ようこそ陰の実力者がいる教室へ! 作:心入れ替え
よう実にシャドウ様加えるやつ
影野実は魔力を目指しちゃうので、影野シドとして頑張ってもらいます
(2026-01-24、17:32に一部変更と加筆しました)
きっかけが何だったのかは覚えていない。ただ物心がついた頃にはもう『陰の実力者』に憧れていた。
アニメなのか、漫画なのか、映画なのか、いや、何でもいいのだ。陰の実力者であれば、それがなんであったとしても僕はよかった。
主人公でもなく、ラスボスでもなく、物語に陰ながら介入し実力を見せつけて征く存在。
僕はそんな陰の実力者に憧れ、そうなりたいと思った。
誰もが子供の頃憧れたヒーローのように、僕にとってそれが陰の実力者だった。それだけのことだ。
ただヒーローに憧れた子供たちと違うのは、僕のそれは一時の熱病では決してなく、もっと深い心の底で燃え続け、いつまでも消えることなく僕を突き動かした。
空手、ボクシング、剣道、総合格闘技……強くなるために必要なものは全力で習得し、そして実力は隠し続けた。いつか来るその日のために。
小、中学校では平凡を貫いた。決して目立たない、人畜無害なモブA。
しかし日常の裏側は修行に全てを費やした。
それが僕の青春であり、学生生活であった。
だけど、時が経つにつれて不安が押し寄せてきた。現実と向き合う時が来た。
そう、こんな事していても、無駄なのだ。
巷に溢れている格闘技をいくら習得しても、物語の世界にいた陰の実力者のような、圧倒的な力は手に入らないのだ。
僕にできるのはせいぜいチンピラ数人をボコれるだけ。飛道具が出てきたら厳しいし、完全武装の軍人に囲まれたらお終いだ。
軍人にボコられる陰の実力者……笑える。
僕がこの先何十年修行しても、たとえ世界最強の格闘家になったとしても、きっと軍人に囲まれたらボコられるのだろう。いや、もしかしたら何とかなるのかもしれない。人間は鍛えれば軍人に囲まれてもボコり返すだけの可能性があるのかもしれない。
しかし仮に軍人を打倒したところで、頭上に核が落ちてきたら蒸発する、それが人間の限界だ。
これだけは断言できる。僕が憧れた陰の実力者は核で蒸発しないのだ。だから僕も、核で蒸発しない人間にならなければいけないのだ。
核で蒸発しないために必要なものは何か?
パンチ力か?
鋼の肉体か?
無尽蔵のスタミナか?
そんなものじゃない。
もっと別の、異なる力が必要なのだ。
そう、知力、知力だ。知力があれば軍人に囲まれることもないし、核を頭上に落とされて蒸発することもない。むしろ「どこに落としているんだ?」なんて言いながら背後から現れるのもいい。
知力。それが、僕が現実と向き合った末にたどり着いた答えだ。
それから僕は、残りの中学時代を勉強に費やした。もちろん、肉体を仕上げるのも忘れていない。
目指すのは高度育成高等学校という場所だ。なんでも、その学校は日本の未来を背負う人をぽんぽん出しているらしい。実力者が集まるというそこなら、陰の実力者を輝かせるような人間がいるに違いないと僕の知力がそう言っている。
それに、希望する進学先、就職先に100%答えるらしい。まあ、僕にはどうでもいいことなんだけど、陰の実力者って言ったらどう応えてくれるのかな、なんてちょっと気になったり。
今日の修行は頭の中のもう一人の自分と多種多様な言語で会話しながら、山にこもって岩に頭をぶつけるというものだ。
もしも、人間の種として命の危機に遭遇した場合にいかに冷静で居られるか、大事な場所を攻撃されて思考力を低下させないかを完璧に鍛えることのできる一石二鳥のトレーニングだ。ついでに頭も硬くなるというサービス付き。これには思わず星五評価だ。
知力を鍛え始めてからこんな素晴らしいトレーニングを思いついてばかりだ。やっぱり、僕に必要なのは知力だったのだ。
でも、頭の傷が治るのに時間がかかっちゃって月に2、3回しかできないのがちょっと欠点かな。前は指とか脛で代用してたんだけど、今はもう苦を感じることがなくなったから止めた。
