東方万能録   作:オムライス_

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90話 楽園の閻魔

太陽の畑を後にした隼斗等は、異変解決の為に此処まで引っ張ってきた魔理沙と共に幻想郷の空を飛び回っていた。

相変わらず空の飛べない隼斗は、箒に片手だけ引っ掛けて樹上生活をする猿のようにぶら下がっている

 

「なあ、連れてくならせめて俺も乗っけろよ」

 

「乗っけてるじゃん」

 

「違うね。今の俺はスーパーの帰りにチャリンコに引っ掛けられてる買い物袋状態だ。俺が言ってんのは箒の上に乗せろってこと」

 

「悪いな はや太。この箒は一人用だ」

 

「誰がはや太だ」

 

「それに隼斗の体格じゃくっ付かないと乗れないだろ?乙女の身体にそう簡単に触れられると思わないことだな!」

 

そう笑い飛ばす魔理沙に、隼斗はある一点を見ながらツッコミをいれた

 

「なーーにが乙女だ。さっきから風に煽られてスカート捲れあがってるクセに」

 

「……へっ?」

 

魔理沙はゆっくりと後方に目をやった

 

「…お前もうちょい色気のあるヤツ履kだぶっ」

 

そこで言葉は途切れ、顔面に入った後ろ蹴りと共に空中へ投げ出される隼斗。

魔理沙は顔を真っ赤にしながら八卦炉を構えていた

 

「おいっちょ…待っ…!?」

 

「問答無用……!!」

 

同時に放たれた思い出のマスタースパークは、至近距離にいた隼斗を飲み込み地上へと激突した

 

「ふん…!」

 

未だに赤面状態の魔理沙は、八卦炉をしまい何処かへ飛び去ってしまった

 

 

 

 

 

「………ったく。たかが下着見られただけでムキになりやがって。しかもマスパって俺じゃなかったら怪我してるっつーの」

 

地面にあいた穴からブツブツ文句を言いながら出てきた隼斗は、砂埃を払いながら辺りを見渡した

 

(……位置的に妖怪の山ら辺か。まあ折角だしもうちょい捜索した後適当に帰ろ)

 

空に意識を向けると、何やら天狗達が騒がしい。当然原因は先程山に打ち込まれたマスパor自分である為、隼斗はそそくさとその場を離れた

 

 

ある程度進んで行くと、辺り一帯が霧に包まれている場所に出た。

いつの間にか山を下りつつ裏側まで来ていた隼斗は、すぐ近くから僅かに聞こえてくる川のせせらぎを耳にした

 

 

 

「……えーと、確か前に紫から聞いた事あったな。妖怪の山の裏に流れる川。名前は……」

 

 

 

 

「『三途の川』。この世とあの世を別ける境界線です」

 

川のせせらぎ以外何も聞こえない静かな場所に凛とした声。

振り返ると二人の少女が此方に歩み寄って来ていた

 

一方は赤い髪を二つに纏めたツインテールと、身の丈程ある鎌が特徴的な長身の少女

 

もう一方は片側だけ長めの緑髪に紅白のリボン、手には笏の様な物を持った少女

 

 

 

「『お久しぶりですね』、柊 隼斗」

 

「……映ちゃん?」

 

「ぶっ…!」

 

途端に吹き出した赤髪ツインテールは、顔を覆いながら肩を小刻みに震わせて笑いだした

 

 

 

「……小町」

 

「…………ゴホンッ」

 

態とらしい咳払いを尻目に、少女は再び向き直った

 

「……その呼び方はやめて下さいと前から言っていた筈ですが?」

 

「……マジで映ちゃんかよ。前と、何て言うか……雰囲気変わったな」

 

「……」

 

飽くまで直す気のない隼斗に、溜息を吐く少女。その横で小町と呼ばれた少女が耳打ちする

 

「四季様、お知り合いですか?」

 

「……昔の知人です」

 

「そこはせめて友人って言ってくれよ。っつーかそっちの娘は?」

 

「あたいの事かい?コホンッ、あたいは小野塚小町。四季様の部下で、主に死神として彼岸への船頭をやってるよ」

 

「死神……!って事はその鎌はまさか斬魄刀か…!?」

 

「は、はあ?」

 

やや興奮気味に食い付く隼斗に困惑する小町は、手に持っている鎌を隼斗へ投げ渡した

 

「見ての通り刃の付いていない飾りモンさ。その『ざんぱくとう』ってのが何なのかはわからないけど、死神のイメージって言えば大きな鎌だろう?だから死者の奴らは大抵イメージ通りだって喜んでくれるよ」

 

「なんだ、『命を刈り取る形』をしてるからてっきりそうなのかと」

 

 

 

「アンタは確か柊隼斗って言ったかい?」

 

