郵便が配られる。
訓練兵団の郵便は、だいたい決まった顔ぶれに届く。
毎回呼ばれる者。呼ばれない者。呼ばれると少しだけ場が動く者。
私はたまに。
教官の声が通る。
「ジラヴェラ=ジェネリンド!」
「はい」
手紙を受け取る。
紙質は、貴族とも平民とも言えない中間のもの。
ケニーの気遣いだろう。
どちらとでも私が使えるように。あの人はそういう所に頭が回る。
私は元いた席へ戻ろうとして歩き出す。
その途中、横から声が刺さった。
「実家のお貴族様からか?」
フロックだ。
嘲るような声。笑ってるふり。
私は目を細めて笑い返す。
「気になる?」
フロックは鼻で笑う。
「はっ。どうでもいいね。庶民には関係のない世界だ」
決めつけ。欺瞞。嘲り。
閉じるための言葉。
……こういう態度は、安心する。
私はフロックの横へ滑り込むように座る。
彼が席を立たないギリギリの近さ。
フロックが眉をひそめる。
「何座ってんだよ」
でも自分からは離れない。
言葉とは反対に、案外そこまで嫌われてないことを、私は既に知っている。
私は手紙を指で挟んだまま、わざと貴族らしい微笑みを作る。
貴族じゃなくても、こういう顔は何百回とやってきた。
「読みたいんでしょう」
間を置いて、優しく続ける。
「一緒に読みましょ?」
フロックがため息を吐く。
肘を机に置いて、私の手元へと視線を向ける。
私は封を切った。
紙が擦れる音は、妙に大きく聞こえる。
中身を引き抜く。
フロックにも見えるように開く。
中身はどうだろう。
ケニーが書きなぐった文字ならそれはそれで楽しい。
手紙には綺麗な文字が並んでいた。
揃った行と無難な言葉。
――貴方に用事があります。
――次、帰れそうなのはいつですか?
(……副官さんが書いたかな)
フロックは目だけで文字を追い、小さい声で声を出した。
「……面白さも何もねぇな」
その普通の言い方に少しだけ不満が滲む。
派手な汚れを期待して、見つからなかったと。
私は手紙を折りたたむ。
綺麗に。見せつけるように。
「そんなものよ」
私は封筒を指で軽く揃える。
国から面倒な依頼でもあったかしら。
そう思考を飛ばし、
フロックの横顔を見ずに席を立ち上がった。
その時。
「なぁ……」
フロックが、もの言いたげに口を開く。
私は振り向く。
目が合うと、フロックは目を逸らした。
目を逸らすタイミングが早い。逃げ癖がある。
「いや、いい。忘れろ」
……考えてる顔だ。
言いたいのに言えない顔。
私は笑った。今度は、貴族の笑みじゃない。
もう少し雑で、悪意が混じる笑い。
「……忘れない」
「言う気になったら教えてね?」
フロックの反応を見る前に歩き出した。
大丈夫。いつも通り。
私はこれが、いつも通りだ。