決して負けない七星剣王   作:」(UWU)「

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完勝無敗の騎士

 

 

 

 ――恐らくは、彼は僕よりも僕の剣を知っている。

 

 

 

 奇妙な事に僕、黒鉄一輝の剣を使い手本人よりも彼は熟知していた。

 切り出しの癖も、体幹移動の瞬間も、視線の動かし方も。僕ですら気に留めないような些細な行動すらも、それら全てを彼は理解している。

 僕の観察眼を軽く超えるような圧倒的な洞察眼でこちらの手の内を赤裸々に把握してくる。

 

 なるほど、これなら確かに伐刀者(ブレイザー)の頂点、()()()()……剣の王に相応しい。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と思ってしまうほどに力の差は歴然だった。

 

 

「だからこそ! 僕の最弱を以て、君の最強を打ち破る――――ッ!」

 

 

 留年の処分取り消しを賭けた決闘。その相手に選ばれたのは他ならぬ七星剣王・浅草再蔵(あさくささいぞう)だった。

 彼は僕と同級生でありながら高校入学後、その年に七星剣王となった稀代の天才。感情を表に出さない能面のような無表情で淡々と戦う事で有名な伐刀者だった。

 そして何よりも、彼について語るのならば切っても切れない話がある。

 

 

 それこそが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()である事だ。

 

 

 人々は彼を天才だと称え、世界の頂点だと指さした。

 何せ、七星剣王を決める戦いである七星剣武祭、いいやそれよりももっと前の出場者を決める選抜戦ですら、彼は敵の猛攻を見切って一度たりとも一撃を入れられた事は無い徹底ぶり。非公式戦でもその容赦の無さは発揮され、傷一つ負った試しはない。無類の強さを誇る伐刀者として名を馳せている。

 

 完勝を重ねる彼を誰もが天才であることを疑わない。

 

 ――だが、それはきっと違う。

 

 この短い切り合いの中でソレは確信に変わった。

 彼は僕よりも、きっと世界中の誰よりも努力した剣を持っているのだと思う。

 

 才能にかまけた人間があそこまで無駄を削ぎ落した完成され尽くした剣を振るえるだろうか。

 たとえ人の一生をかけたとしても辿り着くことができないような惚れ惚れするような美しい剣になるだろうか。

 

(まるで僕の完成形……)

 

 傲慢にもそう思ってしまった。

 

 剣技のみで並みいる強豪達を討ち果たし、努力で彩られた剣を誇りとす。

 洞察眼で未来を見通し、敵の剣術すらも自らの肥やしとす。

 まるで自分が望む究極の姿が目の前にいるようで、目が眩んでしまう。

 

「はぁァ!!」

「…………」

 

 戦いは常に剣王有利に進む。その剣術に加え、こちらの動きを完全に先読みしてくる洞察眼。まるでもう一人の自分が相手をしていると錯覚するような戦い方をすると言うのに、こちらからは相手の手の内が全く読めないむずがゆい状況。

 

 どちらかと言えば派手な戦い方ではない。伐刀者の奥の手である伐刀絶技(ノウブルアーツ)はおろか身体強化すら使わず、その技術と洞察眼だけで進める戦い方は地味と言って差し支えない。

 だが、その洗練された地味さが彼の強みだった。

 

 だったらどうにかして突破口を作る必要がある。

 

 ――だが、この場での自身の「伐刀絶技」である「一刀修羅」は悪手。そう直感が囁いた。

 彼はまず間違いなく、一刀修羅の身体強化に素で付いて来る。そんな確信めいたものがあった。ならば一分で戦えなくなる足枷がついて回る一刀修羅は不適切。それどころか明確な弱点になってしまう。

 

 まだ希望があるとするならば彼は思いのほか、打ち合いに乗ってくれている。

 そこに勝機は必ずある。

 

 耐えろ黒鉄一輝。勝ちを焦るな。

 そう自分に言い聞かせる。

 

 

「――――、」

 

 

 相変わらず何を考えているのか、その一切を悟らせない無表情の剣王。

 どうしても動きが大袈裟になってしまう大ぶりな大剣(固有霊装)で器用にもこちらの剣と打ち合いを続ける。

 

 だがどこか含みのある態度だった。

 

 まるで「()()()()()()()()()()()」と挑発されているようで足踏みしてしまう。

 これでもしも、僕が「一刀修羅」を最後まで使わずにこの戦いを駆け抜けたとしたら。

 

 己が全力を出さずして彼に真の意味で勝てると言うのだろうか――。

 

「ごめん! 僕がやっぱり間違っていた。それはあまりに相手に失礼だ」

 

 きっとそれは僕自身の為にならない。

 それは僕が目指す騎士の姿じゃない。

 

 だから。

 

「――一刀修羅ァ!!」

 

 戦いの決着は、一分()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『勝者は七星剣王、浅草再蔵!!』

 

 無情にも、試合終わりのゴングだけが現実を突きつける。

 

