壁も巨人も、世界は私のために変われ!   作:an-ryuka

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――前話の続き。


43.

 

「で、この扉の向こうにいるやつは、あんたのお仲間さんか?」

 

ユミルは気配に聡いわね。

そう思いながら、扉の外を見やる。

気配なんてさっぱりわからないけれど、わかる人には分かるのだろう。

 

 

会話の途中で逃げられても面倒だし、他の人に聞かれるのも嫌だから、見張りを頼んでいた。

 

ユミルの言葉の端には、露骨な警戒と苛立ちが滲む。

そのまま返事も待たず、勢いよく扉の取っ手に手をかける。

私もフロックも止めない。

扉が軽く開いた。

 

 

「うわっと」

 

外にいたベルトルトが一歩引く。

長身の体が少し揺れて、壁の影がびくりと動いた。

 

「……ベルトルさんじゃねぇか」

 

ユミルが目を見開いた後、すぐに訝しげな目つきに変わる。

視線が、ベルトルトと私を往復する。

それから、フロックの顔まで順番に測るみたいに。

 

 

「ジラに頼まれたんだ。見張りを」

 

ベルトルトが、少し頼りなさげに笑った。

いつもの、どこか気弱そうな顔だ。

でも、癖で分かる。肩の力が抜けているのは演技こみ。しっかり警戒している。

 

 

ユミルが怪しい、と私に最初に進言してきたのは彼だった。

 

――ユミルは、壁の外から来た……と思うんだ。

 

そう言って、自分から私の所まで来た。

 

ベルトルトは、ライナーやアニより協力的だった。

……私を使おうとしてる。

それでいいけどね。私も使ってる。

 

 

「……ってことはあんたもグルかよ。

 繋がり全然見えねぇな」

 

ユミルがぼやく。

愚痴とも毒ともつかない声。

 

そうでしょうね。

外から見れば、あの3人と私の関わりなんて、同じ期の訓練兵ってだけだ。

 

「その辺は明日まとめて説明するわ」

 

私はフロックに目線を渡して、扉のほうへ歩き出す。

フロックも素直に私の後を追う。

 

「は? 明日もあるのかよ」

 

背中から、ユミルが露骨に不機嫌な声。

苛立ちと不信感。

 

肩越しに振り返りながら、私はわざと軽い声で返す。

 

「あの時、言ったわ。

 次の休暇、私に時間くれないかしら?って」

 

女子寮で、扉を背にして逃げ道を塞いだあの時。

 

「すぐに帰れるなんて、ユミルも思ってないでしょう?」

 

口角を少しだけ上げて、煽るように言う。

ユミルのこめかみの辺りがぴくりと動いた。

 

「おい、煽るな」

 

フロックが、私の背中を小突いてきた。

……生意気になった気がする。

途中で逃げるなと言い切った、あの日から。

 

嫌では、ない。

 

でも、煽るのはやめない。だって楽しいもの。

 

「この部屋、外から鍵がかかるの」

 

私は扉の内側の構造を指でなぞりながら言った。

金属の噛み合う位置。鍵穴の深さ。

 

「地下にあるし、窓もない」

 

フロックは呆れた目。ベルトルトが静かに目を逸らす。

ユミルは眉をひそめて、部屋の中をざっと見回した。

不便はないはず。外に出られない以外は。

 

「逃げようなんて思わないでね?」

 

わざとらしく微笑んでみせる。

その笑顔に、ユミルが嫌そうに舌打ちした。

 

 

フロックが扉を閉めたのを確認して、階段を上る。

湿った石の匂い。靴音が、狭い階段に乾いた音を刻む。

 

少し遅れて、二人分の足音が続いた。

 

階段を抜け、いくつかの扉を通り過ぎる。

空気がだんだん軽くなる。地下のこもった息苦しさが薄れて、代わりに灯りと人の気配が増えていく。

 

私たち――ケニー達がよくたまり場にしている、少し広めの部屋に入る。

今日は、ここにはいない。頼み事をしたから。

 

私はいちばん手近な椅子に腰を下ろし、軽く息をついた。

視線だけ動かして、ベルトルトを見る。

 

「2人はいつ来れそう?」

 

ベルトルトも、向かい側の椅子にそっと腰掛ける。

 

「ライナーは遅めに出るって言ってた。

 アニは明日来るって」

 

「そう」

明日か。

まぁいい。同時に抜けると目立つものね。

 

 

足音。

 

フロックが胡乱げに音の方向へと寄った。

足音が止まり、扉のノブが回る音。

視線が扉へと集まる。

 

 

開いた扉の向こうから、乱れた前髪と、見慣れた瞳が現れる。

 

「……エレン。遅かったわね」

 

アルミンは、来ない。

ミカサも、居ない。

 

……ミカサは追ってくると思っていた。

エレンの後ろに、当然のような顔でついてきて、どういうこと?と真っ直ぐに問い詰める姿を、勝手に想像していた。

 

そう。居ないなら、……それでいい。

 

――あの夢を見てから、私はミカサを扱いかねている。

 

 

頭を切り替える。

考えない。今はこっちに集中すると決めた。

 

「部屋、適当に使って。

 詳しいことは明日説明するわ」

 

私はいつものように笑った。

いつものように――少なくとも、そう見えるように。

 

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