決して負けない七星剣王 作:」(UWU)「
最初に抱いた願いは騎士になることだった。
それがなんで騎士になろうとしたかはもうとっくに忘れ去っている。それでも騎士になることを諦めた試しは無い。
誰も寄せ付けない絶対の白亜の騎士。公正公平で優しく、勇敢でカッコいい。
そんな物語に出てくるような騎士に憧れた。
それになることを自身の信念とした。
だからこそ、負けを、逃走を、何より弱い自分自身を許さない「不敗伝説」なんて伐刀絶技が与えられたのだと思う。
だって俺の信じる
……最近、周りの人たちが虫けらに見えて仕方がない。
同じ人間だと思えるのは黒鉄一輝と比翼、後はほんの一握りの強者だけだ。他はもうどのように研究したかすら忘れた塵芥が散乱している。
かつて守ると誓った者までも。
それでも、体を再び鍛造するために何度も彼ら彼女らと手合わせを行った。
何度も、何度も、何度も、何度も。
今ではもう手癖で勝てるようになった。
決して負けない七星剣王に至った。
でも。
これはきっと正しくないんだろう。
これはきっと人として失格なのだろう。
そう言っていた過去の自分を切り捨てた。
……それでも、どれだけ自分を捨ててもたまに足を止めてしまう事がある。
心の中の、
『この幾千万回の徒労に足を止めたいのかい? いいよ、少しは休んだ方がいい。再開するその時まで、それぐらいは世界も待ってくれるさ。何よりも君には己を呪う怨嗟の声を受け止める時間が必要だった。渡りに船、というやつだね』
「もう俺には、無理なんだ。
これ以上は無理だった。肉体があの日に戻っても精神が追いついてこない。
例え、浅草再蔵という学生が擦り切れたとしても、
『それでも、君はまた立ち上がるのだろう?』
「無理だ。もう徒労でしかないんだ。いい加減終わらせてくれ。親の顔ですら思い出せなくなってしまった。浅草再蔵がどんな人物だったかも忘れてしまった。人間の生き方も、理解できない物になってしまった」
『わかるよ。僕は君なのだから。どれだけの困難と苦悩に見舞われたかは理解しているつもりだ』
「もう、立ち上がれないよ……」
それに理想の騎士は答えなかった。
暫くして、また彼は話し出した。
『……知っているかい?
「知っている。俺は僕だ。僕の知っていることは知っている」
『元々、浅草再蔵という学生はループがあろうがなかろうが、それこそ授業を受けずともいつの日にか魔人に辿り着く。そういう運命だった。何日後、何年後、何十年後かは知らないけどね。正真正銘の天才だった。多かれ少なかれ人並み以上の才能に恵まれ、魔人になる程度には努力に恵まれた人。彼によって送られた遥か未来からの一瞥は僕たちに呪いを残した。たとえ過去を全て焼き尽くそうとも、己ならば理想を体現すると願っていた』
「そしてループに俺は囚われた」
『……でも、その魂は酷く凡人だった。当然だ、浅草再蔵は天才であっても決して英雄ではない。それになれもしない。その証拠に、こうして今にも信念すらもが擦り切れようとしている。それでも、君は
「最早惰性だ。積み上げたのは功績ではなく罪の十字架に過ぎない。だからここで立ち止まっている。まだ、理想を体現できないと言うのに。……いいや、もうなる資格すらもないのかもしれない」
『でも、君はいつも戦ってきた』
「もう無理に決まってる。今でも使い潰して来た己の嘆く声が響く。こんな方法ではなれる筈のモノも、なれないに決まってる」
『本当にそうかな? あの日志した理想はまだここにある。それを目指した信念もまだここにいる。まだ往日の夢は混沌に染まった訳じゃない。それは心のどこかでまだ「なれる」と、方法はともかく確信している証拠なんじゃないかい?』
「……俺にはもう、わからない」
『そうだね。僕にも分からない。けど――――――』
そう言った彼は消え去り、また次の徒労が始まる。
こうしたどうしようもない自己矛盾の問答ですらも、何度あったかは覚えていない。
現在、歴代最強と謳われた七星剣王に最も近い伐刀者。
諸星雄大。
本日は前七星剣舞祭準優勝者にして、浪速の快男児とも名高い諸星選手へお伺いを立ててみようと思います!
『お伺い立てる? なあに、かまへん、かまへん。どんと聞いてくれや!』
諸星選手は七星剣武祭優勝の常連である名門の武曲学園に所属する学生騎士であり《浪速の星》という二つ名を持つ御方で、地元からの声援が熱いまさに熱血派。
しかし、その過去は壮絶なもので一度は怪我を理由に引退したものの、再起不能とまで言われた故障を乗り越えて再びリングに立った苦労人でもあります。
『こうも言われると、中々照れくさいもんやな。でもワイは前回七星剣王になれんかった。それだけは揺るぎようがない事実だと受け止めて、今年の七星剣舞祭に挑んどる』
おお、素晴らしい意気込みですね!
