東方万能録   作:オムライス_

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68話 紅い月の終わりに

「はあァァァ!!」

 

レミリアを中心に魔法陣が浮かび上がり、地上にいる隼斗に向け弾幕が射出されていく

 

「闇雲に打ったって当たんねェよ!」

 

隼斗は前後左右に駆け回り、その一瞬後に弾幕が地面に着弾していく

 

「じゃあコレは!」

 

迫り来る弾幕を躱しながら徐々に距離を詰める隼斗の頭上にフランが現れ幾つもの魔法陣を形成し、レミリア同様に弾幕を文字通り雨の様に降らせた

 

「残念、Speed up!」

 

しかし隼斗は此処で足裏に力を込めて地面が抉れ飛ぶほどの脚力で一直線に駆け抜けた。

当然弾幕は既に誰もいない地面に落ちていく

 

「速っ!?」

 

「吸血鬼を振り切るなんて……どんな生き物よ……!!」

 

フランが驚きレミリアが呆れ気味にツッコミを入れる。それと同時に振り向き背後に魔法陣から形成した盾を展開する

 

「いい反応だ!」

 

直後に後方から隼斗の放った弾幕が盾に着弾した。いつの間にかレミリア達と同じ高さまで跳躍して次の攻撃に移ろうとしている

 

「予報『嵐 時々 雷』」

 

隼斗の翳した掌から竜巻状に広がる広範囲弾幕。更にはその台風の目とも言うべき中止からは雷撃が大量に飛んでくる。

大きく動けば竜巻が、かと言って中心に逃れれば雷撃が襲う鬼畜弾幕だ※

 

※破道の五十八『闐嵐』+ 六十三『雷吼炮』

 

 

「迷惑な天気ね、……フラン!」

 

レミリアがフランに指示を出すと、フランは急いで後方に下がった

 

「神術『吸血鬼幻想』!!」

 

そしてレミリアもスペル宣言。

大玉弾幕から徐々に拡散していく弾幕で、隼斗の攻撃を相殺していく。

しかも相殺するのは自身に向かってくる弾幕だけに絞り、同じ直線上に移動したフランにも弾幕は当たらない

 

「フラン今よ!」

 

「禁弾『カタディオプトリック』!!」

隼斗の弾幕終了と同時にフランが飛び出し、辺りに小弾幕を撒き散らす大玉を連射する

 

「チッ…!」

 

攻撃直後のインターバルの隙を突いて打ち込まれた弾幕に、止むを得ず地上に避難する隼斗だが、着地地点にレミリアが既に待ち構えていた

 

「必殺『ハートブレイク』」

 

「破道『廃炎』」

 

レミリアは魔力を帯びた光の槍を隼斗の心臓目掛けて投擲、隼斗は円盤状の炎を打ち出し両者の攻撃は相殺……

 

「なっ…!?」

 

だが相殺した筈の槍の影から全く同じ軌道のもう一本が飛び出し隼斗を捉えた

 

「あっっぶねッ……!」

 

ギリギリ反射が間に合い胸の数センチ手前で槍を掴み取ることに成功した隼斗は、直ぐさま着地し、後方から迫って来ていたフランの弾幕から逃れた

 

「ふぅ……今のは割とヤバかったな」

 

疲労とは別の汗を拭いながら上空のフランと距離をとったレミリアを見上げる

 

「……結構本気で攻撃してるつもりなのに此処までやるなんてね」

 

「ホント、博麗の巫女が可愛く見えるわ」

 

彼女等の方も流石に息が上がってきているのか、疲労の色が見える

 

「こうなったら余力が無くなる前に一気に強力なのを打つしかないわね。…フラン!」

 

「うん、行くよお姉様!」

 

二人はお互いの距離を離し其々の頭上に巨大な魔法陣を浮かべる。

魔法陣からは眩い光が発し、霧の影響なのか紅い閃光が辺り一帯を照らし始めた

 

「ちょっとぉぉっ!!なんかエラく光ってない!?何が起こってんのよ!!」

 

「うおっ!なんだこりゃぁ!?」

 

上空で身動きが取れないままの霊夢が叫び、同時に紅魔館の窓から魔理沙が驚きながら顔を出した

 

「おい魔理沙ー!上に霊夢が転がってるから一緒に離れてろ。彼方さんも本気らしいからな」

 

「隼斗!?何がどうなってるんだよ…!それに霊夢が転がってるって…!?」

 

「ああ、俺が術掛けたから身動き取れねェんだ」

 

「いやマジで何やってんだよ!?」

 

「いいから行け。あの二人が空気読んでくれてる間にな」

 

魔理沙が上空を見上げると、見た目幼い少女二人がその姿とは不釣り合いな魔力を発しながら魔法陣を展開して此方の様子を眺めていた

 

「っっ!……ああもうわかったよ!その代わり後でちゃんと説明しろよな!!」

 

魔理沙はぶつくさ言いつつも箒に跨がり一気に飛翔、言われた通り霊夢を担ぎ上げて此処を離れた

 