 結果としては一刀修羅の効果時間逃げ切り。いいや、言い方を選ばないならば僕が勝手に自滅した。

 僕が勝ちを焦った事を利用して終始こちらの単調になった剣筋を見切り、淡々と対処した。最初の懸念通りの結末となってしまった。

 

 一太刀こそ浴びせられなかったのは心残りだが、これで良いのだと一応の満足はした。

 

 

 ひそひそと、この試合を観戦していた人たちが僕への当てつけのように話す。

 

「流石は歴代最強と名高い七星剣王だ。手の内を読みつくした素晴らしい戦いだった」

「それに比べ黒鉄一輝はどうでしょうか。自ら自爆を選ぶとは情けない事極まりない」

「相手との戦力差を見誤ったのでは?」

「ああ、きっとそうに違いありませんね」

 

 

 留年という判断を覆せそうにないことが、僕をこの戦いに送り出してくれた先生たちに申し訳が立ちそうにない。

 きっと優しいあの人達は「七星剣王が相手とは運が悪かった」と言ってくれるのだろう。

 

 

「……黒鉄一輝」

 

 

 その時、初めて彼が縫い付けられたような口を開いた。

 今まで彼の試合の録画などを見てきたが、初めてその声を聴いた。

 

「負けてしまったけれど、良い勝負だったよ。ありがとう」

 

 実際、実りになる物は多かった。

 彼の剣からも学ぶ物はあったし、僕自身の問題点も相当数洗い出せた。

 

 何よりも、あの七星剣王が忙しい時間の合間を縫って僕との試合を行ってくれたのだ。それだけで十分すぎるほどの価値がある。

 

 

「……これまで戦ってきた、騎士の中で、誰よりも、一番、お前が手強かった」

 

 

「え?」

「世辞、では、ない」

 

 普段話さないからか、枯れた老人のような声で彼は不器用なりに言葉をひねり出した。

 たったその言葉だけで、今にも気を失いそうな程疲れ果てた体に熱が灯った気がした。

 

 彼は今まで僕のような落第生と違って、途方もない強者たちと戦ってきたはずだ。その彼は僕が最も手強かったと言った。

 その言葉が本当なのかは確かめようがない。

 

 でも。

 

 ざわざわと話す周りの大人たちの声すら聞こえなくなるような熱だった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。この感覚、久々に、楽しかった……」

 

 それを最後の言葉にして幽鬼のようなおぼつかない足取りで彼はスタジアムを後にした。

 彼の背中は同年代に似つかわしくない程やけに大きく見えた。

 

「あれが七星剣王。完勝無敗の騎士、浅草再蔵……」

 

 もし願わくば、もう一度彼との試合を乞う。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 あー、疲れた!! もう二度としたくない!!! う〇ち!!(キチゲ発散)

 

 

 うーん、大体一九万ループぶりぐらいに自我を取り戻した気がする。それほどまでに彼との戦いの勝利は格別だった。

 

 特にここ最近は精神が摩耗しきって完全に戦うだけのマシーンと化してたような。

 作業ゲー堕ちしていた状況から、俺の自我を引きずり出すぐらいには最後のループは久々に楽しかった。もう二度としたくないけど。

 

 それにしても黒鉄一輝くんには悪いことをしちゃったかな。

 と言っても俺には勝つ以外の選択肢が無いからなぁ。

 

 

 まあ、ぶっちゃけ種明かしすると勝つために時間逆行みたいな事してたからどうあがいても勝つのはある種当然の事なんだけどさ。

 

 

 これが俺の伐刀絶技、「不敗伝説(ビギニングワン)」。

 その効果は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ただそれだけ。

 自殺しても発動するおまけ付の強制発動型の使い勝手が悪すぎるクソ能力、という奴だ。

 

 正直、今までどれだけループしたかなんて忘れてしまったが()()()()()()()()()()ぐらいだろう。何回か数えるの辞めた事あったから多分だけど。

 ……やだ、わたしって弱すぎ!?

 

 黒鉄一輝くんはそんなうん万回ループした俺が忘れていなければ今まで戦った相手の中でぶっちぎりで一番強かった。

 それは単純な腕前のことを指すのではない。

 

 戦いの中で成長し続ける点にある。

 

 俺の戦い方は良くも悪くも()()()()()()()()()()()だ。

 相手の動きを知り、思考パターンを学び、無意識下すらも把握する。必要とあらばその人の良き友人となり、仇となり、ライバルとなり、恋仲になる。その上で勝つ為に戦い方を組み立てる。いわばRTAの為に練られた綿密なチャートのような物に沿って戦いを行う。

 だが、戦いの中で変わったら積み上げた物が通用しなくなる事もある。

 

 

 それが二〇万という数字だ。

 

 

 俺が黒鉄一輝くんを倒す為にループした回数。普通のそこらの伐刀者なら多くても五〇回そこら、他にも例えばきり、きり何とか君の透明になる弓でもせいぜい一五〇回程なのだが彼は文字通り桁が違う。確かそれまで一番ループ回数が多かったのは偶然戦う機会があった『比翼』の八九〇二四(89,024)回……約八万回だったはずだ。

 

