時刻的には深夜をとうに過ぎているにもかかわらず、相変わらず月は真上に位置している。
月に変化がなければ、夜も明ける事がない
幻想郷に狂気の月光が降り注ぐ中、隼斗は紫の屋敷を訪れていた
「準備はいいかしら?」
「ああ、頼む」
庭の池に映る月。
しかしそれは幻想郷の空に浮かぶ月ではなく、外の世界に浮かぶ本来の月であった
「夜明けまで時間がないわ。事を済ませたらすぐに戻ってくること。いいわね?」
そう釘を刺した紫は、水面に映る月に能力を使用。
幻想郷から外の月へ、そして月の裏側へと境界を繋げた
「……じゃあ行ってくる。その間頼むわ」
「ええ、いってらっしゃい」
隼斗は月へ続く池へと姿を消した
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「あら?……隼斗は?」
「月へ行くと言って紫の所へ向かいました」
「流石、やる事が早いわねー。隼斗も貴女も」
輝夜の視線の先には、結界と術により拘束された襲撃者達が横たわっていた
「ねえ、私は貴方達の言う狂気には堕ちてないと思うんだけど?」
その中でただ一人意識のある金髪赤眼の吸血鬼が、仰向けの姿勢のまま永琳に向けて抗議する
「そうね、でも念のためよ。他の娘達と違って貴女は怪我が少ないようだし、私としてもこれ以上怪我人を増やしたくないもの♪」
ニコやかにそう語る師の姿を、恐る恐る伺っていた鈴仙は、大人しくするようフランにジェスチャーを送った
「……貴女、大変な上司を持ったわね」
「後は頼むわね、隼斗」
ーーー
「八意永琳と蓬莱山輝夜はまだ捕まらんのか?」
「そう焦るな。……術式が発動してから大分経つ。狂乱の舞台となった地上から逃れる為に尻尾を見せるのは時間の問題だろう」
「くくっ、もうすぐだ。『不老不死になる術』さえあれば無敵の軍が手に入る。そうすれば力関係は一気にひっくり返り、月の権力は我々のものとなr……」
ーーードゴォオオッ!!
唐突に粉々になった扉に、その場の全員の視線が集まった
「な、何事だ!?」
「も、申し訳ありません……!侵入sy…!?」
扉と共に部屋に飛び込んできた見張りと思われる兵士は言葉を途中で切り、その頭を地面にめり込ませ、動かなくなった
「ーーーよォ……」
靴裏に付着した血を床に擦り付けながら、その男は淡々と続けた
「随分楽しそうな話してるじゃねェか……俺も混ぜてくれよ」
「何者だ!どこから入った!?警備の連中は何をしている!!」
重役の一人が部屋の外に向かって声を荒げる。周りに居るものも通報する為に警報機を鳴らすが、誰一人駆けつけてくる様子はない
「兵士は来ねェよ。俺の手で血袋に変えといたからな」
見ると身につけている衣服には返り血と思われる染みがベットリと付いていた
「き、貴様ッ!!」
一人が銃を手に取り、男目掛けて引き金を引いた
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「春雨隊長、此方です」
「…!これはっ……!?」
「鳴りっぱなしの警報装置に気付いた我々が駆け付けた時には既に……」
「…人的被害は?」
「重症者が多数出ておりますが、警備を含め1人も死傷者はおりません」
「1人も?襲撃者は一体何の目的があって…?」
「それと………もう一つ問題が…」
「?」
「別室より禁術による『狂月』の召喚術式が確認されました。軍専属の術師によるものです」
「!?」
「術式自体は既に解かれた後でしたが………どうしますか?」
「………兎に角、彼らの意識が戻り次第話を聞く必要がありそうね」
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月に広がる海。
水面に映る星々に混ざり、地上のとある景色が波に揺られながら映し出されていた
(夜明けまで時間が無い。さっさと戻らねーと)
「もう行くのか?隼斗」
背後から掛かった声に、隼斗は足を止めた
「……月読か」
隼斗が振り返った先には、この星の神である月読命がやや高めの位置から見下ろしていた
「ひっそりと帰る割には随分派手に暴れたようだな」
「それを知ってんなら当然月の異変にも気付いてた筈だよな?何でお前の手で止めなかった…?」
隼斗は若干の怒りを含ませながら威圧的に尋ねた
「………反逆因子の特定、並びに目的を図るためだ」
「反逆因子だと?そんなもんお前ならどうとでもなったんじゃねェのか…?他を餌にしてまで図らねェといけねェ事だったのかよ…!」
「………そうだな。確かにお前達には迷惑を掛けた。すまない」
地に降り立った月の神はそう言って頭を下げた。それを見た隼斗もハッとなり口を噤む
「………奴らが狙っていたのは八意永琳と蓬莱山輝夜だった」
「!!」
「理由は明白だ。月の戦力比は私や綿月姉妹がその殆どを占めている。それを覆すのは決して容易ではない。そこで彼女等が用いた不老不死になる手段に目を付けた」
「……兵士を不死身にして武力強化を図ろうとしたのか」
「浅はかな考えだ。だが奴らの中には軍の参謀もいた。仮に兵力全てを味方に付けられでもしたら間違いなく厄介な存在になる」
「……あの二人は俺が知る中でも相当の実力者だ。そう簡単に奴らの手に掛かるとは思えねェけどな」
「それも今回の陰謀が失敗に終わった要因だろうな。目先の事しか見えていない悪い例だ」
「……くだらねェ」
「同意見だ」
隼斗は背を向け再び水面に向けて歩き出した
「……隼斗」
「悪かったよ。俺も言い過ぎた」
「……」
次の瞬間にはその場に月読だけを残し、隼斗の姿は消えていた
ーーー
ーー
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〜the next day〜
「結局入院したのはレミリアだけか」
永遠亭の病室で患者衣に身を包むレミリアを見て、隼斗はからかい交じりに指摘した
「何よ!この医者が容赦無さ過ぎなんでしょ!!」
「お嬢様、あまり叫ばれますとお身体に響きます」
「まあまあ、良かったじゃない。生きてて」
「師匠が言うと洒落に聞こえないです」
「どうもー、毎度お馴染み『清く正しい射命丸です』。先日の異変の取材に参りましたー!」
「いや貴女も当事者じゃない。私と戦ったわよね?」
「お姉様ー、お見舞いに来たよー!」
「ちょっ、病室では静かにして下さーい!」
魔の夜が明けた幻想郷。
騒がしい風景が日常の世界では、病室ですら賑やかになる