東方万能録   作:オムライス_

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92話 VS 現人神

妖怪の山・山頂

 

此処に堂々と建つ社は、最近外の世界から神々と共に幻想郷へやって来たものだった。

近隣には大きな湖が広がり、此れもまた時同じくして移動してきたものらしい

 

 

「ふんっふん〜♪今の所順調に進んでますね〜♪」

 

 

神社の石畳に散った落ち葉を竹箒で掃きながら、鼻歌混じりに緑髪の少女は呟いた

 

「このままいけば此処の住民全てがウチを信仰する日もそう遠くないかも♪頑張らなきゃ」

 

そう意気込み、一層掃除に精を出す少女は、ふと視線の先に一人の男の姿を捉えた

 

 

 

 

 

「こんにちは。どうかされましたか?」

 

「あー……此処は守矢神社で合ってんのか?」

 

「はい!えーと……御参拝ですか?」

 

「……此処の神様とやらへ挨拶にな」

 

男は前方の本殿を見据えながらそう口にした。それに若干の不信感を覚えた少女は、静かに警戒の色を濃くしながら尋ねた

 

「………失礼ですが貴方は?」

 

「一応博麗神社の関係者だ。今朝方ウチに来たんだってな。神社を明け渡せって」

 

「………それを知って此処へ来たって事は、ウチの神様を勧請しに来たという事でしょうか?」

 

「ホントにそう思ってんなら随分おめでたい思考回路してるよお前さんは」

 

 

今度こそ少女は身構えた。

目の前の男は間違っても参拝客などではないと知り、竹箒を脇に捨てると、お祓い棒を手に取った

 

「つまりカチコミってヤツですか?」

 

「さあな。そっちの出方次第だ」

 

「……私達は此処の信仰心全てを手に入れる!そうすれば信仰を失いかけている幻想郷は救われます」

 

「それで博麗神社も妖怪の山も抑えるってか?そっちの神ってのは随分強欲なんだな」

 

「っ!あの方達への侮辱は許しませんよ…!!」

 

「………どちらにせよ今のお前たちのやり方は気に入らねェ。話し合いが出来ねェならやる事は一つだ」

 

言葉は淡々と、纏う空気は重々しく男は答えた

 

「私とて現人神の末裔。神に仇なす貴方を通すわけにはいかない……!!風祝『東風谷 早苗』参ります!」

 

「現人神……通りで神力を感じる訳だ。いいぜ、此処のルールで遊んでやるよ……!」

 

空中に飛ぶ事で隼斗から距離を取った早苗は、その頭上に白昼にもかかわらず煌めく星を出現させた

 

「奇跡『白昼の客星』!!」

 

星から降り注ぐレーザーが一挙に隼斗に向かった

 

「障撃『血霞の盾』」

 

隼斗とレーザーの雨を遮るように真紅の障壁が展開され、弾幕全てを遮断。

更に障壁は砕け散り、その破片は弾幕となって早苗へと撃ち出された

 

「ッッ!?」

 

予期せぬカウンターに紙一重で躱した早苗の袖先を鋭利な破片が切り裂く。

指向性を持った弾幕であったなら、全弾被弾していたと青褪める早苗の真上から声がかかった

 

「ボーっとすんな、現代っ子」

 

連続で突き出された拳から放たれた『唯の拳圧』が、弾幕となり降り注いだ

 

「現代っ子でも根性はあります!!」

 

半身が隠れる程度の小さな障壁を展開しながら弾幕を受けつつ躱し、再び距離を離した早苗は、重力に従い落ちていく隼斗の周囲を回りながら弾幕を撃った

 

隼斗も同様に両掌にコンパクトな障壁を貼り付け、身体を回転させながら優雅に弾幕を受け切り着地する

 

「狙いは良かったけどな。お前自身が俺の動きに追い付けないんじゃ意味無ェぞ。ハナっから周囲を囲むように弾幕を配置すべきだったな」

 

「何を偉そうにッ!稽古でも付けているつもりですか……!!」

 

「おいおい人の助言は聞いとくに越したことは無いぜ?此れでも博麗の巫女含め弟子は多い方なんだ」

 

「!……貴方が?」

 

 

 

