_______もう終わりにしようよ。かっちゃん。
圧倒的な実力の差
それは誰が見ても明白だった。
モニター越しで見ている生徒達や先生達
そして何より『闘っている本人達がそれを一番良く理解している』
緑谷出久に向けた攻撃は全くと言っていい程当たらない。
中距離からの個性での攻撃、近距離での殴り合い
更にはビルの一部分を破壊してしまうほどの威力の爆破を使用したとしても
目前に立つ幼馴染には掠り傷一つ付けることなく避けられてしまっている
しかも、ただ避けるだけではない
一つ一つの攻撃にカウンターが飛んできて、彼の身体が既に悲鳴を上げている
この時点で断言できる。
『彼と緑谷の差は絶対に埋まらない』と言い切れるほど差が離れてしまっている。と
だが
それでも
「‥‥‥ざ‥‥‥けんな‥‥‥ッ‥!!」
______彼はまだ、諦めていなかった。
「まだ、俺は立ってんぞ‥‥ッ
手ェ抜いてねえで『全力で掛かってこいやッ』」
それを聞いた緑谷出久はほんの少しだけ口角を上げた後、構え直す。
彼らは今、互いに何を思っているのだろうか。
それは本人達にしかわからない
だがこれだけは言える
勝負はまだ、終わっていない。
時刻は早朝、五時半。
まだ街が完全には目覚めきっていない時間帯。
住宅街の端にある小さな公園は、人影もなく静まり返っていた。
湿った空気が肺にまとわりつく。
吐き出された白い息が、冷たい朝焼けに溶けていく
「‥‥‥クソ‥‥」
低く吐き捨てる声と同時に、少年の足が地面を蹴った。
爆豪勝己。
雄英高校ヒーロー科一年。
両腕、両脚に装着された重りが鈍く揺れる。
合計十キロ。常人ならそれだけで走ることを諦める重さだ。
だが彼にとっては、もう“軽い”。
地面を蹴るたび、砂利が跳ねる。
靴底がアスファルトを削るような音を立て、呼吸は徐々に荒くなっていく。
一本目。
二本目。
三本目。
喉が焼けるように熱い。
肺が軋み、視界の端がわずかに揺れる。
それでも速度は落ちない。
個性把握テスト以降、爆豪のトレーニングは明らかに変わった。
ただ勝つためではない。
“追いつくため”でもない。
___追い越すためだ。
走り込みが終わると、彼はそのまま腕立てに移行した。
重りをつけたままの腕立て伏せ。
腕が震え、地面に汗が滴る。
一回。
二回。
三回。
十回を越えたあたりで、筋肉が悲鳴を上げる。
普通なら、そこで終わりだ。
だが
こんなんじゃ、全くダメだ。
脳裏に浮かぶのは、緑色の背中。
気に食わない、ムカつく、腹の底からイライラが込み上がってくる
「……ッ……!」
歯を食いしばり、さらに体を押し上げる。
限界はとっくに越えている。
それでも止まらない。
もっとだ。
もっと速く。
もっと強く。
「……クッ……ソがァッ!!!」
最後の一回を叩き込むように終えると、爆豪はその場に膝をついた。
息が乱れる。
視界がわずかに揺れる。
だが倒れない。
(……もう一本)
立ち上がろうとした、その時だった。
「おいおい。流石に休んだ方がいいんじゃねえか?」
爆豪の眉がピクリと動く。
気配を___感じなかった。
誰かが近づけば、普通はわかる。
少なくとも、自分なら。
だが今の声の主は、まるで“最初からそこにいた”みたいに自然だった。
苛立ちと警戒が同時に胸に湧き上がる。
ゆっくりと振り返ると、そこには見慣れない男が立っていた。
オレンジ色の道着。
無造作に立つ黒髪。
場違いなほど気楽そうな笑み。
腕を組んだその男は、爆豪の全身を一瞥してから、少しだけ目を細めた。
「休むのも大事だぞ?」
軽い口調。
それが余計に爆豪のこめかみがぴくりと跳ねた。
「……誰だテメェ」
低く唸るような声。
朝の静寂の中、二人の間にわずかな緊張が走る。
男は肩を竦めて、まるで世間話でもするかのように笑った。
「オラ? ただの通りすがりだ。
……けどまあ、ちょっと気になってな。」
「お前、
見透かされたかのような指摘
それが的を得ているのだから余計に腹立たしい
「………………赤の他人に話すようなことじゃねェ……」
無論口に出来るわけもない。
だが、目の前に立つ男はそんな反応を見せた爆豪を見てなんとなく察したかような素振りを見せる
「そっか。」
「強くなりてえ理由はきっと人それぞれだろうしな。」
男は少しだけ視線を逸らした。
どこか遠く____
けれど確かに“知っている場所”を見るような目で。
「……昔な。」