ふと、これは知力の鍛錬なのだろうか、だなんて思うんだけど、きっと正解は存在しない。入試まであと一ヶ月を切った。僕にできるのは暗闇の中を、自分の信じた道を、ただ突き進むのみだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「新入生諸君。私はこのDクラスを担当する茶柱佐枝だ。この学校には基本的に学年ごとのクラス替えは存在しない。卒業までの三年間、私が担任としてお前たちと学ぶことになると思う。よろしく。今から一時間後に入学式が行われるが、その前にこの学校の特殊なルールについて資料を配らせて貰う。以前、入学案内と一緒に配布はしてあるがな」
陰の実力者はその名の通り、陰に潜む実力者のことだ。
表立って主人公と一緒にラスボスを倒すような存在ではなく、ラスボスを倒す直前に拍手をしながら現れて、「お前は箱庭から出る資格があるようだ」とか言いながら一瞬でラスボスを倒して、主人公達に強烈な実力を見せつける存在……だったり。
主人公達の行く手を阻み、「勇気は称賛に値するが、お前達にこの先はまだ早い」とか言って陰ながら観測している風を装いながら妨害したり。
正体を隠し接近して宿敵に繋がるヒントをばら撒き、「もしかして、アイツは……」とか自分達は全て陰の実力者の術中にハマっていたことに気づく、だったり。
「今から配る学生証カード。それを使い、敷地内にあるすべての施設を利用したり、売店などで商品を購入することが出来るようになっている。クレジットカードのようなものだな。ただし、ポイントを消費することになるので注意が必要だ。学校内においてこのポイントで買えないものはない。学校の敷地内にあるものなら、何でも購入可能だ」
まあ何が言いたいかというと、陰の実力者は実力を見せる相手と場所を選ぶのだ。そう、来るべきその瞬間まで……。
だから僕は普段、そこら辺にいる人畜無害なモブAになりきらなければならない。
「施設では機械にこの学生証を通すか、提示することで使用可能だ。使い方はシンプルだから迷うことはないだろう。それからポイントは毎月1日に自動的に振り込まれることになっている。お前たち全員、平等に10万ポイントが既に支給されているはずだ。なお、1ポイントにつき1円の価値がある。それ以上の説明は不要だろう」
モブ、と言っても軽いイメージを持ってはいけない。モブになるためにはいくつかの試練を乗り越えなければならないのだから。
試練その一は交友関係。幸運なことに、それを僕は簡単に乗り越えることができた。
僕の友達に求める条件は二つだ。目立たない人、それと最低限の会話ができる人。
モブは平均なのだ。友達の数は一、二人で、誰の記憶にも残らなくて、同窓会に誘われないような……そんなザ・モブのような人を探していた。
そして幸先の良いことに見つけたのだ。綾小路清隆というモブンピックメダリストを……!
教室の一番後ろそして端に近い席、髪が目にかかって陰の気配を解き放っている彼。
素晴らしいのは、友達を作ろうとしているが話しかける勇気がないからキョロキョロするだけのミジンコ根性だ。
そしてなにより友達が少なそう。僕の学校生活のモブ友は彼だ、彼しかいない。
僕は満面の笑みで話しかけた。これから僕と一緒に栄光あるモブロードを歩まないか、と。
あ、これはもちろん冗談で、本当は程よく言葉に詰まりながら震える手を差し出して友達になってくれないかと頭を下げた。その緊張感といえば、まるで告白だ。
僕を数秒見つめた綾小路は、笑顔で快諾してくれた。モブは自分より弱い人間と関わることを選ぶ傾向にある……そう、僕のモブ友の作り方に間違いはなかったんだ。
「ポイントの支給額が多いことに驚いたか? この学校は実力で生徒を測る。入学を果たしたお前たちには、それだけの価値と可能性がある。そのことに対する評価みたいなものだ。遠慮することなく使え。ただし、このポイントは卒業後には全て学校側が回収することになっている。現金化したりなんてことは出来ないから、ポイントを貯めても得は無いぞ。振り込まれた後、ポイントをどう使おうがお前たちの自由だ。好きに使ってくれ。仮にポイントを使う必要が無いと思った者は誰かに譲渡しても構わない。だが、無理やりカツアゲするような真似だけはするなよ? 学校はいじめ問題にだけは敏感だからな」
