東方万能録   作:オムライス_

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77話 旧友との再会

「で、収穫は?」

 

「不作」

 

霊夢はため息を漏らし、机に突っ伏したまま答えた。

今夜も今月に入って何度目かになる宴会の為にいつものメンバーが集まっている

 

「フランから聞いたぞ。紅魔館に殴り込みに行ったんだってな」

 

「うーん……今回は勘が外れたわ〜」

 

「はははっ、霊夢の勘でも外れる時あるんだな」

 

皆がガヤガヤと酒を飲み交わす傍、隼斗と霊夢は、徳利に入った酒を口に運ぶ。

既に顔が赤い霊夢は現在に至るまでに、ヤケ酒と称して結構な量を飲んでいるため、隼斗が仕方なく付き添っているのだ

 

「はぁー、後どこ探せばいいのよ」

 

「……案外、答えは身近な所にあるかもな」

 

霊夢の愚痴に、隼斗は開いている襖を眺めながらそう言った。

その視線の先には月明かりに照らされた境内の庭が見える

 

「…何よ、心当たりでもあるわけ?」

 

「多分な。ちょっとついて来い」

 

隼斗は立ち上がり、宴会場から庭に出た。

霊夢も渋々後に続き、既に当たりを付けていた隼斗に対して、やや不機嫌気味に質問した

 

「一体何だってのよ?」

 

 

「縛道の五十八『掴趾追雀』」

 

 

隼斗は答えることなく翳した掌を中心に陣を形成し、周辺に意識を張り巡らせた

 

「…………!」

 

集中する為に目を閉じる事数秒。

何かを捕捉した隼斗は、開眼と同時に神社の屋根の上を見た

 

「……やっぱりな」

 

「?」

 

「霊夢、ここで待ってな。今異変の真犯人を引きづり出してやる」

 

隼斗はニヤッと笑いながらそう告げると、屋根の上まで跳躍。そのまま何もない空間に向けて語りかけ始めた

 

「ずっと姿見せねーと思ったらこんな形で紛れ込んでるとはな」

 

未だ霊夢の頭の上には?マークが上がる中、隼斗は確信を持ってその名を呼んだ

 

「随分久しぶりじゃねーか、『萃香』」

 

 

 

 

 

 

 

「ひひっ、よくわかったね…!流石私が見込んだ男だ」

 

突如何もない空間へ急激に妖気が集まり、一つの形を成した

 

隼斗の胸より下辺りの背丈。頭からは大きめの捻れた角を生やし、腰には色々な形をした分銅の様な物をぶら下げている

 

 

 

ーーー嘗て妖怪の山を牛耳り、強大な力を持って天狗達をも支配下に置いた『鬼』。その鬼達を纏め上げていた長の一人

 

 

『百鬼夜行』伊吹 萃香

 

 

「異変を感じた時から正体不明の妖気は感知してた。最初は何者かが誘導効果のある術か何かで操ってるのかと思ってたよ」

 

目の前に着地した萃香に対し、 隼斗は動じる事なく続けた

 

「……でもまさか、自身を霧状に変えて幻想郷中に散布してるとは思わなかったよ。……お陰でウチの巫女さんもお手上げだ」

 

下では二人の様子を警戒しながら伺っている霊夢の姿があった。

萃香は一見すると再び隼斗に向き直り、

 

「ね、ねえ……『ウチの』って事は、まさか隼斗のコレ?」

 

恐る恐る古典的に小指を立てて聞いてくる萃香に、隼斗は即答する

 

「アホか。ありゃ弟子の霊夢だ。お前さんが何度も宴会開くたびに場所を提供してくれてたんだから後で謝っとけよ」

 

「ふーん、なら良かった。よし隼斗、久々の再会だし手始めにチューから……」

 

「やんねーよ」

 

隼斗は、口を尖らせて迫ってくる萃香の頭を鷲掴みにして引き離した。

よく見ると酔っ払っているのか、足元がフラフラ覚束ない。

「つれないな〜」っとおちゃらけながら離れた萃香は、途端に堂々とした風貌へと変わった

 

「それで、どうする?確かに私は異変を起こしたし、こうして正体も突き止められた。……彼処にいる嬢ちゃんと戦おうか?」

 

再び霊夢を視界に入れながら、既に戦闘態勢に移りつつある萃香に、隼斗は笑いながら答えた

 

「…俺を差し置いてか?」

 

隼斗から漏れ出す力に、足元の瓦にヒビが入る。その力を肌で感じたのか、萃香は心地好さそうに笑みを浮かべた

 

「そうこなくちゃ。鬼は酒と喧嘩が大好物ってね…!」

 

「…ん」

 

隼斗は顎で庭を指すと、屋根から跳び降り、萃香も直ぐに続いた。

中で宴会中の者たちも、只ならぬ雰囲気を感じ取り、ワラワラと廊下に出てきた

 

「おっ、見ろよアリス。隼斗の奴ひと勝負するみたいだぜ!」

 

「アレは、角が生えてる所を見ると鬼かしら?少し前に姿を消したはずだけど…?」

 

「あら、今夜の宴会は余興付きなのね。咲夜、ワインを持ってきて」

 

「そう仰ると思いまして、既に用意してあります」

 

「ん?アレは……!?す、萃香さん!?」

 

内何人かはこれから始まるであろう戦闘を楽しむ気マンマンである。

しかし烏天狗の新聞記者だけは、嘗ての上司を前にして驚愕している。

霊夢もいつの間にか縁に腰掛け、酒を飲み直し始めた

 

「宴会の演し物はなるべく派手な方がいいだろう?」

 

「だな。いい感じにギャラリーも集まってきた事だし。但し境内の物壊すなよ?後で俺が怒られんだから」

 

「くははっ!喧嘩を前に心踊るのは何年振りか…!!存分に楽しませてもらうよ!!」

 

「…合図だ」

 

チャリンッ

 

隼斗は酒瓶の王冠を指で弾く

 

 

 

ゴオォッッ!!

 

宙を舞った王冠が地に触れた事を合図に、両者一瞬で間合いを詰め、拳と拳がぶつかり合った

 




次回、vs 萃香戦を投稿いたします


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