烏丸クロエの切断論理   作:四条の利

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刑事局のランチタイム(1)

 

時刻は12:05

刑事局オフィス───

 

 

「さぁて、視聴者の皆さん!今日のメインディッシュはこちら!『圧力センサー付き・ビックリ二色弁当』でーす♪」

 

静かだったオフィス内に、元気の良い声が響く。

 

「今日は気合い入ってますねぇ!」

 

デスクの上にカメラを設置し、烏丸クロエはウキウキで自撮りを始めていた。

その手元には届いたばかりの爆発物。

 

タイマーは残り【00:15】

 

ギリギリまで時間を浪費し、視聴者と犯人のスリルを煽る、いつもの悪い遊びだ。

 

烏丸クロエの元には、弁当に偽装された爆弾が毎日のように届く。

彼女が犯人を煽りまくる悪癖により、多くの組織から恨みを買った結果である。

 

「赤を切ればドッカン、青を切ればァ…あれれ?ダミーかなぁ〜? 迷うなぁ〜♪どっちにしよっかな〜?」

 

クロエはハサミを指揮棒のように振り回し、わざとらしく悩んで見せる。

残り時間が【00:10】を切る。

 

しかし彼女はそんなこと気にせず、むしろ解体の様子を動画のネタにしている。

 

彼女は恒例となったこの爆弾解体の様子を、まさかのヴァルキューレ警察学校の公式アカウントにてキヴォトス中に発信している。

ただ、それなりに反響もあり、ある程度の爆弾魔なら心が折れるような内容も多いため、現在は見逃されている。

 

「…」

 

ただ、それを許さぬ者もいる。

 

お茶を啜っていたサザナ局長が音もなく立ち上がり、幽霊のような足取りでクロエの背後へと忍び寄っていた。

 

「ねぇねぇ、皆はどっちだと思う?コメントで教えてね!あと8秒しかないけど!」

 

クロエがカメラに向かってピースサインをした、その瞬間。

ぬっ、と背後から白い手が伸び、クロエの視界を指差した。

 

「…赤だよ、クロエ」

「お?」

 

クロエはハサミを止めて、パッと明るい表情で振り返った。

 

「局長!参加してくれたんですね!さすが〜、分かってますねぇ!でも残念、赤は囮なんですよ〜!ほんとは青で……」

 

カチャリ。

 

硬質で冷たい金属音が、クロエの側頭部に響いた。

クロエの笑顔がピタリと固まる。

 

こめかみに突きつけられていたのは、サザナの愛用する大型リボルバーの、冷え切った銃口だった。

サザナの目は笑っていない。深海の底のように静かで、そして暗い。

 

「3秒だ」

 

サザナは慈愛に満ちた、しかし絶対零度の声で囁いた。

 

「3秒以内に青を切って黙らせろ。…さもなくば、私がお前のカラッポの頭ごとケーブルをぶち抜く」

「ひっ」

 

クロエの頬を冷や汗が伝う。

 

(まずい!今日はダメな日でしたか!)

 

今日の局長は「虫の居所が悪い日」だったらしい。

 

(普段なら、割とノってきてくれるのにこういう時だけ!なんて自分勝手な人!)

 

「り、了解ですっ!即ぐにでもッ!!」

 

クロエは心の中で悪態をつきつつ「遊び」モードを即座に破棄。

 

神速のハサミさばきでパチン!と青いコードを切断した。

タイマーが【00:01】で停止する。

 

このやり取り、わずか9秒間である。

 

「か、解除完了〜!…ふぅ」

 

クロエが安堵の息を吐くと、サザナは何事もなかったように銃を収め、穏やかな笑顔に戻って自分の席へと戻っていった。

 

「お疲れ様。次は静かにランチタイムを過ごしたまえ」

 

一連の流れを、ソファでフライドポテトを齧りながら眺めていたモナカが、気だるげにボヤいた。

 

「はー、またっすかこの茶番。毎日見る方の身にもなってほしいんすけど」

「仕方ないじゃないですか! 毎日ファン(アンチ)から贈り物が届くんですから!」

 

クロエが涙目で反論する。

 

「毎日相手をするこいつが悪い」

「いや、毎日送り付けてきてるヤツらが悪いと思うんすけど」

 

モナカが正論を吐くも、サザナは啜っていたお茶を置いてピシャリと言い放った。

 

「それくらい煽ったこのバカが悪い」

「ひどい!? 私、被害者ですよね!?」

「『視聴者の皆さん、爆弾で〜す!』とか言って動画上げる被害者がどこにいる」

「うわ似てない!「黙れ」

 

サザナは赤ペンをカチカチと鳴らした。

 

「ちなみにクロエ。今日は出前の蕎麦が少しぬるくてね、私は今、非常に機嫌が悪い」

「つまり?」

 

「次、5秒以内に解体しなかったら問答無用で引き金を引くから、そのつもりで」

「どうせ気分で変わるくせに…というかレンチンしろよ…」

「あ?」

「なんでもないですよぉ、さーてランチランチ」

 

明日からのランチタイムは、さらにタイトな「デスゲーム」になりそうである。

 

(というかたまにあからさまな爆弾があるっすけど…窓口の人らは誰も気付かないんすかね…)

 

モナカは思案する。

 

(あー、この人に任せるのがいちばん簡単だからか…)

 

クロエの顔を見て、彼女は勝手に納得した。

 

 

 

 

「ただいま戻りました〜!見てくださいよこれ!商店街の福引で当たった柔軟剤3ケース!みんなで分けましょ〜!」

「おおいいじゃないで……ってくっさ!!!なんですかこれ?!密封してあるのに臭ってきますよ?!」

「オ”ェッ!この馬鹿イキハ!食事中に臭気物を持ち込むんじゃあない!!」

「えぇ〜?!」

「警備局にぶん投げとけ!どうせ安物だろ!!」

「えぇ〜?!?!」

 





『仏のサザナ』とは一体…

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