アラジンがS級魔導士に任命されてから数日が経過した日の夜…満月が月明かりに照らされら中、ギルド内にてマカロフはジャッキに入ったお酒を飲み干していた
「…引退か…ギルドも新しくなりマスターの称号も次の世代へと…ラクサス…あやつは心に大きな問題がある…ギルダーツは無理だしのお…ミストガンはディス・コミュニケーションの見本みたいな奴じゃし…アラジンは歴が浅すぎて反発が起こるやも知れん」
先日、古き友から言われた様にマカロフの脳裏には"引退"と言う言葉がこびりついていた。
「だとすると…まだ若いがエルザ…」
とその時、下からマカロフを呼ぶ声が聞こえた
「マスター!」
「ん?」
呼びかけていたのはミラであった
「またやっちゃったみたいです」
「は?」
ミラの言うセリフが理解できなかった…いや、理解したくなかった
「エルザ達が仕事先で街を半壊させちゃったみたい」
「なぬ!!!」
「評議員から早々に始末書の提出をと連絡が届いてますよ」
「お、お、お、…引退などしとれるかぁぁぁぁぁ!!!」
聖十大魔導にも名を連ねたマカロフを引退させるとしたらそれは…年齢でも…負傷でもなく…問題児達の気苦労やもしれん
今宵も賑やかな夜を過ごす面々であった
◆
「う〜ん…どうしようかな…なんにしよう」
僕は今、ギルド内にあるバーカウンターにてデザートのメニュー表と睨めっこをしている。本来であればクエストに赴いていてもおかしくはないのだが、マスターや仲間達からしばらくは休暇を取る様に言い負かされてしまったのだ
「決まった?アラジン」
「あ、うん…ちょっと待って、コレにするよ!ミラ特製のかき氷!」
アラジンに声をかけたのは先日結ばれた恋人のミラジェーン・ストラウスである。
「あれ、そう言えば他のみんなは?ナツとかルーシィとか見かけないけれど」
「あ、うん。皆んなはエルザが持ってきた依頼に出かけたわよ。ちょっと遠出みたいで二泊3日とか言ってたかしら?」
「え!?僕それ聞いてないんだけど!?」
「あら?そうなの?てっきり知っているものだと思っていたけれど…」
エルザ達が僕に何も言わずに旅立ったことに対し僕は落ち込んでいた。…なんで何も言ってくれなかったんだろう
「おぉ…ここにおったか…アラジンよ」
「…ん?あ、マスター」
「あらマスター。何か飲まれます?」
「いや、大丈夫じゃ。ちょいとアラジンに言っておかねばならないことがあっての」
アラジンの元に現れたのはマカロフであった
「僕に?」
「コレはナツ達にも伝えてあることなんじゃが…」
「…」
「お主にはコレからナツ達とは別で任務を受けて欲しいんじゃ」
「「え??」」
マスターの言葉に驚く僕とミラ
「まぁ簡単に説明すると…理由は二つあるのぉ〜一つ目は戦力が集中し過ぎること…お主1人でも通常任務では過剰戦力なのにも関わらず同格のエルザまであるんじゃ、あまり他の者の為にもお主らの為にもならんじゃろ」
「…」
「そしてもう一つは…お主にはできれば別のもの達とパーティーを組んで欲しいんじゃ…メンバーは誰でも良い。なんなら…"ミラ"でも良いぞ?」
「え?ミラ?…いやでもミラは戦えないんじゃあ…ミラ?」
マカロフから出た名前に驚き聞き返すアラジン…そんな2人の言葉を聞いていたミラは思い詰めたように下を向いたことにアラジンは気づく
「なんじゃ知らんのか?ミラは"お主と同じS級魔導士"じゃぞ?」
「えぇ!?そうなのミラ!?」
「…」
驚き問いただすアラジンの言葉に応えず下を向くミラ
「…ミラ?どうしたの?…大丈夫??」
「…」
「…やはり、まだダメかのう…想い人にも伝えておらん様じゃしのぉ」
「どう言うこと??」
「…いや、ここから先は本人から聞いた方が良かろうて…どのみちこの先アラジンと共に一生を過ごすならばいつかは伝え…乗り越えなければならない問題じゃ…それにミラよ」
「…」