 まさしくぶっちぎりのトップ。黒鉄一輝くんヤバすぎwww。いや、笑いごとじゃないけどさ。

 

 

 こちらが彼を倒す為に調整を行えば、こちらの剣を吸収してその分だけ強くなる。

 こちらが手を抜いて戦えば、そもそも勝てなくなる。

 

 さらに時間をかければかけるほど、指数関数的に強くなってどんどんと手が付けられなくなる。特にどっかのループだと強くなりすぎて常時一刀修羅状態で剣技を完璧に模倣してくる化け物と化してたし。実像ある分身をダース単位とか冗談だろ。

 

 だからいかにして早い段階で一刀修羅(時間制限)に持ち込ませるかが問題だったんだけど何とかなって良かったわ。やっぱ最後は運だよ運。

 もう二度と戦いたくない相手だわほんと。

 

「すまなかったな、浅草」

 

 お、新宮寺先生オッスオッス。

 

 スタジアムから選手控え室に、置いた私物回収に向かう途中の廊下で呼び止められた。

 いやあ、黒鉄一輝くん擁護派の第一人者みたいな先生に謝られるのはちょっと変な感じが。

 

「…………、」

「聞いているのか、聞いていないのか。そんなこと今は問うまい」

 

 ばっちり聞いてますよ、うん。

 その証拠に呼び止められたから止まってる訳ですしおすし。

 

「今回、黒鉄の進級に課せられた条件は()()()()()()()浅草再蔵との試合に勝利を収めることだった。黒鉄ならばあるいはと縋ってみたが、やはり結果は変わらなかった」

「…………」

 

 いやあ、そのあるいはが多すぎて徒労感半端なかったっすよ。

 久々に勝てるビジョン浮かばなかったし。

 

「お前には大人の事情で度し難い役回りをさせてしまったな」

「…………」

 

 ほんとだよ。

 

「何か、言ってみたらどうだ?」

「…………」

 

 いや、だってさ。何言っても次負けたら無かったことになるし……。

 コミュニケーションを面倒だと思うタイプのコミュ障になってしまったのですよ先生。

 

「まあ、良い。……何か奢ろう。それぐらいはさせてくれ」

 

 今夜は焼肉だぁぁぁぁぁ!!! いやっふぅぅぅぅぅぅうぅぅぅ!!

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 今までも、そしてこれからも埒外の剣というのは続々と現れる。

 

 

 少なくとも新宮寺黒乃はそう思っている。

 次世代の騎士が育つのは破軍学園に勤める一人の教員として喜ばしい事だ。勿論、剣以外の戦い方や魔力の使い方も重要であるが。

 

 例えるとするならば黒鉄一輝の剣は光る物があった。その境遇も鑑みて今回のマッチアップを何とか取り付けた。それほどまでには新しい世代に期待できる物だった。

 

 

 だからこそ初めてその剣を見た時はぎょっとした。恐らくは同じ剣の道に生きた者であれば皆同意するだろう。

 

 

 通常、人はあそこまで()()()()()()()()()()()()()を振えない。

 剣は騎士を映す鏡だ。敵意や勝利への願望、あるいは他人を守ると言った振う者の願望が映る。感情も同様だ。どんな人間であれ、託した願いは隠せない。

 

 

 だが今代の七星剣王の剣にはそれが無い。

 

 

 まるで荒野を見ているようだった。

 果てしなく広がる荒れた大地以外何もない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それがあれの正体だ。

 

 

 何をどうしたら学生にあんな熟練の剣を振るえるのか不思議でならない。

 

 

 戦い方にしたってそうだ。まるで勝つ為に専用にチューンナップした戦略は勝つこと以外まるで何も見ていない。相手から学ぶ事も無ければ、自分から学ばせるつもりもない酷く身勝手な押し付けのような戦い。

 そこから学びを得る者が居るとすれば、世界でも一握りの強者だけだ。

 

 そう、あまりにも淡々とし過ぎている。

 相手が右手を動かしたから左手を動かした。相手が左足を踏み込んだから右足を一歩後ろに逸らした。そんな決められたルートを辿って動いて、最終的に勝っていた。剣はその為に必要なパーツに過ぎない。そのチグハグさが彼の剣にはあったのだ。

 

 

 これがもしも世界の危機で、大義や責任から来る物であればまだ納得できる。

 

 

 だがそんなことはない。確かに何かと物騒な世の中だが、まだ詰んだ訳じゃない。

 

 彼は高校生からこの道に入った正真正銘の素人だった。不思議なことに彼の剣は初めから完成されていた。中学生(シニア)やリトルリーグの出身ではない事を既に確認は取れていたにも関わらずだ。

 

 最初から完成された剣を振い、粛々と勝利を追い求める。それが本当だとするならば、()()()()()()()()()()()()()()()()だろう。

 

 

「…………、」

 

 

 これがもしも、目の前で焼肉を黙々と頬張る年相応な少年だったならば。

 剣王なんてものでなく、純粋に騎士を目指す一人の学生だったならば。

 

 そんな益体もない夢を見ずにはいられない。

 




ジェネリックファイノンとかエミヤ。
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