 

 

「魔理沙…!?アンタ今まで何処にいたの!?…ってかどこ行く気よ!」

 

「私もよくわかんねーよ!」

 

 

 

 

遠くから軽い口論が聞こえるが、まあそれは置いておくことにした隼斗は、着ていた羽織を脱ぎ捨てた

 

「人間ってとことん騒がしい連中なのね」

 

「賑やかでいいだろ?アイツらといると毎日が飽きないよ」

 

「ふふっ、ますます外に出るのが楽しみになって来たわ」

 

朗らかな目で霊夢と魔理沙を見送った三人は再び意識を戦闘へと戻す。

既にレミリアとフランは魔法陣への供給を終え、いつでも技を放てる状態にあった

 

 

「此れが最後よ。精々足掻いてみなさい、人間」

 

 

「隼斗、中々面白かったわ。でも勝つのは私達よ!」

 

 

「ガキンチョが一丁前に上から言ってくれるじゃねェか。なら遠慮なくやってやるよ!」

 

 

隼斗の身体から爆発的に高濃度の霊力が溢れ始め、着ている衣服の肩口から背中側に掛けてが弾け飛んだ。

やがて身体を覆っていた霊力は手足へと移り、その圧縮された霊力を纏った

 

 

レミリア達が技を放ったのはそれと同時

 

 

「『レッドマジック』!!」

 

 

「QED『495年の波紋』!!」

 

 

二人の放った弾幕は波紋状に広がり、視界一面を埋め尽くすほどに高密度・高濃度の魔弾が一斉に襲いかかる

 

「っ!」

 

隼斗は跳躍し、自身に吸い込まれるように向かってくる弾幕に向け拳を振り抜いた

 

 

 

 

「奥義『瞬閧』」

 

 

ゴォォォッ!!

 

 

 

極限まで圧縮された霊力は拳の一撃に合わせて一気に炸裂し、目の前の空間ごと弾幕を掻き消した

 

「おらっ、宣言通り拳骨いくぜ…!」

 

「ッッ!!」

 

自分達の全力が破られたのも束の間、あっという間に距離を詰めた隼斗が拳を振り上げてそう宣告する。

フランは反射的に顔を手で覆い、レミリアは妹を庇うように抱き締めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コツンッ コツンッ

 

 

 

「「……っ!」」

 

頭を軽く小突かれた二人が瞳をゆっくり開けると、溜息交じりに隼斗が立っていた

 

「これに懲りたらちゃんと反省しろよ?悪ガキ共」

 

「えっ…?」

 

呆気に取られている二人を他所に、隼斗は身体を覆っていた霊力を解除して踵を返えそうとした

 

ハッと我に返ったレミリアが叫ぶ

 

「ちょ…ちょっと待ちなさい!」

 

「ん、どした?あっ、自己紹介か?俺は柊 隼斗だ」

 

「いや聞いてないわよ!?そうじゃなくてどういうつもり!?」

 

「何が?」

 

「だ・か・ら〜〜!!」

 

イマイチ話が噛み合わず不思議がる隼斗に腹を立てたレミリアが、空中にいながら地団駄を踏む。先程までのカリスマ性は何処へやら

 

「隼斗、どうして止めを刺さなかったの?折角のチャンスだったのに」

 

カリスマブレイクした姉に代わり、フランが尋ねた

 

「お前らなんか勘違いしてない?なんで止めを刺す必要があるんだよ」

 

「?……隼斗って霧を止めるためにお姉様を討ちに来たんだよね?」

 

「ああ、文句を言いに来た。そしたら拒否されたから弾幕勝負した。此処までOK?」

 

「う、うん」

 

「いいか?弾幕ごっこってのは飽くまで揉め事が起こった時の解決策の一つだ。お前らはそれを受けて俺に負けた。この時点でこれ以上お前らを痛めつけても不毛な争いにしかならねーんだよ」

 

「じゃ、じゃあお姉様をどうこうするって言うのは……」

 

「お前らの勘違い」

 

まあ半分以上は隼斗が意図的に仕組んで持っていった事だが、当の本人に悪びれる様子はない

 

「……良かっ…た…」

 

フランは安心すると同時にプツリと意識を手放し崩れ落ちた

 

「フラン…!」

 

慌ててレミリアが抱き抱えると、フランからは静かな寝息が聞こえた

 

「……緊張が解けた事と力の出し過ぎによる疲労だな。暫く休ませりゃ問題ねーだろ」

 

容態をみた隼斗がそう答えると、レミリアは胸を撫で下ろした

 

 

「……一つ聞いていいかしら?こうなる様に仕向けたのは貴方ね?」

 

 

「……妹には後で謝っとけよ。それと力のコントロールも教えてやれ」

 

 

「!……ええ、そうね」

 

 

今度こそ背中を向けた隼斗は地上に降り、館の外へ歩き出した

 

 

 

 

「……礼を言うわ。柊 隼斗」

 

 

 

 


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