《マグノリア・フェアリーテイルギルド内部》
そのギルドホールにて――
いつも通りの喧騒。笑い声、喧嘩、酒の音。
だがその全てを――
ゴンッ!!…とマカロフの杖の一撃が、強引に静めた。
「静まれい!!」
一瞬で空気が張り詰める。
「これより重大な話をする」
全員の視線が集まる中、マカロフはゆっくりと口を開いた。
「アラジンが――S級魔導士昇格試験を受けることとなった」
「「「はぁぁぁぁぁ!!?」」」
あまりに急で驚くべき内容に一斉に爆発する声。
「マジかよ新入り!?」
「早すぎでしょ!?」
「でもあの実力なら……」
「…なんでアラジンが」
「実力は申し分ないが…何かおかしいな」
「なぁにぃぃ!?俺より先だと!?」
ざわめきの中――ミラやエルザは驚き、特に戦闘とS級に重きを置くグレイやエルフマン、ロキにナツなどは悔しそうに拳を握りしめている
「何一丁前に悔しがってやがる…テメェらカス共じゃあ何人いようが俺らには敵わねぇんだよ。…その点奴はまだ見込みがあるぜ」
「「「っ!?」」」
2階のですら近くから腕を組み、つまらなさそうに見下し笑うラクサス。
その様子に皆も不快感や恥辱を味わい下を向く中、ブチギレたのはナツ
「俺たちのどこがカスか言ってみやがれ!!ラクサァァァァァァス!!」
「ナツ!?」「ナツ何を!?」「あんの馬鹿!?」
炎を全身から滾らせ、両手に炎を集め一つの大きな巨炎とさせる
「火竜の煌炎!!」
ナツが大技を繰り出すその瞬間ーー
「雑魚がっ…」
「んなっ!?どこにっ!?ーーぐはっ!?」
雷が鳴り響きラクサスの姿が消える。そして次の瞬間にはナツが地面に叩きつけられており、気絶していた
「この程度の雑魚ならウチにいる価値もねぇだろ…掃除しておくか」
「なっ!?何を!?」「やめんかラクサス!?」「やりすぎだラクサス!?」
ラクサスは倒れ伏したナツに対し追い打ちをかけるように手のひらから雷を溢れさせる。その魔力だけでラクサスがどれほどの実力者か理解できるであろう…エルザですら霞んで見えるほどの太刀打ち出来ないレベルの強者
皆がこれから起こる悪夢を想像し、涙を流すものや、諦め下を向くものが現れ始める
しかしどれ程待とうともその雷が放たれることは無かった
「ん??どうした?この前とは随分顔が違ぇじゃねぇかアラジンさんよぉ」
ラクサスの右手をアラジンが掴み上げていたのである
「…君の行動は目に余るよ…少しお灸を添えておこうと思ってね」
「は??この俺様に??何だって??」
「確かに君は強い…だから君みたいな人にはそれ以上の強さ…それも圧倒的な力の差を見せようと思ってね」
「何を言ってーー」
ラクサスはアラジンの言っている意味が理解できなかった…その瞬間まではーー
「っんだその魔力は!?」
「「「っ!?」」」
ラクサスが言い終わる前にアラジンの全身からとてつもない程の殺気を帯びた魔力が溢れ出す。蒼くそれでいて、どんどんと蒼黒く変貌しながら反抗しようとするラクサスの魔力すら呑み込み圧殺してしまうほど強力で圧倒的な魔力の差
「ぐっ…はぁ…はぁ…はぁ」
次第にラクサスの吐息が乱れ、額には汗を掻き始め、アラジンに右手を掴まれたまま片膝をつく
「これ以上暴れるようなら僕が相手をしよう…今ここでね…どうするラクサス?僕としてはこのまま引いてくれることをお勧めするよ」
「…はぁ…はぁ…はぁ…この…化け物が…」
反論すらさせないアラジンの魔力にラクサスは残りの力を振り絞り、アラジンが掴んだ右手を振り解きながらギルドを出ていく…その姿に先ほどまでの圧力と覇気は微塵も感じずどこか弱々しささえ感じるほどであった
「…すまんなアラジン…お前に嫌な役目を押し付けてしまった」
