ようこそ陰の実力者がいる教室へ!   作:心入れ替え

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 感想ありがとうございます。返信は変な事を書かない自信がないので自重してますが、全てありがたく読ませて頂いてます。

 前話に引き続き関係性回です。割とのっぺりなので加速気味で投稿します


棘と栞

 

 

 

 

 昼休みの教室は、それなりに賑やかだ。

 

 窓際のグループではカップラーメンを食べている須藤が、池と山内を相手に何か大声で喋っている。

 内容までは聞こえないが、笑い声が混じっているからくだらない話だろう。一度関わった時に連絡先は交換したが、ああいう輪の中に入ろうとは思わない。オレにはオレのペースがある。

 

 そんな自分のペースを体現したような男が、今日も当たり前のように向かいの席に腰を下ろしてきた。

 オレたちは毎日一緒に食べているが、食べる場所はその日の気分によって決まるのだ。もちろんシドの。

 

 今日はサンドイッチの気分らしい。コンビニでサンドイッチ一つ選ぶのに五分も待たされたが、この三週間ですっかり慣れてしまった。

 

「ねえ綾小路くん」

 

 サンドイッチの成分表を眺めながら、やけに真剣な声でオレを呼ぶ。

 

「何だ」

「楽にポイント稼げる方法ってないかな」

 

 直球だった。

 オレは箸を持ちながら考えた。楽に、というのが少し引っかかるが。

 正直なところ、オレ自身もこの学校のポイントの仕組みをまだ完全には把握できていない。ポイントなんて月の頭に振り込まれるくらいの事しか知らないのだ。

 そもそも一月の生活費にしては余るほど貰っている。今まで稼ぐという手段自体が頭に浮かんでこなかった。

 

「楽にというのは難しいんじゃないか。そもそもポイントってどうやって増えるのかも、よく分かってないしな」

「あ、そうなの? じゃあ二人で詰んでるね」

 

 影野はあっさりとそう言って、サンドイッチを貪る。詰んでいる、という割には全く焦った様子がないし、オレを勝手に含めないでほしい。

 

「何かポイントが必要な事情でもあるのか」

「うん、まあ色々と入用でね」

 

 色々、か。影野の色々は大体ろくでもないことだとこの三週間で学習していた。深く聞かない方が身のためだろう。

 

 

「もうポイントを使い果たしたの?」

 

 突然、横から声が飛んできた。

 

 堀北だ。オレ達が教室で食べる時に、隣の席で一人弁当を食べながら本を読んでいたはずが、いつの間にかこちらに視線を向けていた。

 呆れたような、それでいて少し鋭い目をしている。

 

 影野はその声に気づいた瞬間、微妙な顔をした。

 一瞬だけ何かを測るような目つきになったが、それからすぐにいつものアホっぽい……緩い顔に戻る。

 

「え、あ、違くて」

「違うの? 入学して三週間も経っていないのに楽に稼ぐ方法を探しているなんて、使い果たした以外に何があるのかしら」

 

 堀北の言い方はいつも通り棘がある。ただ完全に間違っているわけでもないから反論しづらいのが厄介だ。

 

 オレは影野を見た。影野はといえば、堀北の方をちらちらと見ながらどこか落ち着かない様子でサンドイッチを口に運んでいる。

 

「使い果たしてはないよ。ただ増やせるなら増やしたいなって思って」

「増やしたいなら真面目に取り組むことね。楽な方法を探している時点で見込みは薄いけれど」

「そうだね、うん、そうだね」

 

 影野は堀北の言葉をどこか上の空で受け流した。相槌は打っているが目が微妙に泳いでいる。

 

 オレには何となく分かる気がした。影野はこの会話を早く終わらせたがっていると。

 堀北相手に本気で議論するつもりはなく、適当にやり過ごそうとしている。

 

 ただ堀北はそれを許すタイプではない。

 

「聞いているの?」

「もちろん聞いてるよ、真面目に取り組めばいいんでしょ」

「そういう態度が問題だと言っているのよ。やる気があるのかないのか分からない人間が楽して結果を求めても何も得られないわ」

「それはそうだね」

「……」

 

 堀北が少し黙った。影野の返答があまりにも的を外しているせいで、追撃の言葉を見失っているようだった。

 怒っているのに怒りをぶつける隙を与えてもらえない、という状態だ。

 

 オレはとりあえず口を挟んだ。

 

「堀北、こいつも考えてはいるんだと思う。ただ方法が分からないだけで」

「あなたが擁護するということは、綾小路くんも同じように楽な方法を探しているということ?」

「そういうわけじゃないが」

「だったら余計なことを言わないでくれる? この人が自分で答えるべきことよ」

 

 言い返せなかった。正論だ。

 

 堀北は再び影野に視線を戻した。

 

「もう一度聞くけれど、ポイントはちゃんと残っているの?」

「残ってるよ、ほとんど使ってないから」

「ほとんど使っていない?」

 

 堀北の目が少し変わった。疑っているような、値踏みするような目だ。

 

「それは本当のことなの?」

「本当だよ」

「……なら、何のために稼ぎたいの」

「色々と入用で」

 

 堀北がため息を吐いた。オレも内心で同じため息を吐いた。影野の「色々と」は本当に何も教えてくれない。

 

