東方万能録   作:オムライス_

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今回は前編と後編に分かれます


74話 死を呼ぶ桜(前編)

 

六杖光牢により、拘束されたままの幽々子を微弱な妖気が覆う

 

フッ

 

「隼斗……何故貴方がここに…」

 

幽々子は自身を縛る縛道に対して、『死を操る程度の能力』を使用。

術自体に『死』を与え、その効力を消し去った。

平然と術から抜け出した幽々子は、隼斗を見下ろし、そう問いかける

 

「……幽々子、お前『アレ』がどんなモンなのかわかってんのか?」

 

隼斗は目の前の西行妖を顎で指した。

だが幽々子は頭上に?マークを浮かべ、首を傾げた

 

「妖怪桜って言うのは知ってるけど、それ程危険なものなのかしら?」

 

「……」

 

幽々子には生前の記憶が無い。

故に自分が如何に危険な事をしようとしているかがわからない。

 

生前の幽々子を殺したのは紛れもなく西行妖であり、幽々子自身だ

 

西行妖は生物を死に誘う呪いの桜。一度世に解き放たれれば甚大な被害が出ることは明白だった

 

「悪いがお前の友人として、止めさせてもらうぞ…!」

 

隼斗は再び幽々子を拘束する為に縛道を掛けようとする

 

 

 

 

……ズズッ

 

 

 

「!」

 

隼斗は異変に気付き、その手を止めた。

周りは誰も気付いていない。勘のいい霊夢でさえも、余程集中しなければ感じ取れない程のごく僅かな変化

 

 

 

 

ーーー西行妖から妖気が漏れ出していた

 

「ッッ!」

 

隼斗が其れに気付けたのは、以前にその肌で感じ、その身に受けたものだからなのか…

 

「霊夢ッッ!!」

 

「…っ!?な、何よ……!?」

 

突然怒鳴り気味に自分を呼ぶ隼斗に、霊夢は珍しく吃りながら答えた

 

「直ぐに結界の準備をしろ!!とびきり強力なヤツだ!!」

 

「は、はぁ?いきなり何言って……ッ!?」

 

(気付いたか……!今ならまだ抑え込める……その為には…)

 

隼斗はこの場にいる面々を見て、即座に策を考え始めた

 

「咲夜!お前の能力で時間の流れを遅く出来るか?」

 

「え、ええ……あまり広範囲は無理だけど」

 

「だったらあの桜の木にソレをやってくれ!!大至急だ!!」

 

「隼斗!一体なんだってんだよ!?」

 

未だ事態を呑み込めない魔理沙が叫ぶ。

隼斗は簡潔に説明を始めた

 

「全員聞け!目の前の桜を見ろ!……アレは数百年前に俺や紫が苦闘の末に封印した西行妖っつう強力な妖気と『生者を死に誘う』力を持った妖怪桜だ」

 

 

『!?』

 

 

 

幽々子含め全員が耳を疑った。

それは勿論、『死に誘う』なんて言う物騒極まりない力を持っている事もそうだが、何より『あの隼斗と紫が苦闘した』という事実が信じられなかった

 

この二人は幻想郷でもトップクラスの実力者。その両者を苦しめた正真正銘の『化物』が、世に解き放たれるかもしれないのだ

 

「その封印が今解けかけてる。すぐに封じ込めなきゃ取り返しが付かなくなるんだ。……幽々子、それでも続けるか?」

 

「……ゴメンなさい、まさか…そんな危険を孕んでいたなんて……」

 

事の重大さを理解したのか、幽々子は謝罪の言葉を口にする

 

既に霊夢は西行妖を囲うための結界を練り上げている。咲夜も同様だ

 

 

「……既にやっちまった事だ。無かった事には出来ない。だったらお前はどうする?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「隼斗…!西行妖を封じ込めるにはどうしたらいいの?」

 

それは罪滅ぼしか、はたまたケジメをつける為か……幽々子はすぐに切り替え今自分が成すべき事を見出した

 

「……霊夢と一緒に結界を張れ。封印は俺がやる。魔理沙、お前は二人のサポートだ」

 

 

 

「わかったわ…!」

 

 

「任せとけ!」

 

西行妖を見れば先程よりも気配が濃くなっており、その周囲に黒い靄の様なものが発生していた

 

「……そう簡単にやらせてはくれねェか」

 

やがて黒い靄は人の形へと変わり、西行妖を護るように配置された。

その手には同じく靄を纏った剣や槍を構えている

 

