決して負けない七星剣王 作:」(UWU)「
暁学園というものがある。
いいや、正確にはまだ公には存在しないとされる七星剣舞祭崩壊を狙ってある存在が用意した学園だ。
その生徒とも呼ぶべき者たちは
設立目的はスポンサーの思惑はどうあれ、《連盟》の許可を得ない新勢力として七星剣舞祭をめちゃくちゃにすること。
そして各々が既存の七校に忍び込み、そのために必要な七星剣舞祭代表枠は既に獲得済みとなった。
皆の知らないところで着々とその魔の手は伸びていた。
ゲストとして暁学園へと招き入れられ、のちに武曲学園で代表となった《風の剣帝》黒鉄王馬なんかが良い例だ。
それと同様に《巨門学園》《禄存学園》《貪狼学園》《文曲学園》《廉貞学園》、そして《破軍学園》に一人ずつ暁学園の刺客は送り込まれていた。
近々、暁学園の世間への公表とセレモニーが行われる。酷く暴力的なセレモニーが。
それを知っている者はごく一部に限られる。
『おや、随分と出るのが遅かったようで。ねぇ、《黒の凶手》の有栖院凪さん』
「なんでもいいじゃない。そんなことを言うためにわざわざかけてきた訳?」
電話の相手は《道化》の平賀玲泉。いけ好かない道化師、とでも言えば良いのだろうか。性格はともかく文曲学園で代表者となった腕の立つ伐刀者だ。
そして暁学園と
『いえいえ、とんでもない』
「じゃあ何の用かしら?」
『そこまで急かすなんてボクとの会話がお嫌いで?』
「好かれてるとでも?」
『おやおや、これは手厳しい』
有栖院に与えられた任務は主に二つ。
一つ、『暁学園』の一人として破軍学園に潜入し、七星剣舞祭代表枠を手に入れること。
二つ、《七星剣王》の監視とあわよくば殺害。
殺害という目的は未達であるが、主目的であった代表枠は手に入れた。後は暁学園旗揚げを祝う《前夜祭》の開催を待つだけであった。
その《前夜祭》も間近に控えている。この連絡は恐らく定期連絡のような物だと思って有栖院は出た。
『こちらの報告はただ一つ。合宿最終日に行う手筈だった《前夜祭》、「暁学園」による「破軍学園」襲撃。それを一日前倒しにします』
「――! なんですって!?」
その言葉に有栖院は声を大きくして反応した。
本来ならば《前夜祭》は巨門学園との合同合宿最終日、黒鉄一輝などの主要メンバーの帰還を待って行われるはずだった。
だが、それを前倒しにするとの連絡は計画の何もかもを前倒しにすることに他ならない。
『ええ。本来なら現七星剣王にして、過去視の「理想」を司る因果干渉系の伐刀者・浅草再蔵は合宿に同行するだろうと予想されてました。ですが彼はなぜか依然として学園に居る。ただでさえ手間な相手によって《前夜祭》を防がれたらたまった物じゃない。加えて、《無冠の剣王》まで現れたら目も当てられません。よって浅草再蔵を単独撃破する為に我々暁学園は襲撃を早める事になりました。
衝撃とまでは言わないが、たった一人の為にそこまでするのか、という感情が大きかった。
暁学園の生徒は誰もが一線級だと聞いていた。それもそのはずだ。この計画では七星剣舞祭代表枠を手に入れることが前提となっていた。
それは最低でも学生騎士の上位数名の中に入るような強さを持つ者でなければならない。その者達がたった一人を倒す為だけに計画を前倒しにしてでも行動すると言うのが随分と突飛に感じられた。
「にわかには信じがたいわね。そんな命令を上が許すのかしら?」
『ですから言いましょう。これは上からの指示だと。それほどまでに七星剣王は強い。強すぎる。完勝無敗の騎士の名は伊達じゃないのですよ』
確かに彼の異常的な強さは有栖院も理解している。
いいや、暗殺の任務をおっていても現に彼の首に手を出せていないのが良い証拠だ。闇の世界で要人暗殺をこなしてきた有栖院ですらも手出しできなかった。