「まあいいわ」

 

 堀北は本に視線を戻した。暖簾に腕押しでまるで効果がないと思ったのだろう。切り上げるのも早い。

 

「ただ一つだけ言っておくけれど、楽な方法を求めている限り何も得られないということは覚えておきなさい」

 

 それだけ言って、堀北は黙った。会話は終わりらしい。

 

 影野はしばらく堀北の横顔を眺めていた。どんな顔をしているのかと思って覗いてみると、妙に感心したような表情をしていた。

 

「……綾小路くん」

「何だ」

「あの子、すごいね」

 

 影野は納得したように頷き、空になったサンドイッチの袋を眺めた。

 

「やっぱり、綾小路くんが言った通りだね……堀北さんは陸棲ウニだ」

 

 オレはその言葉を聞いて、すぐさま堀北を横目で見た。

 

 堀北は本を机の上にダァンと置いた。いや投げたのだろうか。

 

 ゆらりと動く体に本能が危険信号を脳に送ってくる。

 

 

 おのれ影野、謀ったな。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 放課後の図書館は静かだ。

 

 昼休みの陸棲ウニ騒動で少し疲れた頭を抱えながら、僕は今日も図書館に来ていた。

 陰の実力者として活動するにあたって、図書館は貴重な場所だ。無料で知識が手に入る、監視カメラの死角が多い、そして何より静かで考え事ができる。

 

 今日手に取ったのは無人島でのサバイバル技術について書かれた本だ。

 食料の調達方法、火の起こし方、シェルターの作り方。

 どれも陰の実力者として押さえておくべき基礎知識だ。いざという時に無人島に飛ばされた時、困らないようにしないといけないからね。

 

 ページをめくりながら、サバイバルナイフの選び方の項目に目を通した。なるほど、刃の厚さと素材が重要らしい。

 これはいいね。なによりもサバイバルナイフって響きがかっこいい

 

 

「あの、少しいいですか」

 

 後ろから声がした。

 

 顔を上げると、小柄な女子生徒が立っていた。

 目が合うと少しだけ緊張したような顔をしたけど、逃げ出す様子はなかった。

 

「うん?」

「何度かここでお見かけしていたので、気になって」

 

 そう言って彼女は手に持った本を少し持ち上げた。その顔は、言われてみれば確かに見覚えがある。

 

「色々な本を読まれているみたいで……今日はサバイバルの本なんですね」

「うん、そうだよ」

「珍しいですね。高校生でそういう本を読む人って、あまりいないので」

 

 珍しい、か。確かに周りを見渡せば参考書や小説を読んでいる生徒がほとんどだ。

 サバイバル本を読んでいる高校生など、そういないだろう。

 

「本好きなんですか」

「まあ、役に立つ知識が増えるから。読んでて損はないかなって」

「……なるほど」

 

 彼女は少し考えるような顔をしてから、向かいの席を指した。

 

「座ってもいいですか」

「どうぞ」

 

 彼女は静かに椅子を引いて腰を下ろした。自分の本を開きながらも、どこか話したそうな様子だ。

 

「私も本が好きなんです。ここにはよく来るんですけど、話せる人がいなくて」

 

 そう言いながら、彼女は寂しそうな顔を見せた。

 

「あっ、自己紹介がまだでしたね。私は椎名ひよりといいます」

「僕は影野シド。よろしくね」

「はい、よろしくお願いします……影野くんは、色々なジャンルを読まれているみたいですけど、何か基準があるんですか」

「役に立ちそうなやつを色々と、かな」

 

 椎名さんはその言葉を聞いて、少し考え込んだ。

 

「サバイバルとか、実用書とか……確かに、それまで読んでいたのもそういう系統が多かったですね」

「椎名さんはどんなの読むの」

「ミステリーが多いです。謎を解いていく過程が好きで」

 

 ミステリー、謎を解く……それはつまり、事件の裏側で糸を引く陰の実力者が登場しそうなジャンルだったっけ。

 うん、確かそうだ。僕の知力がそう言っている。

 

「面白いやつとかある?」

「あります! 結構読んでいるので、好みを教えてもらえれば合いそうなものを紹介できますよ」

 

 椎名さんは少し嬉しそうだった。本の話ができる相手が見つかったことが、素直に顔に出ている。

 

 サバイバル本を閉じて、椎名さんの方に向き直った。

 

「じゃあ、表には出てこないけど、実は全部知ってましたみたいなキャラがいるやつ……ってあるかな?」

 

 椎名さんはしばらく考え込んだ。真剣な顔で記憶の中の本棚を漁っているようだった。

 

「……何冊か思い当たるものがあります。今度持ってきますね」

「ありがと」

 

 それから僕達はしばらく、それぞれの本を読んだ。会話はそれほど多くなかったが、穏やかで悪くない時間だった。

 

 帰り際、椎名さんが立ち上がりながらぽつりと言った。

 

「また来ますね、図書館」

「うん、またね」

 

 図書館を出ていくのを見送りながら、僕は再びサバイバル本を開いた。

 

 サバイバルナイフの次は、食料の保存方法らしい。なるほど、これも参考になるね。

 

 

 

 

 






 
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