…と此処で霊夢達から声が掛かった

 

「隼斗!こっちは準備出来たわよ!!いつでも行けるわ!」

 

 

「よし。お前ら、気引き締めて掛かれよ。行くぞ…!」

 

 

 

隼斗の号令に合わせ、霊夢と幽々子が結界で西行妖を囲い、咲夜が能力による時間の遅滞を行う。これは覚醒の進行を遅らせる為、そしてその邪気を他所に広げない為の処置だ

 

 

ゾワッ

 

 

西行妖はそれでも抵抗をやめない。自らの妖力を波の様に拡散させ、内側から結界を破ろうとしている

 

「くっ…結構強いわね、コイツ…!」

 

「これがまだ流れ出てる力の一部だって事が信じられないわ…!」

 

「空間作用のある私の能力すらも抵抗するか…!」

 

早くも苦戦を強いられている三人に、控えていた複数の黒い兵士が襲いかかった

 

 

 

「恋心『ダブルスパーク』!!」

 

 

 

魔理沙は二つの巨大レーザーを放ち、黒い兵士を纏めて吹き飛ばした

 

「あの黒いのは私に任せてお前達は自分の事に集中しろ!……って何っ!?」

 

魔理沙は驚愕した。

自身の代名詞とも言える『マスタースパーク』、しかも二つ同時に打ち込んだにも関わらず、黒い兵士達は立ち上がった。

所々欠損箇所はあるものの、妖気が供給され元通りになる

 

 

 

「……面白ェ!根比べといこうぜ…!!」

 

再び攻撃を行う魔理沙

 

 

 

 

「……」

 

隼斗はそんな戦闘が繰り広げられている上空にて、封印術式を組み上げ始める

 

(戦況はあまりよくねェか。もう少し保ってくれよ…!)

 

封印術式を組むには多大な集中力が求められる為、どうしても戦場から離れる必要があった

 

「!」

 

見ると、黒い兵士の数が徐々に増え始めていた。魔理沙も必死に迎え討つが、倒したそばから復活する為、単なる消耗戦になってしまっている

 

「はぁ、はぁ…ったく……キリがないぜ…!」

 

黒い兵士は一息つく間も無くワラワラと集まって来るため、魔理沙は魔力を回復させる事が出来ず、疲弊と魔力の枯渇で倒れるのは時間の問題だった

 

「!魔理沙、後ろ……!!」

 

「!?」

 

霊夢が声を飛ばす。

動きの鈍くなった魔理沙の攻撃の隙をついて複数の黒い兵士が眼前まで迫り、その鋭く尖った鋒を突き立てようとしていた

 

「しまっ……!」

 

「魔理沙……っ!」

 

最早回避は間に合わない。

隼斗は組み上げ途中の術式を打ち切り、助けに入ろうとした

 

 

 

 

 

 

 

 

「『マスタースパーク』」

 

 

ゴオッと、魔理沙の目の前を極太レーザーが通過する。目前まで迫っていた黒い兵士は跡形もなく消し飛ばされた

 

 

 

「全く、中々来ない春を求めて来てみれば………随分賑やかじゃない」

 

 

 

突然の乱入者。

赤いチェック柄のスカートに癖のある緑髪、真紅の瞳を輝かせ、突き付けている日傘からは硝煙が上がっている

 

「いつまでも春が来てくれないと、ウチの子達が咲いてくれなくて困るの。だから可及的速やかに春を返しなさい」

 

笑顔の裏に殺気を貼り付け、『風見 幽香』は淡々と言い放った。

っと同時に上空にいる隼斗の元まで飛翔した

 

 

「……貴方にしては珍しく苦戦している様ね、隼斗」

 

「幽香…何でお前が此処に……ッいや、この際理由はいい。お前の力を借りたい」

 

「それは下の連中に手を貸せという事かしら?」

 

「そうだ。あの妖怪桜を止めねェと被害は幻想郷だけじゃ留まらない」

 

「…被害?」

 

幽香はその単語に反応し、改めて西行妖に視線を向けた

 

「……一つ教えなさい。あの桜の木は花々にも影響が出るの?」

 

「間違い無く、な」

 

「……そう」

 

幽香は隼斗に背を向け西行妖を見下ろした。

その表情から笑顔は消え、標的を前にしたハンターの様に鋭く睨みつけている

 

「それは許せないわね……!」

 

その声は殺気を帯びており、『彼女にしては珍しく』明確な怒りを露わにしていた

 

 

 






次回は後編になります

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