では直下の最大の壁とされる現在の七星剣王。彼についてどう思われますか?
『おお、随分単刀直入に来るんやな。せやなぁ……。ゆーてみれば、アイツはワイの生涯のライバル、とこっちは思っとる』
こっち、とは?
『アイツがワイの事どう思っとんのか、正直分からん。何せ話したことすらないときてん。じゃあ、こっちはそう認識してると思い込むしかあらへん』
なるほど。ですがきっと七星剣王もそう思っている事でしょう。
『まあ、だとええな』
それではその七星剣王の強さについてどうお思いで?
『強さ、強さなぁ……。アイツの強さは、ワイがリハビリでやったような『
『
おお! 大胆な宣戦布告だ!
それでは少し七星剣王から離れまして、今度は諸星選手自身についてお聞きましょう!
『お、やっとワイの番か。待ちくたびれたで。あ、でもプライベートすぎる話題は堪忍な。ワイはこれでも庶民派で通ってねん』
ええ、勿論存じておりますとも(笑)。
では、諸星選手の強さの秘訣であるトレーニング内容についてもお聞きしてもいいでしょうか?
『……普段は秘密にしとるんやけど、今日だけは特別やで? なんたってテレビに出てるんや、それぐらいの出血大サービスしてもバチは当たらへんやろ。その代わり実家の「一番星」の宣伝もさせてもらうで。えーと、まずな――――』
◆
七月下旬。
選抜戦が遠い昔のように感じられる中、破軍学園は夏休みに入っていた。
だが、舞台は破軍学園でも、まして帰省した実家でもない。
場所は巨門学園が所有する山形にある合宿所。その休憩室。本来ならば七星剣舞祭に向けた強化合宿が破軍学園の所有する奥多摩の合宿所で行われる筈だったのだが、ちょっとした騒ぎがこの前あったせいで合宿所の安全性の問題が残り、巨門学園との合同合宿が行われる運びとなった。
そこに設置された古臭い小型テレビの映像を見て、有栖院凪は静かに頷いた。
《浪速の星》こと諸星雄大のインタビューの内容は中々面白い事を言っていた。それは勿論、トレーニングの事や彼の実家のことではない。
七星剣王・浅草再蔵の事についてだ。
去年、その一戦交えたことのある頂点同士の戦いだから感じ取れる物があったのだろう。
抽象的な言葉が多かったものの、彼からの言葉は非常に興味深い物だった。
「うーん、彼、どうして合宿来なかったのかしら?」
その話題に上がった本人は今、
彼は強い。
だがそれ以上に努力する人間だ。その並外れた訓練は見ているこちらまで怖くなってくる狂気の産物。
だが、裏を返せばまだ人と同じように努力していると言える。
だったら今回の巨門学園との合同合宿は彼にとってはまさしく格好の餌。いいや、己を鍛えるに絶好の場所。
それでいて奥多摩合宿では同行していたのに今回は不参加。今も破軍学園で自己鍛錬に励んでいるそうだ。
どうにもきな臭いと思う。
どちらかと言えばまるで未来が見えているようだ、と有栖院は思った。
「それはそれとして、一輝は大丈夫だと思うけれど他の人はきっと大変よねぇ」
今回の合同合宿は《闘神》によって熾烈を極めている。
これまた理由は七星剣王に由来する。
彼は《雷切》の東堂刀華との模擬試合の
回復こそ早かったものの、
だからこそ、南郷は今日という合同合宿の日で七星剣王に再びまみえる事を期待していたのだが、当の本人はここには居ない。
その落差による鬱憤もあったのだろう。今回の合宿では《闘神》による地獄トレーニングが開催されていた。
だが有栖院自身は七星剣舞祭にさほど興味は無い。今回だって自身の研鑽の為と言うよりも身内の見送りという方が近い。
だから有栖院はわざわざ隠れながら休憩室の隅でテレビを見ていた訳だ。
下手して闘神ブートキャンプにでも巻き込まれたらたまったものじゃないと。
ちらり、と休憩室の窓から外のグラウンドを覗いてみると疲れ果てて大の字で倒れている生徒が多数見受けられる。
未だ立っているのは体力お化けの黒鉄一輝はもちろん、一輝のトレーニングに日頃から食らいつくステラ・ヴァーミリオンと同じくトレーニングモンスターの東堂刀華ぐらいの物だ。
「これは、逃げといて正解だったわ。ほんと」
