東方万能録   作:オムライス_

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今更ながら作中での通貨単位はわかりやすく(主の頭でも)する為に現代通貨(円)で統一したいと思います



66話 孤独の月

〜〜

 

そこは日の光が入らない地下室。

地下室と言っても埃や蜘蛛の巣に塗れた汚らしい場所ではない。しっかり手入れがされていた

 

『お姉様?此処はどこ?』

 

『……今日から此処が貴女のお部屋よ』

 

『えっ…?』

 

ギィィィと鈍い音が響き扉は閉ざされた。

少女を部屋に残したまま

 

『お姉様っ!?開けて!開けてよ!!』

 

小さな手で必死に戸を叩くが、不思議なことに木製の扉はビクともしない

 

『……フラン、今はこうするしかないの。わかって頂戴』

 

『どうして!?私何か悪い事した?だったら謝るから…!だからお願い!』

 

『……明日また会いに来るわ。お休みなさい、フラン』

 

やがて扉の向こう側の足音は遠ざかっていった

 

『お姉様……!!』

 

〜〜

 

 

「……」

 

 

半壊した地下室の一角でフランは昔の出来事を思い返していた

 

「……少し本気を出せば物なんて簡単に壊れるのに……こうやって破壊しちゃえば幾らでも外に出られるのに……」

 

未だ砂塵の立ち込める視線の先を見つめる。

先程まで自分と『遊んでいた物』は壊れてしまったのか……

フランは途端に込み上げてくる感情に表情を曇らせる

 

「……馬鹿みたい」

 

自然とそう呟いていた

 

 

 

 

 

「そりゃ自分に対して言ってんのか?」

 

「!?」

 

声のした方を見据える。

煙の向こう側に人影が一つ、ゆっくりと此方に近づいて来るのがわかった

 

「……アレだけ攻撃したのに……何で…」

 

「アレだけ?あの程度の間違いじゃねーの?」

 

ようやく姿の見えた柊 隼斗に致命的な傷は見られない。それが単なる強がりでない事は戦闘経験の少ないフランでも理解できた

 

「っ!!」

 

フランはすぐに身構え、首を掻っ切る為爪を振るった

 

「碌に隙も作らず当たる訳ねェだろ」

 

「なっ…!?」

 

隼斗はいとも容易く受け止め、掌をフランに向ける

 

「縛道『嘴突三閃』」

 

敢えてスペルカード仕様による縛道を放つ。

フランは縛道を受け後方の壁に磔となった

 

「くっ…!う、動けない……!?」

 

両腕と腰を嘴型の霊術に固定され、地に足を付いていない為か上手く力を入れられずジタバタともがいている

 

「そこで大人しくしてな。俺は本来の目的を果たしに行くからよ」

 

「ま、待って!!」

 

フランの制止も虚しく隼斗は踵を返し地下室を後にした

 

 

ーーー

 

紅魔館上空にて、異変解決に来た博麗霊夢と今回の異変を起こしたレミリア・スカーレットは睨み合っていた。

当初は館内で行われていた弾幕戦も、その戦況の激しさから屋外戦へと移行していた

 

「チッ…!まさか人間がここまで戦えるとはな」

 

「見た目がお子様でも吸血鬼なのね。逃げ足だけなら相当なものだわ」

 

「ほざけ!!」

 

霊夢の挑発にレミリアが動いた。

障害物の無くなった上空を高速で縦横無尽に飛び回り撹乱しつつ弾幕をばら撒く

 

「鬱陶しーわね!!」

 

霊夢も弾幕で応戦、更には両者カード宣言を行う

 

「夢符『封魔陣』」

 

「神罰『幼きデーモンロード』」

 

霧の所為で薄暗い紅魔館の上空を幾つもの光弾が飛び交い、辺りを明るく照らす様はまるで打ち上げ花火の様だった

 

弾幕戦は更に激しさを増していき、お互い次々と大技を繰り出していく

 

「霊符『夢想封印』!!」

 

「紅符『スカーレットマイスタ』!!」

 

そしてここぞとばかりに強力な弾幕を放とうとした瞬間だった

 

「縛道の二十一『赤煙遁』」

 

目の前に突然煙幕が発生し、霊夢とレミリアは同時に動きを止めた。

霊夢は不機嫌そうに呟く

 

「今度は何?」

 

「……すまん霊夢。ちっと俺と変わってくれ」

 

「!」

 

背後から声が掛かり霊夢の肩を誰かが軽く叩いた

 

「!?……身体が……!」

 

「縛道の三十七『吊星』」

 

途端に身体の自由が利かなくなり落下する霊夢を、衝撃緩和の床が受け止めた。

床の上で仰向けのまま空を見上げた霊夢は、そこにいた人物に声を荒げた

 

「な、何のつもりよ!隼斗……!!」

 

「選手交代だ。ちょいとやる事が出来たんでな」

 

「…はぁ?」

 

何訳わからん事言ってんだ!っと怒鳴り散らしたい霊夢だったが、隼斗の掛けた縛道により身体を動かす事が出来ない

 

「そんなおっかない顔すんなよ。後でちゃんと埋め合わせはするから」

 

すると霊夢の眉がピクッと動いた

 

「ウチの御賽銭に100万は入れときなさい。明日までよ」

 

「高っ!?ケタ2つくらい可笑しいだろ!」

 

「奪るか奪られるかなら、私は奪る方を選ぶ!」

 

何処ぞの闇金融の社長みたいな事言いだした霊夢は置いといて、あちらさんも痺れを切らしてる様だ

 

「茶番は終わったかしら?」

 

