決して負けない七星剣王 作:」(UWU)「
合同合宿終了一日前。
破軍学園。
日が傾いた夕方、オレンジ色の空。
そして黒煙の上がる学園校舎と、何かで抉られた跡のような凄惨な傷が所々に残っている。
だが、余波で軽い怪我をした者はいるものの間違いなく
戦況は暁学園の精鋭たちを軽くあしらった七星剣王は、黒鉄王馬と交戦。
その一時間後に《解放軍》の援軍が到着した。
そして蛇睨みが如き緊迫した状況を前に両者とも立ち止まったのだった。
《比翼》エーデルワイス。
《隻腕の剣聖》サー・ヴァレンシュタイン。
《風の剣帝》黒鉄王馬。
対するは。
《七星剣王》浅草再蔵。
ただ一人。
他の生徒たちや用務員は教員たちが避難させ終わった。
だが腕の立つ教員が七星剣王の戦いに参戦しようにもそのレベルの高い戦いについていけない歯がゆさを感じていた。
本来ならば、新宮寺黒乃理事長と客員教員である《夜叉姫》西京寧音が居ればこの地獄のような戦況も多少はマシになるのだが、生憎大阪へ出張中。予定では帰還は明日だ。
勿論、七星剣王が稼いだ時間のおかげで既に報告は終わっており、先んじて西京が全速力で帰還している最中だった。
それ以上に不審だったのは、警察を始めとした国家組織に連絡を取ろうとしても連絡自体が行えなかったことにある。
どちらにしても孤立無援の状況は一時間と続いていた。
「浅草再蔵、本当に末恐ろしい奴だ。黒鉄王馬、この際我々三人でかかるぞ。たった一校を墜とすのにあまりにも時間をかけすぎだ」
まさしく絶体絶命の危機だった。
西京が帰還するまでどれだけ七星剣王が持ち堪えられるのか分からない。
そもそも、ほとんど王馬と戦っていたとは言え暁学園の精鋭たち六人相手にたった一人で一時間以上持ち堪えた事自体が奇跡に近い。
そこに、この横やりだった。
二人の強者。それも片方は最強と名高い《比翼》。もう一人は《解放軍》の最高幹部の《隻腕の剣聖》。そこに先ほどまで打ち合いを重ねていたAランク騎士《風の剣帝》黒鉄王馬。
それこそ多少の怪我を負った七星剣王が顔色を変えることは無いが、傍から見ていた教員がその顔を青ざめさせるには十分な過剰戦力だった。
「――
声があった。
エーデルワイスでもヴァレンシュタインでも、まして七星剣王でもない。
そう、黒鉄王馬だ。
「強者との戦いを愚弄するつもりか、《隻腕の剣聖》」
「……? 何を言っている黒鉄王馬」
心底不思議そうにヴァレンシュタインは言った。
これは任務だ。断じて個人的な戦いの場ではない。それは彼も重々承知だと思っていた。
にもかかわらず彼はヴァレンシュタインの発言を否定した。
どう考えてもそちらの方が状況としては正しいというのに。
「アレは俺の認めた強者だ。例えその中身が空虚であったとしても、この戦いだけは断じて水を差す事を許さん」
「わかっているのか? それは命令違反だ。スポンサーに首を切られるぞ?」
「それがどうした。俺はあくまでメリットがあったから乗ったに過ぎない。それを上回る敵とまみえる事が出来たなら、その取引は意味を失うというもの」
傲慢不遜な王馬の言い草にヴァレンタインは顔を顰める。
もとより王馬は《解放軍》が派遣した伐刀者ではない。その強さに惚れ込んだスポンサーが個人的に依頼したものだ。だから《解放軍》に彼を縛る資格はない。
だが、彼は平時には理知的な人間だ。強さに異常なまでの執着はあるが契約を率先して破る程横暴ではなかったはずだ。
「それを邪魔するというならば、まずはお前から潰すぞ」
「……まあ、いい。元から貴様には期待していない。だったら貴様程度敵に回ろうとも今更《前夜祭》に支障は無い」
一気に険悪なムードに陥った。
「ふん。構わん。まずは《隻腕の剣聖》、お前から叩き切るのみ!」
「どうだか。この身、隻腕となり果てようとも剣聖の名に嘘偽りなしであると。小僧、貴様から切り伏せてやろう!」
そう口上を重ね、お互いに固有霊装を取った。
後は時が、勝手に彼らの戦いの火蓋を切って落とす。
……さて、話は変わる。
なぜ王馬と七星剣王が小一時間打ち合いを続けていたのか。それが最初の問題だった。
