東方万能録   作:オムライス_

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先日お気に入りが300越えましたー!ありがとうございます!!

引き続き頑張ります!


72話 終わらぬ冬

幻想郷に冬が訪れてから数ヶ月。

年も開け、春となり段々と気候が穏やかになっていく季節だ。……『通常ならば』

 

 

 

ーーー未だ幻想郷に春は来ない

 

 

それは即ち『異常』であり、この幻想郷ではそう言ったことを総称して『異変』と呼ぶ。

異変が起こればそれを解決する者が現れる

 

 

その一人である博麗 霊夢は前回同様、己の勘を頼りに進んでいく

 

「あーホント嫌になるわ。なんでこうも寒いのかしら」

 

「そりゃ冬だから仕方ないぜ」

 

「とっくに春でしょうが!」

 

ぶつくさ文句を垂れる霊夢と行動を共にしているのはもう一人の解決者、霧雨 魔理沙だ

 

「アリスに聞いた話だと春度が風上から流れてきてるそうだ。それを辿れば春に行き着くんじゃないか?」

 

「……その話本当?」

 

「うわっ!?アンタ何処から湧いたのよ!」

 

魔理沙の証言と同時に何処からともなく、紅魔館のメイド長・十六夜 咲夜が現れた

 

「湧いた言うな、虫じゃないんだから……いい加減館の燃料が尽きそうなの。お嬢様方が寒い思いをしない為にも、早急に事態を収拾する必要があるわ」

 

「吸血鬼って寒さにも弱いの?」

 

「別段弱いという訳でもないと思うけど。そもそも人間より体温が低いから余計に寒く感じるんじゃないかしら」テキトー

 

「まあ何にせよ目的は同じな訳だな。さっさと終わらせて花見でもしたいぜ」

 

「首謀者から酒代ふんだくってやるわ!」

 

三人は各々の目的の為、異変解決に向け春度が流れて来ていると言う風上を目指す

 

 

 

 

ーーー

 

 

「春度?なんじゃそりゃ」

 

「簡単に言えば春の一部だね。これを集めることで春そのものを手に入れることが出来ると言われているんだ」

 

霊夢等が異変解決に向かう中、隼斗は香霖堂を訪れていた。そこで霖之助から春度の事を聞いた訳だが、飽くまで偶々であり、隼斗自身が異変解決の為の情報収集に訪れた訳ではない。そもそも彼は環境の変化をあまり受けない為、今回の様に長く続く冬についても軽視していたのだった

 

「じゃあアレか?このヤケに長い冬ってのは……」

 

「ああ。何者かが幻想郷中の春度を集めて春を独り占めにしている……って言うのが濃厚じゃないかな」

 

「って事は異変だな。霊夢達に声掛けて俺も行こうかな。暇だし」

 

「霊夢なら多分もう向かってるんじゃないかな?ついさっき魔理沙が「異変だー!!」って飛び出していったし」

 

「それを先に言えよ!」

 

隼斗は椅子から跳び上がり、粗末な挨拶を済ませると出入口の戸を開いた

 

「まあ、何にせよこのままじゃ桜を拝めず花見も出来ない。解決に向かうなら僕からも宜しく頼むよ」

 

「!……っ」

 

 

 

ーーー『桜』

 

その単語を聞いた隼斗の頭に、数百年前の記憶が蘇る。自身含め、多くの犠牲を払った忌まわしい記憶

 

 

途端に胸騒ぎを覚えた隼斗は、急ぎ足で店を出て走り出す

 

 

(……まさかとは思うが………ちょいと急ぐか)

 

そして森から一気に跳躍すると、霊夢達の気配を辿って空を駆けた

 

 

 

 

異変解決組・霊夢御一行は道中出くわした雪女及び騒霊三姉妹を打ち倒し、ある場所に辿り着いていた

 

 

『冥界』

 

