」

 

「私は外に出られないから知らないけど、多分そうなんじゃない?」

 

「他人事かよ」

 

一応身内の起こした異変なんだから少しくらい気にかけてもいいと思うけどな。

姉妹仲は良くないのかね

 

「薄情だって思う?仕方ないのよ。例え私が止めたところで聞き入れてもらえないのは明白なんだし」

 

どこか諦めているかの様な表情のフランに対して、俺はふと感じた事を聞いてみた

 

「それはお前が長年外に出られない事に関係してんのか?」

 

「……」

 

フランは一度俯き、部屋に置いてあるテーブルへと歩き出した

 

「まあ座ってよ。今紅茶淹れるから」

 

特に此方の返事は聞かず卓上にあるティーカップへと紅茶を注ぎ始めた。

俺としてはさっさとお姉様とやらに文句言いに行きたいとこなんだけど……

何となく流れで席に着いてしまった

 

「はいどうぞ」

 

「態々ありがとよ」

 

「意外……お礼言うんだ」

 

「……」

 

前にも幽香に言われた事あったけど俺ってそんなずぼらに見えるか?

 

「冗談だから。そんな真顔で考え込まないでよ」

 

「………それで?こうしてお茶に誘うくらいだ。それなりに複雑な事情でもあんだろ?」

 

茶も出してもらってるわけだし、こうなりゃ最後まで話聞いてやるか

 

「……隼斗はさ、もしも家族や知人に強大な力を持った人が居たとして、もしその人が自身を制御出来なかった場合どうする?」

 

「?」

 

俺は唐突な質問に首を傾げた

 

「私ね、生まれつき精神が不安定らしいの。自分だと全く自覚が無いんだけどね」

 

……情緒不安定って事か?今の所そんな感じはしねーけど

 

「知ってる?全ての物には最も緊張してる部分があるの。それを『目』って呼んでるんだけど、私はその目を手元に引き寄せて握りつぶす事で、対象を破壊する事が出来る。これだけでも十分危険でしょ?それでお姉様のとった行動は、私を此処に閉じ込める事だった」

 

「……成る程な」

 

詰まる所、フランの力は『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』。

更には精神が不安定でその力を制御しきれないともなれば迂闊に出歩かせる事は出来ない…って事か

 

「それで500年近くも家の中か。俺だったら暇過ぎて廃人になりそうだ」

 

「まあ確かに退屈だったけど、でもそんな時はお姉様のくれたオモチャで遊んだりしてたわ。それももう飽きちゃったけどね」

 

「オモチャ?」

 

何だ、見た目相応の遊びもしてんだな。

そう思った俺は次のフランの言葉を聞いて、その思考を撤回する事になる

 

「そっ。魔法で召喚した魔物なんだけど、それを能力で壊して遊ぶの」

 

「……ッ」

 

ーーー魔物を遊びで壊す。

一般的な思想で考えるなら誰もが口を揃えて異常だと言うであろう行為を、フランは当たり前のように言い放った。

よく見ると部屋中の壁には抉ったような跡が幾つもあり、ベッド上に置かれている人形は所々もげている。どれも偶然出来た傷ではなく、明らかに故意である事がわかった

 

「……フラン、その何かを壊す・傷付ける行為についてお前はどう思ってる?例えば罪悪感とか、そういった感情は感じるか?」

 

「罪悪感?どうして?別に構わないでしょ、『物』なんだし」

 

「……物」

 

根本的な価値観の相違。

それがフランの抱える精神異常の正体なのかも知れない。だったらまだコイツを救える可能性はある。俺は確信をついてみることにした

 

「じゃあフランの姉ちゃんの場合ならどうだ?もし遊んでた魔物や人形みたいに壊しちまっても何とも思わないか?例えお前が手を出さなくても他の誰かが手を出したとしたら?」

 

これで肯定するならコイツは危険因子。能力と相俟って今後の幻想郷に悪影響を及ぼす可能性のある者として、ブラックリスト入りだ………気は進まないがな

 

 

 

 

「そんなの駄目に決まってるじゃない…!私のたった一人の家族なのよ!!」

 

「!」

 

これでハッキリした。

フランは生まれた時から閉じ込められていた為にそれが当たり前になり、精神的に成長した今でも自身の異常性に気付いていないだけなんだ。

多分フランの姉ちゃんもそれに気付いてねェな

 

「ハッ……そういえばさっき隼斗はクレームがどうとか言ってたけど、そういう事なの…!?」

 

後は互いの誤解を解くだけ。

要はフランに危険がない事を証明出来ればいい。

丁度いい感じに誤解が生まれてる事だし、利用しない手は無いな

 

「フラン……お前の姉ちゃんはやっちゃならねェ事をしたんだ。理由は知らんが幻想郷に悪影響を及ぼす異変を起こしちまった。悪い事をしたら仕置きが必要だろ?」

 

「…それは……」

 

「弾幕ごっこは飽くまでお遊びだ。だが『運悪く』、場合によっては『死ぬ』可能性だってある。でも仕方ねェよな?俺だって加減し損ねる事はある」

 

「っ!!」

 

俺の手元にあったティーカップが粉々に割れる。部屋の壁に亀裂が入り、同時にフランを覆っている空気が変わった

 

「…お姉様に手を出したら、殺すよ?」

 