通常、彼の戦闘スタイル的に相手を完封した戦闘が多い。それは傷一つ負わないその戦い方で証明されている。もとより敵を最速で完封して倒す方が彼の負担が少ないからに他ならないからだ。
だとするならば何故長時間にわたる戦闘が繰り広げられていたのか。
もしかしたら、
そんな打算的な考えがあったとしたら。
その後に援軍が来ることはわかっていた。
それが《比翼》と《隻腕の剣聖》であることも把握していた。
だったら彼を最速で倒さず、援軍と引き合わせたらどうなるのか。
正常な判断が鈍る程度に過酷な打ち合いを重ねたらどうなるのか。
もしも戦いに水を差されたらどのような反応が起きるのか。
結果は火を見るよりも明らかなものだった。
◆
「貴方の差し金ですね」
エーデルワイスは静かに七星剣王にそう言った。
「《隻腕の剣聖》と《風の剣帝》を同時に排除し、残った私との一対一の形に引き寄せる。なんて効率的な手腕なのでしょうか」
「…………」
「以前戦った時と変わらず、同じような酷く冷酷な一手を打つのですね」
七星剣王は答えない。
既にその問いに意味を感じていないからだ。
かつて《比翼》と七星剣王は一度だけ戦ったことがある。
その時はギリギリ七星剣王の勝ちであり、エーデルワイスは勝ち逃げされていた。その際の手腕は確かに失われておらず、いっそ機械的とまで言える効率的な戦い方はここで再び牙を剥いた。
「最早こちらは正常に任務を遂行することは不可能でしょう」
既に破軍学園襲撃という一大イベントは終わっている。
勿論、その勝者は七星剣王である。
事実として暁学園の精鋭は既に彼によって倒された。
残るは《風の剣帝》と《隻腕の剣聖》だが、その二人は言い争いののち身内争いを始めた。
たった一人残された《比翼》は、そもそも戦う意味はない。
だとするならば、この場でわざわざ七星剣王が相手を見出して争い合う必要は何処にも存在しないのだ。
ここまで約三手。
暁学園の殲滅。
黒鉄王馬との決闘。
ヴァレンシュタインと王馬を戦わせるように誘導。
七星剣王はエーデルワイスでさえ舌を巻くような策謀を、無表情の鉄面皮の下で難なくこなしたのだ。
それも、最も破軍学園に対して被害が少ないように調整して戦ってという結果のオマケ付きでだ。
「私も貴方とは戦いたいとは思いますが、この状況下ではそれも叶わないでしょう。もとより私はこの一件に関係ある人物では無い以上、ここが引き時というものですね」
エーデルワイスにとって今回の暁学園の襲撃、その裏で進められていた陰謀についてはさほど興味はない。
この戦いに参戦していたのも特定個人に対する単なる情だ。一時期とは言え面倒を見た子供の就任祝いとして彼女は様子を見に来ていた。その子供すらも倒され、地に伏している。
既に大義の無くなった戦いにいつまでも付き従う程の義理はない。
「帰る、のか?」
「ええ。心配なようであれば《契約》しても構いませんよ」
「不要、だ」
エーデルワイスを突っぱねる。
何処か消化不良のようなガッカリしたような後ろ姿を抱えたまま、彼女は道端に倒れている暁学園の生徒をひょいと拾い上げながら校門から出ていく。
そうして七星剣王は未だ小競り合いを続ける二人を見たのち、時間を確認した。
後はもうすぐ帰ってくる西京に任せておけば、消耗した王馬とヴァレンシュタイン程度どうにでもなる。
無表情の七星剣王は固有霊装を消し、再び七星剣舞祭に向けた体の鍛造に戻る。
いつも通りの日常が帰ってくる。
たった一人の騎士の前に、破軍学園崩壊という張り巡らされた暗躍は文字通り粉砕された。
――まさしく完璧な、理想の騎士に相応しい結果だった。
◆
その日が回る前に、破軍学園襲撃というニュースは瞬く間に広がった。
黒煙の上がる破軍学園本校舎の映像と共に、全国で大ニュースとしてやや過剰すぎるほど報道がなされたのだった。
敵は暁学園というテロリスト。それも学生騎士のほとんどが七校それぞれで学園で七星剣舞祭出場者枠を勝ち取っていた学生で構成されており、当然そのことも話題に上がった。