有栖院とはまた違った角度でグラウンドを見る者もいる。
腕に『新聞部』と書かれた黄色い腕章をつけた生徒が三人ほど。
「まさかかの《闘神》直々のトレーニングを見られるとはツイてますね、小宮山さん」
「全くや。最初こそ最強の七星剣王のモン見れる思っとったけど、コレはコレでええ記事が書けそうやわ」
武曲学園の新聞部である八心と、貪狼学園の新聞部の小宮山の二人が言う。
「世間一般がナンセンスだったのはこれでお分かりいただけましたでしょう。今年は間違いなく粒ぞろいなのだと!」
胸を張るようにして誇らしげにする破軍学園新聞部の日下部加々美。自分の学校の出場者を鼻高々に自慢する。
「今年の破軍は頭一つ抜けて強者が多いのは確かだ。ここに居る大半の新聞部の目的は《紅蓮の皇女》だったのでしょう。彼女の強さは噂通り洗練されたものだった。派手さにかまけない繊細さが見て取れる。あれは相当な努力家だな」
「みんなネームバリューに釣られすぎっちゅうねん」
「《紅蓮の皇女》は七星剣王を容易く下し、その伝説を塗り替える。なんて噂が出回っていたぐらいですからね」
彼女の場合は一撃の攻撃力の高さと瞬発力、それに合わせた見栄えの良さ。おまけにお姫様という身分。わかりやすいぐらいにメディア向けの人物だった。
よって多少誇張された噂が立つのは仕方ないだろう。
「それ以上の実力を持つ《雷切》も流石の一言や。技のキレ、動きの機敏さ、戦闘スキル自体が底上げされとる。去年と比べたら別人レベルやもん」
「あそこまで仕上げるのにどれだけの心血を注いだのか全く想像できないな。噂によれば教員ですら彼女を止めるほどの訓練を自らに課したとか」
「あ、それ本当ですよ」
「かー! まじかいの!?」
「でも、確かに。そこまでしてようやくあの大台に乗れるのかもしれないな」
そこまで話し合った二人の新聞部は顔を見合わせた。
「でもやっぱりな?」
「ええ、今回の目玉は」
その《雷切》を下し、代表選手の座をかすめ取ったFランク騎士が居る。
「「《
「でしょうでしょう!」
Fランクという騎士の最低でありながら、並みいる強豪をばったばったとなぎ倒し、ついには代表にまで上り詰めたシンデレラボーイ。
その光景は奇しくも去年同じく這い上がってきた七星剣王の再現とも呼べる。
「彼の強さはもう次元を超越している。流石は七星剣王の姿を直で見てきた同じタイプの剣士だ。その分、吸収効率も凄まじい。我々の目から見て、既に彼に並ぶほどの剣技を手に入れている」
「悔しいがあそこまで綺麗な剣筋は初めて見たかも知れへん。こりゃあ
「それに、この中で唯一完全に《闘神》について行っている。いいや、もしかしたら追い越しているのかもしれない」
「ほんま、けったいなやっちゃで」
武曲学園はここ数年、表彰台を独占してきたエリート校だ。
去年こそ優勝を破軍学園に譲ったものの、それでも武曲の名を海外に轟かしてきた。去年あと一歩で優勝を取り逃した諸星雄大を初めとした著名な選手たちが居る。そして何より今回はAランク騎士の《風の剣帝》黒鉄王馬が出場を決めた。だから今年の武曲は歴代を見てもかなりの強者揃い。
それに対して危機感を与えるほどの完成度を黒鉄一輝は誇っていた。
「だけど、今回は貪狼にも秘蔵っ子が居るのでは?」
「……ああ、確かに《剣士殺し》は去年から見てかなり強くなった。いいや、余計なプライドを捨てて素直に取り込める物を片っ端から取り込んだ結果なのかもしれないがな。もしかしたら同じ東京エリアの破軍を食ってかかるかもしれないぞ?」
今回の七星剣舞祭は破軍問わず全体的に見ても高水準と言ってなんら差し支えないだろう。
破軍からは《七星剣王》、《落第騎士》改め《
武曲からは《浪速の星》、《風の剣帝》。
貪狼からは《剣士殺し》。
ここに出ていないだけでも、もっと多くの強者たちが一堂に会す。
「……正直みんながみんな七星剣王が二連覇することを疑わない。アレは別格やもん。それはしゃーない。だからどこも七星剣舞祭参加者は二位争いしてると勘違いしとる。でもな、これはちゃう。もしかしたら届くかもしれへんで? 七星剣王に、その凶刃が」