壁も巨人も、世界は私のために変われ!   作:an-ryuka

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――前話の続き。


51.アルミン視点

 

空になった鎖とベッドを見下ろす。

 

 

僕の存在を、ジラに気づかれてはいけない。

でもジャンには、動いてもらわないといけない。

 

ジャンを傷つけて、混乱させて。

僕のこともジラのことも、どっちも信じ切れないように。

 

これは、ジラの手札を狂わせる唯一の方法だ。

 

 

 

あの日僕は、

ミカサと一緒に、エレンを追いかけていた。

 

 

僕ははぐれた振りをした。

路地裏で立ち止まる。

 

気配なんて読めない。それでも言葉を紡ぐ。

 

「ケニーさん、ですね」

 

 

暗闇から影が顔を出す。

長いコートと深い帽子。

悪趣味なまでに見事な、笑ってない笑顔。

 

ケニー・アッカーマン。

ジラの、側近の1人。

 

 

「……僕を攫えって言ったのは、ジラですか」

 

最初の一言で名前を出したとき、ケニーの口元が少しだけ吊り上がる。

 

「なんで知ってんだ?」

 

予想通りの答えに、胸の奥が冷たく沈む。

 

「嬢ちゃんが、本気で警戒するだけはあんな。

 初めてだぜ?こんな特別待遇は」

 

ケニーがニヤつきながら続ける。

 

「お前さん、なんだ?」

 

 

その問いに、僕は少しだけ目を伏せた。

 

――僕は……。

 

「ただの、アルミンですよ」

 

そう答えると、ケニーは吹き出した。

 

「ハッ。ジラの嬢ちゃんがこりゃ正しいな。

『何も変なところは見つからない。でも苦手。勘は信じることにしてるの』

 だとさ」

 

胸の奥が揺れる。

ジラは、やっぱり気づいている。

 

全部じゃない。

だから僕は動けなかった。

 

でも彼女が動いた。

ケニーが接触してきた。

 

動き始めなければいけない。

 

 

 

「なぁ坊主」

 

ケニーが椅子の背にもたれ、天井を見上げたまま口を開く。

 

「お前さん、俺に何をさせるつもりだ?」

「嬢ちゃんの想い人攫って、これで終わりってわけじゃねぇんだろ?」

 

僕は鎖に視線を落としたまま、短く息を吐いた。

 

 

「レイス家」

 

ケニーの笑みが、ほんの一瞬だけ消える。

 

鎖の冷たさを、あえて無視するように、笑みを作って向き直る。

 

「ケニーさん。僕をレイス家に繋いでくれませんか」

 

帽子のつばの下で、目が細まる。

 

「ほぉ?」

 

「今すぐじゃなくていい。

 近いうちにで構いません。僕はいつか、彼らと話をしなきゃいけない」

 

静かに言うと、ケニーはあからさまに眉をひそめる。

 

「嬢ちゃんを差し置いて、か?」

 

「はい」

 

迷いなく頷いた。

 

「僕は、僕の役目を果たしたいんです」

 

十代の訓練兵の台詞じゃない。

ただのアルミンが言える言葉じゃない。

分かってる。

 

ケニーも同じことを思ったらしい。

口を歪め、面白がるように目を細める。

 

 

「なぁ坊主……」

 

立ち上がって、ずいと近づいてくる。

コートの裾が床を擦る音が、妙に大きく響いた。

 

「お前さん、何者だ?」

 

今度の問いは、さっきよりもずっと真剣だった。

 

僕は、少しだけ考えてから、見つめ返す。

 

「――約束をしたんです」

 

同じ答えを返した。

 

「でも、『ただのアルミン』でいるために、

 僕は、レイス家と話をしなきゃいけない」

 

ケニーは、しばらく黙って僕を見下ろしていた。

 

やがて、ふっと目を伏せて笑う。

 

「……嬢ちゃんが嫌がる顔が、今から楽しみだな」

 

深く帽子をかぶり直して、踵を返す。

 

「いいぜ坊主。その話、乗ってやる」

 

 

そう言い捨てて、ケニーは部屋を出て行った。

 

 

「教えてはダメだ。教えないのもダメだ」

 

呟いて、自分で苦笑する。

 

 

(ごめん)

 

心の中だけで、もう一度謝る。

 

ごめん、ジャン。

 

君のことは信じている。

だからこそ、君には知らないままでいてほしい。

 

世界の形も。

ジラの全部も。

僕が本当にやっていることも。

 

ジャンだけが、整いすぎた未来の中で、

合理的じゃない選択肢を選ばせるための鍵だから。

 

 

(ジラに洗脳されてる、なんて)

 

 

――本当に洗脳してるのは、僕の方だ。

 

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