幻想郷の東には寂れた神社がある。
古くから存在するその場所は、『博麗神社』と呼ばれ、代々博麗の巫女が受け継いできた由緒正しき神社であった。
しかし、現博麗の巫女である博麗 霊夢は頭を抱えていた
理由は言わずもがな、今や人間だけで無く、妖怪の溜まり場と化している神社への参拝客がからっきしであり、ついては信仰心も不足していたためだった
そしてある日、博麗神社に一人の少女が訪れる
ーーー
「隼斗ー、入るわよー!」
相手の返事を待たずに、霊夢は戸を開け放った。
隼斗は不機嫌そうに布団から顔を出すと、玄関口に立つ少女へ不満の声を漏らす
「……なあ最近流行ってんの?人が寝てる時に問題持ち込むやつ」
「まだ何も言ってないじゃない」
「お前とか魔理沙がウチに来る時なんて何かしら問題が発生した時位だろ」
「よくわかったわね、正解よ」
「わーいやったー(棒)。……正解者には安眠の為の時間をプレゼントして下さい」
「5秒あげる。……3、4、5終了〜。はい起きて」
「悪魔かお前は。俺は魔人ブウじゃねーんだよ」
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「で?つまらん内容だったら即刻叩き出すからな」
「まあそんなにブスッとしないでってば。……実は今朝神社に客が来たのよ」
「参拝客か?珍しい事もあるもんだ」
「いや、参拝はしてかなかったわ。なにせその客って言うのは巫女だったのよ。別の神社のね」
「えっ、博麗神社の他に神社ってあったっけ?」
「最近出来たみたいよ?よく知らないけど。それでその巫女から、ウチの神社を譲渡するよう言われちゃったのよね」
「いきなりか?随分強引だな………勿論断ったんだろ?」
「その場ではね。後日また来るみたいな事言ってたけど」
「んー、諦める気は無いって事か。仕様がねー」
「行くの?」
「行儀の悪い新人君に挨拶して来るわ。お前は神社で待ってろ」
隼斗はそう言い残し家を出て行った
ーーー
「……あっ、しまった。神社の場所聞いてねー………」
自宅を出て少し経ち、隼斗はそんな事を呟き足を止めた
(んー、まだ寝起きで頭が回ってねーな。今から聞きに戻るにしても面倒だし……そもそも霊夢は場所知ってんのか?)
暫く考え込んだ後、ふと視線をあげた彼の目に、空を駆ける烏天狗の姿が映った
「ふふんふーん♪さーて、何かいいネタは無いかしらーっと」
「おい文」
「うひゃあっ!?……ッッ、って隼斗さん?」
鼻歌混じりに飛行しているところに真後ろから声がかかり、思わず素っ頓狂な悲鳴をあげた射命丸 文は、飛びながらにして飛び退いた
「よ、悪いな突然。早速だけど最近出来たって言う神社について何か知らないか?」
「神社……ああっ、最近幻想郷にやって来た神様と巫女の事ですね」
「神様?」
「はい。どうもウチの山を自分のものにしようとしている他、麓の方でも信仰を集めようしているらしいですよ。私達天狗も手を焼いてます」
「博麗神社と言い、随分横暴な連中だな。そいつらの居場所わかるか?」
「妖怪の山の山頂付近に社を構えています。近くまで行けばわかると思いますよ」
「そっか、サンキュー」
妖怪の山へと進路を変えた隼斗は、その言葉を最後に空中を蹴った
「後で取材させて下さいねー!!」
既に米粒大になった後ろ姿に文はそう叫んだ
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玄武の沢。
妖怪の山にある岩壁に囲まれたこの場所には、河童が生息している
その内の一人である河童の少女、河城にとりは、今しがた出来上がった発明品を試めそうとしていた。
幻想郷に於ける河童は、その多くが高度な技術力を持っており、こうして発明品を生み出しては実験を繰り返している
「よーし!ついに出来たぞ、遠距離飛翔爆弾。名付けて『スティングレイM1』!!無縁塚で拾った設計図を元に作り上げたこの鉄砲の威力、レッツ・試射!!」
にとりは天高く砲口を向け、景気良く引き金を引いた
轟ッ!!っと空気を裂くような爆音が鳴り、高速で射出された砲弾は、天高く一直線に射出された
「やったー!大成k……あり?」
発射成功に浮かれる少女は、しかし目を疑った。
砲弾の直線上に空を走る人影らしきものが一つ
「ん?」
ドガアァァアアン!!と見事に命中。
運悪く撃ち落とされた人影は業火に包まれながら沢へと落下した
「うわああああ!?ゴメエエェエエン!!?」
にとりは慌てて、未だ黒煙を上げながらプカプカと浮かぶ人物に駆け寄った
「…………」
「たたたた、大変だー!!えーとこういう時どうすんだっけ!?……177?天気予報聞いてどうすんだ馬鹿!!いやいやそうじゃなくて落ち着け私…!!」
勝手に慌てふためく少女を他所に、墜落した男は静かに立ち上がった
「あっ、生きて…た…?」
「……ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・だ、クソガキ」
「\(^o^)/」
妖怪の山に消え入りそうな悲鳴があがった
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「いや〜ゴメンね?当てる気は『さらさら』無かったんだよ?」
「……河童だけにか?」
「ぷっ!上手い「あ゛っ?」スイマセンナンデモナイデス」
濡れて垂れてきた髪を掻き上げながら、隼斗は不機嫌そうに近くの岩に腰掛けた
「……俺も此処では長い方だけどよ。流石にロケットランチャーに被弾したのは初めてだわ。くっそ痛ェなアレ。つーかなんであんだよ…!」
「うっ……拾い物の設計図から作ってみたんだけど………なんかアルファベットでE.D.Fって書いてあったかな…?」
「………なんかどっかで見たことあるぞそんな感じのヤツ。侵略者から地球を守る系のゲームとかで」
「本当にゴメンね……。お詫びと言ってはなんだけど、私の発明品『マジック・アームくん2号』をあげるよ」
ヌッと背負っているドデカいリュックから取り出されたのは、棒の先に付けられた手を手元のレバーで操作するタイプの、百◯に売ってそうな機械だった
「いらんわ…!いつ使うんだそれ」
「ほら、木に引っかかった風船を取る時とか、箪笥の裏に落ちた印鑑を取る時とか」
「どっちも自力でなんとかできるっての。それに急いでんだよ俺は」
「急いでる……って、そういえば隼斗は人間でしょ?此処にどんな用があるか知らないけど、危ないから入らない方がいいよ?今新しく来た神様とやらのせいで全体的にピリピリしてるし」
「その神様に用があって来たんだ。幻想郷で色々と悶着起こしてるみたいだからな」
「押しかける気?私の発明品が直撃してもピンピンしてるあたり唯の人間じゃない事はわかるけど、流石にやめといた方が……」
「気にかけてくれるのは有り難いんだけどな。まあなんとかなるだろ」
にとりの制止をやんわりと受け流した隼斗は、山頂に向けて歩き出した
いかん……深夜のテンションでネタに走り過ぎたかも……