東方万能録   作:オムライス_

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71話 異変の兆し

紅霧異変から半年が経ち、季節は冬真っ盛り。幻想郷は白銀の世界に包まれる

 

「やっぱ雪積もると景色が変わるなー」

 

魔法の森にて隼斗は薪に使う手頃な木を求め歩いていた。夏と違い冬の木々は葉が付いていない為、一々毟らなくていい分楽ができる訳だ

 

「おっ、これなんか良いな。よっしゃ」

 

お目当ての木を見つけ早速切り倒す。

この行為が森林伐採に該当するかは定かでは無いが、無闇に行っている為ではないのでセーフと言えばセーフなのだろう

 

しかしここでまさかのアクシデント。

切られた木の倒れる方向に誰か歩いて来ていた

 

「!?」

 

「やっべ…!」

 

隼斗は急いで間に滑り込み、倒れてくる木を支えた

 

「悪い、大丈夫だったか?」

 

「え、ええ…」

 

危うく下敷きになりかけたのは、ブロンドの髪にまるで西洋人形の様な格好をした少女だった。

何故か肩付近には似た様な格好の人形が浮いている

 

「完全に配慮不足だった。ホントごめんな」

 

「いいわよそんなに謝らなくても。実際何も無かったんだし」

 

謝罪に対し快く許した少女は、大木を片手で支える隼斗を一見した

 

「貴方随分力持ちなのね。妖怪って感じはしないし人間かしら?」

 

「まあ人間かって言われると怪しいトコあるけど一応人間だ」

 

「ふーん……私はアリス・マーガトロイド。貴方は?」

 

「柊 隼斗だ。『マーガリン』って変わった名前だな」

 

「……私はバターの代用品か何かかしら?『マーガトロイド』よ…!それに長いからアリスでいいわ」

 

「(……マーガトロイドの方が変わってると思うけどな。いや西洋の名前なんて知らないけど)そうか宜しく。アリスはこの近くに住んでるのか?」

 

「ええ、少し前からね」

 

「ならご近所さんだな」

 

「あらそうなの?こんな瘴気の濃い森に住んでる変わり者は私か白黒の魔法使い位かと思ってたけど」

 

(魔理沙か)

 

すぐに該当者を頭に浮かべる隼斗。

魔法使いは兎も角、色を言われただけで誰だかわかる人物もそう居ないだろう

 

「隼斗って言ったわね。貴方この後時間あるかしら?」

 

「?」

 

 

 

「はいどうぞ」

 

「どうも」

 

お洒落なカップに注がれた紅茶と手作りクッキー、部屋を見渡せば数多の西洋人形が並べられている

 

「やけに人形が多いな」

 

「人形作りが趣味なの。どうかしら、可愛いでしょ?」

 

「夜に子供が見たら泣きそう」

 

「失礼ね!?」

 

怒るアリスに合わせて隣で浮いている人形も怒ったような仕草をする。先程からその手に持っている槍の様な武器は戦闘用だろうか。

だとするとコイツは人形で戦うのか?と疑問視する隼斗

 

「さっきから隣で浮いてる人形も手作りか?」

 

「ええ、そうよ。魔法で操る事で人間とほぼ同じ動きも出来るし、複数の人形を同時に操る事も可能なの」

 

「魔法……って事はやっぱり魔法使いか」

 

「魔界出身のね」

 

「魔界?」

 

隼斗はいきなりファンタジックな言葉が出てきたと言いかけたが、自分が今いる世界こそそれを体現した場所だと言うことを思い出し引っ込めた

 

「じゃあアリスは魔族って訳?」

 

「広い意味で取るならね。でも私は魔界人と言われる人間の系統よ」

 

「へぇ、魔界か。どんなトコなんだ?」

 

「種族や造形が異なっている以外は此方とあまり変わらないわよ?強いて言うならやたらと好戦的な連中が多い位かしら」

 

「そりゃ毎日退屈せずに済みそうだ」

 

「かと言って行きたいとも思わねーけど」と付け加え、紅茶を啜る隼斗に今度はアリスから質問がきた

 

「じゃあ私も聞いていい?貴方が唯の人間じゃない事はわかるけど、幻想郷はそれなりに永いのかしら?」

 

「まあな。創造以前から知ってる」

 

「!?……創造以前って貴方幾つよ?」

 

「おっ、なんか懐かしい質問だな。少なくとも一億と数百年は生きてるよ」

 

「はっ…?」

 

今度こそ目が点になるアリス。目の前のおちゃらけた男が自分より遥かに年上だった事もそうだが、自身の知っている知識と大きく相違があった

 

「ちょ、ちょっと待って……人間って精々80年余りしか生きられない種族じゃなかったかしら?」

 

「そうだな。だから俺はちょいと特別なんだ」

 

 

 

「……何者なの?貴方」

 

 

 

「別に?何処にでもいる団子好きの好(高)青年だよ」

 

 

 

ーーー

 

〜霧の湖

 

「あっ!カエル発見!!」

 