これからの輝くモブ生活を思うと、あまりの喜びに涙が出そうだった。いつの間にか彼の隣に座っていた女子生徒の冷たい視線を受けながら、僕らは互いについて深めていったのだ。
「質問は無いようだな。では良い学生ライフを送ってくれたまえ」
長い事何かを話していた先生が教室から出ていった。話は終わったってことなんだろう。みんなが一斉に周りの人と会話を始めた。
さて、僕はどうしようかな。ちらっと綾小路を見ると、隣の女子生徒と話しているようだ。ふむ、モブ友はダメか。
うーん……なんかの行事が一時間後だっけ。陰の実力者ムーブができそうな所を探しに行こうかな。
よし、そうと決まれば善は急げだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
コンビニに向かう最中、オレは自己紹介の場にいなかったある男を思い返していた。
友達を作ろうとして行動に移せず、学校生活早々に手詰まりを感じた時、そいつは突然やってきて、震える手を差し出してきながら『と、ぼ、と、友あちっになってくぇませんか!』と日本語のような言語でオレに何かを頼み込んできた。
オレは咄嗟のことでどう言葉を返せばいいのか分からず、『お、おう』と。なんとも締まらない言葉で会話を試みた。
一息でこれを言われた時は一瞬宇宙を感じたが、よくよく考えてみれば何も変な話はしていない。どこにでもいそうな平凡な男の話だ。
「……またしても嫌な偶然ね」
コンビニに入ろうとすれば、目の前には堀北が立っていた。
「なんだ、お前もコンビニに用があったのかよ」
「ええ、少しね」
これからの寮生活、女子ともなれば色々と入用なのだろう。
堀北はシャンプーなどの日用品をテキパキと籠の中に入れながら、ちらっとオレに視線を向ける
「……なんだよ」
「いえ、あなたのお友達を、あの場で見かけなかったと思っただけよ」
「お友達……か」
「何か不満があるのかしら? だとしたらそれは見当違いね。傍から見てもあなた達はお似合いよ」
堀北はそう言うとそっけなく視線を外した。
自己紹介の場に居なかったあの男、影野がオレとお似合い……堀北という一例のみだが、周りからそう見えているんだとすれば、オレはもう少し普通の人間になる努力をするべきなんだろうか。
ポツポツと、どこか間の多い会話をしながら商品をカゴに放り込んでいく。
堀北はまるでオレのことなど見えていないかのように行動していて、友達作りを頑張りたい俺が付きまとっているような形だ。傍目から見ればオレは女優の付き人のように見えるのだろうか。
堀北に言えば『あなたに私の付き人が務まるとでも思っているのかしら。言えるとすればだだの追っかけよ』なんて言われそうだ。間違ってなさそうなのが泣けるな。
「なぁ。これ、どういうことだろうな?」
何か話題がないか店内を見渡していると、ふと気になるものが目に留まった。
コンビニの隅に置かれた一部の食料品や生活用品。
一見他のものと同じに見えるが、大きく異なる点が一つだけあった。
「無料……?」
無料と書かれたポップに【1か月3点まで】と、但し書きも添えられたものが目立つように付いているそのワゴンには、歯ブラシや絆創膏などの日用品が詰められていた。
周囲から浮いた、異質な空間がそこには形成されていた。
「ポイントを使いすぎた人への救済処置、かしら。随分と生徒に甘い学校なのね」
それだけサービスが行き届いていると言うこと、なんだろうか。
「っせぇな、ちょっと待てよ! 今探してんだよ!」
突然、オレたちの友情を育む穏やかなショッピングを掻き消す、大きな声がコンビニ中に響き渡る。
「だったら速くしてくれよ。後ろがつかえてるんだから」
「あ? なんか文句あんのかオラ!」
どうやら会計で揉め事らしい。男同士の睨みを利かせた言い合いが始まっているようだった。不機嫌そうに顔を覗かせたのは、見覚えのある一人の赤髪の生徒。名前はたしか……須藤だったか?
