壁も巨人も、世界は私のために変われ!   作:an-ryuka

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――前話の続き


20.

 

夜の女子寮。

 

ドアを小さく開ける。

 

ベッドの軋む音、誰かの小さな笑い声。

完全に寝ている者の方が少ない。

 

部屋に入った瞬間、

そんな空気がほんの一拍だけ止まった。

 

数人が顔を上げる。

目と目を合わせる。

誰もすぐには何も言わない。

 

私は何も気づかないふりで自分のベッドへ向かおうとする。

 

「……ジラー?」

 

背後から声。

 

足を止める。

 

「……何?」

 

振り返らない。

予想はつく。つくけれど……。

 

迷っているうちに、後ろから腕が伸びる。

腰に回される。

次の瞬間、背中からぎゅっと抱きつかれた。

 

「捕獲〜!」

 

「はい確保!確保完了〜!」

 

……来た。

 

「ちょ、やめなさいって」

 

言いながら、声が少し上ずるのが分かる。

それを、逃す女たちじゃない。

 

「抵抗してる〜」

「声裏返ってない?」

「ねぇねぇ、今日さ、ジャンと外行ったよね?」

 

来たな、本題。

 

私は一瞬、言葉を選ぶ。

その隙を、見逃されるはずもなく。

 

「ほら白状しろー!」

「何があったー!?」

 

くすぐりの刑が始まった。

 

「っ、やっ……ちょ、待っ……!」

 

脇腹。

腰。

逃げ場がない。

 

「やめっ……く、くすぐった……!」

 

笑ってしまう。

声が漏れる。

それだけで、向こうは大盛り上がりだ。

 

「笑った!」

「はい黒〜!」

「何もない人はこんな反応しませーん!」

 

「何もないってば……!」

 

私は必死に言い返すが、身体は正直だ。

笑いと一緒に、心臓の音まで出そうになる。

 

ベッドの向こうで、ミカサが少し困った顔をしているのが見えた。

 

「……やりすぎない方がいいと思う」

 

一応、止めに入る声。

でも、弱い。いつものミカサだ。

 

「大丈夫だよ、ミカサ」

「ジラ、嫌そうじゃないし」

 

……正確。

 

私は本気で嫌がってはいない。

それが、ミカサにも分かっている。

 

「ほらほら〜」

「ジャンに何されたの〜?」

「キス!?」

「手繋いだ!?」

 

「してない!」

 

反射で言ってしまった。

 

――しまった。

 

一瞬、静かになる。

 

次の瞬間。

 

「してないは否定が具体的すぎる!」

「何かはあったってことじゃん!」

「何したの!?何したの!?」

 

くすぐり再開。

 

「っ、やめ……ほんと……!」

 

私は笑いながら、でも少し息が苦しい。

胸の奥がざわつく。

 

ジャンの顔が、一瞬浮かぶ。

赤くて、困ってて、逃げ場を失った顔。

 

「ジラ」

今度は少し落ち着いた声。

ユミルか。

 

「最近お前、ジャンのこと避けてただろ?」

 

私は、言葉に詰まる。

 

「……避けてない」

 

「嘘」

「絶対嘘」

ほかのメンバーも乗ってるくる。

 

私は観念して、力を抜いた。

抱きついていた腕が緩む。

 

「……別に、大したことじゃない」

 

「それ、大したことあったってことだよね!」

クリスタが興味津々だ。

年頃の女の子って感じ。

 

私は小さく息を吐く。

 

「……ちょっと、近づきすぎただけ」

 

それだけ言った。

それだけなのに。

 

「近づきすぎた!?」

「どれくらい!?」

「ジャンから!?ジラから!?」

 

部屋が一気に騒がしくなる。

 

私はベッドに腰を下ろして、髪を耳にかけた。

 

「……私から。向こうが逃げたから、終わり」

 

それは事実だった。

 

くすぐっていた手が、止まる。

少しだけ、空気が変わる。

 

「……逃げたんだ?」

 

「うん」

 

「え、ジャンが?」

 

意外そうな声。

それが、少しだけ愉快だった。

 

「私、追い詰めすぎたみたい」

 

「あー……何となく分かる」

「ジラたまに怖いもんね」

 

えぇ……。

皆を怖がらせたこと、なかったつもりなんだけどな。

 

「まぁ、ジャンは憲兵団だろ。

 今のうちに手をつけとくのはありだろ」

 

 ユミルが査定のように笑う。

 

「そんな言い方……」

 クリスタが少し眉を寄せる。

 

「憲兵団かぁ」

「頼りになるのはライナーだよね」

「背が高いのはベルトルト」

「それ必要?」

「絶対必要!」

「コニーは?」

「コニーかぁ……」

「いい子なんだけどね……」

「……私嫌いじゃないけど」

「えっ!?」

 

 話がどんどん流れていく。

 私はほっと息をついて、ミカサがいる壁の方へと寄る。

 

「……止められなかった。ゴメン」

 ミカサが申し訳なさそうに少し俯く。

 

「気にしないで。逆でもあれは無理だから」

 私は苦笑する。

 それに、少し楽しかった。

 

 私の顔を見て、ミカサはほっと胸を撫で下ろした。

 そのまま私へと首を傾げる。

 

「ジャンのこと好きなの?」

 

 相変わらず、ミカサはの言葉は直球。

 どう答えようか。

 

 

「……ミカサはエレンに見つめられたらどうなる?」

 

 ミカサは少し考えた後、俯いた。

「……少し、恥ずかしい」

 

「……私も、ジャンに見られるとそうなるってだけ」

 

言いながら、自分でも誤魔化しだと分かっている。

でも今は、これ以上は出したくなかった。

 

ミカサは短く頷いた。

 

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