パチンッ!と隼斗が指を鳴らす。

次の瞬間には早苗の周囲に弾幕が取り囲むように配置された

 

「……そら、二回目だ」

 

「くっ!!」

 

隼斗の合図で一気に押し寄せる弾幕を躱す手立ての無い早苗は障壁を展開して凌ぐしかなかった。

それを見越してか障壁越しでも衝撃が響く程の威力で次々着弾してくる弾幕に、歯を食いしばり耐える早苗

 

 

やがて弾幕が止み、肩で息をしながら早苗は地面に降り立った

 

「い、いつの間に……?」

 

「お前が弾幕撃ち終わって動きを止めた瞬間からだ。術で不可視にしてたとは言え、よーく意識を凝らして見ればわかるようにしといたんだけどな」

 

「!?……ここまで力の差が…!」

 

 

 

 

お祓い棒を握る手に力が入り、体全体を強張らせる早苗を見て、隼斗は一言告げた

 

 

 

「黙ってやられるだけなら誰でも出来る。……根性、あんだろ?窮地に立った時こそ食らい付け」

 

「!」

 

 

 

 

相変わらず早苗は強く固く力を込め続けた。

しかし震えは無く、握り締めた拳は解かれ、体全体に力を浸透させていく

 

 

 

「お名前伺ってもいいですか?」

 

「あん?何だよ急に」

 

「いえ、何となくです」

 

「……柊 隼斗だ」

 

「………隼斗さんの言った通り思い切り食らい付きます!覚悟はいいですね?」

 

 

 

「さっさと来い、『早寝』」

 

「『早苗』です!!」

 

早苗は飛び出し、すぐ様弾幕を放つと、隼斗の足元を吹き飛ばした

 

「!」

 

「ーー『ーーーー』!」

 

砂塵が舞い、一瞬の目くらましになったと同時に早苗は攻撃に移る為のスペルを口にする。それらは事前に放った弾幕の着弾音により掻き消され、隼斗自身もスペル名を聞き取れなかったが、土煙に紛れて現れた新たな弾幕には反応することが出来た

 

(星型に連なった赤青弾幕……密度はそれ程濃くはねェな)

 

バックステップを交えながら一つ一つ正確に躱していく隼斗は、応戦する為にスペルカードを発動させる

 

「破道『三ノ龍』」

 

赤・黄・青の三色の焔玉を龍の姿に変え、其々動きをバラけさせながら前方に放った

 

これは彼のスペルカード、破道『三ノ火』の上位版であり、又、彼の持つスペルカードの中ではかなり強力なモノだった

 

弾幕を撒き散らしながら突き進む龍は早苗の弾幕を一瞬で飲み込み、その大口を開けるかのように三頭が対象へと向かった

 

(さあどうする?生半可なスペルカードじゃコイツは破れねェぞ……)

 

 

早苗は回避行動を取ることなくその場に立ったまま、その圧力に押されながらも微笑を浮かべ、この戦い最後のスペルを口にする

 

 

 

「ーーー大奇跡『八坂の神風』」

 

 

突如辺りに烈風が吹き荒れる

 

それは小さな台風のように辺りに渦巻き、辺りの木々を揺らしながら、前方に拡散

 

 

ーーー正しく神風の如く、三匹の龍を一瞬で掻き消して隼斗すら飲み込んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び守矢神社の石畳の道に紅葉した落ち葉が弧を描きながら舞い落ちる

 

 

 

「……」

 

「あっ…!」

 

以前と変わらぬ場所に立ち、彼の周囲を囲うように展開された障壁。

早苗はその光景を目の当たりにし、この勝負は決した

 

 

「……参りました。どうぞ、お進み下さい」

 

早苗は深く一礼すると、端に避けて道を開けた。

隼斗は黙ったまま歩みを進め、彼女の横を通り過ぎる瞬間一言呟いた

 

 

 

 

「上出来だ、『早苗』」

 

「!」

 

本殿へと歩いていく隼斗へ、もう一度一礼した早苗は一言呟いた

 

 

 

「ありがとうございました!」

 

 




次回の投稿日につきましては、ちょっと時間が取れないため未定です……
なんとか一週間以内には………。決まり次第活動報告に載せます^^;

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