輪廻の檻 ―異世界で再会した幼馴染は、俺を知らない敵だった―   作:あすらりえる

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第23話:その想いは力となる

 日差しが照りつく練兵場で海里とラルフの決闘が続く中、海里の首から下がっている形見のペンダントが、唐突に白い光を放ち始めた。

 

 転生してから何度かペンダントが発光することはあったが、戦闘中ははじめてだったことで、海里は内心で動揺していた。

 

(また光って……!?何でこのタイミングで……?)

 

 決闘の中で海里が考えていたことは、「ルクスの死を無駄とは言わせない」という想い。

 

(リーファを助けたいと思った時も、ルクスの死に悲しむジュノアを見た時もペンダントは光った。……俺の想いに反応して光るのか!?)

 

 その光は海里の持つ剣へと伝播していき、彼の剣は輝く光を帯びていた。その様子を動きを止めて見ていたラルフが訝し気に呟く。

 

 

「……お前、光魔法も使え……いや、違うみたいだな。……魔道具か?」

 

 

 ラルフの瞳にははっきりと警戒心が浮かんでいたが、海里は冷静に事実を返す。

 

 

「これは……亡くなった幼馴染の形見だよ」

 

 

「……お前自身もよく分かってないのか?だが、さっきまでと様子が違うのは認める。俺も少しは本気を出す」

 

 ラルフがそう告げると、彼の持つ槍先に炎が渦を巻いた。それに呼応するようにラルフの体全体から赤い魔力が立ち上り、周囲の空気が熱で揺らぎ始める。彼の筋肉が硬く膨張し、腕や首筋の血管が熱を帯びたように赤く光る。

 

 ラルフの行動に応えるように、海里もまた剣を構えた。

 

 光り輝く海里のペンダントと剣に、ラルフは警戒を緩めないまま短く告げた。

 

「行くぞ」

 

 間髪入れずに放たれる突きの連撃。ラルフが地を蹴るたびに練兵場の土は焦げ、爆ぜ、黒い足跡が刻まれていく。唸りを上げる炎槍の暴風に対し、海里は白い光を帯びた剣で軌道を強引に逸らし続ける。ペンダントが光り始めてから、それまで維持していた重力の魔力が掻き消え、剣を包むのは白い光だけになっていた。だが、本領を発揮したラルフの猛攻は海里の予測を遥かに凌駕していた。

 

(ッ! さっきまでと違う。速すぎる……それに、この熱!)

 

 反撃の糸口を探るも、槍の穂先が描く炎の弧が海里の退路を断ち、爆ぜる熱波が視界と酸素を奪っていく。

 

 海里は焦燥を押し殺し、決死のカウンターを狙って踏み込んだ。ラルフが槍を大きく振るい、広範囲を焼き払う炎の渦となり、それが紙一重で海里の横をすり抜ける。

 

 大振りで隙を見せたラルフの懐へ潜り込もうとする海里に、ラルフの口角が吊り上がった。

 

「甘ぇ!」

 

 槍を回転させ、瞬時に炎の障壁を築き上げる。海里の白い光を帯びた剣がその火の壁に衝突した瞬間、練兵場にまばゆい閃光と耳を劈く轟音が炸裂した。

 

 砂塵が舞い、熱気で歪む視界。その中で、二人の攻防はさらに苛烈さを増していく。 いつの間にか、練兵場にはジュノアだけでなく、異変を察知した騎士たちが集まり始めていた。誰もが言葉を失い、二人が放つ火花と気迫を、ただ固唾を呑んで見守っていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 荒い息を吐きながら、互いの武器が火花を散らす。その至近距離で、ラルフが絞り出すように問うた。

 

「海里……! お前は、何でそこまで死んだルクスに執着する! お前にとっちゃ、たまたま出くわしただけの他人なんだろうが! なんでそこまで……」

 

 ラルフの瞳には、ルクスのために怒る海里が理解出来ないといった感情が見て取れた。当然だ、同じ騎士団で長く過ごしても、彼の最後の場面に居合わせなかった者からすれば、そう思われるだろう。 海里は、そんなラルフの眼差しを真っ向から見返して吠える。

 

「他人だからどうした! 自分が死ぬ間際だってのに、その他人の俺を生かして、……笑って逝った男なんだぞ! 俺はそんなルクスを心から尊敬している。……それだけだ!」

 

 続く海里の叫びが、熱波に歪む練兵場の空気をも切り裂く。

 

「付き合いの長さなんて関係ない! 命を懸けて俺を生かした男のことを無駄死にだなんて言葉で片付けられるのを……俺は絶対に許さない!」

 

