決して負けない七星剣王   作:」(UWU)「

3 / 7
青二才曰く

 

 

『えー、それではお待たせしました! 時間になりましたので、これより第四訓練場・模擬戦を開始したいと思います! なお、今回の模擬戦は特別に実像形態の使用が許可されていますので悪しからず!』

 

 

 今回、七星剣王は戦うまでも無く七星剣舞祭への出場が決定されていた。

 それは運営委員会の意向でもあり、国際魔導騎士連盟の意向でもあるからだ。

 

 だから今回破軍学園で行われる選抜戦、彼は出ないことが決まっている。

 出る必要もない戦いに参加して、不用意に他人を蹴落とすのは学園側としても本位ではなかったからだ。それほどまでに七星剣王は理不尽の権化として扱われている証拠でもあるが。

 

 そこに待ったをかけたのが生徒会長を務める《雷切》の東堂刀華だった。

 

 しかしいくら二位と言えど、学園の決定に直接口を出せる権力は持ち合わせていなかった。

 だから彼女と学園側で妥協案の模索がされた結果、今回の練習試合。つまりはデモンストレーションが成立した。

 

 言葉を選ばずに言えば見世物だった。

 

 なぜそれほどまでに彼女は、七星剣王と戦う事に固執したのか。このまま七星剣舞祭で勝ち上がって行けば戦えるはずにも関わらず。

 彼女は心のどこかで確信していた。この場で戦う機会を逃せば二度と彼と戦えなくなるのだと。だから無理やりにもこの試合をセッティングした。

 

 そしてその勝負を七星剣王は逃げなかった。

 

 

『その衝撃の対戦カードはまさかの七星剣王と雷切。破軍学園におけるツートップ、いや、全国を見ても上位者同士の対戦です!』

 

 

 一世一代の大勝負。《七星剣王》と《雷切》の試合。

 

 七星剣舞祭の決勝戦もかくやのマッチングに破軍学園の生徒は誰もが沸き上がった。

 結果としての満席。それなりに広いはずの訓練場の席は満席の予約制となり、果てにはチケット転売までされる始末だった。それほどまでに、このマッチアップに対する関心が高かったという事だ。

 

 勿論、そこには生徒会の関係者として招待された黒鉄一輝やステラ・ヴァーミリオンなども居た。

 

「今回の試合、イッキはどっちに勝ってほしい? ……私は会長に勝ってほしい」

 

 それは希望だった。勝つと思う、ではなく勝ってほしい。

 ある意味であの二人の力量差をなまじ理解してしまったが故の希望的観測。

 

「……うん、そうだね」

 

 それに一輝は静かに同意することしかできなかった。

 

「過去のデータからすると、今のところ三戦三敗。数字だけ見ればそこまで絶望する程じゃない。……いやね、周りはこれだけ熱狂しているというのにあたし達はまるでお通夜。最初から結果が見えてるみたい」

 

 刀華が七星剣王と戦うのはこれが初めてじゃない。

 模擬戦で一回、去年の選抜戦で一回、七星剣舞祭で一回。

 

 その内、一太刀でも入れた回数は――()()

 

「アリス……」

 

 悲しい顔をする有栖院凪――アリスに黒鉄珠雫は声を掛けることもできない。

 

 珠雫は刀華に一度敗北している。まさしく差をつけられての敗北だった。

 その彼女ですら、彼の前ではこの扱いだ。

 一体どれほどまでにその壁が厚いのか。珠雫には理解できそうになかった。

 

「……大丈夫、今度こそ刀華は勝つよ」

 

 不安げに見守る四人に、御祓泡沫(みそぎうたかた)は力強くそう宣言した。

 彼、泡沫は東堂刀華の努力を間近で見てきた。それこそ努力なんて生ぬるい、地獄のような拷問を。

 

 尊敬している彼女がどれだけの重荷を背負いながら日々戦っているのかを泡沫は知っている。

 肉体を酷使した訓練に、血反吐を吐くような責任から逃げずに、彼女はその剣を今日まで磨いてきた。

 確かに過去、負けたのだがその時の数倍、いや数十倍は強くなっていると知っているからだ。

 

