東方万能録   作:オムライス_

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87話 それぞれの戦い(後編)

永琳side

 

 

 

知性を持たぬ一匹の魔獣が、眉間を射抜かれ倒れ伏す

 

「……49匹」

 

永琳は呟き弓を引き絞った。弦には新たに形成された光の矢が当てがわれ、前方の魔法陣より飛び出してくる魔獣に狙いが定められた。

風切り音が鳴り、更にもう一体の屍が積み上がる

 

 

「これで50匹目………ねえ、いつまで続ける気かしら?」

 

 

永琳は目の前の吸血鬼に対し、溜息を吐きながら尋ねた

 

レミリアは特に反応するわけでもなく、左右に展開されている魔法陣に魔力を供給し始める

 

「……諄いと言ってるのよ」

 

永琳は弓を構え、再び魔獣を召喚しようとしている魔法陣を同時に打ち抜いた

 

パリィィンッ!と硝子が砕け散るように魔法陣は崩れた

 

 

 

 

「……」

 

小さな手に紅い槍を二つ出現させたレミリアは、一瞬で姿を消した後、永琳の正面と背後からほぼ同時に心臓へ向け投擲した

 

(召喚術に高速移動、光の槍……吸血鬼は多彩ね)

 

対する永琳も矢を射った。

正面、そして背後に至っては振り向きと同時に。

矢と槍はお互い弾き合い空中をクルクルと舞う。レミリアは内の一本を再び掴み取ると、ジグザグに動きを加えながら一気に突っ込んだ

 

ガキィィンッ!と甲高い音が鳴り、直接突き立てられた槍は永琳の張った障壁により、へし折れた。

すぐ様後方に下がったレミリアは指を鳴らす

 

「!」

 

すると障壁の内側に魔法陣が展開され、一瞬後に大爆発を起こした

 

 

 

 

「……魔女に匹敵するほどの魔力の高さ。でもそれが仇になって月の影響をモロに受けてしまうわけね」

 

 

黒煙の中からゆっくりと歩み出てくる永琳の身体の表面には、薄いベールの様な膜が覆っていた

 

「長年生きてきた私はその過程で『あらゆる術』を習得してきた。でも貴女はその歳で高度な魔法を使いこなす。……ある意味才能かしらね」

 

 

 

永琳は興味深そうに微笑みながら手を翳した

 

「『この術』も一応、『あの人』程では無いにしろ、私なりに考察して最近使えるようになったの」

 

 

 

掌に赤い球体が形成され、徐々に大きくなっていく

 

 

 

 

 

「ーーー破道の三十一『赤火砲』」

 

紅蓮の火塊がレミリアへ向け放たれた。しかし本来の赤火砲とは違い、ある一定の距離で炸裂。回避行動をとったレミリアの翼の一部を焼いた。

焦げた翼から黒煙が上がるも、彼女の表情は変わらない

 

「……痛みすら感じないか。それとも精神が肉体を凌駕している?…………まあ、どちらにせよこのままじゃ貴女本当に死ぬわよ?」

 

「……」

 

レミリアは水平に両腕を伸ばし、その身体を紅い光が包む。

光は次第に輝きを増していき、一挙に拡散。

波紋状に押し寄せる真紅の波は、辺り一帯広がった

 

 

「……驚いたわね」

 

 

波が通過した箇所に現れた魔法陣。

しかし両手の指では足りない程の数が一度に展開されていた

 

 

直後に攻撃は始まった。陣の中心から使い魔が次々飛び出し、別の陣からは永琳に狙いを付けた魔弾が打ち出される。

更にレミリア自身も攻撃を行った。

最早、一つ一つを撃墜していたのでは到底間に合うものではない

 

 

 

 

 

「秘術『天文密葬法』」

 

 

 

この戦闘において初のスペル宣言。

永琳の周囲に大量の球体が配置され、迫り来る使い魔や魔弾に応戦すべく弾幕を放ち始めた。

永琳自身は突っ込んでくるレミリアに狙いを定め、弓を引き絞る

 

 

 

「中々興味深い戦いだったわ。………でもドクターストップよ。貴女はもう寝なさい」

 

 

 

一筋の光の矢が迫り来る吸血鬼を射抜いた

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

隼斗side

 

 

 

ドガッ!!!

