壁も巨人も、世界は私のために変われ!   作:an-ryuka

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――前話の続き。


51.アルミン視点

 

空になった鎖とベッドを見下ろす。

 

 

僕の存在を、ジラに気づかれてはいけない。

でもジャンには、動いてもらわないといけない。

 

ジャンを傷つけて、混乱させて。

僕のこともジラのことも、どっちも信じ切れないように。

 

これは、ジラの手札を狂わせる唯一の方法だ。

 

 

◇

 

あの日僕は、

ミカサと一緒に、エレンを追いかけていた。

 

 

僕ははぐれた振りをした。

路地裏で立ち止まる。

 

気配なんて読めない。それでも言葉を紡ぐ。

 

「ケニーさん、ですね」

 

 

暗闇から影が顔を出す。

長いコートと深い帽子。

悪趣味なまでに見事な、笑ってない笑顔。

 

ケニー・アッカーマン。

ジラの、側近の1人。

 

 

「……僕を攫えって言ったのは、ジラですか」

 

最初の一言で名前を出したとき、ケニーの口元が少しだけ吊り上がる。

 

「なんで知ってんだ?」

 

予想通りの答えに、胸の奥が冷たく沈む。

 

「嬢ちゃんが、本気で警戒するだけはあんな。

 初めてだぜ?こんな特別待遇は」

 

ケニーがニヤつきながら続ける。

 

「お前さん、なんだ?」

 

 

その問いに、僕は少しだけ目を伏せた。

 

――僕は……。

 

「ただの、アルミンですよ」

 

そう答えると、ケニーは吹き出した。

 

「ハッ。ジラの嬢ちゃんがこりゃ正しいな。

『何も変なところは見つからない。でも苦手。勘は信じることにしてるの』

 だとさ」

 

胸の奥が揺れる。

ジラは、やっぱり気づいている。

 

全部じゃない。

だから僕は動けなかった。

 

でも彼女が動いた。

ケニーが接触してきた。

 

動き始めなければいけない。

 

 

◇

 

「なぁ坊主」

 

ケニーが椅子の背にもたれ、天井を見上げたまま口を開く。

 

「お前さん、俺に何をさせるつもりだ?」

「嬢ちゃんの想い人攫って、これで終わりってわけじゃねぇんだろ?」

 

僕は鎖に視線を落としたまま、短く息を吐いた。

 

 

「レイス家」

 

ケニーの笑みが、ほんの一瞬だけ消える。

 

鎖の冷たさを、あえて無視するように、笑みを作って向き直る。

 

「ケニーさん。僕をレイス家に繋いでくれませんか」

 

帽子のつばの下で、目が細まる。

 

「ほぉ?」

 

「今すぐじゃなくていい。

 近いうちにで構いません。僕はいつか、彼らと話をしなきゃいけない」

 

静かに言うと、ケニーはあからさまに眉をひそめる。

 

「嬢ちゃんを差し置いて、か?」

 

「はい」

 

迷いなく頷いた。

 

「僕は、僕の役目を果たしたいんです」

 

十代の訓練兵の台詞じゃない。

ただのアルミンが言える言葉じゃない。

分かってる。

 

ケニーも同じことを思ったらしい。

口を歪め、面白がるように目を細める。

 

 

「なぁ坊主……」

 

立ち上がって、ずいと近づいてくる。

コートの裾が床を擦る音が、妙に大きく響いた。

 

「お前さん、何者だ?」

 

今度の問いは、さっきよりもずっと真剣だった。

 

僕は、少しだけ考えてから、見つめ返す。

 

「――約束をしたんです」

 

同じ答えを返した。

 

「でも、『ただのアルミン』でいるために、

 僕は、レイス家と話をしなきゃいけない」

 

ケニーは、しばらく黙って僕を見下ろしていた。

 

やがて、ふっと目を伏せて笑う。

 

「……嬢ちゃんが嫌がる顔が、今から楽しみだな」

 

深く帽子をかぶり直して、踵を返す。

 

「いいぜ坊主。その話、乗ってやる」

 

 

そう言い捨てて、ケニーは部屋を出て行った。

 

 

「教えてはダメだ。教えないのもダメだ」

 

呟いて、自分で苦笑する。

 

 

(ごめん)

 

心の中だけで、もう一度謝る。

 

ごめん、ジャン。

 

君のことは信じている。

だからこそ、君には知らないままでいてほしい。

 

世界の形も。

ジラの全部も。

僕が本当にやっていることも。

 

ジャンだけが、整いすぎた未来の中で、

合理的じゃない選択肢を選ばせるための鍵だから。

 

 

(ジラに洗脳されてる、なんて)

 

 

――本当に洗脳してるのは、僕の方だ。

 

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