「彼の剣は彼一人の剣だ。そこに誰かの願いは乗っていない。善意は無く、悪意も無い。ただ強いだけの人としての在り方を捨てた剣に刀華は負けない」

 

 積み上げた物の重み。それは七星剣王だって遥かに重いのだろう。

 しかし刀華だって負けていないのだと。彼女一人の願いだけではなく、自らの出身である「若葉の家」の子供たちの分まで願いを背負っている。一人の為の脆い剣よりも彼女は固く、砕けない。だから、負けないのだと。

 

「……そうね。見ている私たちまで情けない顔してたら会長に笑われちゃうわ」

 

 ステラはそう言って何時もの表情に戻る。

 そのまま隣に座る一輝に問いかけた。

 

「イッキ、あなたならわかるんじゃないの? この戦いがどうやって決着するかを」

「うん。七星剣王の戦いはある意味で僕と似ている。洞察眼で戦況を組み立て、その剣術で相手を圧倒する。でも結局は魔力を用いない『剣術家』なんだ。必ずそこに勝つチャンスがある。それをきっと東堂さんも分かっているだろう」

 

 ロングレンジの戦い。

 恐らくこの戦いを攻略する上での必須事項となる。幸い、刀華の扱う能力は『雷』。いくらでも遠距離の戦いようはある。

 

「……でもそれだけじゃ足りない」

 

 それでも彼はその遠距離で戦う猛者たちをいくらでも薙ぎ払ってきたのだ。この勝負はきっと一波乱ある。そう一輝は確信した。

 

 

 

 

 

 対して、結末の先を見る者もいる。

 新宮寺黒乃と南郷寅次郎の二人だ。先ほどまで西京寧音が居たのだが、南郷が現れた途端逃げるようにして消え去った。その穴を埋めるようにして国際魔導騎士連盟の倫理委員会の会長である赤座守が割って入ってきた形だ。

 

「……あれは。ふむ。成程のう」

「南郷先生はどのようなお考えで?」

「刀華にはちと分が悪い。いいや、この世であの小僧……アレに勝てる者が居るとすれば、それは恐らく死神だけじゃろう。何をすればあんなモノが生まれるのか不思議でならないわい」

「んっふっふ……まさかですよ、流石に東堂刀華に勝つだなんて。彼女はあれからとてつもない努力をしたと聞きましたが? それが負ける? 冗談でしょう」

「……そう思うか?」

 

 その言葉を茶化すつもりでいたが、何も言えなくなってしまう赤座。

 黒乃は伏し目がちになりながらも不安げに勝負の行方を見守る。

 

「ようやく確信に変わったわい。あれは間違いなく呪いの類じゃよ。あそこに在るのは屍無き墓場じゃ。もし、この世に神がおわすとするならば、ああいった存在を産み落とさないために存在するのじゃろうな。だが、依然としてアレはそこに在る。これは……どうしたものかのう」

「墓場……?」

 

 困ったように顎を撫でる南郷。その目には微かな憐れみが混じっていた。

 

「歩み過ぎた者はああもなってしまうのか。アレはもう燃え尽きた薪、砕けた硝子。その心は余燼じゃよ」

 

 

 

 

 

 当のスタジアムの中心では二人の猛者が、その手に固有霊装(デバイス)を持ち、試合開始の時を今か今かと待ち望んでいた。

 

 片や、無言で大剣を持ち、能面を張り付けたような無表情で静かに待つ《七星剣王》。

 片や、刀型の固有霊装を持ち、闘争心に火を点けた稲光の剣士である《雷切》東堂刀華。

 

「浅草くんとは、こうして剣を交わらせるのは久方ぶりですね」

「…………」

 

 剣王は答えない。

 

「私は、浅草くんのライバルになれたでしょうか。いいえ、きっとなれなかったのでしょう。現に、私を見てすらいない」

「…………」

 

 剣王は答えない。

 

 