 

そんな衝突音が辺りに響く。

両者の拳がぶつかり合った音だった

 

地盤を踏み沈めながら風を切る音と共に回し蹴りが側頭部を狙う。

しかし一方は日傘を挟み込みつつそれを払いのけると、返す刃もとい日傘で相手の胴を打った

 

「……そんなになっても動きのキレは変わらねェ。流石だよお前は」

 

隼斗はそう言いながら掴んでいる日傘を手前に引いた。それによりバランスを崩した幽香が前のめりになり、その下顎目掛けて脚が振り上げれた

 

直後に日傘を手放した幽香は紙一重で蹴り上げを躱すと、後方にステップして間合いをとった

 

 

 

「……」

 

 

一拍置いて両者は地を蹴った

 

隼斗は踏み込みつつ日傘を一度手元で回し、その遠心力のまま突き出す。

幽香はその突きに対し、側面から掌底で受け流すと、そのまま回転して裏拳を放った

 

もう片方の手でその一撃を受け止めた隼斗は、拳を掴んだまま、突き出していた日傘を振り上げてから斜めに落した

 

「…ッ!?」

 

しかし日傘の柄の部分から棘が飛び出し隼斗の手を突き刺した。

思わず日傘から手を放す隼斗へ、再び所有権を手にした幽香が一閃。彼の身体を後方に吹き飛ばした

 

 

「痛つつ……とんでもねェ機能付いてんなその傘。盗難対策か?」

 

軽快に体勢を立て直した隼斗は、刺された手を振りながら、拳に霊力を乗せて腰だめに構えた。

更にもう片方の手で拳を覆い、次第に密度が濃くなっていく霊力はボンヤリと鈍い光を発し始める

 

 

 

 

「俺流『すごいパーンチ』!!」

 

「!?」

 

 

 

その場で振り抜かれた拳は前方の空間を押し出しながら離れた位置にいる幽香を吹き飛ばした

 

 

 

「……!」

 

幽香は立ち上がり、再び構えた。

鈍く光る赤い瞳が目の前の友人を殺す為に輝きを増している。よく見れば左肩が垂れ下がっており、肩が外れていることがわかった

 

「……」

 

痛みを感じていないのか、少し遅れて肩の違和感に気付いた幽香は、乱暴に左肩を掴んだ

 

 

ゴギンッと鈍い音が鳴り、外れた肩は元通りになった。

しかし彼女は顔色一つ変わらない。眉一つ動かない

 

 

 

「幽香……お前は確かに強えし、ちょっとやそっとの事じゃ弱みを見せねェ奴だって事も知ってる。………でもお前だって褒められて照れたり、馬鹿にされて怒ったり、悔しくて泣いたりした事だってあるだろうが…!そんなカラクリ人形みてェにただ淡々と戦う奴は風見幽香じゃねェだろ!」

 

幽香は日傘の先端に魔力を溜め始める。

徐々に身体を侵食していく月の魔力は、コントロールを困難にしているのか綺麗に纏まらず斑が出来ていた

 

 

 

「……すぐ助けてやる」

 

 

ゴオッ!と隼斗は本日二度目の瞬閧を発動させる。

しかし出力は1度目より大きく、形状は雷の様に彼の周りを迸っている

 

 

 

先手を打ったのは幽香。

月の影響か、普段より赤黒い『マスタースパーク』は空間を揺るがしながら真っ直ぐ隼斗へ向かった

 

 

 

「『双骨』」

 

 

 

隼斗は両拳を合わせ、その魔砲へと突き出した。

 

ガガガガガッ!と力と力が均衡し、その余波で竹林全体が激しく揺れた

 

「ッ!」

 

魔砲に対し、隼斗は真っ直ぐ当てていた拳をズラし、下から上へ思い切りカチ上げた。

更に地面を踏み付け、一気に接近する。

踏み付けた地面を見れば、足型に深く陥没しており、周囲が焼け焦げていた

 

幽香は迎え撃つ為弾幕を放つが、今や天狗をも上回る速度で移動する隼斗には掠りもしない

 

轟ッ!と互いが衝突する。

しかし一瞬で幽香は後方に押し負け、尚も距離を詰める隼斗に対し、無数に拡散させたマスタースパークを弾幕として打ち出した

 

「ふんっ!」

 

隼斗は構わず行く手を阻む弾幕全てを叩き落とした。

そして幽香まで10メートルの距離まで緊迫した瞬間、彼女の身体が残像の様にブレ始め、隼斗の一撃は空を切った

 

 

辺りには花の香りが立ち込め、幽香自身の気配もあやふやになる

 

「……俺は回りくどいのは嫌いなんだ」

 

そう呟いた隼斗は、真下の地面を拳で叩き割った。衝撃波は周囲に漂う芳香を吹き飛ばし、崩れた地盤は幽香の足を止めた

 

 

 

「……」

 

幽香は日傘を捨て、両手を前方に添えると、莫大な魔力を溜め始めた

 

「そんなスキのデカい技を目の前で打ち出そうってのか?」

 

長時間にわたり月の魔力を浴び続けた為か、既に思考能力すらもコントロールを失いつつあった

 

 

 

 

「……」

 

「……次で終わらすぜ」

 

隼斗は腰を落とし、片側の掌を前方に突き出し、拳を胸付近に添えるように構えた

 

 

 

 

 

『マスタースパーク』

 

 

『無 窮 瞬 閧』

 

 

カッ!と辺り一帯が光り、凄まじい轟音と共に竹林の一角が吹き飛んだ

 

 




本文にあった『すごいパンチ』については、以前コメントを頂いたのを思い出し、勢いで入れてみました笑


次回の投稿日は、7月29日となりますのでご了承下さい

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