ようこそ陰の実力者がいる教室へ!   作:心入れ替え

2 / 6

 陰の実力者になりたくて! はweb版を参考にしながら書いてます
 陰実よう実どちらもにわかです。対戦よろしくお願いします
 前話修整してます。


隠された真実

 

 

 

 土下座をした影野に師匠と呼ばれるのを全力で拒否し、オレは寮へと逃亡した。影野の真っすぐな目に押されて受け入れようとした自分が恐ろしくなったのだ。

 フロントの管理人から401と書かれたキーカードと寮のルールなどが書かれたマニュアルを受け取り、自分の部屋へと乗り込んだ。

 僅か八畳ほどの1ルーム。けど、今日からここはオレだけの家だ。

 

 荷物を置き、制服のまま整えられたベッドにダイブする。頭の中を巡るのは今日の出来事だ。

 

 登校用バスでの席を巡った騒動、堀北の左に座る影野からの友達嘆願、学校のルールであるSシステム、失敗した自己紹介、自己紹介にいない影野、放課後かわいい女子とのデート、須藤に156円で奢ったカップラーメン、宙を舞うカップラーメン、友を傷つけたカップラーメン、影野を暴走させた原因のカップラーメン……おのれカップラーメンめ。

 いつか誰かへ学校生活でのアドバイスを送る機会があれば、オレはカップラーメンを迂闊に買わないことをオススメするだろう。

 

 肉親から、外部からの干渉がない学校生活は自由を満喫できると思っていたのだが、どうやらオレは学校内部が快適な場所だと勘違いしていたようだ。

 

 クラス変えがないということは、今後三年間は影野と関わっていく必要があるということだ。そう考えるだけでも先が思いやられる。

 

 

 影野に関することで、考えないようにしていたことが一つある。

 影野はオレが逃げる直前、じゃあこれからはモブ友として共に切磋琢磨していこう!』とやけに眩しい笑顔で言っていたが、これはどういう意味だろうか。

 

 思えば、関わった時間はほんの少しにも関わらず、影野に関しては疑問に思えることが多かった。

 

 

 初対面時の印象は〝自信のなさが服を着て歩いているような男〟だった。呂律は回らず、体は小刻みに震えていた。友達作りに緊張している性格控えめ、もしくは臆病の緊張しがちな高校生……だと感じていた。

 話している内容も平々凡々、初めに抱いたその印象に違和感を覚えることはなかった。

 

 次に会話したのはコンビニ前の騒動、須藤が二年生相手に激怒し、オレが買ってお湯まで入れたカップラーメンを大きく放り投げた時だ。

 そのカップラーメンは二年生の頭を超えて後ろにいたであろう影野に命中、須藤も二年生も気付くことなく散っていき、オレは一人取り残された姿を見て初めて存在に気付いた。

 

 頭からラーメンを被った影野は、見た目の惨状とは裏腹に余裕そうにオレに冗談を飛ばしてきた。

 そして、まるで朝起きて顔を洗うのと何ら変わりない自然さで、髪に絡みついたラーメンを処理していた。

 

 抱いていた印象とは違う様子を見て、影野の情報をもっと得ようとしたオレは影野に気になっていたことを質問をした。それが頭を悩ませる原因になるとは知らずに。

 自己紹介を欠席したことを激しく後悔している影野は、控えめな人間とはとても言えない形相をしていた。

 オレの肩を強く掴み、自己紹介をしたかと詰めてくる様は今でも記憶に強く刻まれている。今夜の夢に出てきそうだ。

 

 

 友達を申し込んできたときの、多くの目がある教室という場でのあの態度。

 臆病な印象とは裏腹に、普通の人間なら慌てるであろう不測の事態に対して冗談を飛ばせるほど落ち着いていたこと。

 まだ火傷するほど熱かっただろうラーメンを投げてきた須藤に対してなんら悪感情を抱いている様子がなかったこと。

 自己紹介の場に居なかったことを激しく後悔し詰め寄ってきたこと、その上理由も分からず弟子入りを申し込んできたこと。

 そして……影野の言う〝モブ友〟という言葉。

 

