西行妖を封印した隼斗は白玉楼にて、幽々子と共に茶を啜っていた
つい数刻前までの奮闘が嘘のように辺りは静かで、庭の池から鯉の跳ねる音さえ聞き取れた
「いや……まあ、落ち着いて茶なんて飲んでるけどさ。お前反省してんの?一応さっきまで世界の危機っぽい状況だったんだけど」
「ふふっ、美味しいでしょ?そのお茶は毎回妖夢が買って来てくれるの♪」
「……………………………………………………ああ、確かにな」
早速話を大幅に脱線させた幽々子に、何だかツッコミを入れるのが面倒に思った隼斗は茶を再び含み、同意した。
幽々子のマイペースっぷりは昔からだ
「なあ幽々子。一つ気になってる事があるんだけど」
「なぁに?」
「妖忌は?」
「幽居したわ」
「へぇー、そうなのか…………はっ?」
そのまま流れで納得しかけた隼斗は呆気にとられた
「幽居って……どこ行ったんだよ…!?」
「さあ〜?其処まではわからないわね」
驚く隼斗とは対照的に、幽々子は大して気にしていない様子だった。
すると部屋の襖が開き、妖夢が一礼して入って来た
「幽々子様、お茶請けをお持ちしました」
「あら、ありがとう妖夢〜」
……?
ふと、隼斗は視線を感じ顔をあげた。
今し方茶菓子を卓上に置いた妖夢が、盆を抱きながら此方を見つめていた
「…何?」
「えっ、あっ…いえ、何でもないです!」
隼斗が目を細めて低音で尋ねると、妖夢は少したじろぎながら弁明を始めた。
尤も隼斗本人は怒っているわけではなく、怪訝に思った為の行動だった訳で、それを見ていた幽々子がクスクス笑いながら妖夢に耳打ちで囁いた
「妖夢駄目よ〜。無闇にお客様を睨みつけちゃ〜。隼斗なんて短気なんだから噛み殺されちゃうわよ〜」
「ひっ…!」
「両手に団子装備してデタラメ吹き込んでんじゃねーよピンクボール擬き」
尚も団子を頬張る幽々子の頬を掌で強引に押しやった隼斗は、立ち上がり部屋の外へと歩き出した
「……気になることがあるなら、聞いてやるよ」
「!」
それだけ言い残し、隼斗は部屋を後にした
〜白玉楼・庭
「よぉ、来たな」
「あの、隼斗さん……」
隼斗は屋敷の縁に腰掛けながら後からやって来た妖夢に声を掛けるたが、何故か妖夢の表情が固い
「何だよ、急に畏まっちまってどうした?」
「……幽々子様の御友人とは露知らず………先程は…その、斬りかかってしまい……申し訳ありませんでした!!」
妖夢は謝罪の言葉と同時に姿勢をピンと張り、90度に腰を折りながら勢い良く頭を下げた。そのせいで腰に差していた刀の先端が跳ね上がり、傍に居た半霊をかち上げてしまった訳だが……本人は気づいていない
「いいよ」
「そ、そうですよね……本当に何とお詫びして良いk……へっ?」
「特に気にしてねーし。寧ろ挑発したのは俺だしな」
「でも…!」
尚も食い下がろうとする妖夢も気にせず、腰掛けたままで横にズレた隼斗は、自分の隣をポンポンと叩いた
「まあ座れって。んなトコで突っ立ってないでさ」
「……は、はあ」
・
・
・
ザァァァっと微風が桜の木を揺らし、庭中の桜の木から花弁が舞い上がる
「いい景色だな。此処が冥界じゃなかったら俺も越して来たいよ」
「そうですね。此処は毎年春になるとそれは見事な桜が咲きますから。でも掃除するとなると大変なんです。どうしても人手が足りなくて…」
「はははっ、そう言やこのデカイ屋敷に幽々子と二人だけだもんな。妖忌もよく長い間やってたもんだ」
「…隼斗さんは師匠とは何度か?」
「まあな。色々と厳格な爺さんだったけど、腕は確かだったぜ」
「……そうですか。それに比べて私はまだまだですね」
途端に妖夢は落ち込んだように俯いてしまった
「さっきからよくヘコむ奴だな。今度はなんだ?」
相変わらず空を見上げたままの隼斗が尋ねると、妖夢は立ち上がり庭の方へ歩き出した
隼斗は視線だけ落としてその後を追うと、何故か腰の刀の鞘口を強く握りしめているのが見えた
「隼斗さん、私ともう一度戦って頂けませんか?」
妖夢は此方に振り向き、隼斗に勝負を申し込んだ。隼斗は今度こそ顔を妖夢へ向けた
「……俺の質問どこいったよ?」
「『真実は斬って知る』。師匠の教えです」
「その解釈通りならとんでもない教訓だな」
やれやれ…と隼斗は立ち上がり、妖夢の元へ歩き出した。
気だるそうにする隼斗に反して、妖夢は真剣そのものだ
「なんだか知らねーけど、戦うってのは『遊び』の方か?」
「『本気』で!お願いいたします!」
隼斗の言う遊びとは勿論スペルカードを用いた決闘の事であり、妖夢がその言葉をどう受け取ったかは定かではないが、確かに自身の口で『本気』の勝負がしたいと言った
ーーー否、言ってしまった
「……そうか。なら開始の合図はお前がしてくれ」
隼斗は大して構えることなく妖夢と対峙した。妖夢も刀の柄に手をかける
「では……!……始m…ッッ!?」
妖夢は開始と同時に抜刀しようとしたが、それは叶わなかった
「『遊び』じゃねェなら……仕切り直しなんざねェぞ?」
ーーー隼斗は掌で刀の柄頭を抑え、妖夢の喉元に貫手を突きつけていた
「『本気』ってのはこう言う事だ。お前は腕試しのつもりだったか知らんが、その意味を軽く見ないことだな」
「………戦うどころか、刀すら抜けないなんて……私は未熟ですね」
そう言って妖夢は刀から手を放した
「……単純な力量差もあるが、お前さんは些か真っ直ぐ過ぎるな。まあ師匠が師匠なだけに無理もねーけど。もう少し柔軟な戦闘が出来るようになりな。まだ若いんだし伸び代だってあるだろ」
「…でも、どうすれば……」
「おいおい、こういう時こそ師匠の教えを思い出せよ」
「あっ…!」
再び抜刀する妖夢。
今度はその手に二刀を握り構えた
「もう一手お願いいたします!!」
「いや、俺そろそろ帰ろうかと……」
「参ります!」
「……話聞かねーのは師匠そっくりだな」
ガキィィンッ!
キィィンッ!
ズガガガガガッ
・
・
・
・
〜屋敷内
グキュルルルル……
「妖夢〜〜ご飯まだ〜〜」
グキュルルルル……ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
「ん?雷か?」
「あっ、幽々子様のお腹が……」
「腹の音っ!?」
思い付きの番外編ですが、次回からは本編の続きを投稿いたします