輪廻の檻 ―異世界で再会した幼馴染は、俺を知らない敵だった―   作:あすらりえる

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第14話:傀儡の魔物の群れ

 冒険者ギルドでゴブリン討伐と薬草の採取依頼を引き受けた海里は、一人、王都からほど近い森の入り口に立っていた。

 

 依頼自体は容易だが、ルクスの力を継承して以降、身体の動きに慣れる実戦経験を積むにはちょうど良いと考えていた。

 

 そして、森へ足を踏み入れようとしたその時、背後に気配を感じて海里は振り返った。

 

「……一人で行くって言ったんだけどな」

 

 海里が苦笑しながら視線を送った先には、冒険者ギルドの先達レンとリズが立っていた。レンはメイスを肩に担いでおり、もう一方のリズは魔道士用の杖を抱えていた。

 

 レンは笑みを浮かべながら言った。

 

「俺は別で狼退治の依頼を受けてるだけだぞ。道中が一緒になりそうだっただけだ」

 

 リズもまた、いけしゃあしゃあと続けた。

 

「私は、とある特殊なキノコが必要だっただけ。海里と森に来るタイミングがいっしょだっただけで、単なる偶然よ」

 

 自分たちの行動を正当化しようとする、二人の様子が見て取れた。

 

「……そういうことにしておくよ」

 

 海里はそれ以上突っ込まず苦笑した。きっと、受付のマーカスが、新人の海里をそれとなくフォローしてやれと、この二人に依頼したのだろう。経験豊富な彼らが一緒なら、海里もまた自身の戦闘技術を磨くための訓練に集中できる。

 

 そうして三人は森へと足を踏み入れた。

 

 レンはメイスや戦斧を使う戦士ならではの冒険談を語って聞かせ、対照的にリズは、王都に広がる噂や、森の動植物に関する知識を教えてくれた。

 

 ルクスから得た記憶を定着させる必要のある海里にとって、実際の経験談は非常に有用だった。

 

 薬草採取の依頼は、リズの知識のおかげで、予想より早く完了した。

 

 しかし、本命のゴブリン討伐と、レンが引き受けた討伐対象の狼を探すうちに、三人は森全体の異変に気づき始めた。

 

「なんかおかしくねぇか……」

 

 最初に口を開いたのはレンだった。彼は足を止め、注意深く周囲を見回す。レンの言葉に、海里とリズも警戒心を高める。

 

 三人の視線の先には、数匹のゴブリンと狼の群れの姿があった。

 

 奇妙なことに、魔物たちは海里たちの存在に気づいているにもかかわらず、襲いかかってこない。

 

 瞳は虚ろで、本能的な殺意をどこかに置いてきて、森の中を徘徊しているだけのように見えた。

 

「そうね。偶然で魔物はあんな状態にならない。誰かがこの状況を作ってるのかも」

 

 リズは手に持っている杖をゆっくりと構えた。

 

 海里はその言葉を聞き、ジュノアたちと王都に向かう道中で遭遇したゴブリンと狼の様子を思い返していた。あの時は、魔物と賊は別々に現れたが、もしかしてと思うことはあった。

 

「……賊が何かしてるのか?」

 

「最近、王都の外で賊は増えているって聞くけれど……」

 

 海里の呟きを拾ったリズが思案するが、事実は分からない。何にせよ、魔物の群れは討伐依頼の対象に変わらない。三人は、それぞれの武器を構えて、魔物たちに向かっていく。

 

 先陣を切ったのはレンで、彼はメイスを豪快に振り回し、ゴブリンを文字通り粉砕していく。

 

 リズは杖から炎の火球を連続して放ち、遠距離から確実に魔物を仕留めていく。彼女の魔法は正確無比で、レンのメイスが届かない範囲を完璧にカバーしていた。

 

 ゴブリンが彼女に近づこうとしても、彼女は瞬時に懐から投げナイフで応戦していた。

 

 海里は、二人の戦い方に感嘆しつつ、ジュノアから譲り受けた剣を構えた。

 

(レンはメイスで魔物を殴り倒す。リズは炎魔法の使い手。二人のおかげで敵の数は少ない。重力の魔力を試すには、うってつけだ)

 

 海里は王都に向かうときと同様に、魔物の攻撃を紙一重でかわし、その勢いを利用してカウンターで仕留めていく。

 魔物の数が減ってきたところで、重力の魔力を使用してみることにした。迫りくるゴブリンの一匹に向かって手をかざす。

 

 ゴブリンの身体が鈍くなり、海里はその隙を見逃さず、剣でゴブリンを仕留めていく。

 

 ルクスから託されたものと合わせて、二人分の身体能力を持つ海里にとって、ゴブリンや狼は敵ではなくなりつつあった。

 

 戦闘が終わり、三人が短い休憩を取っていると、不意に不機嫌そうな幼い声が響いた。

 

「ちょっとあんたたち!わたしたちの兵隊さんを何で倒しちゃうのよ!」

 

 声の主は、まだあどけなさの残る少女だった。少女は、魔物の皮で作られたような不気味な鞭を手にしながら地団駄を踏んでいた。

 

 同年代の少年がもう一人いて、彼は身の丈以上の大きな鎌を手にしていた。

 

 そして、彼らの後ろに、虚ろな目で静かに佇む一体のオーガがいた。命令を待つ化け物から漏れる低いうなり声が、海里たちに警戒心を抱かせた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 リズが推測した通り、森の異変が偶然ではなく、人為的なものだと証明された。

 

「まさか、こいつらが……」

 

 海里は二人から目を離せなかった。

 

 鎌を持った少年は笑みを浮かべ、海里たちに向かって言葉を続けた。

 

「この間も僕たちの操る魔物たちが騎士団にやられたんだ。僕らの手足が何度もやられると困っちゃうんだよね」

 

 彼の口調は軽薄だが、その目は全く笑っていなかった。

 

「騎士団と冒険者に協力されても困るし、三人ともここで死んでよ。いいよねリリィ?」

 

「それでいいわ、ロロ。さあ、オーガちゃん、あいつらを倒しちゃって!」

 

 リリィと呼ばれた少女は、甲高い声でオーガに命じ、それに応えるように、オーガは野太い雄たけびをあげて動き出す。

 

「双子の賊か……。魔物がおかしいのは、こいつらの仕業だったのか」

 

「オーガまで操るなんて……厄介そうね。どう相手しようかしら……」

 

 レンが臨戦態勢に入り、リズも杖を構えて表情を引き締めた。

 

「ここで逃げても、追ってこられるだろうな。リズ、あの鞭を持ったリリィって奴を抑えてくれないか?」

 

「ん?分かったわ。あの女は私が相手する」

 

 リズは即座に了承し、杖の先端に魔力を集中させ始めた。

 

「レン、俺はあの少年ロロを抑える!試したいことがあるんだ。悪いけど、オーガの気を引いてくれないか?」

 

 オーガは体躯が大きく力も強い。だというのに、凄まじい勢いで迫ってくる。

 

 

「好きにやれよ、海里。隙を見つけてぶっ叩くからさ!」

 

 レンはメイスを構え、オーガを真正面から迎え撃つ準備を整えた。

 

 三人の冒険者と、魔物を操る双子の賊とオーガによる戦いが始まった。

 

 冒険者になった海里の初依頼は、討伐・採取依頼から一転し、生死をかけた戦いへと変化した。

 

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