 

 思うに、影野の教室で見せたあの控えめな態度は演技なのだろう。

 あの過剰なほどの動揺と緊張は、周囲に無害な弱者という印象を植え付けるためのカモフラージュだ。

  自己紹介を逃して絶望していたのも、単に目立ちたかったからではない。おそらく、大勢の記憶に残らない完璧に凡庸な自己紹介を披露し、モブ……その他大勢の内の一人としての地位を確定させる機会を逸したことへの焦りだったのではないかと思う。

 

 そしてコンビニで見せた不測の事態に対する落ち着いた態度、冷静な対応。

 影野の隠している実力はまだ全容が見えない。隠している理由もだ。

 まだ仮説の域を出ることはないが、影野シドは、オレが求めていた〝普通の高校生〟とは対極に位置する存在なのだろうか。

 

 推測できること、それは影野が目立たない人間──モブを演じることに執着している以上、少なくともオレの平穏な学校生活にそれほどの悪影響を与えないだろうということだ。

 ヤツが味方か敵か、あるいはただの制御不能な天災かは分からない。 確かなのは、オレの平穏な学園生活の鍵を、あのちぐはぐな男が握ってしまったということだけだ。

 

 天井を見つめながら、オレは深い溜息を吐いた。

 オレに対してどんな価値を見出したのか、未だに弟子入りを懇願してきた理由はいまいち思いつかない。

 

 ……これほど影野を分析していながらも考えないようにしていたが、オレが影野にとってのモブ友ということは、影野はオレの事を臆病で控えめで目立たない人間だと思っているということなのだろうか。

 ──お似合いよ──お似合いよ──お似合いよ……

 堀北の言葉が頭をよぎる。オレは頭を抱えた。

 

 ──おのれ、カップラーメン。

 

 オレは二度とカップラーメンを買わないと誓いながら目を閉じ、意識を手放した。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 コンビニでモブ友と別れた後、僕は一度寮に帰った後も陰の実力者スポット探しを再開した。

 それは月が沈み、太陽が登る時間になるまで続き、この施設の隅から隅までを僕は把握したと思う。そのなかで、ピンとくる場所も少しは見つかった。これは大きな収穫だ。

 

 だけど、この学校で陰の実力者として活動するにあたって、とても重要な問題に直面した。

 それは、陰の実力者として相応しい衣装を持っていないということだ。

 

 そんなわけで、速攻で寮に帰って持ち込んできた服を漁る。

 これは寝間着、これは普段着だし、これはスタイリッシュ暴漢スレイヤー、これは……かっこいいと思って買ったけど帰ってよく見たらダサかったピンクのマントじゃないか。

 陰の実力者は陰に潜む存在なのだ。マントはかっこいいけど、ピンクのマントで暗躍する陰の実力者なんてダサすぎて目も当てられない。

 今手元にあるものでピンとくるものは無さそうだ。陰の実力者に見合う服は服屋で探す必要があるだろう。

 散らかった服をクローゼットに押し込み、僕はため息を吐いた。

 

 僕が夢見る数千、数万にも及ぶいろいろな陰の実力者設定を叶えるには、準備するべきものがとても多い。

 陰の実力者に見合った服はもちろんのこと、道具、場所、時には従順な手下だって欲しくなる。

 あれもこれも欲しいと、いろいろと欲張っていたら足りなくなるものがある。それはお金だ。

 

 この学校はこのスマホに入っているお金でしか買い物をすることができないらしい。綾小路にハンカチのお返しとして飲み物を買おうとしたら、スマホを寮に忘れてきたせいで買えなかったのは記憶に新しい。

 スマホというロックが厳重で、記録に残る場所にお金が保管されているということもあり、これまでみたいに暴走族を襲って戦利品を得るといった事ができなくなってしまった。

 

 お金がない、これは陰の実力者ムーブをする上で早急に解決しなければならない問題だ。

 欲しいけど買えない……僕の鍛え上げた知力はそれを解決するためのたった一つの完璧な方法を編み出した。

 