彼には隙が無い。それこそ気を失って倒れていても変わらずにだ。
『闇の世界の住人としても彼は恐ろしい。その一刀一刀がまるで幾万もの戦場で積み重ねられたような物だと《隻腕の剣聖》は仰ってましたよ。それこそ一対一では自分でも勝てるビジョンが全く浮かばないほどに』
「あのヴァレンシュタイン先生が!?」
『その彼も、万が一を取って今回の作戦に同行するとの事ですよ』
《隻腕の剣聖》サー・ヴァレンシュタインは《解放軍》の重鎮でありながら《騎士連盟》基準でもAランクは固いとまで評価される伐刀者だ。
有栖院を暗殺者として育て上げたのもまた彼であり、能力は攻守ともに隙は無く、剣技にも秀でている。《解放軍》の中でも上澄みの実力者。
その彼が恐れおののき、また戦うと決めた。
「……それなら、わざわざ日程を早める必要はないんじゃない?」
『当初は我々もそう考えていましたが、スポンサーたってのお願いでありましてね』
確かに《解放軍》を動かせるような存在はスポンサーしか居ない。
そもそも、前夜祭はスポンサー肝いりのオーダーだった。その失敗は許されない。よって大きな障害である七星剣王を打倒するために策を用意するのは理解できなくもない。
『なので貴方には手筈通り、隠蔽工作と詰めを頼みましたよ』
「……わかったわ。こちらもそのつもりで準備しておく」
有栖院が最後に担う任務は、破軍の主力陣に対してのカウンター。彼は黒鉄一輝等の主力陣と高い信頼関係を築いている。
その上で彼の伐刀絶技《影縫い》(シャドウバインド)は一度決まれば相手の戦闘能力を削ぐことができる。不意打ち気味で彼らを拘束して万が一を防ぐことが最後の詰めとして言い渡されていた任務だった。
事実上の最高戦力である七星剣王を倒され、黒煙に包まれた破軍学園を成す術も無く見送るしか彼らにはできないと言う寸法であった。
それが《前夜祭》。連盟所属の学園の名誉を地に落とす為の襲撃。まさしく暁学園の圧倒的な強さを示すにふさわしい門出とも言えよう。
破軍学園の出場者は、己の無力感を感じながら暁学園によって倒されるいわば前座のような扱いだった。
『ええ、くれぐれも頼みましたよ《黒の凶手》?』
◆
「ねぇ、イッキ。次はあっちのお店を見ましょう?」
「はは、大丈夫。そんな急がなくても逃げはしないよ」
今更であるが、黒鉄一輝とステラ・ヴァーミリオンは恋仲である。
校内でも半ばおしどり夫婦もかくやで揶揄される程度には仲睦まじい。その見ている側が砂糖を吐くような態度は公衆の面前であっても変わらない。いいや、若干の気恥ずかしさが混ざっている分まるで新婚のようなぎこちなさがかえって甘ったるさを演出している。
巨門学園との合同合宿。
《闘神》南郷寅次郎による地獄のトレーニングを難なく乗り越えた二人は山形のとある商店街に繰り出していた。
「(なんて言うか、最近イッキがより男らしくなった気がする)」
時間帯は夕方。日は傾き、学校帰りの学生や近所の主婦がアーケード街を歩く。
固く握られた恋人繋ぎの手を見てステラはまたも顔を真っ赤にした。
こうして思い返してみれば彼は以前に増して強くなった。
それは肉体的な意味でも、精神的な意味でもだ。
……肉体的と考えて、ステラは隣を歩む一輝を見た。
鍛え上げられた肉体は美しく、彼女から見ても黄金律のような筋肉をしている。それでいてしなやかで軽やか、まさしく騎士にとって理想の肉体であると言えよう。次いでその性格は、品行方正で努力家。彼女も嫉妬してしまう程他人に優しく、たまにお茶目な所を見せるアタシのカッコよくて可愛い恋人……。
「(ってそんなことは今はどうでもいいのよ、アタシ!)」
惚気スイッチを全力でOFFにした。
「ん? どうしたんだい? ステラ」
「え、あー、ううん! 何でもないの!」
そして悔しながら。
おそらくそのキッカケは自分ではなく七星剣王に在るのだと思う。