「――それが、たまらなく悔しかった!」

 

 

 しのぎを削ったはずだった。

 共に同じ学園ではあるものの、七星剣王を目指した良きライバルであったのだと勝手に思っていた。

 だが、彼はすべてを容赦なく一刀両断した。

 

 敵も、味方も、全てを。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 だが彼女は負けず嫌いだった。

 相手が強いから、負けてしまうのも仕方がない。そんな言葉で満足したくなかったのだ。

 だから負けたあの日から、ずっと七星剣王を倒す為に考え続けてきた。その上で、こんな模擬試合まで取り付けた。

 

 必ず勝てるとは口が裂けても言えない。

 だが、この昂りと抑えきれない熱が体を突き動かすのだと。

 この騎士の剣に誓って、七星剣王を倒すのだと宣言する。

 

「浅草くんを超える為に、騎士として全てを捧げました」

 

 まずは彼の訓練メニューを真似してみた。

 三日三晩続いた狂気の拷問に一日で体が負け、体中のありとあらゆる筋肉が悲鳴を上げた。それをほぼ毎日こなす彼を見て、刀華は理解不能として切り捨てるのではなく笑って見せた。

 

 ――これならまだ追いつける、と。

 

 それから生徒会のメンバーはおろか教員ですら本気で止めにかかる程の特訓を自らに課した。

 それでなお、生徒会を損なわずに回して見せた。まさに女傑の如きその根性。

 体を鍛え、技を磨き、心を形作った。

 

 

 それでようやく、かつて見た彼の動きに並んだ。

 

 

 その上で、今日の為に彼の動きを徹底的に学習し、調整を重ねた。

 極限まで無駄を省いたその戦闘スタイルを分析するのは困難を極めた。何せ癖というものが存在しない。それでも仲間たちの助けも借り、なんとか対策らしい対策を講じたのだった。

 

 だから、この戦いは負ける訳にはいかなかった。

 己の為、「若葉の家」で待つ子供たちの為、己を支えてくれた生徒会のメンバーの為。

 何よりも、彼のライバルとして七星剣舞祭に出場する為。

 

「いざ参る!」

 

 未だ高く掲げる理想の刃で、眼前の敵に誇りを向ける。

 

『それでは、両者とも用意の方は良さそうなので。皆さんご一緒に!!』

 

 始まりのゴングが鳴る。

 

 

『――――――――Let's GO AHEAD(試合開始)!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初に彼はため息をついた。

 ありえない、と彼の人となりを知る者ならば言うだろう。

 

 そして、彼は口を開いた。

 

「東堂刀華。君の、()()()()()()に、敬意を表し……()()で、決着をつけよう」

「――は?」

 

 刀華はその言葉の意味を理解できそうになかった。

 

 雷切で決着をつけよう?

 一体、何を言っている……?

 

 そう思わずにはいられない。

 しかし、彼女もまた騎士だった。

 冷静にも体は動いてしまう。

 

 

 彼女は想定通り距離を取りロングレンジからの攻撃に徹する。その上で伝家の宝刀、雷切で――

 そんな常套句は捨ててきた。

 

 彼にそんな甘い手は通用しないと理解していたからだ。

 

 

 だから、この雷切を以て、彼を打ち破る。最初からそう考えていた。

 あえての接近。それがクロスレンジさえ到達させれば勝ち。

 

 

 ――だが、それが悪手。

 泡沫は真に迫った表情で立ち上がり、それを否定しようとして。

 

「刀華駄目だそれは――」

 

 誘われた。と認識する――その半歩手前。もう既に彼の絶技の居合は完成していた。彼女の思考を読んだその一閃。

 

 

「――雷、切……」

 

 

 紫電は走らない。

 

 当然だ。七星剣王にはそこまでの魔力は無い。

 だが、それは確かに居合抜刀の構え。見まごうことなき雷切だった。

 

 十人中六人は「それは雷切だ」と答え、残り四人は「まったく見えなかった」と答える。

 