 

 そうだ、商品を取って、お金を払わなければいいじゃん。

 

 

 よし、陰の実力者の金策に関する一旦の方向性は決まった。そうと決まれば早速特訓をしなければならない。

 いかに速く商品を懐に隠せるか、いや監視カメラの死角を突き続ける力を鍛えるべきか? マジシャンの動画でも見るべきかな。いきなり実戦でもいいし……まあどれもやってみよう、話はそれからだ。

 

 悩みのタネが花開く、僕はスッキリとした気持ちでベッドに横たわった。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 僕が入学してから一週間ほどが経過した。

 

 学校の授業は中学で受けていた時よりも簡単だったように感じた。僕は知力を鍛えた結果、とても頭が良くなったらしい。平均点のちょっと下を取り続けるモブを演じるには、鍛え抜かれた学力は欠かせないピースなのだ。

 

 自己紹介を逃した僕は、このクラスの誰がネームドキャラなのかをこの一週間を使って頑張って見極めた。それはもう必死に。綾小路とご飯を食べている最中に教室をチラチラと見ながら探したり、放課後に目星を付けた人を付け回したりと、地道な努力を続けたのだ。

 

 なぜそこまで必死になるのかって? 

 それは僕が陰の実力者ムーブをするにおいて、無くてはならないのが表で輝くネームドキャラなのだから。

 

 僕の涙ぐましいストーキングのおかげで、なんとこのクラスだけで五人ものネームドキャラを見つけることができた。まさかこんなに居るなんて、陰の実力者を目指す僕としては大変喜ばしいことだ。

 

 

 僕の見つけたネームドキャラ、一人目は平田洋介。綾小路曰く、コミュ強正統派イケメン。

 物語の定番でいうと、彼はまさに正統派の勇者的な立ち位置にいることだろう。人を纏めて、綾小路や僕などのモブ含め誰に対しても平等に接するその博愛性はまさに主人公に相応しい。放課後に遊びに行ったり、買い物に付き合ったりと女の子にモテモテなのも主人公ポイントが高いかな。

 

 

 二人目は牛田桔梗。綾小路曰く、ボン・キュッ・ボン。

 誰に対しても優しい態度を取っていて、そこに居るだけでいい匂いがする。所属するDクラスだけじゃなく他のクラスにも多く友達がいるらしい。

 顔も可愛くて名前の通りスタイルがいいからモテる。一年の〝彼女にしたいランキング〟は堂々の一位だ。女の子って男に人気になればなるほど同性からは嫌われてくって姉さんは言ってたけど、彼女は人柄のおかげか嫌われている様子はない。これは大きな加点対象だ。

 物語でいうと、大人しい性格の主人公に対して積極的に関わっていくヒロインのような立場になるのかな。うん、牛田さんは主人公ってよりもみんなに愛されるヒロインの方がぴったりくるね。

 

 

 三人目は高円寺六助。綾小路曰く、傲慢な金持ち。

 高円寺ポンコツという会社の御曹司かなんからしく、自己紹介の場での立ち振る舞いが関わりたいと思えないようなものだったらしい。自分のことを貴族だと自称して平民と同じ空気を吸いたくないとか言っていたのかな。

 授業態度は特に問題は無さそうだし、休憩時間の間も鏡を見てたりすることから、高円寺は物語でいう主人公陣営の資金を支える癖強ナルシスト御曹司のような立ち位置になるだろう。やっぱお金持ちはそれだけで個性だもんね。

 高円寺に対して一つ驚いたのは、放課後の僕による完璧な尾行に気づきかけていたことだ。これは綾小路に続いて二人目。綾小路は同じモブだからモブである僕に気が付いたんだろうけど……まさか高円寺も、隠れたモブの才能があるのかもしれない。

 

 