死して尚、魂魄となった霊達が行き着く場所であり、本来ならば生者は立ち入ることが出来ない世界である。

その奥には白玉楼と呼ばれる屋敷があり、そこには冥界を管理する姫が住んでいるという

 

 

さて、今異変である『奪われた春』、そして春度はその屋敷から流れており、そこへ続く長い階段を越えなければ辿り着けない

 

「アンタが此処の番人ってわけ?」

 

「…一応役職は庭師よ。そんな事より生きた人間が此処に何の用?」

 

その階段の先で待ち構えるは、長刀と短刀を腰に差した銀髪の少女。傍には白玉の様な霊体を連れている

 

「単刀直入に言うわ。とっちめられたくなければ今すぐ春を返しなさい。こっちは寒くてウンザリしてるのよ…!」

 

「そうはいかない。あと少しで幽々子様の望みが叶う。だから貴方達が持っている僅かばかりの春度も頂くわ」

 

「随分勝手な言い草だな。親の顔が見てみたいぜ」

 

「……魔理沙。貴方がいつもウチの図書館来て何してるか覚えてる?」

 

 

どちらも引く気はなく、銀髪の少女は刀の柄に手を掛けている。霊夢はお祓い棒を構え、魔理沙・咲夜も八卦炉とナイフを手に取った

 

 

 

 

「ちょっと待った」

 

 

ーー!!

 

 

その場の全員が声のした方を見遣る

 

 

 

「漸く追い付いたぜ。まさか冥界が発生源とはな」

 

奥に続く長い階段の先を眺めると、幻想郷中の春が其処へ集約されている様だった

 

「隼斗…!アンタ何しに来たのよ!」

 

霊夢が此処一番に反応して声を上げる。理由は言わずもがな、目の前の男にはイイトコ取りの前科がある

 

 

 

「……お前ら先行け」

 

噛み付く霊夢に反応する訳でもなく、隼斗は先に進む様促した。

香霖堂を出てから現在進行形で感じている『悪い予感』は、長年培ってきた第六感と相俟って昔からよく当たるからだ

 

「!………はぁ、二人とも行くわよ」

 

「へっ?いいのか?」

 

「いいから……ここは隼斗に任せて私たちは大本を叩くわ」

 

「…一体なんだって言うの?」

 

霊夢はそんな隼斗の心境を瞬時に読み取り、先程とは打って変わって素直に従った。これも偏に博麗の名を継ぐ巫女として、隼斗の元で修行した者として、同じ様に鍛えられた『勘』がそうさせていた

 

「待て!此処を通す訳には……!」

 

「『白雷』」

 

先に進む霊夢達を追おうとする少女目掛け、指先から一筋に伸びる雷を放つ隼斗。

飽くまで威嚇の為、少女の足元を小さく吹き飛ばしたに過ぎなかったが、お陰で矛先が隼斗に向いた

 

「!?……邪魔を…!」

 

「悪ィけどお前さんは此処で俺と留守番だ。アイツらが戻ってくるまでな」

 

「……怪我するわよ?」

 

「おいおいその刀は飾りか?役に立たねェ脅し文句並べる前に鋒くらいこっち向けてみろ。それでやっと迫力の『はの字』位は出るだろうぜ、お嬢さん?」

 

「……貴様ッ!!」

 

隼斗の挑発にまんまと掛かった少女は腰の長刀を抜刀して構えた

 

「お前が使うにゃ偉く長い刀だな。ちゃんと振れるのか?」

 

「妖怪が鍛えたこの『楼観剣』に斬れぬものなど、あんまり無い!」

 

イマイチ締まらない決め台詞と共に斬りかかってくる少女。

見た目に反して速度は速く、鋭い斬撃を繰り出してきた

 

「直線じゃ当たらねェぞ」

 

振るわれた刀の刃先数センチ手前まで下がり紙一重で躱す。続いて繰り出される斬撃も同様に、完全に見切った動きで躱していく

 

「はぁっ!」

 

「…!っと」

 

しかし急激に斬撃の軌道が変わり、隼斗の上着の襟を掠めた

 

「……今のを躱しますか」

 

(初太刀は囮か……それにこの太刀筋どっかで…?)