黒鉄一輝の持つ洞察眼。七星剣王に並ぶ程、いや、それ以上の観察眼によって黒鉄一輝は疑似的な未来を見ることに成功した。照魔鏡とまで揶揄された眼を今まで『模倣剣技』のみに使っていた物を相手の内心や価値観、理想の隅から隅に至るまで事細かに掌握することに特化させた。それこそが「
そして今まで何度も一輝はその眼で七星剣王を見ている。
その結果は
正確には完全に何も見えなかったと言えば違う。
一輝に見えたのは、
あまりにも大きな炎で、それ以外の何も彼からは感じることはできなかったのだと言う。それ以上見つめれば、己自身も焼かれてしまうと理解したからだ。
それから彼は、再び彼に追いつくために特訓を始めた。勿論ステラもそんな一輝と並ぶため、追い越すために過激な修練の道に歩みを進めた。
日に日に彼は強くなっていった。大きすぎる先達が目の前に居る事もあってか、それを吸収するように力を身に着けた。
まさしく。
確かに色眼鏡はかかっているだろうが、それでも恋人がどんどんとカッコ良く成長しているのは本当の事だった。
それと同じぐらい、一輝はステラに対して可愛らしい執着も見せるようになって、なおのこと彼女からは可愛く思えて仕方がなかった。
「そろそろ食事する店を決めないとね」
「ええ」
一輝はステラと七星剣舞祭で再び戦う事を約束している。
ロマンチックな話だがお互いに勝ち上がり頂点で会うことを期待しているし、心のどこかで確信に近い物を抱いている。
その目下の高くそびえる壁こそが七星剣王に他ならない。
ステラは彼とは残念なことに模擬戦はおろか戦ったことが無い。
一輝からの評価として、己や絢瀬と同じ剣に重きを置いた剣術家タイプの伐刀者であり、対策と戦術によって試合をコントロールする。だけど一歩引いてみれば、彼はまるで常に格上に挑戦するような戦い方をするのだと言う。
対して過去の試合映像などを見てきたステラの所感としては、徹底的な完璧主義と言えるだろう。彼は今まで傷一つ負わずに戦ってきた。それは強さの証明であると同時に、無駄を排除した戦いによる賜物だ。それを可能にするのは恐らく頭の回転とそれに追いつく身体能力の高さによると考えた。だから一輝とは逆に、初見に対して限りなく強い戦い方が武器なのだと思った。
――勝機は、ある。
彼は確かに強い。
前の一輝や会長にすら大差で勝ったその実力は舌を巻くものであり、恐るべきものだ。
けれどこちらの戦闘スタイルと彼のスタイルではステラの方に分があるのは一輝との戦闘で証明されている。何よりもその心でも負けてしまったら、一輝に勝つのは夢のまた夢となってしまう。
それだけは嫌なのだから。
でも、ちょっとだけ心に魔が差した。つい意地悪で、わかり切っている言葉を聞いてしまう。
「……ねぇイッキ。イッキは七星剣王に勝てると思う?」
◆
黒鉄一輝をはじめとした七星剣舞祭出場者の合同合宿終了一日前。
暁学園、手筈通りに破軍学園を襲撃。
目論見通り校舎は黒煙を上げ、前夜祭は始まった。
だがたった一人の騎士によって
《
《血染れのダ・ヴィンチ》サラ・ブラッドリリー。天音を最速で処理した七星剣王の模造品を精製、のち一秒でそれを撃破。成す術無く、沈黙。
《
《不転》多々良幽衣。通りざまの超高速の居合《雷切》によって能力を使う間もなく、沈黙。
《道化師》平賀玲泉。逃げようとしたところ、王馬が放った『
《風の剣帝》黒鉄王馬。現在、交戦から一時間経過。健在。
《七星剣王》浅草再蔵。未だ傷はない――。
決して負けない七星剣王。その脅威をこれでもかと知らしめる。
そこに至るまでのループ回数、
残る敵は、来るであろう《解放軍》の援軍と黒鉄王馬のみ。
苦しむ人を、悲しむ人を、理不尽に沈む人を守るために理想の騎士は戦うのだから彼に負けは許されない。
更新頻度が安定しなくて申し訳ない。