ようこそ陰の実力者がいる教室へ! 作:心入れ替え
一話ごとの文字数は特に決めてないです
ちょうど良いな〜とか、そろそろ長くなってきたな〜ってタイミングで切ってます
今回短め
「また明日、綾小路くん」
「ああ、また」
待ちに待った放課後。僕は帰る準備をする綾小路に別れを告げて目的の場所へと向かう。
事前の入念な調査の結果、僕の初万引きはカップラーメンを頭から被った場所のコンビニで行うことにした。ここには僕の狙ってるものがあるし、寮が近いからもしもの時はすぐに逃げられる最適なポイントだ。
学校が終わってすぐの時間は万引きには適さない。なぜなら寮に帰る学生達が押し寄せるからだ。
最適な時間はおよそ……30分後。僕はそれまで物陰に隠れて待ち続けることにした。
夜な夜な行っている鍛錬の末、僕の万引きスキルは一般的な万引き犯を軽く捻れる程度に磨かれた。
体で商品を監視カメラから完璧に隠す技術、隣に人が居ても気づかれないレベルの美しく音の無い盗みの手捌き、そして背景と同化するほど気配皆無での完璧な退店。
事前調査から、僕の目的の物は丁度監視カメラの視界外。課題の一つが解決しているんだ、風向きは僕に向いてると言っても過言ではないだろう。まさに向い風……使い方あってたっけ。
コンビニに入る人が少なくなってきた、もう30分も経ったのかな。
まあいいや。僕の初万引き……始めようか。
「ぃらっしゃせ〜」
紫がかった髪を靡かせる女子の背に隠れながら入店した。
すると同時に店員の呑気な声が聞こえてくる。ふふ、彼は知らないだろう、この店が後に稀代の怪盗と呼ばれる僕の初舞台となることを。
すすすっと足を音もなく運び、目的のものの前までたどり着く。
おっと、杖を突いている子にぶつかる所だった。危ない危ない……よし、あった。
僕が欲しかったもの、それは黒色のレインコートだ。
陰の実力者としての服装が無い今、活動するには簡易的でも体を闇に隠せる物がいる。だから僕はこの黒のレインコートを狙っていた。
他のコンビニは白いレインコートしか無かったけど、なんとこのコンビニだけは黒が存在していたのだ。
素早い手捌きで棚から商品を消す。
一瞬もかからずに僕の懐には既に目的のブツが入っている。後は警戒しながらも、ここを素早く出るだけだ。
……怪しまれないようにガムとか買った方がいいかな。いやでも計画にないことはするべきじゃないし……うん、買わない方向で進めよう。
「ぁあとざぃましたー」
店員のやる気のない声を背に受けながら店を出た。
……成功だ、僕の初万引きは成功したんだ!
