「なんか嫌なことでもあったんか?」
おじさんはそう言って転んだ僕に手を差し伸べてくれた
オドオドしながらも僕はその伸ばされた手を掴む
「い、いえ‥‥ちょっとした悩み事を‥」
「そんな辛そうな顔して悩むってことは結構難しいことなんか?
オラで良かったら聞くぞ?」
「‥‥‥‥」
……どうしてだろう。
初めて会った人のはずなのに、
この人には、嘘をつく気になれなかった。
「‥‥‥僕には‥‥夢があるんです」
「その夢っていうのは‥‥ヒーローに‥‥なることなんですよ。
でも、僕は無個性で‥‥‥」
「――わかってるんです。
無個性じゃヒーローになるのは難しいってことくらい‥‥でも‥‥それでも僕は‥‥ヒーローになりたくて‥‥!!」
顔を上げると、その人は、真剣な目で僕を見ていた。
同情でもない。慰めてるわけでもない。
ただ、僕の目を見つめていた。
ある程度聞き終わったおじさんは僕にこう答えた
「‥そうだなぁ。
確かに、この世界のヒーローってのは個性を使って人を助ける奴らばかりだ。
人を助けられるだけの、守れるだけの強さを持ってる」
その通りだ。
彼らヒーローは個性を持ってるだけじゃない。
人を守れる、助けられるだけの
‥‥‥今の僕には、そんな力すら‥‥‥
「だったらだ。
強くなればいいんじゃねえか?
個性が無くても、ヒーローになれるくらいに」
「――え?」
「悪い奴らを倒すのも、人を助けんのも、個性が無けりゃできないなんて誰が決めたんだ?」
「そんなの関係ねえ!って言えるくれえにオメェが強くなれば良いんだ
そうしたらきっと、ヒーローになれると思うぞ」
「それこそオメェ次第だ」
「ッ!!僕‥‥‥次第‥‥」
無個性だから、力が無いから、無力だから
そんな理由で僕は悩んでいた。
そんな悩みに彼は、強くなれば良いというシンプルかつ脳筋な回答を僕に提示してくれた
頭で理解していても、やはり不安要素は残ってる
「強く‥‥なれますかね‥‥‥こんな僕でも‥‥‥」
少しだけ震える声で聞くと
「そんなに心配なら、オラが稽古付けてやるよ。」
「え?け、稽古?えっとヒーローか何かだったんですか?」
「いいや、オラは正義のヒーローでも何でもねえ。けんど、こう見えてオラめちゃくちゃ強えぞ?」
自慢でも、誇張でもない。
それが“事実”だと言わんばかりの言い方だった。
だからこそ
「僕を‥‥ヒーローになれるくらい強くしてください‥ッ!!!」
そう言っていた。
今思えば、見ず知らずの人に頼むには、あまりにも突拍子のない話だ。
それでも。
この人となら、何かが変わる気がした。
そしてその予感は、稽古を付けてもらうことで確信にへと変わった