「ああ、映姫とは昔馴染みだ。それより映ちゃんって地蔵だったろ?こんな所で会ったのも驚いたけど、部下に死神まで持つなんて閻魔にでもなったのか?」

 

「そうなりますね」

 

「………………えっ?」

 

「この方は四季 映姫様。役職はヤマザナドゥで、わかりやすく言うと幻想郷を担当している閻魔様ってわけさ」

 

「閻魔…!?閻魔ってあの嘘ついたら舌引っこ抜くっつうアレか!?」

 

「舌を抜く……などと言う処罰は聞いた事ありませんが、偽りを口にした者は当然罪状が増えるでしょう」

 

只々驚く隼斗とは対照的に、淡白に答える映ちゃんもとい映姫は、幻想郷を訪れた本来の目的を口にする

 

「さて、そろそろ本題に入りましょうか。今現在幻想郷に起きている異変については知っていますね?」

 

「まあな、さっきまでその調査に当たってたところだ。っつっても原因はさっぱりだけど」

 

「原因ならばわかっています」

 

「うぅっ……」

 

映姫は隣に立つ部下を一睨みした後答えた

 

「幻想郷の外、つまり外の世界で一定周期に起きる幽霊の増加。並びに時同じくして起きる幻想郷を覆う結界の緩み。これらが合わさり幽霊が異常発生したのです」

 

「それと花が咲き乱れる事が関係あるのか?」

 

「本来幽霊は死神の先導の元冥界へと送られます。しかしこの地域を担当している『何処ぞの死神には仕事をサボる癖があり』、その結果幽霊等は途方に暮れ、幻想郷の花々に身を寄せてしまった為に今回の様な異常が発生しました」

 

「…………す、すいません」

 

「あっ、お前か」

 

「もう少しでクビにするところでした。しかし幽霊の数が許容量を超えていたのも事実。仮に真面目に働いていたとしても同じ様な事が起きていたかも知れません」

 

「で、ですよね…!」

 

「………小町、私は貴女がサボっていた事を咎めているのですよ?」

 

「きゃんっ」

 

「……そんで?解決する方法はあるのか?」

 

「ええ。このまま順当に霊魂を彼岸へと導いて行けば時期に収まるでしょう」

 

「なんだ放っときゃ解決すんのか。じゃあ安心だな」

 

 

 

 

 

 

 

「………ところで柊 隼斗」

 

「あん?おいおい映ちゃん、いい加減堅苦しくフルネームで呼ぶのやめないか?せめて苗字か名前、どっちかにしてくれよ」

 

「貴方自身私への呼称を変える気は無いのでしょう?それなのに其方だけの要望が通るとでも?貴方は昔からそうでしたね」

 

「いや……まあ。って言うか、えっ?なんか説教モードに入ってない?」

 

視線だけを小町の方へと向けると、ウンウンと頷く返答が返ってきた

 

「……そう、貴方は些か自由奔放過ぎる。此れまででも……」

 

「悪い急用ができたまたな映ちゃん今度飯でも食おうぜじゃあな!」

 

早口でそう言い残し、土煙を上げながらスタコラと駆けて行ってしまう隼斗を、眉をヒクつかせながら見送る映姫

 

「話の途中で逃げるとは……。今度会った時覚えていなさい…!」

 

「あっ、食事は行くんですね」

 

 

 

 

ーーー

 

 

「いやあ、危ねー危ねー。映ちゃんの説教癖は昔からだもんなー。しかもやたらと長いし」

 

「あら、隼斗?」

 

「ん?おおっ、霊夢。どうしたこんな所で」

 

「どうしたって、異変解決の為に一肌脱いでんのよ。この先が怪しいと思ってね」

 

霊夢は隼斗の後方、妖怪の山の裏側にある三途の川を指差した

 

「いや、もうほぼ解決したぞ」

 

「は、はぁあ?どういう事よ!?」

 

「何でもこの異変は大量に発生した霊魂が花に憑いたのが原因なんだと。だから時間が経てば徐々にあの世に運ばれてって自然解決するらしいぜ?」

 

「何よそれ!結局無駄足じゃない!今日一日中飛び回ったって言うのに!!」

 

「らしいな、お疲れさん」

 

「むきー!!こうなったら隼斗!せめてもの気晴らしに勝負しなさい!」

 

「勝負しなさいってお前は何処ぞのツンデレ中学生か。俺は帰って二度寝できなかった分昼寝するんだ。他を当t……」

 

「霊符『夢想封印』!!」

 

 

轟ッ!!っと隼斗の顔数センチ横を弾幕が通過する

 

 

「あっぶねーな!!ちょっと誰か!誰か警察を呼べェェ!!」

 

「それより異変起こした責任者呼べェェ!!」

 

「俺に言うなァァ!!」

 

 

 




はい、別に次回からVS霊夢とかでは無いです。

只、番外編として隼斗と映姫の過去編を書こうと思うのでお楽しみに^ ^

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