80話です!
人里にある寺子屋。
そこに今日、風邪で休んでいる上白沢 慧音の代行として、臨時の教師がやって来た
ーーーその名も……
「ハイ、と言うわけで慧音が休んでる間の臨時教師を務める事になった『柊 隼八』だ。気軽に隼八先生でいいぞー。もしくはGTHでも可」
いつも無造作に後ろへ流している髪をキッチリ固めたオールバックに、伊達眼鏡。
現代で言うところのスーツを意識したであろう黒の羽織り。
これら全て特に意味はないが、隼斗は形から入るタイプなのだ
黒板にデカデカと自身の名前を書き、自己紹介を済ませた隼斗もとい隼八は、早速出席を取る為に出席簿を手に取った
「じゃあ出席とるぞー…………相川」
シーン
「相川ー?今日休みか?」
「あの、先生……」
「ん、どした?」
「けーね先生はいつも苗字じゃなくて名前で出席を取ってます……」
一人の生徒がオズオズといった感じで指摘を入れた
「ああ、そうなのか。じゃあ名前で呼ぶな。えーと………柚花」
「はい」
「健二」
「はーい」
「タカシ」
「うんち!」
その返事に隼斗は出席を止め、たった今返事をした少年を見た。
坊主頭の如何にも腕白坊主な少年タカシは、隼八の反応を見て笑っていた
「タカシ、いつも慧音に言われてるんじゃないか?返事はちゃんとしろ」
「へっへーん。じゃあウンコー!!」
隼斗が軽く叱るが、タカシは更に巫山戯て大声を出した。
周りを見れば、呆れている者もいれば、一緒になって笑っているものもいる
「そうか、じゃあ今日からお前の事はウンコタカシって呼ぶから。わかったなウンコタカシ」
「えぇーーー!?」
「あははははー!ウンコタカシだって!」
流石にヘンテコなアダ名を付けられると思っていなかったのか、周りの反応も相まって、驚きの声を上げるタカシ
「それが嫌ならちゃんと返事しろ。もう一回呼ぶぞ?タカシ!」
「……はーい」
不貞腐れて返事をするタカシを他所に出席を取っていく隼八
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「くっそー!アイツ新入りのクセに生意気だ!」
「タカシ、いつものやるか?」
「あったりまえだ!ヤスも手伝えよ?」
「ひひっ、わかってるって」
やがて本日最初の授業の時間。
寺子屋切っての悪戯小僧、『丸刈りタカシ』と『悪巧みヤス』が見守る中、教室の戸が開けられた
戸に仕掛けられた黒板消し……
ではなく、どうやって仕掛けたのか大人の頭部程の石が落下する
「よーし授業始めっぞー」
しかし落下した石は隼八の指の上でバスケットボールの様にクルクルと回っており、隼八は何事も無かったかのように石を、開いている窓から外へリリースした
「ぐぬぬ……!」
「次だ!」
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「歴史ってのは真面目にやるとややこしいし、面倒くせーから覚えやすくいくぞー」
「……先生なのになんて事言ってんだ」
「ほっとけ。今に地獄を見せてやるぜ…!」
ヤスがセッセと制作しているものは、普通の紙で折った所謂紙飛行機
「はい、1549年『イチゴよく』食うザビエル来日ー」
「後はコイツを付けてっと♪」
「おおっ!」
紙飛行機の先には裁縫などで使う長めの針がセットされていた
「1582年『いちごパンツ』に本能寺騒ぐ」
「喰らえ!」
針で武装した紙飛行機が、真っ直ぐ背を向ける隼八へ向かっていく
「1680年『ヒーローはオレ』です、綱吉ですッ!」
カンッ
「!?」
黒板に年号を書き終えた直後、チョークを持つ手にグッと力を入れる隼八。
その力にチョークの先は折れ、高速で回転しながら、後方より飛来する紙飛行機を弾いた。
軌道がそれた紙飛行機はユラユラと教卓の上に着陸する
「そこ二人、授業中になに遊んでんだ。5分間廊下に立っとれ!」
「げっ、しかもバレてるし……」
「くそー、今に見てろよ!」
〜昼食
「タカシ、それは?」
「へへっ、ウチの店に置いてある特性ワサビだ!これをアイツの弁当の中に入れてやるんだ。めちゃくちゃ辛いからアイツもイチコロだぜ!」
「毒殺か……お前将来忍者になれるんじゃねーか?」
「ふっ、自分の才能が怖いぜ…!兎に角奴の気を引いてくれ。……でござる」
そう言って特に意味のない印を結びながら教卓に置かれている弁当の包みへと忍び寄るタカシ。
その一方で厠から戻ってきた隼八をヤスが足止めに向かう
「先生ー、外の方で妹紅の姉ちゃんが呼んでたぜ」
「妹紅が?わかった、態々ありがとな」