ちらっと横を盗み見ると、堀北は呆れた顔でため息を吐いている。放っておけばこの争いに突っかかっていきそうだな……もしそうなれば、いよいよ事態は収拾がつかなくなるだろう。起こるのは怪獣戦争、今ですら泣きそうな顔をしている店員を見ると心が痛む気がした。
幸か不幸か、争っている内の片方は同じクラスの人間だ。説得で解決する可能性がゼロではない。
ポケットの中にある学生証を確かめながら、争いの渦中へと足を進めた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
入学式が終わった後もちょっとだけ陰の実力者ムーブができそうな場所を探していたんだけど、ピンとくる場所が少なかった。
敷地が広いからいい場所があると思ったんだけどな。僕がいいと思ったところには監視カメラがあったりするし、先客がいたりするしでなんだか散々だ。
まあ、これから三年間もあるから焦る必要はないんだけどね。追い詰められて焦っている陰の実力者……ダサすぎる。陰の実力者は汗の一つも流さないんだ。だから僕は常に余裕を持って行動する必要がある。
陰の実力者はどんな時も余裕を保っていなければならない。
例えば軍人に囲まれたとしても、例えば修行中に警察に通報されたとしても、例えばタンスの角にに小指をぶつけたとしても──
──そう、例えばどこからか飛んできたラーメンを頭から被った時だとしても。
「一年だからって舐めてんじゃねえ、あぁん!?」
僕の今いる位置は、今もなお鼻息と声を荒げるラーメン投手と対峙する、三人組の後ろ。
どうやらこの麺本来の狙いは彼らだったようだ。残念、ワンボール。
「あークソが、女といい二年といい、うぜぇ連中ばっかりだぜ」
ラーメン投手の彼は、僕の事を見向きもせず、ポケットに手を入れたままズカズカと去って行った。僕のことは見えていないらしい。モブすぎて気づかれなかったのかな、だとしたら嬉しい。
彼に気を取られて見えていなかったが、どうやら僕のモブ友、綾小路がこの場にいたようだ。さすがモブ友といったところか、僕も彼がいることに気がつかなかった。
「なあ、影野だよな?」
「うんそうだよ。どう? 髪型変えたんだ」
「お前……いや、火傷してないか?」
綾小路は僕の小粋なジョークをスルーするほど心配してくれているようだった。笑いよりも友達の心配とはさすが綾小路、素晴らしいモブ心。
僕は軽く大丈夫と返して、コンビニのゴミ箱に髪にかかったラーメンを捨てていく。綾小路も手伝ってくれた、やはり持つべきは友。
コンビニで買ってくれたハンカチで顔を拭いていると、無言で僕のことを見つめていた綾小路が口を開いた。
「そういえば、自己紹介のときに居なかったよな」
「えっ」
ジコショーカイ……?
じこ、事故、自己……自己!
自己紹介!?
自己紹介ってあの!?
物語の始まりにされることが多いというあの!?
主人公格が集うというあの!?
モブがモブとしての立場を確立するあの!?
ま、ま、まさか……この僕が…………そんなモブがましいイベントを逃しただって!?
そ……そんな……頭が割れそうだ……。自己紹介を欠席だなんて、そんなのモブじゃない!!
「お、おい……大丈夫か?」
自己紹介があったなんて……つまり、それを知ってるってことはまさか……まさか!
僕は綾小路の肩をできるだけ力強く掴んだ。晴らしようのない思いもちょっと込めて。
「ど、どうした? キツイのか?」
「綾小路くん……それってもしかして、君は自己紹介をしたのかい」
「は?」
「自己紹介をしたの!? してないの!?」
「し、した……が」
「うああああああああぁぁぁぁぁ!!!」
負けた……僕は負けたんだ。
モブを極めて十五年……は嘘だけど、そのくらい……。
僕は産まれて初めてモブという分野で負けた。小学校も中学校もモブとして在り続けるための努力を欠かしたことがなかった。だけど、天然のモブには勝てなかった……。
モブ友のことだ、それはもうモブとして素晴らしい自己紹介をしたんだろう。趣味も特技も誰かが食いつくような情報を一切排除した中身の無さすぎる自己紹介を披露したんだろう! 周囲から明日には忘れられてそうな徹底的な無個性としての評価を受けたんだろう!? 僕の知力がそう言っているんだ、そうに違いない!!
「綾小路くん……」
「……堀北にオレはお前とは似てないということをどう説明するか本気で考えているんだが、どうした」
僕はモブレベルで負けた、そうだ素直に認めよう。
だけどここで止まるわけじゃない。僕の憧れはこんなことでは止まらない。
負けた、なら次はどうすればいいか……そう、古来から伝わる簡単な答えが一つある。
僕は地面に膝をつき、綾小路へと向き合う。
「綾小路くん……いや、綾小路先生……」
「……その呼び方はやめてくれ」
大きく息を吸っておでこを地面に振り下ろす。僕の今できる最大の敬意、モブ式奥義〝モブ土下座〟だ。
「僕を弟子にしてください!!」
「絶対に嫌だ」
思ったよりも読んでくれる方が居たので、昔のプロットを廃して気が向いた時に新しく書いてこうと思います。