 ただ、己の腕前のみで彼女の雷切を再現した。それも一寸の狂いもなく、体格の違いすら完璧に考慮されつくした究極の雷切を。そこにもう一人の東堂刀華が居るのだと錯覚させるような見事な腕前で。

 

 まさしく究極の模倣剣技(ブレイドスティール)。黒鉄一輝の模倣剣技すら取り込んだ伐刀絶技をも模倣する剣の理。

 

 

 ――倉敷蔵人に倣って言おう「極・模倣剣技」と。

 

 

 であると同時に、それは残酷なまでの力の差だった。

 

「――――ッガァッ!?」

 

 

 

  斬。       

 

 

 

 音は鳴らない。光速の居合は一瞬にして彼女の意識を断ち切った。

 

 歓声は要らない。全てを置き去りにしたその一刀。

 

 心はない。既に彼方へと捨て去った。

 

 

 こうして最強最速は打ち倒された。

 最強最速を超える最強最速にて。

 

 

 

 ……これが何度目かは彼のみぞ知る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤座守にとって強力な伐刀者は邪魔でしかない。

 それは七星剣王でも変わらない。

 政治的な意図を度外視して、個人的な感情に則って言えば。

 

 

 赤座にとって()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 

 あれほどまでに嫌悪するタイプの人間は見たことが無い。

 一目見た瞬間から理解した。

 

 あれは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 かつて、赤座を見た者どもよりも酷い視線だった。

 

 だから負けてくれれば良かった。

 いいや、むしろ負けてほしかった。完膚なきまでに潰れてほしかった。

 そう年甲斐もなく、生徒会長を応援していた程だ。

 

 だが、結果はどうだ。

 なんだこれは。

 

 グロい、としか形容できそうになかった。

 常人よりはるかに高度な努力をしてなお、七星剣王には届かなかった。

 別に東堂刀華が負ける分にはどうでもいい。

 

 彼に一太刀すらも浴びせられなかったことが問題だ。

 それは彼女に問題がある事ではない。

 

 完勝無敗の騎士に問題がある事に他ならない。

 

 

 そもそも、東堂刀華もそれなりに頑張っていた。

 何せ、彼女の応援者の中に自分も含まれているからだ。

 

 現状、七星剣王を倒せる可能性のある存在が居るとしたら、武曲学園の諸星雄大かこの東堂刀華ぐらいのものだろう。

 だから、最も手の出しやすい《雷切》を選んだ。

 

 それに彼女は諸星雄大と違い怪我などのハンディキャップを背負っていない。

 そうでありながら、バックボーンに施設出身であるとまであってなおのこと援助と称したちょっかいは簡単だった。

 

 だから金まで出して援助した。

 どうか、七星剣王を倒してくれますようにと、願いを込めながら。

 それに応えるように、彼女の実力はメキメキと上がっていった。

 

 それで? これは?

 

 完封負け。それどころか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()

 意味が分からない。

 

 

 行き過ぎた頂点はここまで理不尽になれるのかと戦慄した。

 

 努力は、人をここまで人でなしにするのかと眩暈がしそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合は決した。

 勝者は語らない。

 ただいつも通り勝利を納め、私物を取りに控室へ戻る。――その途中。

 

「浅草……」

 

 だが、語ろうとする者もいる。

 破軍学園理事長の神宮寺黒乃。

 

「あまりにも、今のお前は痛ましすぎる」

「…………」

 

 返事はない。いつものことだ。

 いつだって彼からの言葉が返って来た試しはない。

 

 

 だが、これだけは問わないといけない。そんな使命感で彼女は七星剣王に言い放った。

 

 

「わかっているのか!? お前がどうやってソレを可能にしているのか知らないが、()()()()()()()()()()()()()()()。人がして良い領分をとっくに超えているんだぞ!」

「ええ、知って、ます……」

 

 やはり枯れ木のような擦れた声だった。

 時間のやり直し。彼女は確かにそう言った。

 

 

「――――ええ、知ってますだって!? わかっている人間はそんなことを言うものか!」

 

 