明らかに目付きの変わったフランは本物の殺気を放ちながら隼斗を睨み付けている

 

「やってみろチビ」

 

対して隼斗は全く動じずそれを嘲笑った

 

 

 

「禁忌『レーヴァテイン』」

 

部屋は爆炎に包まれた

 

 

 

 

 

〜少し前

 

「アンタが此処のお嬢様?想像してたのと随分違うわね」

 

「……開口一番失礼な奴だ。おい人間、此処に来る前に私の従者に会った筈だ。どうした?」

 

「さっきのメイドの事?なら早々にご退場して頂いたわ」

 

「……あらそう。で?貴様は此処へ何をしに来たのかしら?」

 

「理由なんて一つしか無いでしょうが。外の霧を止めなさい。邪魔だから」

 

「そういう訳にはいかないわ。吸血鬼にとって日光は天敵なの。これじゃあ満足に外も歩けないのよ」

 

「知らないわよ、日傘でもさせば?」

 

「うるさい人間ね。圧倒的な実力差を見せつければ黙ってくれるかしら?」

 

「私を黙らせたければマネーを出しなさい」

 

「ふふっ…こんなに月も紅いから、本気で殺すわよ」

 

「こんなに月も紅いのに」

 

「楽しい夜になりそうね」

「永い夜になりそうね」

 

 

 

ーーー

 

 

「禁忌『クランベリートラップ』!!」

 

フランの周りに複数の魔法陣が浮かび上がり、二色の弾幕が隼斗に集まるように放たれた

 

「よっと」

 

弾速自体は然程速くない。

これなら余裕で躱せる

 

「どうした!そんな鈍弾幕じゃ掠りもしねェぞ!!」

 

「舐めるな…!」

 

弾幕の間を縫って接近してくる隼斗にフランが飛び掛かる。

幼い見た目に反して彼女も吸血鬼である為、ほぼ一瞬で隼斗の前に躍り出ると、拳を握りしめ一気に振り抜いた

 

「!?」

 

隼斗は受け止めようと手を出したが、予想以上のパワーに空中で踏ん張ることが出来ず吹き飛ばされた

 

「……ったく、忘れてた。吸血鬼も一応『鬼』だったな」

 

激突した衝撃で穴の空いた壁からムクリと起き上がりボヤく隼斗の掌は僅かに痺れていた

 

「禁忌『フォーオブアカインド』」

 

宣言と同時にフランから新たに三人の分身が生まれ、弾幕や接近戦を挑んできた

 

「げっ、そんなのありかよ…!」

 

うんざりしながらも弾幕を避け、向かってきた1人を迎え撃つ。

だが分身と言っても本体同様の怪力を誇るようで、そう簡単に振り払うことが出来ない

 

「うおらぁあ!!」

 

しかし動きは素人、直ぐに見切った隼斗が捌きからの胴突きを入れてカチ上げた。

攻撃を受けた分身は残像の様に消失する

 

「はぁ…厄介だな、吸血鬼ってのは」

 

「なら諦めて負けを認めたら?」

 

「そう言うセリフは負かしてから言えクソガキ」

 

隼斗は跳躍し、自身初めてのスペルカード宣言を行う

 

 

 

「破道『三ノ火』」

 

隼斗から放たれた赤・黄・蒼の3種類の弾幕。

それぞれ『赤火砲』『黄火閃』『蒼火墜』の特性を持った弾幕は、一斉にフランに襲いかかった

 

「こんなもの……っ!?」

 

フランは飛んでくる弾幕を弾幕で応戦しながら回避し、すぐに隼斗へと視線を移すが肝心の姿を見失ってしまった

 

「こっちだ」

 

「えっ…」

 

声は背後から掛かり、振り向いたフランが目にした物は、二体の分身を片付け此方に手刀を振おうとしている隼斗の姿だった

 

「くっ……!」

 

フランは手刀が首に入るギリギリのところで自身の身体を蝙蝠に変化させ分散、回避が間に合った

 

「……分身と言い形状変化と言い、便利なモンだな吸血鬼ってのは」

 

「その分弱点も多いけどね」

 

対峙する両者だが、その場に留まったのは一瞬だけ。次の瞬間には互いの拳をぶつけ合っていた

 

「禁忌『フォーオブアカインド』!!」

 

再び現れた分身。本来一度の戦闘において同じスペルカードの使用は禁止であるが、それは飽くまで勝敗に妥協が許されるスペルカードルールでの話。つまりこの行為はフランにとってそれだけ譲れない戦いである事の証明だった

 

「「「「はあァァァ!!」」」」

 

四対一による接近戦。技術を補う為のがむしゃらな手数勝負だが、吸血鬼の力を持ってすれば十分脅威になる

 

「チッ…!」

 

このままでは部が悪いと判断し、止むを得ず後方に跳ぶ隼斗。しかしこれはフランの目論見通りであった

 

「禁忌『クランベリートラップ』!!」

「禁忌『レーヴァテイン』!!」

「禁忌『カゴメカゴメ』!!」

「禁弾『スターボウブレイク』!!」

 

「!?」

 

四人同時による一斉攻撃。

地下室は凄まじい衝撃と共に爆炎に包まれた

 

 

 




なんだかんだ協力的な隼斗くん
そして初スペカ

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