たくさん練習したとはいえ、実戦では想定よりもスマートには行かなかった。途中で人にぶつかりそうだったし。
しかも今回は店員のやる気が無かったし、なにより監視カメラの視界外だ。いわゆる万引きチュートリアルレベル、慢心しないように気をつけないとね。
僕は今回の万引きを振り返りながら、寮への帰り道に歩を進めた。
カン、カン、と後ろで音がした。
「待ってください」
澄み切った美声が、僕を呼び止めた。
僕の優れた知力は、彼女の言葉を咀嚼し一瞬で答えを導き出した。
あ、これあかんやつや。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
入学式が終わって、一週間経った頃。
寮に戻る途中にあるコンビニに寄り、所用を済ませて店を出た直後。
「待ってください」
コンビニを出て、寮に向かう途中の私をクラスメイトの女子が引き止めた。
綺麗な銀髪、片手には杖。
名前は確か──坂柳有栖、だっけ。ハンデを持つ彼女は目立つから、クラスメイトを覚えるつもりのない私でも、何となく名前を記憶したいた。
もう一人、私と彼女の近くに人がいるけど……坂柳の友達かあるいは気づいていないのか。まあ、どうでもいいことだけど。
「──先ほどはコンビニで何を?」
鋭い声で、私を追い詰めるように言葉を重ねる。
「見たところ、何も買われていないようなので」
無視をして、寮に帰ろうとする私に対してだんだんと近づいてきた。
「万引き、しましたよね?」
私の目を見ながら、坂柳はそう言った。
まるで面白いおもちゃを見つけた、そんな輝いた目をしていた。
そんな目に射すくめられ動けずにいると、バッ。すぐそばで音がした。
「き、君! ダメだよそんなことしちゃ!」
「……は?」
さっきまで私と坂柳の近くにいた男子が、私に向かってそう言った。
「そこの正義の味方さん、僕も見ていました! 彼女が……彼女が棚から黒い何かを盗むのを……! 僕は怖くてっ声が出せなかったけど、あなたが指摘してくれて勇気がでたよ! さあ非行少女、正直に盗んだものを出しなさい!!」
「誰が非行少女よ……あと、あんた何か入れ──」
「カバンのそこ、黒い何かが見えているよ! それが疚しいものなんでしょ!」
私のカバンを指差しながら、必死に私が万引き犯だと訴える。
正直とても鬱陶しい。坂柳単体相手でも疲れているのに、さらに変な奴が一人増えたなんて。
協力して万引きを指摘するってことは、坂柳はコイツと組んでいるってこと?
「いやーここまで証拠が揃えば後は正義の味方が解決してくれるよね、うん、頼もしいね。てことで足手まといの僕は帰ります! 僕の名前は綾小路清隆ですっ、これからも頑張ってください!」
私のカバンから見覚えのない黒のレインコートを取り出し、それを坂柳に渡すと彼は風のように寮に帰っていった。
「ふふ……ふふふふっ」
すっかり小さくなった背中から目を離すと、目の前ではあいつの独擅場で一言も発さなかった坂柳が、肩と杖を震わせながら噛み締めるように笑っていた。
「……ふふ、神室さん……あなた、随分と愉快なお友達をお持ちなのですね?」
「ちょっと待って、あんなやつ知らないんだけど」
「ええ、もちろん分かっています……今のは冗談ですよ」
目尻の涙を拭いながら、坂柳は楽しそうに笑う。
「彼に正義の味方と呼ばれてしまっては……私は神室さんに対してそう在るべきなのかもしれませんね?」
「……また冗談?」
「いいえ、本気です。今から私は真相を究明する正義の味方ですよ。正義らしく、犯罪行為には罰を……冤罪には真実を与える必要があります」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
危ない、とっても危ない。
さっきの出来事は、僕の人生の中でもベスト3に入るほどの危なさだっただろう。
なんとか凌ぎきれてよかった。ついでに名前も偽装したから、彼女達が僕にたどり着くことはないだろう、うん。
人間、名前なんてすぐに忘れちゃうし。
コンビニで行なわれた完璧かつパーフェクトな僕の万引きは、実は完璧ではなかったらしい。
杖を突いた鈍くさそうな少女に、僕の万引きを見破られそうになった。
何がいけなかったんだろうか……カメラには映ってなかったし、盗る瞬間は周りに人なんて居なかった。
たまたま近くにいた彼女のカバンにレインコートを入れた時も確認したけど、懐にはちゃんと外から隠れるように入っていた。
僕はもう何が何だか分からなくなってきた。
あんな運動が出来なさそうな少女に見破られるなんて。
簡単だと思っていたけど、万引きって難しいんだな。だってチュートリアルステージでこんな結果だなんて。
金策は他に考えなきゃいけないけど、もう万引きに関しては懲り懲りだ。
よく考えれば、僕がモブとして過ごし続けるにはリスクがありすぎる行為だったんだ。
僕はベッドで横になって、瞼を下ろした。
今日はもう寝よう。嫌なことは寝て忘れるのが一番だから。
正義の味方(邪智暴虐)