 

「ならばッ!」

 

少女はもう一本の短刀『白楼剣』に手を掛け長刀の斬撃に合わせて抜刀、十文字からの連撃に移った

 

(さっきより動きが速くなった……こっち(二刀流)が本命か)

 

「逃さない!幽鬼剣『妖童餓鬼の断食』!!」

 

一旦刀の間合いから外れようと大きく距離を離した隼斗へ、追撃としてスペル宣言を行う少女。横薙ぎに振るわれた剣閃から弾幕が打ち出さた

 

「ッ!」

 

隼斗は飛んでくる弾幕に対し、拳を固め振るうことで全て打ち落とす。

これには少女も驚き一瞬刀が止まる

 

「お返しだ!」

 

「ぐっ…!?」

 

少女は急接近した隼斗の回し蹴りを刀を使いガードするも、勢いを止めきれず軽く吹き飛んだ。

その衝撃に顔を顰めるが、ジンワリと痺れが広がる腕に再度力を込め、着地と同時に斬り掛かった

 

「人符『現世斬』!!」

 

「フー……ッ!」

 

二刀による連続斬りを、常人には目視出来ない速度で繰り出す。隼斗は一度息を吐いてから止め、少女の短刀の鍔付近を掴み、もう一方の長刀の背の部分を足裏で地面に抑えつけた

 

「なっ!?馬鹿な…!?」

 

(この剣術……やっぱりそうか……)

 

驚愕の表情を浮かべる少女を他所に隼斗はある確信を抱いていた

 

「なあ、お前に剣術教えたのって『魂魄 妖忌』って名前じゃなかったか?」

 

「!……おじいt…お師匠様を知ってるの!?」

 

「ビンゴか……って事は今異変を起こしてるのは幽々子で間違いないな」

 

 

尤も隼斗は、場所が冥界であるため大凡の見当は付けていたものの、その動機がわからなかった。精々春を奪って出来ることなど気候を穏やかにするか、『桜』が咲く位だ

 

 

「!?」

 

「……?」

 

ある仮説を立て、一人狼狽する隼斗を怪訝に思う少女だが、此処で刀を抑えている力が抜けていることに気がつく

 

「はあぁぁぁッ!!」

 

楼観剣を抑えつけている脚を、同じく足裏でズラし、一気に引き抜くと同時にその勢いのまま回転斬りを行った

 

「……ッ」

 

刃は隼斗の顔を軽く斬りつけ、頬からは赤い血が流れた

 

「……これが最後よ。今すぐ此処かr「おい」…!」

 

 

少女の忠告に割って入ったその声は、今までのおちゃらけた声色とは大きく違っていた

 

「……お前達が春を集めた動機は何だ?」

 

「……ッッ!?」

 

頬を伝う血を拭う事もせず、しかしその圧力に少女はたじろいだ

 

 

「……白玉楼にある『西行妖』を満開にするため…よ」

 

「!!?」

 

少女の口から出たその名前。

過去の記憶がフラッシュバックし、次いで先に行かせてしまった霊夢達の事を思い出す。

色々な感情が渦巻く中、一つ確かな事があった

 

 

 

 

 

ーーーもう一度あの妖怪桜が満開になれば、再び惨劇が起こる

 

 

「……お前には悪いが、もう時間は掛けられない。進ませて貰うぞ」

 

「何を……がっ!?」

 

次の瞬間には隼斗の姿を見失い、一瞬で少女の視界が暗転する

 

「間に合えよ……!」

 

隼斗は一気に階段を駆け上がり、白玉楼を目指した

 

 

 

 




正直、原作主人公勢三人もいらなかったかなーと思いつつも登場させちゃいました。(やっべ、絶対持て余すわ……)

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