壁も巨人も、世界は私のために変われ!   作:an-ryuka

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11.

 

食堂は夜になるほど騒がしい。

皿は空になっても席は空かない。男達は集まって、食べ終わった後もそのまま歓談している。

 

その中に、ジャンがいた。

 

自分の得意分野である。立体機動装置の仕組みやコツを、声高に説明している。

説明自体はもっともらしい。筋も通っている。

ただ、こちらを意識しているのが分かりやすすぎる。

 

視線が一瞬こっちへ飛ぶ。

すぐ戻る。

戻るくせに、また飛ぶ。

 

……バレてないと思ってるのかな。

 

私はミカサと夕食を食べていた。

いつも通り彼女は静かで、余計なことは言わない。

私はジャンたちの声が届かないくらいの小さな声で、話しかけた。

 

「ジャンのこと、どう思う?」

 

ミカサは一拍置いた。

思い出しているのか、言葉を選んでいるのか。

そして淡々と口にする。

 

「……エレンによく話しかけてくる」

 

……感情ですらなかった。

鬱陶しいくらい混じってると思ったのだけれど。

 

「んー……。もっと何かないの?

ふわふわとか、いらいらとか。

そういうのでもいいのよ?」

 

ミカサはピンと来ない顔で、私を伺い見た。

可愛い。

可愛いんだけど、感情の棚がエレン専用すぎる。

 

「ジラは、なんでそんなこと聞くの?」

 

なんでと聞くのは、彼女の中では珍しい。

気になった、ということだ。

ミカサの身内判定はどこにあるんだか。

 

 

どう話そうか。

ジャンの必死のアピールが効いてないことが滑稽で、同時に少し可哀想だと思ったから。

……なんて言っても、ミカサには通じない。

 

私はジャンの方をちらっと見る。

偶然、ジャンもこちらを見ていた。

 

視線がぶつかった瞬間、ジャンが慌てて目を逸らす。

 

さて。

私を見ていたのか、ミカサを見ていたのか。

どちらでもいい。どちらでも美味しい。

 

私は、こちらを見ないように必死なジャンを、あえて見続ける。

 

声は届くか届かないか、際どい大きさにして、ミカサの質問に答えた。

 

「……好きだから♡」

 

誰が好きか。何が好きか。

言わない。言わない方が刺さるから。

曖昧な言葉は相手の想像に任せられる。

 

ジャンの背中が、一瞬だけ止まった。

肩が止まる。説明のテンポが崩れる。

聞いてたわね。

 

揶揄うのが楽しすぎる。

 

ミカサは頭に疑問符を浮かべたまま頷く。

 

「そう、なんだ?」

 

彼女は真面目だ。

真面目すぎて、冗談を冗談として扱えない。

それがミカサだと、私は受け入れていた。

 

ミカサを手招きして、少しだけ呼び寄せる。声を小さくする。

 

「ジャンと話して帰るから、先戻ってて」

 

ミカサは頷いた。素直で可愛い。

ジャンが惚れるのも分かる。

 

 

食べ終えたミカサが先に食堂を出ていくのを見届けてから、私は立ち上がった。

 

ジャンのいる机に向かう。

 

視線が集まる。

私に視線が集まるのは嫌いじゃない。

 

普通の声で話しかける。

 

「ジャンのミカサへのアピール、面白かったわ。

本人、欠片も気にしていなかったけれど?」

 

ジャンの顔が歪む。

怒りと羞恥が一緒に出る顔。器用じゃない。

 

「……アピールってなんだよ。

俺は俺にしかできないコツを、周りに教えてただけだろ」

 

「そうなの?

 エレンより俺の方が凄いって言うアピールかと思ったのに」

 

わざとらしく首を傾げる。

クスクスと笑う。

笑うのは武器だ。刺してるのに、可愛く見える。

 

「なっ!? それは……事実だろ!

 あんな死に急ぎ野郎より、俺の方がいいに決まってる!」

 

言った。

言っちゃった。

しかも事実って言った。最高。

 

 

「おい、ジャン、止めとけ」

 

半笑いでライナーがツッコミを入れる。

 

「からかわれてることに気づけ。お前じゃ勝てない」

 

周りが笑う。

私はライナーの背中を軽く突く。

 

「ライナー。私の楽しみを奪わないで欲しいのだけれど」

 

「悪い悪い」

 

ライナーが肩をすくめる。余裕のある仕草。

自分に自信がある。他人を助ける立場という自覚。

私が触れても揺らがない、か。

 

 

ジャンはムスッとした顔で口を閉じる。

……拗ねたな。

まぁいい。可愛いし。

 

私は話を切り替える。

からかいは今日の目的じゃない。ついでだ。

 

 

「それはそれとして。

 立体機動装置のコツ、私にも教えてよ。

 ジャン以外も、得意メンバー揃ってるわよね?」

 

ジャンが少し顔を上げる。

教えてと言われるのは好きだろう。

自尊心をくすぐる言葉だ。誰でも。

 

ベルトルトが柔らかく口を開く。

 

「それこそミカサに聞けばいいんじゃないかな。

彼女が圧倒的だよ」

 

彼はいつもそうだ。

人に深入りをしない方向へと、軽く誘導をかけている。

……無意識か?

 

私は気にしてないように苦笑した。

苦笑は便利だ。自分を下げて見せられる。

 

「ミカサはあれ、人じゃないから……」

 

数人が思わず頷く。

それほどだ。彼女は。

 

――私から見れば、お前らも相当だけどね。

とは言わない。

 

 

私は今、教えを乞う立場だ。

 

武器は使う。

自分より少し劣る立場の人間に、絶対に追いつけない差がある女に。

与える立場は心地よいだろう。

 

私は表向きに、借りを作る事になる。

 

「女子は感覚派が多くてさ。

 さっきしてたのは、仕組みの方だったよね?」

 

私の言葉に何人かが頷いた。

 

「そうだな。ちょっとした事なんだが……」

 

ライナーが話し始める。

私はライナーの方を向いたまま、話を聞く。

興味があるのは本当だ。

 

ただ、

――借りを作ることが重要だ。

 

借りを返すといえば、口を挟める出来事は多いから。

そっちの方が私は使いやすかった。

 

 

話を聞きながら、空気でジャンの視線の動きを拾う。

彼が気にしているのは分かる。

分かりやすすぎて、口元が緩みそうになる。

 

……だめだ。

今日は教わる日だ。

笑ったら借りが軽くなる。

 

私は口角を殺して、真面目な顔を作った。

真面目な顔は、いつもより少し疲れる。

でも疲れる顔ほど、信用されることもある。

 

食堂のざわめきの中で、

私は学ぶふりをしながら、頷きの回数を増やした。

 

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