外へと歩いて行く隼八を笑みを浮かべながら見送ったヤスがタカシの元へ戻ると、丁度弁当への異物混入中であった
「こっちは大丈夫だ。さっさと済ませちまおうぜ」
「くっくっく、おにぎりか。たっぷりと味わうがいいぜ!」
おにぎりの中にこれでもかと言うくらいワサビをねじ込んだタカシ等は、そそくさと席に戻る。
やがて帰ってきた隼八が、ヤスに対して文句を言いながらワサビ入りのおにぎりの前に座った
「おいヤス、妹紅なんて何処にも居なかったぞ。ホントに見たのか?」
「本当ですか?あれー、俺の見間違いかなー?」
「……ったく」
隼八は徐におにぎりの入った風呂敷を摘んでタカシへ突き出した
「ほれ、さっきお前の母ちゃんが忘れ物だって届けてくれたぞ」
「……………へっ?」
「そ、それ……先生のじゃ?」
そして教卓の下から新たに取り出された包み。表面には『団子』の判が押してある
「……いや、俺のこれだから」
隼八はおにぎりをタカシの卓上に置いた。
それを見てワナワナと震えるタカシとヤスに対し、ニヤッとほくそ笑みながら一言
「詰めが甘ェんだよ悪ガキ共」
ーーー
時刻は夕暮れ時になり、この日の授業は終了。子供達が帰り支度を整える中、隼八は慧音から申し受けていたある事項を告げた
「えー、最近里の外で妖怪の群れの目撃情報が相次いでる。無いとは思うが一人で出歩く事がないように」
『はーい』
注意喚起をした隼八は、生徒達と共に寺子屋の外に出る。
そこには事前に呼ばれていた藤原 妹紅が欠伸をしながら待っていた
「あっ、師匠。終わった?」
「おう、悪いな。いきなり頼んじまって」
「気にしなくていいって。護衛くらいお安い御用だよ」
「あっ、妹紅のお姉ちゃんだ!」
子供達も、妹紅に気付き周りに集まる。
慧音との付き合いが長い妹紅は、時々遊び相手になったり、炎術を教えてくれとせがまれたりと昔から子供達にも人気があった
そういった意味でも、隼八は妹紅に子供達の引率兼護衛を頼んだわけである
「じゃあ後は頼むな。俺はあと少しやる事があるからよ」
「了解。……大変だね、先生ってのは」
短く別れを済ませた妹紅は子供達を引き連れて歩き出した。それを見送った隼八も残りの仕事を片すため寺子屋へと戻った
ーーー
帰り道。ふと妹紅の隣を歩く女子からこんな質問が出た
「ねえねえ、妹紅お姉ちゃんと隼八先生は恋人なの?」
「ぅええ!?ち、違うよ///…コホンッ!……あの人は私の師匠」
子供らしい直球な質問に、妹紅は赤面しながら訂正した
「ししょう?」
「あっ、俺知ってる!なんか必殺技とか教えてくれる人だ!」
「うーむ、強ち間違っちゃいないけど………」
「確かに只者じゃ無いのはわかるけど。なっ、タカシ」
「うん、結局一回も成功しなかったもんな」
「一回も?……ってなんの話?」
タカシとヤスが今朝からの経緯を話すと、妹紅はクスクスと笑った
「はははっ、そりゃ無理だよ。師匠相手じゃ私でも敵わないんだから」
「妹紅姉ちゃんでも!?マジかよ……」
普段から妹紅の強さを知っている子供達は驚きの声をあげた
「まっ、拳骨が飛んで来ないうちに悪戯はやめるんだね。師匠の拳骨は痛いからな〜」
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〜とある人里内の民家
「なあヤス」
「ん?」
「行ってみないか?里の外」
「はあ?タカシお前あの先生が言ってた事忘れたのか?妖怪の群れが出るから出歩くなって言われたろ」
「少しくらい大丈夫だって。それに言われたのは『一人で』だろ?ちょっとくらいあの先生をビビらせてやろうぜ」
「うーん……それもそうだな!」
「そうと決まれば早速今夜だ!」
ーーー
「よーし、やっと終わった。もうすっかり暗ぇし、さっさと飯食って帰ろ」
隼八は片付けを済ませ早々に寺子屋を出て里の食事処に向かおうと歩き出した
(やれやれ、珍しく疲れたな。これなら咲夜にやらされたら肉体労働のがマシに思えてくるぞ……慧音もよくこんな事毎日出来るぜ…………ん?なんか人が集まってやがるな)
丁度里の住宅地を通りかかった隼八は大勢の人が集まっている光景を目にした。
見ると何やら不穏な空気が立ち込めている。
怪訝に思った隼八はその大衆に近づき声をかけた
「なんかあったのか?」
「……ああ。なんでも子供が二人行方不明だそうだ」
「子供?……その二人の名前はわかるか?」
「『タカシ』と『ヤス』だ。さっきその両親が近所中に聞いて回ってたからな」
「!」
ーーー隼八の額を、冷ややかな汗が伝った
遅れましたがこの話では隼斗改め、隼八で進めていきますので悪しからず
ではまた次回!