「お主が愛した男はお主の悩みや葛藤…悲しみを放っておける様な薄情で頼りない男なのか?」
「…」
マカロフの言葉にミラはゆっくりと顔をあげアラジンを見つめる。ミラの目には己を酷く心配そうに見つめる恋人の顔が見えた。
「…そう…ですね…ありがとうございます…マスター」
「…今日はもう上がりなさい…すまんのぉアラジン…ミラのことは頼んだぞい」
「うん…任せてよ!!」
何のことかは分からないがミラの表情を見る限りかなりデリケートな問題なのだろう…そしてこの問題をアラジンのいる前でしたことこそマカロフがアラジンにミラを助けて欲しいと言う意思表示の表れでもあったことをアラジンは読み取る。
「とりあえず、僕たちの家に帰ろう!!」
「…うん」
◆
アラジンが購入した自宅は、現在アラジンとミラの2人で過ごしている。元はアラジン1人で過ごしていた自宅なのだが、恋人となった今、この広い屋敷で共に過ごすことの方が多くなり、アラジンの生活面をサポートしたいとミラが言い出したことが始まりであった
そんな2人の愛の巣にて、リビングのソファで2人は隣り合い支え合う様に並び座っていた。
「…私ね…本当は——」
ミラは、そっと視線を落としたまま言葉を紡ぎ始めた。
その声は穏やかで、けれどどこか、胸の奥に沈めていたものを掬い上げるような重さがあった。
「昔の私はね、今とは全然違ったの。もっと荒くて、強さばっかり求めてて……戦うことに迷いなんてなかった」
指先が、無意識に自分の腕をなぞる。まるで、かつての自分を確かめるように。
「私の魔法…変身魔法…【サタンソウル】は“悪魔の力”なんて言われて、怖がられることも多かったけど……それでも、"リサーナ"とエルフマンがいてくれたから、私は私でいられた」
ミラは、ソファに沈むように寄りかかりながら、ぽつりと切り出した。
その横顔は穏やかに見えるのに、どこか遠くを見ているようでもあった。
ミラか使用するのは変身魔法… サタンソウルは悪魔の魂を取り込み、その姿・能力・魔力を自分のものとして発現する。謂わば悪魔の力をその身に宿し、姿そのものを変える魔法だ
変身といっても見た目だけじゃない。
筋力・耐久・スピード・魔力量すべてが跳ね上がり、
まさに“別の存在”になるレベルで強化される。
しかし悪魔の力は強大な反面、精神にも影響を与えやすい。
怒りや破壊衝動と結びつきやすく、制御には強い意志が必要になる。まだ幼いミラには制御不可能の魔法であったことは間違いない
そして
「私にはね、妹がいたの。リサーナっていうの」
その名前を口にした瞬間、空気がわずかに変わる。
大切にしまっていた記憶を、そっと取り出すように。
「すごく優しくて、誰にでも笑顔を向けられる子で……私とは真逆だったかな。私はすぐに怒るし、力で押し通そうとするし……でもあの子は、いつも私の隣で笑っててくれた」
小さく、懐かしむように微笑む。
「エルフマンも含めて、三人で過ごしてた時間は……私にとって全部だったの。家族って、ああいうことなんだって思ってた」
けれど——その笑みは、ゆっくりと消えていく。
「私はね、その家族を守りたくて強くなろうとしてたの。自分の“悪魔の力”だって、怖がられてもいいって思ってた。あの子たちを守れるなら、それでいいって」
指先がわずかに震える。
「でも……その“守るための力”が——」
言葉が詰まり、息が浅くなる。
「ある任務で……エルフマンが無理に力を使って、制御できなくなって……暴走して……」
視線が床へと落ちる。
「止めなきゃって思った。あのままじゃ、もっと酷いことになるって。だから私も力を使ったの。でも——」
一瞬、声が途切れる。
「……リサーナが、間に入ってきたの」
震えた声が、静かな部屋に落ちた。
「私たちを止めようとして……二人とも、大事だからって……」
ぎゅっと、拳が握られる。
「その瞬間だった。暴走した力が……あの子に……」