 至極真っ当な怒りだった。

 教え子が知らぬ合間に修羅道すら生ぬるい本物の地獄を経験している。そのことで黒乃は怒り心頭だった。

 

 完全試合(パーフェクトゲーム)は地獄の道のりだ。それは彼の今の状態からですら理解できる。

 彼は己を擦り減らしながら、ここまで走ってきたのだと。どれだけ長い道のりだったのか想像すらできない。

 

「なぜ、私はもっと早く気が付かなかったんだ。情けない!」

 

 そもそもがおかしかった。

 

 最初から完成された剣を使い、並外れた洞察眼で試合を支配する。

 そんな人間が居る訳ないだろう。よしんばいたとしても、それはきっと大成した世界有数の剣士だけだ。

 

 洞察眼はまだわからなくもない。黒鉄一輝という前例が居る。だが剣は違う。

 人間は誰しも最初は出来ないものだ。凡人の初めの剣は拙い物であって然るべきだ。これが天才であったのなら、どれだけ上手く取り繕ったとしてもそれは天才が手に取った初めの剣でしかない。そこに剣の理は存在しないからだ。

 

 だから、どうあがいても彼の境遇からして最初から完成された剣にはなりえない。

 それは熟練の剣士が剣の道に全てを捧げて、ようやくその生涯で到達するか否かの領域だ。断じて子供が持っていて良い物じゃない。

 

 でも、彼は最初から持っていた。不気味なほどに完成され尽くした剣を。

 

 

 なぜ彼女の雷切を彼が使えるのか。

 天才だから? そんなことがある訳ないだろう。あの剣は黒鉄一輝と同じ模倣剣技、努力によって取り込んだ物だ。ならば、取得のために必死に足掻いた経験が無ければならない。見てもないのに模倣するなんて無法は許してならない。それにあの雷切は完全に模倣された物だった。それこそまるで本人から手ほどきされたような完成度を誇っていた。

 

 いくらなんでも過去三度の戦いか、あるいは観戦で習得は不可能だ。

 

 

 だったらこの結果はなんだ?

 どうすればこんな歪な状況になりえるのか。甚だ疑問でならなかった。

 ついさっきまでは。

 

 

 ――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()辿()()()()()辿()()()()()()()()()

 

 目を覆いたくなるような真実に。

 

「やはり、流石、です。先生」

「……何がだ?」

「貴女が、それを言うのが、これで()()()()()()()であった、ので。有能さを、再確認、しました」

「――――――ッ」

 

 絶句した。

 

 四四二五六(44,256)回?

 それを最低でも繰り返したのか?

 バカげている。どこから繰り返しを始めたのか知らないが、人間の精神の耐久値をとっくに超えている。

 

 そして、この答えにたどり着いた新宮寺黒乃が少なくとも四四二五五(44,255)回は過去にいたと言う事だ。

 そうでありながら結果として彼を止められていない。

 

 なんて情けないのだろう。一人の教育者としてこれほどまでに恥じたことは無い。

 それだけ彼の蛮行の繰り返しを許しておきながら、のうのうとしていた自分が恥ずかしくてしょうがない。

 

 それこそ、もっと早い段階で気づけていたにも関わらずだ。

 

「……何のために、そんなことを続けるんだ?」

 

「騎士に、なるため、です。誰もが安心して、暮らせる世界を、守る騎士に……。――誰にも、決して負けない、猛き騎士に」

 

「それは、例え無敗でなくたって可能だろう!? 騎士は個人技じゃない。仲間がいれば!」

 

「いいえ。俺は、理想の騎士にならなければ、ならない。最初は、ただ解除方法を知らなかっただけ。でも、もう戻れないほどの、己を屍とし、山を作った。だから、何度も……何度も……何度も」

 

 それはなんておぞましい事なのだろう。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 

 たかが理想のためにここまで己を燃やせるなんて狂っている。

 たったそれだけの理想の為に魂すらも火種とするのはイカレている。

 

「もうそんな愚行は止めろ! それ以上続ければ精神の摩耗で廃人になるぞ!!」

 