七校の管理体制の杜撰さにも言及されたが、それ以上にこの行為がどれだけの蛮行だったのか主催者側の七星剣舞祭運営委員会はその責任を激しく追及した。
このテロに参加したメンバーの学生騎士資格すらも検討に入れた責任追及が始まり、逮捕と拘禁の処置が施された。
当然、七星剣舞祭の出場資格も剥奪されるものかと思われた。
だが、暁学園の理事長を名乗る者の登場によって事態は急変。
いざその壇上に上がったのは、現職の内閣総理大臣にして暁学園理事長・月影獏牙。その人だった。
彼は責任追及に対して、謝る訳でも責任を取ろうとする訳でもなく、ただこの状況を望んでいたかのようにこう言った。
『我が国立・暁学園は今、この時を持って開校を迎えた。これを以て現在の《国際魔導騎士連盟》の教育体制について我々は問題提起を行いたい。それは日本の伐刀者養育に問題があると日本は確認したためである。故にその支配体制の解体を我々は要求とす』
この国立の暁学園による七星剣舞祭の制覇という結果を以て現在の《連盟》を強く非難し、日本国の主権を取り戻すことを誓った。
そのバカげた演説は鼻で笑われるだけかと思われたが、どうしたことかその演説を契機に国内メディアは一斉に今回の事件を事故として扱った。それどころか司法、警察ともに『破軍学園襲撃事件は誤報であり、正しくは合意の上での練習試合で発生した事故である』という主張を掲げ始めたのである。
普通であればこんなものは詭弁だと誰でも理解できる。しかし、国内のありとあらゆる主権が一斉にこの主張を真実だと認めたのである。黒はあっという間に白として扱われた。
勿論、この異常事態に破軍学園をはじめとした七校と七星剣舞祭運営委員会は激怒した。
彼らの七星剣舞祭出場を禁止しようとすぐさま動いた。
だが、それをひっくるめて《国際魔導騎士連盟》の上層部は一つの決断を下した。
『この愚行を我々は捨て置くことはできない。だが門前払いとすれば騎士としての栄誉は地に堕ちてしまう。それ故に、暁学園と名乗る逆賊を真っ向から打ち倒し《国際魔導騎士連盟》の正しさを証明せよ』
との通達があった。
敵のスポンサーは国そのものであり、その国に対して追及を行える筈の《国際魔導騎士連盟》。その母体である上層部にそう言われてはこちら側は何も言うことができず、みすみす暁学園の出場を認める事となった。
こうして新しい《第八校目》として、暁学園は七星剣舞祭に名をあげたのだった。
誰もかれもが七校で序列を塗り替えるような活躍を見せた強豪たちであり、その中にはAランクの騎士も混ざっている。まさに誰もがトップクラスの『新進気鋭の実力者集団』であり、月影総理の言葉が世迷言では無いのかもしれないと誰もがその心の内で思うのだった。
――だが、その話題の裏で一つの伝説がひっそりと打ち立てられた。
ボロボロに砕けた学園と共に、単独で学園生徒を守った存在が居た。
破軍学園が健在だと示し、教員到着まで時間を稼ぎ、あまつさえテロリストの大半を屠った稀代の騎士。
あの月影獏牙ですら苦虫を嚙み潰したような表情で見送るしかなかった存在。
『七星剣王、闇の魔の手を前に大躍進。たった一人で学園を守る英雄となる!』
七星剣舞祭出場者クラスの六人相手に同時に大立ち回りを演じ、生徒避難の時間を稼いだ功績が持ち上げられた。
事件当時たまたま学園に残っていた新聞部部員が命からがら残した証拠映像も相まって、この伝説は事実であると証明された。
さらには事件現場、相手にはあの《比翼》がいたという噂が重なり、その話題はより一層のヒートアップを見せたのだった。
とうとう七星剣王は学生騎士という枠組みを飛び出して世界の頂点に立つ一人であると皆の認識が改めさせられた。
いいや、騎士なんて枠組みすら生ぬるい。
人々は彼を
次はどんな伝説を残すのかと、一般市民や生徒たちは彼に期待の目を向けた。
七星剣舞祭二連覇か、はたまた別の栄光か。
どちらにしても。
またしても彼は俗世から離れていく。
彼に追いつけるものは現れない。
きっと永遠に――。
あと四話+αで完結です。
ほんとはもっと書ける内容あるんですけどエタらない内に一旦完結目指させてもらいます。
それまでお付き合いお願いします。