悟空「次はお前らの番だ。」   作:ぐぬぬです

8 / 12
第八話 託す

夕暮れが、公園のコンクリートを橙色に染めていた。

 

人気はない。風だけが、等間隔に並ぶ街灯を揺らしている。

 

 

 

 

 

オールマイトから受け継いだ力

 

 

その名も ワン・フォー・オール

 

この個性を制御するのに、緑谷出久は手を焼いていた

 

 

力を引き出そうとすれば筋肉や骨が悲鳴を上げ、明らかに鳴ってはいけない音や激痛に襲われる

 

しかしながらその代償で放たれる威力は確かに絶大

 

軽く手を振っただけで巨大な岩すらも粉砕してみせた

 

オールマイト曰く、自分の時よりも引き出せる力が増している様子だ

 

何故なのかは本人にすら分からないらしいが

 

 

 

緑谷出久は息を整えながら拳を握り、何かを確かめる

体の奥で力が暴れずに留まってるような感覚がしっかりある

 

 

「‥‥‥よし」

 

 

足を踏み込み、空を切るように拳を突き出す。

 

プラズマのようなものが身体から地面へと伝わり、凄まじい風圧が拳から飛ばされる。

 

 

暴発も起きない。骨や筋肉も悲鳴をあげない。

 

―――そう、しっかりと制御可能になっているんだ

 

 

 

「いい感じだな」

 

 

少し離れた場所で、孫悟空が腕を組んで立っていた。

いつもの軽い調子だが、その視線はどこか遠い。

 

 

「力の使い方が上手くなってきてるな。

この調子なら100%使っても問題ねえだろ」

 

「でもな、出久はまだ"考えて殴ってる"

考えるなとは言わねえが、感覚で動くことも意識するんだ。

考えてからじゃ遅え時はいくらでもあんだからな」

 

 

「は、はい!」

 

 

緑谷は何度も頷く。

その背中を見ながら、悟空は小さく笑った。

 

 

(もう大丈夫だな)

 

 

悟空が教えたのは、技でも流派でもない。

 

ただ一つ――力と向き合う姿勢だけだ。

 

 

無理をしないこと。

力に溺れないこと。

そして、恐れずに前へ出ること。

 

それはもう、この少年の中に根を張っている。

 

「今日はここまでにすっか」

 

悟空が言うと、緑谷は少し驚いた顔をした。

 

「え? でも、まだ教えてもらいたいことが―――」

 

「オラが教えられることはもうねえさ」

 

その言葉は、あまりにもあっさりしていた。

 

冗談みたいな口調。

けれど、悟空の表情に冗談はなかった。

 

緑谷は思わず一歩、前に出る。

 

「そ、そんな……!」

 

「まだ僕、全然……悟空さんみたいに強くもないし……!」

 

 

 

力は、確かに応えている。

 

それでも、胸の奥に残る不安は消えない。

 

悟空はその様子を見て、少しだけ困ったように笑った。

 

 

「強くなるってのはな、誰かの背中を追い続けることじゃねえさ」

 

「どっかで、自分の足で立つって決めることだ」

 

悟空は、緑谷の前に立つ。

 

見下ろすでもなく、見上げるでもなく。

ただ、真正面から。

 

「出久はもう、自分で立ってる」

「だから、次に教えてもらうのはオラじゃねえんだ」

 

「……オールマイト、ですか?」

 

「ああ」

 

 

「それから、これから出会う仲間たちだ」

「悩んで、ぶつかって、助け合って」

「そうやって強くなる」

 

 

悟空は軽く肩をすくめる。

 

 

「オラの番は、もう終わったんだ。」

 

 

 

沈黙が落ちる。

 

風が、公園の木々を揺らす。

 

緑谷は、言葉を探すように口を開いては閉じた。

 

「……悟空さんは」

「僕にとって……その……」

 

ヒーローです、と言いかけて。

喉で止まる。

 

悟空は、その先を察したように、柔らかく笑った。

 

「ありがとな」

 

そして、頭を軽くぽんと叩く。

 

「でもな」

「お前が目指すのは、“オラみたいな誰か”じゃねえ」

 

「お前自身だ」

 

その一言が、胸の奥に落ちる。

 

ずっと前、

“ヒーローになれるかはお前次第だ”

そう言われた日の記憶が、重なった。

 

悟空は、ゆっくりと背を向ける。

 

「雄英、もうすぐだろ?」

 

「……はい」

 

「だったら、そこからは全力で行け」

「転んでも、迷っても」

「全部、ヒーローの道だ」

 

数歩、歩いてから。

 

悟空は立ち止まり、振り返らずに言った。

 

「また会う時が来たらよ」

 

「その時は、胸張って立ってろ」

 

「いい面になったな、出久」

 

____そう言えるようにな。

 

夕陽が、悟空の影を長く引き伸ばす。

 

次の瞬間、

その姿は、光の向こうに溶けるように薄れていった。

 

気配が、消える。

 

そこに残ったのは、静かな公園と――

一人、立ち尽くす緑谷出久だけだった。

 

「……っ」

 

胸の奥が、熱い。

 

寂しさと、怖さと、

それ以上に、確かな覚悟。

 

緑谷は、ゆっくりと拳を握った。

 

 

 

「……行かなきゃ」

 

誰に言うでもなく、そう呟いて。

 

彼は、前を向いた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。