それ以上は言葉にできない。
ただ、事実だけが重く残る。
「……私のせいだって思ったの」
ぽつりと、落ちた。
「私が力なんて持ってなければ。私が戦おうとしなければ。あの時、もっと違う選択をしてればって……何度も、何度も考えた」
肩が小さく揺れる。
「守りたくて強くなったのに……一番守りたかった妹を、守れなかった。それどころか……失わせた原因が、自分の力だったなんて……」
声はかすれ、それでも止まらない。
「だから、怖くなったの。もう二度と、同じことを繰り返したくなくて……魔法を使うのが、自分が戦うのが、全部……怖くなった」
ゆっくりと、アラジンの肩に寄りかかる。
「ギルドでは笑ってるけど……本当はずっと、あの時から止まったままなのかもしれない」
少しの沈黙。
けれど、ミラはそのまま言葉を続けた。
「……でもね」
今度は、ほんのわずかに力の戻った声。
「アラジンと過ごす時間の中で……少しだけ、変わってきた気がするの」
そっと、彼の手を握る。
「怖い気持ちは消えない。でも、それだけじゃないって思えるようになってきた。あの子との思い出も、全部否定したくないって……そう思えるの」
小さく、微笑む。
「リサーナはね、きっと……私がずっと俯いてるの、望んでないと思うから」
その言葉は、どこか決意を帯びていた。
「だから……いつかまた、自分の力と向き合えるようになりたい。逃げるんじゃなくて、ちゃんと受け止めて……今度こそ、大切な人を守れるように」
握る手に、わずかな力がこもる。
「その時は——」
ちらりと、アラジンを見る。
「隣に、いてくれる?」
その言葉は、決して大きくはない。
けれど、確かに——彼女が一歩踏み出した証だった。
ミラの問いかけにアラジンはーー
「んっ」
アラジンは胸元にミラを抱き寄せる
「当たり前じゃないか…僕は君から離れない…」
「…アラジン」
「君が悪魔になるというのなら僕も悪魔になってみせるよ…君が地獄へ行くと言うのなら僕も一緒に地獄へ墜ちよう…絶対に君を"1人にはさせない"」
「…うん…ありがとう…アラジン」
ミラはそのまま、しばらくアラジンの胸に顔を埋めていた。
彼の心臓の音が、やけに近くて――規則正しくて――不思議と、胸の奥のざわつきを静めていく。
指先に込めていた力が、少しずつ緩んでいくのが自分でもわかった。
「……ねぇ、アラジン」
小さく呼びかける声は、さっきよりも少しだけ柔らかい。
「さっきの……“悪魔になる”っていうのは、さすがに大げさだと思うけど」
くすっと、かすかな笑みが漏れる。
「でも……一人にしないって言ってくれたのは、嬉しかった」
顔を上げて、彼を見る。
その瞳にはもう、さっきまでの迷いだけじゃない、確かな光が宿っていた。
「私ね、まだ怖いの。力を使うのも、また誰かを傷つけるかもしれないって思うのも……全部」
少しだけ視線を落とす。
「でも――」
もう一度、彼の手を握り直す。
「それでも進みたいって思えたのは、アラジンが隣にいるから」
その言葉は、静かだけど揺るがないものだった。
アラジンは一瞬、何か言おうとして――
けれど、言葉の代わりに、そっと彼女の額に自分の額を寄せた。
「じゃあ、一緒に進もう」
低く、穏やかな声。
「怖くてもいい。迷ってもいい。でも、その全部を抱えたまま前に行けばいいんだ」
ミラは、ゆっくりと頷く。
「……うん」
その瞬間――
ほんの少しだけ、風が吹いた気がした。
閉じていた何かが、静かにほどけていくような感覚。
過去は消えない。
痛みも、後悔も、全部そこにある。
けれど――
「……アラジン」
「ん?」
「私の魔法を見て欲しいの…まだ完全じゃないけど……逃げたままじゃ、きっと何も変わらないから…それにもし暴走しても貴方なら抑えられると思うから」
「…ミラ…分かったよ。僕にもその力を見せておくれよ」
ミラのその瞳には、もう“ただ守られるだけ”の色はなかった。