 海里の答えを聞いていたラルフが、腹の底から絞り出すような咆哮を上げた。それに呼応し、彼の槍が爆ぜるような音を立てて最大出力の炎を纏う。練兵場の空気が一瞬で焼き尽くされ、陽炎が視界を歪めた。遠巻きに見守る騎士たちの顔に、肌を焼くほどの熱風が吹きつける。

 

「そうかよ! お前も、ジュノアも、死んだ奴の影にいつまでも拘るんじゃねぇ!」

 

 ラルフが地を蹴り、炎の螺旋を纏った槍が海里を穿たんとしなる。 対する海里は逃げなかった。白い光を帯びた剣で反撃の一撃を放つ。

 

 炎の奔流と白い光が正面から激突し、衝撃音とともに一撃を防いだラルフが歯噛みする。

 

「ちぃっ......! さっきの重力とは違う......何だこの力は......ッ!」

 一瞬、衝撃で動きの止まったラルフに対し、海里は視線を外さずに問いかける。

「俺とジュノアがルクスの死に拘ってるって?なら聞くが、ラルフ。......あんたこそ、ルクスの死に拘っていないと言えるのか!?」

 

「あぁ!? 何を……ッ」

 

 その問いは、ラルフの虚を突いた。二人を見守るジュノアもまた、驚きに目を見開く。

 

 海里が問いかけた理由は、ラルフと戦う中で、彼の人物像をルクスの記憶から得たから。ラルフとルクスは背中を預け合い、互いの背を追い続けた好敵手であり、決して険悪な関係ではなかった。

 

(もしかしたらラルフは……)

 

「ルクスの死は決して無駄なんかじゃない!それをラルフ!――あんたにも見せてやる!」

 

 叫んだ瞬間、胸元のペンダントが白い光を放ち始めた。

 

「お前……何を、ふざけたことを……!」

 

 ラルフが再び炎を滾らせ突進してくる。だが、その炎がわずかに、確かに、勢いを削がれていた。

 

「……なんだ、俺の炎が……弱まってる……?」

 

 動揺しながらもラルフは止まらなかった。意地だけで槍を振り続ける。しかし光は着実に広がり、炎の渦をじわじわと白に塗り替えていく。

 

 海里は剣を振りかぶるのをやめた。一歩、前へ踏み出す。

 

『ルクスの死を、無価値なものにさせない』

 

 その想いに応えるように光が収束し、純白の領域が二人を包んだ。

 

「な……っ!? 俺の炎が、消える……!?」

 

 練兵場の喧騒が遠のき、世界が白く塗り替えられていく。ラルフが動揺して動きを止めた瞬間、海里はすでに目の前へと距離を詰めていた。そして、胸元のペンダントの光が、ラルフの意識へと情景を送り込む。

 

 血にまみれて、もう助からない傷を負った男が安堵とともに浮かべた笑顔。

 

『どうか、生きて……。――兄さん、ジュノア……ごめんよ……』

 

 それは、ルクスの最期の独白。ラルフが無駄だと言った男の最期の瞬間。

 

「――っ、あ……あああああ!」

 

 ラルフの槍から力が抜けた。 光が収まった時、海里の剣はラルフの喉元で止まっていた。だが、もう剣と槍をぶつける必要はなかった。

 

 ラルフはふらふらと数歩後ろに下がってから膝を突き、地面に槍を突き刺した。炎は消え、ただ一人の男としての慟哭だけが練兵場に響き渡る。

 

「……バカ野郎が!!……笑って死んでんじゃねぇよ、ルクス!お前が死んじまったら張り合いがねぇんだよ!」

 

 それはルクスの死を正しく受け入れた男の叫びだった。 その心境の吐露に、海里は静かに剣を下ろして、荒い息をつきながら戦意の灯火が消えたラルフを見つめた。

 

「本当は……ルクスの死が無駄なんて思ってなかったんだろ。……でも、彼は後悔なんてしていなかった。俺はそれだけを伝えたかったんだ……」

 

 周囲で二人の戦いを見守っていた騎士たちから、誰一人として声は上がらない。

 

 ただ、ジュノアだけが二人の姿を涙を堪えながら見つめていた。

 

(……海里、ルクスのために怒ってくれてありがとう。私だけじゃなくて、ラルフの抱えていたわだかまりも晴れたわ)

 

 

 

 □■□■□■□

 

 

 

 練兵場を包む静寂と、膝を突くラルフの慟哭。それを上空から見下ろす一人の男性騎士の姿があった。その騎士の周囲で、濃密な魔力がばちばちと音をたてて空気を震わせている。

 

 彼は、海里の放った光の正体を測りかねていた。だが、その光が収まった後の練兵場に流れる空気を見れば、彼がラルフのわだかまりを解消したのだと理解した。

 

 直後、雷鳴の残響だけを残して、その姿は練兵場の空から消えた。

 

 

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