その横暴を止めることも出来ず不甲斐ないと己を思うマカロフがアラジンに駆け寄り声をかける
「気にしないでよマスター!…僕は僕のやることをしたまでさ!」
「…すまん…皆も見ていた通りアラジンの実力は折り紙つきじゃ!最早この昇格クエストに異論を唱える者はいないじゃろう!明後日から旅立つアラジンに激励の拍手を送ってやれぃ!!」
「「「うぉぉぉぉぉ!!」」」
マカロフの言葉を皮切りに溢れ出す歓声と拍手、そして先ほどまでアラジンを疑っていたものすらラクサスとの攻防を目撃し認める他なくなってきている
「試験内容や通達する!アラジンは2階へ参れ!!」
「「「2階!?」」」
「と言うことは…」
エルザはその言葉に今回のS級昇格試験がどれほどの難題なのかを悟る。何せ2階はS級クエストのみの超過酷ミッションだからである
ざわめきと熱気を背に、アラジンは静かに階段を上る。
二階――
そこはフェアリーテイルでも限られた者しか立ち入れない領域。
並ぶ依頼書は、どれも一目で“異質”と分かるものばかりだった。
紙越しにすら感じる禍々しい魔力。
「……来たか」
奥で待っていたのは、小さな背に巨大な威圧を宿す男――
マカロフ・ドレアー。
「ここから先は、“力があるだけ”では足りん領域じゃ」
アラジンは黙って頷く。
マカロフは一枚の依頼書を取り上げた。
それは他のものとは違い――
封蝋で厳重に閉じられていた。
「今回おぬしに受けてもらうのは……S級の中でもさらに上」
ゆっくりと封を解く。
「“禁忌指定任務”じゃ」
空気が変わるのがわかった。
「対象は……ゼレフ書の悪魔」
その名を口にした瞬間、わずかに空間が軋む。
「名を――“アバドン=ネメシス”」
アラジンの瞳がわずかに細まる。
「……ただの緊急クエストではないのかい」
「うむ。あやつは“失敗作”として封じられた存在と言われておる」
マカロフは低く続ける。
「じゃがその“失敗”が問題でな……奴は“破壊”ではなく――"魔法の消去”を行う」
「……」
「これまで数多くの実力者がこやつの討伐…ないしは封印に挑んだが、誰も成功してはおらず、それどころかここ100年は帰還者すらおらん始末じゃわい」
マカロフは依頼書を机に置く。
「奴は周囲に“静寂の領域”を展開する」
「魔力が消え、生命が薄れ、やがては“意志”すら霧散する」
「つまり――」
「戦うことすら容易ではなく、戦えたとしても魔法が消え去り、ただの人間とかしてしまう…そのような状況で魔導士に出来るなどなど何もない」
アラジンはわずかに息を吐いた。
「……面白いね」
マカロフの口元がわずかに上がる
「場所は北方封印遺跡――“ノクス・アビス”…内部は既に侵食され、空間すら安定しておらん…帰還保証はない」
一瞬の沈黙が2人の間に訪れる
「任務条件は三つある…一つ、対象の完全消滅…二つ目は不可能な場合は再封印…そしね三つ目は――生きて帰ること」
マカロフは真っ直ぐにアラジンを見る。
「……正直に言おう…この任務、ラクサスでも無理な案件じゃろう…それはミストガンでも同じじゃ…それでもおぬしに任せる理由……分かるか?」
アラジンは静かに微笑む。
「ギルド…更に言えば僕達のため…でしょ?」
「…うむ…これほど巨大な任務をクリアしたとなれば、他ギルドや闇ギルドの抑止力にもなるじゃろう…あまり公には出来んがウチは一枚岩ではないからのう…」
そう言いながら少し悲しそうな表情を浮かべるマカロフ…それもそのはず今フェアリーテイルギルド内部の力の均衡は決して均等ではないのだから
マカロフを頂点としているがその下にS級魔導士…しかしそのS級でも個体差が存在し、マカロフの目から見てもラクサスとミストガンは別格であった。…しかしラクサスは血縁とは言え、力のないものを差別しミストガンはその力や素性を隠し知っているものすら僅かであろう