ぽつりと、独り言みたいに言う。
「すげぇ強ぇやつがいたんだ。
負けんのが大っ嫌いで、修行も戦いも、いつも全力で、なにより自分のプライドや誇りを大切にするやつだった」
軽く笑ったが、その声は少しだけ低い。
「オラが知らねぇうちに、どんどん強くなっててさ。
気ぃ抜いてっと、すぐ追いつかれそうになる。」
その言葉に、誇張はない。
事実をそのまま並べているだけだ。
「力もある。
根性もある。
誰よりも“勝ちたい”って気持ちもある。」
男は、拳を軽く握った。
「だからこそ、差が縮まんねえと余計に焦る。
自分が伸びてるのも分かるのに、差が消えねぇから。」
その言葉が、妙に生々しく響いた。
緑色の背中が、否応なく脳裏に浮かぶ。
「でもな――」
朝焼けの光が、黒髪の影を長く伸ばす。
「本当に見るべきなのは“努力量”じゃねぇ。」
「……あァ?」
「相手と自分の
静かな声だった。
けれど、不思議なくらい重みがあった。
「同じくらい走って、同じくらい殴って、それでも差があるならよ。
そこには“使い方”とか、“感じ方”の違いがある。」
男は軽く拳を握る。
空気が、ほんのわずかに震えた気がした。
「おめぇ、自分の力___ちゃんと“感じて”るか?」
爆豪の視線が鋭くなる。
「……個性なら分かってる。ナメんな。」
「なら
「…………は?」
「個性とは別のもっと根っこ部分だ。
力の流れっていうか……まあ、オラたちは“気”って呼んでっけど。」
聞き慣れない単語に、爆豪の表情がわずかに歪む。
だが男は気にせず続けた。
「強いやつってのはな、ただデカい力出してるんじゃねぇんだ。
ちゃんと感じて、無駄なく使ってる。」
「……」
「もし、おめぇが本気でそいつを越えたいならよ。」
男の目が、まっすぐ爆豪を射抜く。
「まずは___
そいつとの“見えねぇ差”が何なのか、理解してみろ。」
風が吹く。
一瞬、空気が張り詰めた。
だが次の瞬間。 男の気配が、ふっと軽くなる。
「ま、オラの勘違いかもしんねぇけどな!」
さっきまでの真剣さが嘘みたいに、屈託なく笑った。
その軽さが、逆に腹立たしい。
「……チッ。」
舌打ちしながらも、爆豪は視線を逸らせなかった。
胸の奥に、妙な引っかかりが残る。
__見えねぇ差。
____力を“感じる”。
意味なんて分からない。
分からないはずなのに。
なぜか、その言葉だけが頭から離れなかった。
「さあ!!始めようか有精卵ども!! 」
オールマイトの呼びかけと共に、続々とその身に戦闘服へ身を包んだ1-A生徒達が、演習用グラウンド・βに入場する。
今日の授業はヒーロー基礎学
オールマイト直々に指導してくれる授業だ
皆、それぞれの要望と個性届けにより学校関連の会社が被服控除として、最新の戦闘服が送られる。
「良いじゃないか皆、カッコいいぜ!」
それぞれの個性に合わせて誂えたコスチュームを纏う面々を見て、オールマイトは白い歯を輝かせた。
「先生! 今日は市街地演習を行うのでしょうか!」
飯田くんが尋ねると、オールマイトは人差し指を左右に揺らしながらNoと答える
「いいや、その先へ一歩踏み込む! 今からするのは屋内での対人訓練さ!」
それからオールマイトは懐から取り出したカンペを元に、演習のルールと設定について話していく。
平たく言えば
二人一組での核兵器の奪取、もしくは防衛。
制限時間は10分、充分すぎるほどの時間だ。
そして肝心なペア分け方法はくじ引きらしい。
その僕の相方はというと
「よろしくね!デク君!」
「うん!こちらこそ!」
入学試験の時に知り合ってそれ以来、ちょくちょく話すようになった麗日さんとペアになった
かっちゃんの影響で『デク君』とあだ名で呼んでくれるようになっていた
彼女が言うには頑張れって感じのデクのようでいい感じに思えてるらしい
その表現で僕もこの呼び名を気に入った
そんな初々しい気持ちの中挑む対戦相手は
爆豪、飯田ペアだ。
「デク君は爆豪君と幼馴染なんよね?‥‥めちゃくちゃ強そうやなぁ‥‥」
「うん、凄く強いよ。少し前の僕だったら多分、まだ勝てなかったと思う。
でも」
僕は彼へ抱いている『憧れ』
その想いを飲み込みながら拳を握る
「勝つよ。絶対に」
そうだ。
僕は『最強にもなるんだ。』
その為の第一歩として、まず君をも超えなきゃいけない。
________勝たせてもらうよ。かっちゃん。
その言葉と共に、訓練開始のブザーが鳴り響いた。