「……馬鹿言え、寧ろこっから始まるんだ。N議員も吃驚な大茶番劇がな」

 

互いの間合いは10メートルにも満たない僅かな距離。飛ぶことが出来ない俺としては地上で戦う方がいいんだけどな。霊力で足場作るのも面倒だし

 

「よォ、この霧止めろや」

 

「断る……っと言ったら?」

 

「あァ?悪ガキにする仕置きなんて昔から決まってんだろ」

 

相手の出方を見る必要はない。直前だろうが何だろうが反応して避ければいいだけだからな。俺は空中を蹴り付けて前に出た

 

「問答無用で拳骨じゃボケぇぇぇ!!」

 

「野蛮ね……!」

 

俺の接近に合わせてレミリアは距離を開け、飽くまで間合いを保ちつつ弾幕を打ち出してきた

 

直感で接近戦は分が悪いと判断したか?

 

足場を作りながら回避していく俺をレミリアは嘲笑った

 

「あらあら、貴方空も飛べないの?」

 

「誰でも得意不得意はあるもんだろ」

 

とは言うが流石は吸血鬼だけあって速い。地上なら兎も角、空中じゃ足場を作らなきゃならねェ分どうしてもラグが発生してあと一歩追いつけない

 

「罠符『炸裂ネット』」

 

蜘蛛の巣型の霊力打ち出す破道『伏火』を使い、ネット状にして打ち出した

 

「くだらないわね!」

 

レミリアは爪を構え飛んでくる伏火を斬り裂いた

 

「はいドカンッ」

 

「!?」

 

その瞬間バラバラになったネットが赤く点滅し、一気に炸裂した。

伏火に赤火砲を練り合わせた起爆網だ

 

「…ッ!」

 

そして爆炎の煙から勢いよく飛び出したレミリアの頭上では既に隼斗が掌を翳していた

 

「縛道『嘴突三閃』」

 

「チッ、こんなもの……っ!?」

 

レミリアは射出された三つの嘴の内、二つを何とか躱すが一発が左腕を捕らえ地上に打ち付けられてしまった

 

「くっ……しまった、油断を……!」

 

「これで戦いやすくなった」

 

左腕と地面を固定している嘴を何とか引き抜こうと力を込めるレミリアの目の前に隼斗が降り立った

 

「ちょっと…!視界の外に消えるならせめて動ける様にしなさいよ!」

 

霊夢は仰向けの姿勢のまま上空で身動きが取れない為、地上に降りた隼斗達の様子を見る事が出来ない。

そんな霊夢の怒声も虚しく隼斗はスルーした

 

「縛道『塞』」

 

俺は未だ地面に縫い付けられたレミリアに近づき、その翼に縛道を掛けて動きを封じた

 

「このっ…!!」

 

それと同時に嘴を引き抜いたレミリアが拳を固めて殴り掛かってきた

 

「モーションがデカすぎ。此処の門番に武道でも習ったらどうだ?」

 

「ぐっ…!?」

 

突き出された拳を最小限で躱し、レミリアの額に小さな衝撃波(破道の一『衝』 ※弾幕としては余りにも弱いため、通常攻撃として使用)を当て軽く吹き飛ばした

 

「!?翼が……貴様何をした……!!」

 

体勢を立て直そうと飛翔の姿勢に移ったレミリアは、自身の翼の異常に漸く気がついたらしい

 

「一々飛ばれちゃ面倒だからな。動きを封じさせて貰った」

 

「人間風情が……!すぐに戻s…」

 

バシュゥゥゥッ!!

 

激昂したレミリアの顔のすぐ横を高威力の弾幕が通過した。

弾幕ごっこ用ではない莫大な霊力が込められた光弾は、後方の壁を消し炭に変える

 

「よそ見してていいのか?後ろ取ってるぞ」

 

「!?」

 

弾幕により倒壊していく館の壁に思わず視線を移した一瞬の隙に背後を取られ、驚愕の表情を浮かべるレミリア。

眼前には既に彼女の頭部を吹き飛ばすだけの霊力を込められた指先が向けられている

 

 

「……叫ぶ暇があるならもう少し集中しろ。今の、死んでたぞ」

 

「…ッ!」

 

レミリアは初めて感じる強者の圧力に身を強張らせていた。

彼女とて吸血鬼の末裔、実戦による戦闘経験が無いわけではない。だが此処まで圧倒された事は今までなかった

 

だからこそ慢心していた。所詮人間程度、自分の足元にも及ばない存在だと思っていた

 

先程戦った巫女も予想以上に強かったが、勝てない相手だとは思わなかった

 

「どうした、このまま動かずに死ぬ気か?」

 

「あっ……ああ…」

 

声を出そうにも言葉が上手く出てこない。

動こうにも殺気に当てられ身体は思うように動いてくれない。

レミリアは戦意を喪失していた

 

「……消えろ」

 

「うっ…!!」

 

レミリアは思わず目を瞑った

 

 

 

 

 

 

 

 

「禁忌『レーヴァテイン』!!」

 

 

 

 

レミリアに矛先を向けていた隼斗目掛けて、真紅の剣が突き立てられた。

直前に反応して後方に跳んだ隼斗は突然の乱入者をみて笑う

 

「ふっ……やっとお出ましか」

 

「えっ……?」

 

金髪のサイドテールに特徴的な翼。

そして彼女の代名詞とも言える真紅に燃え盛る大剣

 

「お姉様、大丈夫…?」

 

「フランっ……!?」

 

495年の時を経て、フランドール・スカーレットは外の世界に降り立った

 

 

 





次回は5月1日までに投稿いたします

それではまた次の投稿日に!

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