 ちょっと困った顔をして。

 

 

 ――答えは、無かった。

 

 

「…………」

 

 いっそ叫んでしまいたかった。

 

 いっそ否定してしまいたかった。

 

 いっそ、嘘だと思いたかった。

 

 

「――ま、さか」

「ええ。もう通り、過ぎました。この身は、理想を叩く金床に過ぎない。精神は、理想を溶かす溶鉱炉だ。そして、現実という水で、冷やし固める。……今の理想は、固く冷めきっている剣だ。あとは、持ち手を選ぶ時を待つ、のみ」

 

 

 愕然とした。

 

 それは死刑宣告よりも度し難い。

 あまりに生命への冒涜的な言葉だった。

 

 

「理想の為にただひたすら前へ進み続ける機構。……なんて事だ。既に浅草再蔵という少年はとうの昔に()()()()()()()、のか」

 

 

 彼は凡人だった。英雄でも、まして英雄の器ですらない。

 

 ただ幸せな家庭で生まれ、小中とそれなりに楽しく暮らし、高校だって騎士に憧れた子供の夢を壊さないために親が秘密裏にコネと湯水のように金を使った結果だった。魔力だって底辺で授業すらまともに受けていない。最初から彼は凡百の人間でしかなかった。英雄に、それこそ理想の騎士になれるルートなんて最初から存在しなかったのだ。

 

 だが、無い物を無理やりこじ開けた文字通りの「絶技」がそこにはあった。どんな不可能でも可能にしてしまえる、言葉だけは美しい「絶技」があった。

 だからその代償を差し出すのは当然なことだ。

 

 そんな彼が、代償を捧げた彼が、いつか来るループの終わりを悠長に待っていられるだろうか。

 

「じゃ、じゃあ、あの時黒鉄にかけた言葉はなんだったんだ! あれこそ、浅草個人の意思じゃないのか!?」

 

 確かにあの時「楽しかった」と言った。

 

 ほとんど彼女自身の一抹の望みに近い物だった。

 せめて、ほんの少しでもいいから希望が欲しかった。

 

 ただそれだけなのに。

 

「心は、機械信号的に、伝わるものだ。それが過去からの通信であったとしても、いつかは受け取り手が現れる」

「初めから、まだ生きていた時に決めた浅草の言葉を届けているに過ぎないと?」

「反響動作。あるいは、死者の声を都合よく解釈しているだけ、です。もうここに居るのは、浅草再蔵という学生ではなく……――()()()()()()()()()()()、なのだから。最初から、ずっと――」

「そんなの、あんまりだ。あんまりすぎる……」

 

 それが本当なのかどうか、確かめる術は無い。

 自分は精神系の伐刀者ではない。いや、精神系の伐刀者ですら今の彼に接続させる事自体危ういが。

 

 だから少なくとも、今の自分ではその言葉の否定をできそうになかった。

 悪夢のようなその状況を。

 

「それでは、先生、俺は、行きます」

 

「待て、待ってくれ、浅草!!」

 

 咄嗟に彼の動きを《世界時計(ワールドクロック)》によって停滞させようとし、あと一歩で間に合わなかった。

 

 あるいは、既に彼は停滞された後に事情聴取として一時解除された瞬間、自決してループを再開した経験からなのかもしれない。半ば反射的に彼は大剣を取り出して新宮寺へではなく、己に構えた。

 

 とにかく、今わかることは。

 

「さようなら……新宮寺先生」

 

 自らの()()()()()()()()教え子の姿だった。

 一体、それが何度目の自決なのかは誰にもわからない。ただ、また一つ己の屍を積み上げただけだ。いつも通りに。なんの呵責も無く、良心も無く、機械的な判断で。

 

 

 

 ……次はもっとうまくやる。必ず、理想の騎士になるために。

 じゃあ次のループまでサラダバー!

 

 

 




(実質)プロローグは終わり!
……ふざけ倒してたオリ主は、ぶっ壊れた後の人格だったって訳ですよ奥さん
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。