東方万能録   作:オムライス_

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お待たせしました。
今回から戦闘回になります。
多少伝わりにくい表現もあるかも知れないので気づき次第修正していきます

では前回に引き続き、月の異変、84話です



84話 太古の月

ーーーその昔、空に浮かぶ月には強大な魔力が秘められていた。

月に一度の満月の日にはその力が地上へと注がれ、あらゆる生物に力を与えたという

 

 

 

しかしそのあまりに強大過ぎる力をその身に宿した者は理性を失い、力に支配され暴れ回った

 

 

それを見兼ねた月の神が、当時の月を封印し、新たな月を創り出した。

再び安寧を取り戻した地上では、以前の月をこう呼んだと言う

 

 

 

ーーー『狂月』と……

 

 

 

 

 

「………いよいよか」

 

隼斗は永遠亭の一室で薄暗くなりつつある空を眺めながらそう呟いた

 

結局月側の真意を見出す事が出来ずにいた彼等は、来るべく満月の夜に向けて備えるしかなかった

 

残された時間で隼斗は、万が一月側が攻め入ってきた時のために各地域を回って警戒を呼び掛けていた。

各々が持ち場の防衛ラインを築く中、隼斗は一番狙われる恐れのある永遠亭に残った

 

張り詰める空気の中、バンッと襖が開き、てゐが中に入ってくる

 

「隼斗、ご飯できたってさ」

 

「ん、後で貰う」

 

「………朝からずっと気張りすぎじゃない?来るかもわかんない敵に対してさ」

 

「ご心配どーも。でもな、こういう時は警戒し過ぎる位が丁度いいんだよ」

 

「ふーん、お師匠様の言った通りだね」

 

「あん?」

 

「ほい。もし来なかったら渡せって」

 

てゐは背中に隠していたおにぎりの乗った皿を差し出した。

全部で四つあり、それぞれの形が違う。

内二つは綺麗な三角刑、残りの二つはやや丸みを帯びた形をしている。

そして何故か、てゐはそそくさと退室していった

 

 

 

「……まっ、いいか」

 

 

程なくして、香辛料たっぷりのおにぎりを口にした隼斗は珍しくむせ返った。

てゐは粛清された

 

 

 

 

 

時刻は間も無く深夜。

幻想郷を照らす月は、普段通りの輝きを見せていた。

相変わらずの面持ちで警戒を続けていた隼斗だが、一度気晴らしのために庭に出た

 

時間帯的に辺りはシンッと静まり返り、月光に照らされた庭が広がっている何時もの風景

 

「?」

 

この時隼斗は違和感を感じていた

 

(気の所為か?今夜の月明かりは何時もより明る過ぎるような………満月だからか?)

 

そして徐に空を見上げた隼斗の表情が、驚愕のものへと変わる

 

空に浮かんでいるのは間違いなく月であり、色も形も大きさまでも同じ物だった

 

「…なんだよ、アレは……!?」

 

ただ一つ違うものを挙げるならば、それが発している『力』だった。

 

本来月の光には魔力が宿るとされており、満月の夜にはその影響を受けて自身を強化する種が存在する。

それは吸血鬼であったりワーハクタクと言った代表的な妖怪から、力の強い妖怪ならばその殆どがその影響を受ける

 

しかし今目の前にある月が発している力は普段とは桁違いに強く、本来ならば影響がない人間の隼斗にまで感じ取れる程だった

 

 

 

 

 

 

ーーーそして異変はすぐに起きる

 

 

 

「!?」

 

ついさっきまで静まり返っていた筈の世界が一気にザワつきだした。

幻想郷のあちこちで、過剰な魔力を浴びた妖怪達が身体に異常をきたし始めた

 

「……ッッ」

 

隼斗は予め用意してあった念話用の札を取り出して、各地に呼び掛けた

 

「おい!これが聞こえてるやつは応答しろ!!」

 

『隼斗!?』

 

「霊夢か!そっちの状況はどうなってる?」

 

『どうもこうも無いわ!一緒にいた萃香が苦しみだしたと思ったら急に暴れ出したのよ!今魔理沙と二人で交戦してるとこ!』

 

「萃香が!?……わかった、今から俺も加勢に……」

 

『……やめた方がいいわ。多分ここ以外でも同じ様な事が起きてるだろうし、持ち場を離れるとかえって危険よ……!』

 

すると今度は別の声が割って入ってきた

 

『…隼斗……隼斗、聞こえるかしら?』

 

「紫!?お前無事なのか?」

 

『私なら大丈夫よ。ギリギリ能力で防いだから……でも藍は間に合わなかった。今力尽くで押さえ込んだところ』

 

「……そうか。兎に角助けがいるなら言ってくれ。すぐに向かう」

 

『……ええ、貴方も気を付けて』

 

 

 

そして念話を切り、一旦屋敷内へ戻ろうとした隼斗はハッとする

 

中の兎娘二人もまた妖怪であることに

 

「……くっ!」

 

 

 

 

 

 

フワリッ

 

 

 

 

 

急いで駆け出す隼斗の後方で、ナニかが降り立った。

隼斗は立ち止まり、ヒシヒシとその存在を背中で感じ取りながら、険しい表情のまま叫んだ

 

 

 

「『お前ら』もかよ!クソッタレ!!」

 

 

隼斗の咆哮にも一切反応を示さず、不気味に光る紅い瞳が『標的』を見つけ、輝きを増していた

 

 

1人は手に持った日傘を突き付け

 

1人は真紅の槍を構え

 

1人は真紅の大剣を携え

 

1人は漆黒の翼をはためかせ

 

 

友人である筈の隼斗へ、一斉にその矛先を向けた

 

 

……ゾワッ

 

 

「『断空』ッ!!」

 

隼斗は反射的に防壁を展開した

 

 

同時に放たれた攻撃は全てスペルカードではなく、明らかに『殺す為』の威力で、防壁をいとも容易く破壊した

 

 

(…詠唱破棄とは言え断空を簡単にぶち抜きやがった……。月の影響化で力も上がってんのか…!)