魔法の森と隣接している大きな湖の岸辺で巣穴から出てきた蛙が氷漬けになる

 

「チルノちゃん、無闇に凍らせたら可哀想だよ」

 

「平気平気。すぐに水に浸ければ元通り……ありゃ?」

 

凍った蛙を掬い上げたものの、手を滑らせ地面に落としてしまった。

勿論蛙は粉々に砕け散った

 

「あーあ、またやっちった。蛙は弱っちいからなー……おっ!」

 

特に悪びれる様子もなく辺りを見渡す『チルノ』と呼ばれた妖精は、目の前の森の中で大きな丸太を担いでいる男を発見する

 

「よーし、次の標的はアイツに決めた!」

 

「や、やめた方がいいよ。あの人強そうだし」

 

「最強のアタイに敵はないわ!」

 

相方の忠告を聞くことなく男に向けて氷の弾幕を放った

 

「あん?」

 

男は動く事なく弾幕は着弾した

 

 

 

 

 

「あ、当たった?」

 

「よーし!命中ー!!やっぱりアタイってば最強ね!」

 

 

 

 

トンットンッ

 

歓声をあげる少女の肩を誰かが叩いた

 

「おっ?誰だ!アタイの背後を取るのは!!」

 

少女は勢いよく振り返る

 

 

 

「最強だったら簡単に背後取られんな」

 

そこには身の丈が六尺を越え、眉間に皺を寄せた男が立っていた

 

「のわっ!?お、お前どうして…!?」

 

驚いたチルノは慌てて自分が攻撃した方向を見ると、先程までこの男が担いでいた丸太だけが転がっていた

 

「か、変わり身!さてはお前忍者だな!?」

 

「もし俺が忍者なら後ろ取られた時点で首飛んでるぞ。……そんで?いきなり攻撃してきた理由を聞こうか」

 

「こ、こうなったらアタイの必殺技で!喰らえ…!凍符『パーフェk…」

 

 

ゴチンッ

 

再びチルノが弾幕を放とうとすると、間髪を容れずに拳骨が飛んできた

 

「〜〜!〜〜!」

 

「ち、チルノちゃん!?」

 

「一度弁解のチャンスをやったのに更に攻撃しようたぁいい度胸だ」

 

「くぅ〜!よ、よくもやっt…」

 

「もう一発いくか?」

 

「ひっ…!」

 

再び振り上げられた拳を見て思わず両手で頭を覆うチルノ。傍では相方の大妖精がどうしていいかわからずオドオドしている

 

「………お前名前は?」

 

「……へっ?」

 

「俺は隼斗って名前だ。はい君の名前は?」

 

「ち、チルノ」

 

「……そうかチルノ。腕白なのは結構だけどな、いきなり攻撃ってのは良くねーぞ?今みたいに痛い思いするのはお前だし最悪殺されたって文句言えねーからな」

 

「……うん」

 

「……なんか言うことあるか?」

 

「……ん」

 

「ん?」

 

「………ごめん」

 

消え入りそうな声だったが確かに隼斗の耳には入った

 

「よーしよく言えたな。ほれご褒美だ」

 

「わっ!飴!!」

 

隼斗は懐から飴玉を取り出しチルノの手に乗せ、ついでに隣の大妖精にも投げ与えた

 

「ほら、お前さんも」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

 

菓子を与えてからというもの、隼斗の人柄もあってか意外と打ち解けるのに時間は掛からず、三人揃って岸辺で座り、飴玉を転がしている

 

「お前らいつもこの辺で遊んでんのか?」

 

「うん。他の友達と遊んだり蛙を凍らせたり」

 

(……蛙を?……子供って時々エグい遊びするよなー)

 

「隼斗さんはあの森に住んでるんですよね?妖怪に襲われたりはしないんですか?昼間でも暗いし」

 

「まあ彼処の環境は妖怪にとっても余り宜しくないらしいからな。滅多な事じゃ襲われねーよ」

 

「もし出てきてもアタイが蹴散らしてやるわ!」

 

「お前のその自信は何処から出て来るんだ」

 

そこまで言うと隼斗は口の中の飴玉を噛み砕き立ち上がった

 

「あれ、隼斗もう行くの?遊ばないの?」

 

「いい加減日も暮れそうだからな。また今度遊んでやっから」

 

空を見上げればいつの間にか日が大分下にあり、雪まで降り出していた

 

「そんじゃあな、二人とも」

 

「はい、ありがとうございました」

 

「次は負けないからね!」

 

別れを済ませ、丸太を担ぎ直した隼斗は自宅へ向け歩き出す

 

(雪道って歩き辛いよな……溝とか見えねーし。まっ、春までの辛抱か)

 

 

 

 

 

 

ーーー数ヶ月後の五月現在。幻想郷は未だ白銀に染まったまま、春が訪れる事はなかった

 

 

 




アリスは元人間の魔法使いですが、この作品では飽くまで魔界出身者と言う設定で進めていきます。
チルノの性格についても悪しからず

次回から異変です
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