強さ者がこうもクセの強いもの達しかいないとなると、フェアリーテイルの未来が明るいとは大きくは言えないことであった
しかし、その対抗馬として新たに現れたアラジンが人柄、実力共に申し分ない魔導士が加入してくれた
勿論エルザやナツには悪いが、マカロフは老い先短い己の命を顧みてアラジンに早々にギルドの柱として君臨してもらう道を選択したのであった
「頼むアラジン…どうか無事に帰ってきてくれ…戦わなくても良い…生きて情報さえ持って来てくれればあとはワシが何とかしよう」
「…マスター」
アラジンはマカロフが本気で自分の身を案じていることに気づく。ギルドに加入したのも浅く、まだまだ期待に応えれていないアラジンを息子ように思うマカロフ
その期待に応えてみせると、さらにアラジンは覚悟を固める
「…必ずマスターの期待に応えてみせるよ!何たって僕は…妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士だからね!!」
アラジンに今できることは目一杯の笑顔でマスターを安心させることだけであった。
アラジンが2階から下へ降りるとーー
「お、おい降りて来たぞ!」
「「「アラジン!?」」」
「おっと…どうしたんだい??」
アラジンを見た仲間が一斉にアラジンへと駆け出し、その中でミラがアラジンの胸元へと飛びつき慌てて抱き寄せるアラジン
「どうしたってお前は分かっているのか!?お前が今から受けるのは…並大抵のミッションではない…お前もマスターから聞いただろう」
エルザは内容こそ知らないが、アラジンが受け持った任務がおそらく想像の範囲外であるレベルであることを見抜いていた
「ねぇ…お願い…私も連れて行って」
「「「ミラ!?」」」
「姉ちゃん!!何言ってんだよ!?」
驚きの言葉を発するミラに驚愕する面々と慌てふためく弟のエルフマン
「…もう…もう嫌なの!…"2度も大事な人を失う"のは…」
「…」
「…姉ちゃん」
その異様な雰囲気にアラジンは理解出来ずとも過去に何かしらの事件があったことを悟った。
そしてアラジンは2階のマカロフを見つめる。マカロフはコチラ見つめながら首を横に振り
「…ごめんねミラ…今回は…ミラを"連れてはいけない"」
「っ!?…そう…なのね」
アラジンの言葉に目尻に涙を溜め更に抱きしめる力を強めるミラ
「僕でさえ正直どうなるかは分からないからね…でも…」
「…でも?」
「ミラを悲しませることは絶対はしないと誓うことは出来る…だから信じて待っていてくれないかい?」
「…」
そういうとアラジンは首にかけたサファイヤのネックレスをミラの首につける…そして驚き顔を上げたミラの唇に何かが優しく触れた
「…へ…」
「「「え…えぇぇぇぇ!?」」」
ほんの一瞬なのに、胸の奥が静かに熱を帯びる。何が起こったのか時間差で理解出来たミラは顔を見たことないほど赤くさせ下を向いてた。
しかしそこには言葉にしなくても伝わる何かが、確かに存在したのであった。
「あはは…可愛いなぁ〜…ふぅ…このままだとクエストに行く前にエルフマンに殺されちゃうから早く出るとするよ」
「テメェ!アラジンこのやろう!!姉ちゃんに…俺の姉ちゃんに!!」
「頑張ってねアラジン!!待ってるから…私待ってるからね!」
アラジンの別れの言葉と、大暴れするエルフマンを仲間達が全力で抑え込み、一気に精神的に安定したミラは満面の笑みでアラジンを見送ると言う中々に破天荒な絵面でギルドを去ることになったのであった
次回から本格的にクエスト攻略に突入します