AKUMA退治はティータイムと共に 作:ホワイトチャペルの青年
「ヒヒャハハハ! 愉快、痛快、喜ばしい!」
明かりなき荒野の夜の中。
AKUMAが産声を上げていた。
「レベル2! レベルアップだウレシイナ!」
感情を爆発させ狂喜し腕を振るう様は、拙い舞の如し。
どうしてこうなったのか。
「育んで頂きどうもアリガトウ♪」
「どういたしまして。……では、死んでください」
「エ
瞬間、奴の頭が弾け飛んだ。
その破片に混じるのは一枚のコイン。
「うわぁ、レベル2も一撃かぁ」
「アレはレベル2と言うには少々早い」
彼女との約束は『あのレベル1が進化するまで』だった。
ちゃんと成るまでとは言われていない。
「もう少し経てば己の能力を理解し自己を確立させていたのでしょうがね」
「そっかぁ。でもまぁ、楽しいお茶会だったからいいかなぁ」
ロード・キャメロット。
さっきまで約束を持ちかけ俺とささやかな茶会を楽しんでいたノアの一族。
俺達エクソシストの天敵ということになっている。
「ジルの目って、ほんとに綺麗だねぇ」
「お褒めに預かり光栄ですよ、レディ」
虹彩は唯の青の筈なんだけどもね。
ロードは、お得意の不思議な力で別の何かを見通しているのかもしれない。
「ボクのこと、殺さないの?」
「はて」
「惚けないでよジル、君の手……手袋は触れた対象にイノセンスの力を注ぎ込むんだよねぇ」
そうだ。
彼女によるとこの手袋を嵌めた状態であれば俺は触れるだけでノアの一族を殺せるらしいのだ。
「怖いよねぇ、恐ろしいなぁ。ふふ、どうする?」
しかし俺は、躊躇っている。
少し指を動かせば死ぬ彼女なのに、その心は、感情は、どこまでも凪いだ海の様だから。
「何度も言わせないでください」
「なーにを?」
「私はあなたの感情が好ましい、美しいとさえ思っている。美しい
イノセンス的には今すぐ殺せ、とでも言いたいだろうけれど。
俺とイノセンスのシンクロ率は93%である為早々好き勝手にされることもない。
「危ないですよ離れてください」
「……」
「何ですか」
「今日は君の素を見られないんだなぁって」
「お戯れを」
さてと。
AKUMAの件は終わった、次だ。
「こちらとしてはイノセンスを回収したいところですが」
「ん、だーめ。させないよぉ? ボクも千年公に言われてるからねぇ」
そうなりますよねと。
「今回はどう遊びますか、貴女に合わせます」
「んんー、どうしよっかなぁ」
このやり取りは、前回から続いて2回目。
こんな適当な関係が続くのは、ひとえに俺が彼女を殺そうとせず、彼女がそれを面白がっているからこそ。
「……あ、そーだ! これ使おうよ!」
彼女がふわりと浮かせ運んできたのは……先程のコイン。
「このコインの裏表、どっちになるか当てるゲームなんてどぉ?」
「コイントスですか」
非常に困った、確率のゲームだ。
今回回収したこのイノセンス50%でぶっ壊されますね。
「良いでしょう、どちらが投げますか?」
「ジルが投げてよ。ボクじゃあ公平性に欠けるでしょ?」
「仰せの通りに、レディ」
戦うことになっても、俺がこんなスタンスな以上不利なだけ。
大人しく従うしかない。
「前回は負けちゃったけどぉ、今回は負けないぞ〜?」
「ふふ、どうでしょうね」
俺が手袋越しにコインに触れた以上、コインにロードの小細工があったとしても消えている。
天運に任せる、と言う奴だ。
「始めましょうか」
コインを上に弾き放つ。
さぁ、ゲーム開始だ。
コインが宙を舞……あっ。
「なんか高くなーい?」
「少々飛ばし過ぎましたねこれは」
高く舞い過ぎたコインが、風に煽られ右に左に移動している。
不味い、キャッチできるか怪しい。
「……飛びますか」
「おぉー?」
仕方ないのでコインと同じ高度まで跳躍して、それを回収する。
「さて、どちらです?」
「裏」
「では表と」
手の甲に乗ったコインの模様は
「これで39個目か、よくやってくれたねジル君」
「いえ、これが仕事ですから」
コムイ室長から賛辞される。
……50%でこの結果にはならなかっただけなんだよなぁ。
「では部屋に戻りますね」
「ああちょっと待ってくれるかな」
「何でしょうか」
「君のイノセンスの能力についてなんだけど」
はて、俺のイノセンスと。
何か変なことありましたかね。
「是非今開発中の僕のロボットに
「失礼します」
「ああんっ! ちょっと待ってくれよジルくぅん!」
「リナリーから化学班の発明品に協力するなと厳命されておりますので」
俺のイノセンスは触れたものにイノセンスの力を注ぎ込み、弱めのイノセンスへと変質させる。
効果は永続するわけではないのだが、これが中々長持ちするのだ。
故に化学班は偶にこう言うお願いをしてくることがある。
「こいつが成功すればAKUMAを僕達でもどうにかできる様になるんだ!」
「そう成り得ないのはご承知の上でしょう?」
結論、俺がイノセンスで触れたもの単体ではAKUMAを倒すことはできない。
レベル1か2であれば表皮にちょっとした傷を付けるのが精々である。
「私がそのロボットに触れ続ける、なんてことになれば本末転倒ですよ」
「ぐっ……」
「本音は如何様で?」
「またぶった斬られてたまるか !」
やっぱり。
神田が室長の発明品を斬ったと言う噂は聞いていた。
「私の手から離れたものでは、彼の刀は止められませんよ。頑張ったとしてもちょっと斬り難い、程度の変化でしょうから」
「そ、そこをなんとか……」
「後の話は、リナリーに」
「えっ」
「兄さん?」
話に夢中になっていた室長の背後には、彼の妹リナリーの姿が。
果たして室長の目には、今の彼女がどう見えているのだろうか。
室長、感情の面では判断できない稀有な人種だからな。
リナリーは怒っているようだ。
「では、失礼」
室長の部屋を後にする。
さてこの後は何をしましょうか、そんなにお腹は空いてもいない。
部屋に積まれた本を消化するのもいい。
「ジル!」
「……どうかされましたか、リナリー」
「おかえり」
……ああそう言えば。
まだでしたね、それ。
『ジル、行く時は誰にも言わずふらふらって出て行っちゃうから。ただいまだけは絶対に伝えるようにしてるの』
と、言うのは彼女の言葉。
彼女らしいというか、申し訳ないと言うべきか。
「ただいま戻りました、レディ」
その言葉を、初めて紡いだ時の彼女の色は
……やはり彼女は、教団のひだまりというべき存在らしい。