AKUMA退治はティータイムと共に 作:ホワイトチャペルの青年
「時の破壊者、ですか」
「はい。……意味はあまりよくわからなかったんですけどね」
アレンのことを、ヘブラスカが時の破壊者と呼んだらしいとのこと。
ヘブラスカの予言はよく当たるとのことだが、いかんせん紡がれる言葉から状況を正確に読み解くことが困難であるのがな。
この場合における時の破壊者の『時』とは何のことを想定するべきなのか。
時、つまり時間や歴史のこと……千年伯爵?
「ふむ」
「ジル?」
しかし視点を変えると、だ。
ノアの一族と黒の教団、双方がいがみ合い永く紡いできた
その場合、事後に残るものは何なのかまでは分からない。
最悪彼がノア側として最後に立つことだって……
「おっと、悪癖が出てしまいましたね」
「?」
「何でもありませんよ、ミスター」
そこまで考えて、思考を終わらせる。
彼はまだ何もしていない、なのにこの場で善悪を決めてしまうのは何よりも罰せられるべき行為だ。
……尤も、彼が敵だとして俺がどうこうするとも限らないのだが。
「しかし、よく食べますねアレン。寄生型故ですかね?」
「まだまだ少ない方ですよ?」
「それは失礼」
偶に遭遇する寄生型イノセンスの使い手達も大食漢だったな。
イノセンスを身体の一部としている以上、エネルギーを多く消費するんだろう。
「では、任務がありますので私はこれで」
「あっ、すみません足止めしてしまって。頑張って来てくださいね」
「勿論ですよ」
邪魔がなければすぐにでも帰ってくるさ。
基本的にあるんだが。
「紅茶です、お口に合えばよろしいのですが」
「ありがとうございます」
AKUMA退治と、あわよくばイノセンスの回収のためにここまで出向いてきた俺だったのだが。
何故か、貴族の下で執事として仮働きをするハメになっていた。
「……! ジルさん」
「どうかなさいましたか」
「どこデ……どこでこの味を?」
成り行きとはいえ俺を執事としてしまった貴族……伯爵殿。
感情の色を見るに、どうやら俺の淹れた紅茶の味が伯爵殿の琴線に触れてしまったらしい。
「独学ですのでどこでという表現では良い答えをお出しできませんが……あえて表すのであれば、私が唯一知っていた味がこの紅茶です」
「……そうですか」
そう本心で答えると、彼はカップを眺め固まってしまった。
卑賤の身でありながら紅茶の味を知っているというのは、少々おごりが過ぎただろうか。
「生まれはどちらで?」
「イギリスのロンドンかと。……私はスラムの生まれですので、血筋など詳しいことは存じ上げませんが」
「……」
いや、何正直に答えているんだ俺は。
執事という立場である以上答えることは免れん、だが俺は本職ではな
「ジル」
「……ルル=ベル」
いかん、思考が乱れてしまった。
「
「申し訳ありません」
彼女はルル=ベル、伯爵殿直属の従者であり俺の上司たる存在だ。
……だから、何故俺は従者として働いているんだ。
「
「……」
「わかったのなら精進しなさい」
「かしこまりました」
ああそうだ、全てはあの厄介なイノセンスが原因だ。
「ここですか」
「間違いありません」
俺はこの時、とある噂を頼りに調査していたファインダーに案内を受けていた。
「『人攫いの霧』は実在すると?」
「はい、私が調査している最中にも3人の被害者が」
『人攫いの霧』とは、この街に蔓延る怪奇現象の名。
なんでも、この霧の被害にあった者は所持品を全て失う……否、その逆の被害に遭遇するらしい。
「所持品を残して、人だけが居なくなる。そしてそれは必ず霧の夜に訪れる……とは、また不可思議ですね」
「はい、幸か不幸か私は被害者とならずに調査を進めることができ
対象となる基準は不明、しかしファインダーによると確かにそれは在るとのこと。
故に俺が派遣されて来たのだ。
……だったのだが。
「……」
「ミスター? どうかされ てしまった、様ですね」
気がついた時には、後ろを歩いていた筈のファインダーが荷物を残して攫われていた。
成程これが人攫いの霧ですか。
「ですが私は同じイノセンスである『
この時はまだ、早急にイノセンスを見つけてファインダー及び被害者を探せば良いと楽観していた。
しかしそれがそうは行かないと気づいたのは、この直後だった。
「……冷たい……?」
手から吹き付ける風を感じた時、俺は異変を確信した。
俺の両手には大抵、イノセンスを装着している。
……風など、感じるはずがない。
そしてまさかと思い、己の両手の方を見ると。
「不味いですね、これは」
俺の鞄と
これはつまり……そういうことですね。
「ミイラ取りがミイラになってしまいましたか」
辺りは見知らぬ景色が広がっている。
攫われた。
「大丈夫デスカ? そこの方」
「……大丈夫とは、言えませんね」
そうして、転移した先で最初に出会ったのが伯爵様だったという訳だ。
イノセンスと手荷物を失った俺に出来る手段など、そう多くはない。