 

 

 

爆風から逃れながら駆ける隼斗の目の前に、『幻想郷最速』が立ち塞がった

 

「!……文」

 

「……」

 

名前を口にしても返ってくるのは殺気の込められた視線のみ。

彼女の『風を操る程度の能力』により、圧縮された空気の弾丸が射出された

 

隼斗は頭を傾けて躱し、後方の竹に空いた弾痕を見ると、遥か遠方の竹にまで達していた

 

立て続けに放たれる弾丸の雨を、大きく横に跳ぶ事で回避した隼斗の頭上に影がうつり、風切り音と共に日傘が振り下ろされた

 

「幽香…!」

 

それを霊力で覆った腕で防いだ隼斗の呼び掛けに反応するかの様に、口角を吊り上げた幽香は隼斗の顔へ手を翳した

 

 

 

「ッッ!」

 

咄嗟にその照準を上に蹴り上げる事で、放たれた魔砲は竹林の一角を消滅させながら空の彼方へと消えた

 

 

「破道の十一 『綴雷電』!」

 

日傘を掴み、そこから電撃を流すことで感電させる。

一瞬怯んだ幽香の隙を突き、その場から離れた

 

 

 

「次から次へと……!」

 

今度は隼斗の前後左右から、四体に分身したフランが襲いかかる

 

「ふっッッ!」

 

短く息を吐き、ほぼ同時に四方向から迫るフランを迎撃する隼斗

 

「!」

 

その直後に頭上と足元に魔法陣が浮かび上がり、無数の紅い槍が降り注いだ

 

隼斗はその範囲外へ逃れる為に後方へ下がるが、一本の槍が彼の目の前に突き刺さった

 

「!?……身体が…!」

 

途端に身体が何かに固定されたように動かなくなる。

見るとまるで地面に縫い付けられているかの様に、隼斗から伸びる影を槍が捕らえていた

 

 

 

幾ら力を入れても指先一つ動かす事の出来ない隼斗の頭部へ、鈍い音と共に吸血鬼の拳が打ち込まれた

 

そのまま吹き飛ばされる隼斗の視界に、拳を突き出したままのフランと、真紅の槍を投擲するレミリアの姿が映る

 

「……ぐっ!」

 

隼斗は無理やり身体を捻りながら着地し、拳と脚に『瞬閧』を纏いながら槍の一撃を弾いた

 

 

目の前の四人はジリジリと距離を詰めてくる

 

 

 

「やめろっつっても無駄っぽいな」

 

 

頭部から血が滴り、平衡感覚に若干の支障が出ていたが、それでも何とか構えをとった

 

 

「……上等だ。だったら纏めてかかって来やがれ!!」

 

 

幽香、文、スカーレット姉妹の四人はその言葉と同時に一気に突っ込んできた

 

 

隼斗はその場の全員を上回る速度で回り込むと、掌底を突き出して纏っている霊力の波動を打ち込んだ。

しかしそれに被弾したのはレミリアとフランのみ。

幽香と文は驚異的な反応速度で回避すると、それぞれ魔砲と風砲を放った

 

 

 

 

「『双蓮蒼火墜』」

 

 

両手を上下に開き、掌から強化された蒼火墜を放つ隼斗。

両者の技はぶつかり合い、力と力が均衡する。

だが二対一、更に詠唱破棄の即席で打ち出した術の為か徐々に押され始めた

 

 

「ーーー君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 蒼火の壁に双蓮を刻む 大火の淵を遠天にて待つーーー」

 

 

『!?』

 

隼斗の後付けの詠唱により、押されていた筈の破道が飛躍的に膨れ上がった。

これにより一瞬で二つの砲撃ごと幽香と文はのみ込まれた

 

 

 

 

 

「………まだ立つか」

 

 

砂塵が舞い上がる向こう側に人影が複数

 

月の魔力は妖魔の力を増大させるだけでなく、その治癒力さえも上昇させていた

 

 

(消耗の激しい瞬閧で長時間の戦闘は難しい………かと言って本気でやれば殺しちまうかもしれねェ………どうする?)

 

 

『ッ!』

 

何とか打開策を考える隼斗へ再び襲いかかろうとする四人

 

 

 

 

「貴女達、人様の敷地内で何をしているのかしら?」

 

 

ヒュッッ

 

 

突如側方より飛来した矢が足元に突き刺さり、その動きを止めた

 

 

「!……お前ら」

 

 

「ごめんなさいね隼斗。てゐを取り押えるのに手間取ったわ」

 

「隼斗〜、暇だから助っ人に来てあげたわよ!」

 

「…あの四人もてゐと同じ状態に……!」

 

 

そこに現れたのは二人の不老不死と月の玉兎だった

 

 

 




一度鬼道を詠唱破棄で打った後に、後付けで詠唱を唱える事を『後述詠唱』といいます。効果は前述の通り

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