 四人目は僕とモブ友の隣人である堀北鈴音。綾小路曰く、陸棲ウニ。

 友達はゼロで、会話する相手は綾小路か偶に僕くらい。それも会話という会話ではなく、僕らの言動に対して棘のあるツッコミを入れるようなものだ。休憩時間は本を読んでいて、その姿だけは知的な文学少女という言葉にピッタリ当てはまると思う。ちなみに〝彼女にしたいランキング〟は票数なしの最下位タイだ。

 ツンツンとした態度、そして知的な雰囲気……物語でいうところの『べ、べつにあんたのことなんか好きじゃ無いんだからね!』とか言うタイプのヒロインになるだろう。今はまだそうなる未来が一切思い浮かばないけど、まあ僕のネームドキャラセンサーが激しく反応しているから間違いはないだろう。

 

 

 そして五人目、王美雨(わんめいゆい)。綾小路曰く、話したことがないから分からない。

 僕は最初、彼女を僕と同じただのモブだと分類して調査を切り上げた。小さい声、控えめな性格、主人公格への分不相応な恋……。

 だが、違った。放課後に牛田さんの情報を調べるため、カフェでコーヒーを飲みながら耳を立てていた僕の耳に衝撃的な情報が入ってきた。

 

 〝王美雨は中国からの留学生である〟

 

 日本語が上手いと褒められ、謙遜しつつも照れた顔をしている王さんを視界に捉えながらも、僕の中ではふわふわと浮かんでいた王さんの情報一つ一つがその言葉でギュッと大きな塊へとまとまった。

 

 

 ──彼女は数名の近衛兵に守られ、裏道を走っていた。頬を伝う涙は、熱風にかき消されていく。『お父様、お母様、どうして……』暴徒の咆哮が背後に迫る。彼女の耳に、父の最期の言葉が蘇る。 『美雨、日本へ行きなさい。あそこなら、我が一族の血を絶やすことなく繋ぐことができる』それは、王一族の幕引きを告げる、あまりに重い遺言だった。『姫様、もう少しです!』護衛の叫びと共に、潮の香りが鼻をかすめる。港に残されたのは、脱出用の古びた小舟が一隻のみ。待ち伏せしていた反乱軍の影が、行く手を阻む。『姫様、どうか船へ! ここは我らが命に代えても!!』抜刀し、死地へと踏み出す護衛たちの背中。小舟が岸を離れ、炎に包まれた母国が遠ざかっていく。『ごめんなさい……ごめんなさい……っ』慟哭は波の音に飲み込まれていく──

 

 

 彼女はきっと中国の王族の生き残りだ。だって、苗字が王の平民なんかいるわけがないのだから。偽名を名乗らない理由はきっと、一族の誇りである名を騙ることができなかったんだろう。きっと。王族という名詞を生み出したのは彼女の家なのかもしれない。

 そう考えれば、外部との干渉が禁止されたここを選んだ理由が理解できる。小さい声も、控えめな性格も全て追っ手が紛れていないか警戒しているに違いない。分不相応な恋も逆だった。身分が足りないのは平民の平田の方だったのだ。

 

 王美雨は王族の末裔である……この結論を導き出したとき、僕は興奮して眠ることができなかった。徹夜して迎えた授業はどんな陰の実力者ムーブをするかを考えて内容なんて入ってこなかった。

 彼女を物語の定番に当てはめるとしたら亡国の再興を託されたラスト・プリンセス……かな。物語の終盤で自分の立場を明かして仲間と共に立ち上がる展開とかはとても熱そうだ。中国は滅んでないとかの無粋な言葉は要らないからね。

 

 

 五人ものネームドキャラがいるんだ。僕はより陰の実力者ムーブに対してやる気が出てきた。

 今日の放課後は金策のための万引き実戦日だ。

 夜な夜なトランプを触り続けて身に付けたスキルを発揮する時が来たようだね。ちなみに名前はまだ決まってない。モブ式奥義、完全犯罪……うーん。まあこれは今じゃなくていい。

 

 茶柱先生が教室に入ってきた。よし、考えるのは放課後になってからだね。

 

 

 

 

 

 

 





 設定等固まっておらず、向こう見ずの見切り発車なので、矛盾点などが今後出てくるかもしれません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。